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展覧会の絵

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第十話 思春期その十

「そのことはね」
「大丈夫って?」
「そう。それは気の持ちようで何とかなるから」
「楽観的じゃないかしら。猛はそもそも」
「いや、彼は心は確かだから」
「気が弱いのに?」
「弱いのと確かじゃないことはまた違うよ」
 そこは違うとだ。十字は雅に話す。
「そこはね。違うんだよ」
「じゃあどう違うの?」
「心が確かでないということは善悪がわからない」
「ことの善悪が」
「それはもっとも駄目なことだから」
 それ故にだというのである。
「けれど君は」
「僕が?」
「そう、君はね」
 今度は猛を見ての言葉だった。十字の視点と告げる対象は一つではなかった。
 雅と猛、その二人を見て言うのだった。
「ことの善悪はわかるね」
「まあそれはね」
 その通りだとだ。猛も答えることができた。
「僕も。何がいいのか何が悪いのかは」
「そうだね。わかるね」
「そのつもりだよ。最低限のことはね」
「だから。それはいいから」
「心が確かなら」
「心が確かでないとその強弱に関わらずね」
 どうかというのだ。十字はそのことを猛に話していく。
「それは神の御心に反することなんだよ」
「神様の?」
「そう、神のね」
 まさにだ。その神の心にだというのだ。
「そしてそれは許されないことだから」
「じゃあ問題は善悪がわかるかどうかで」
「強弱じゃないんだ。そしてその強弱もね」
「気の持ちようで変わる」
「そう。それだけだから」
「いいんだ」
「そうだよ」
 十字は猛を見てこう話す。そしてだ。
 彼の話を隣で聞いていた雅はだ。俯いてこう言ったのだった。
「じゃあ。悪人は」
「悪人、それも邪悪な者はね」
「許してはいけないのね」
「神は悪を許されない」
 ここでも神だった。やはり十字の思想の根幹には神がある。
 そしてその神に基いてだ。雅と猛にも話すのだった。
「何があろうともね」
「けれどそれは」
「安心していいよ。神は全てを御覧になられているから」
「えっ、それじゃあ」
 雅は十字の今の言葉にぎくりとなった。塾の十階でのことを思い出したからだ。
 それでつい猛を見てぎくりともなる。しかしだった。
 十字はその雅に静かにだ。こう告げた。
「神は救われるんだよ」
「私も」
「誰でもね」
 救われるというのだった。そうしてだった。
 その雅の心を見て、彼女に気付かれない様にしてだ。こうも告げたのである。
「神は正しき者を必ず救われるよ」
「だったらいいけれど」
「君は信じることが大事だよ」
「信じる?」
「君の想う人をね」
 こう言ってだ。雅の心を彼女が気付かないうちに支えたのである。そうしてだ。
 今度は猛にだ。静かに告げた。
「じゃあ君は心を確かにね」
「確かに持てばいいんだ、僕は」
「そう」
 こう猛に話す。
「それだけでいいんだよ。ただね」
「ただ?」
「それだけのことであっても非常に難しいことであるけれどね」
 十字は言うのだった。
「一つだけのことでも。それを実行に移せて保てるのは」
「難しいんだ」
「だから。気の持ちようなんだ」
 それが大事だというのだ。 
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