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展覧会の絵

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第十一話 ノヴォデヴィチ女子修道院のソフィアその十七

「下種な悪事の限りを尽くしてきたさ」
「ですね。じゃあホシは正義の味方ですかね」
「そうなりますかね」
「いや、こいつは怪物だよ」
 刑事は犯人を善悪の観点からは評価しなかった。
「間違いなくな。そうだよ」
「怪物?」
「怪物ですか」
「ああ、そして俺達から見ればこいつも悪だよ」
 その怪物もだとだ。刑事は今言った。
「法律で殺人は禁じられているよな」
「はい、法律ではですね」
「それは完全に」
「俺達は法律に基いて動いてるんだよ」
 それが警察だ。警察の行動は全てそこからはじまっていることは誰でも知っていることだ。即ち彼等が拠って立つ正義とは法律に他ならないのだ。
 だがこの、刑事が言う怪物はだ。何かというのだ。
「こいつは法律に拠ってないよな」
「はい、言うならこれはリンチですね」
「手前勝手な死刑執行ですね」
「そんなのは許されないんだよ」
 刑事はあくまで法律の観点から言う。
「だからこいつは悪だ。犯罪者なんだよ」
「ではその犯罪者をですね」
「捕まえないといけないですね」
「この連中のホトケを回収して悪事を調べる」
 それもしなくてはならなかった。警察として。
「だがそれと共にだ」
「この事件のホシを探しますか」
「そうしないといけませんね」
「ったくな、どんな怪物なんだよ」
 刑事は今度は実に忌々しげに述べた。
「ここまで無茶苦茶な殺し方ができるなんてな」
「相当残虐でしかも殺し慣れてる奴ですね」
 ベテランと思われる顔に皺のある警官がこう述べた。
「それは間違いないですね」
「だろうな。善悪の観点を置いてもな」
 それを置いてもだ。刑事が言う怪物とはどういうものかというのだ。
「こいつは相当な奴だな」
「ですね。何十人もこうして殺せるんですから」
「本当に何者でしょうか」
 警官達も『こいつ』、即ちこの屋敷で殺戮、いや屠殺の限りを尽くした怪物、今ここにはいないが確かにその場にいた謎の者を想定して話した。
「このホシは一体」
「どんな奴なんでしょうか」
「人の首ってのはそう簡単に千切れないんだよ」
 刑事はその上下から引き千切られた首を見ながら言う。
「けれど切り口を入れてそうしてそこに手を入れて引っ張ったらな」
「こうして簡単にですよね」
「千切れますよね」
「ああ、それも知ってるな」
 その謎の犯人はだというのだ。
「しかも目もどうやら生きたままくり抜いてるな」
「で、こうしてそこにものを詰め込んで、ですか」
「喉からですか」
「そうだよ。この目もな」
 刑事はこれでもかと様々なものが突っ込まれた左目を見ていた。そこからは血と体液がどろどろと流れ出た跡がはっきりと残っている。
「くり抜かれただけでも痛いがな」
「ああ、目自体には神経ないですけれど」
「周りには集まってますからね」
「そこにこれだけ詰め込まれてみろ」
 くり抜かれた後にだ。これでもかと詰め込まれている、その無残な有様を見ての言葉である。
「痛いなんてものじゃないぞ」
「じゃあ。あえて苦しませる為にですか」
「こうしたんですね」
「切り裂きジャックは切り裂くだけだった」
 残虐だがそれだけだったのだ、しかしこの殺人鬼はだというのだ。
「だがな。こいつはな」
「はい、苦しませて殺していますね」
「あえて」
「本当に人間じゃない可能性もあるな」
 刑事はこうも思いはじめていた。
「少なくとも正常な精神の奴じゃない」
「ですね。狂ってるっていうか」
「殺人狂ですね」
「屠殺狂だな」
 それだというのだ。刑事はそう見ていた。
「それになるな」
「屠殺ですか」
「それになりますか」
「ああ、そうなるな」
 そんな話をしながらだ。警官達は無残な事件現場を見ていた。そしてこれで終わりではなく。藤会の系列の事務所や幹部の屋敷においてこうした事件が毎日続くことになった。だが彼等はこの時はまだこのことを知らなかった。未来のことは。


第十一話   完


                          2012・4・10 
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