展覧会の絵
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第十話 思春期その二
「それでだけれど」
「どういった場所か」
「見たんだよね。教えてよ」
「あそこはね」
蒼白になり言葉が止まった。
「ちょっと・・・・・・」
「ちょっと?」
「そう、その」
「?どうしたの?」
雅の普段とは全く違う態度にだ。猛は首を捻った。そうしてだ。
目をいぶかしめさせてだ。こう雅に問うた。
「何か様子がおかしいけれど」
「私の?」
「そう。様子がおかしいけれど」
こう雅に尋ねたのである。
「何かあったの?十階に」
「あっ、何でもないわ」
猛に言われてはっとなってだ。そのうえでだ。
雅は咄嗟に言い繕った。そうしてこう言ったのである。
「別にね」
「別に?」
「普通の教室があってね」
目を泳がせていた。だが猛はそのことには気付かなかった。これはこの時点では雅にとって幸いだった。
雅はそのことにも気付かないままだ。こう猛に言い繕ったのである。
「そこで理事長さんに教えてもらったの」
「ああ、勉強を」
「そう。そうした場所なのよ」
「あれっ、じゃあ十階って」
「そう。特別に成績のいい生徒にね」
内心びくびくしながら物語を作っていく。雅にとってははじめてのことだ。
猛に悟られるのを恐れながらだ。雅はその咄嗟の作り話を話すのだった。
「理事長さんがさらに教えてくれるの」
「そうだったんだ」
「そうなのよ」
「そういえば理事長さんも教員資格持ってるんだよね」
「八条大学出身でね」
「そうだよね。お兄さんもおられて」
「お兄さんはその八条大学の教授よ」
雅は今度は話題を逸らしにかかった。猛の関心をそちらに向ける為だ。
そしてそれにだ。猛も乗った。これもこの時点では雅にとっては幸運だった。
「そうそう。凄い優秀な人らしいね」
「本来は塾を継ぐ予定だったけれど」
由人の兄である彼がだ。清原塾の理事長になる予定だったというのだ。
「けれどね」
「あんまりにも優秀だから」
「大学の方に残ってくれって言われてね」
大学の方もだ。優秀な人材を確保したかったのだ。その為だったのだ。
「それでお兄さんは大学に残って」
「理事長さんが塾に残ったんだね」
「そうなの。そうなってるのよ」
「成程。八条大学ってね」
「優秀な人材が揃ってるから」
そうした大学だというのだ。八条大学はだ。
「入りたいわよね」
「僕もそう思うよ。だからね」
「努力しないとね」
「うん。それにしても雅凄いじゃない」
猛は今度は微笑みになった。そしてその微笑みでだ。
雅にだ。こう言ったのである。無意識のうちに。
「理事長さんに直接教えてもらうなんてね」
「え、ええ」
その話になるとだ。雅はまた蒼白になった。あのことを思い出してだ。
それは蒼白になった顔に出ている。だが猛はそれにもまだ気付いていない。やはり雅は幸運だった。少なくともこの時点においてはそうだった。
そしてその幸運のままだ。こう言うのだった。
「そうよね」
「そうだよね。それでね」
「それで?」
「どんな授業だったのかな、理事長さんの授業って」
「授業自体はね」
それ自体はだと。雅はまた作り話をはじめた。
「普通なのよ」
「普通の授業なんだ」
「そう、普通なのよ」
こう言い繕うのだった。
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