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仮面ライダーAP

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番外編 タイプγと始祖の怪人 第2話


 清音の眼前に待ち受けていたのは、文字通りの「血の海」だったのである。先ほどの男性――斉藤空幻と同様に、白衣を纏った者達の無惨な遺体が辺り一面に転がっていた。

(全員死んでいる……!? しかもこの傷跡、さっきの遺体と同じ……!)

 恐らく元々は、改造人間の研究室だったのだろう。人1人分なら入れてしまいそうな大型の培養カプセルが5個ほど並んでおり、その全てのガラス壁が内側(・・)から突き破られている。

 そこで培養されていた「何か」の仕業なのか。この部屋の研究員らしき者達の遺体は、原型を留めないほどにまでズタズタに切り刻まれていた。

「……!」

 しかも、この一室に築き上げられた死体の山の中には、人間ではないモノまで含まれている。

 清音達も戦ったことがあるフィロキセラタイプの怪人までもが、死体の一つとなって転がっていたのだ。深緑の体色を見るに、天峯達のボディとは違う新型の怪人らしい。

 恐らく培養カプセルの中で飼われていたのは、この怪人だったのだろう。
 暴走してカプセルを抜け出し、研究員達を惨殺しただけでは飽き足らず、同士討ちまで始めてしまったのか。

 地に転がっている4体の怪人は、いずれも互いの触手によって激しく切り刻まれ、事切れていた。
 鞭のようにしなる彼らの触手は拘束だけでなく、斬撃にも使える。その機能により、この死体の山が出来上がってしまったのだろう。

 そこまで思い至ったところで。清音はその光景に、どこか「違和感」を覚えていた。

「……? あれは……」

 その時、この一室を探索していた彼女の目にあるモノが留まる。
 デスクの上に設置されたパソコンの側に、USBケーブルで繋がれたスマートフォンが置かれていたのだ。

 デスクもパソコンもフィロキセラタイプの暴走によって無惨に破壊されていたのだが、そのスマートフォンだけは無事だったらしい。画面は割れてしまっているが、タップ機能はまだ生きている。

「これは……」

 どうやら、パソコンに蓄積されたデータをこの端末(スマホ)に移し、別の潜伏先(アジト)に運ぶつもりだったようだ。その端末内には、この研究室で行われていた「実験」の記録が残されている。

 ◆

 ――シェードに無理矢理改造された挙句、失敗作として見捨てられ、人間社会からも迫害されて来た我々ノバシェードが、ついに「本物」になる時が来た。天峯様達の生体データの解析に成功した我々は、あのフィロキセラタイプの量産化を実現したのだ。

 ――あの忌まわしき旧シェードの織田大道(おだだいどう)こと、原種のタイプα(アルファ)。その遺伝子細胞の突然変異により発現した、天峯様、蛮児様、禍継様のタイプβ(ベータ)

 ――そして、培養した彼らの遺伝子細胞を人工的に変異させることにより誕生するタイプγ(ガンマ)。このタイプγならば既存のデータと設備を応用し、我々だけで量産することが出来る。

 ――もはや我々は失敗作でも紛い物でもない、本物のシェードそのものとなったのだ。我々を迫害した人類に、その味方をする仮面ライダー共に、それを思い知らせる時が来たのだ。

 ――タイプγは攻撃性に特化しており、知性面の強化に掛かるコストをオミットしているため、非戦闘時は専用のカプセルで常に行動を制限しておかねばならない。だがこれで、攻撃力だけならば天峯様達にも匹敵し得る怪人を5体も量産出来たのだ。

 ――これからこのデータを、より設備が充実している他のアジトに移し、大量生産する予定だ。愚かな人間共の絶望に歪む顔が、今から目に浮かぶ。これでもう、「始祖怪人(オリジン)」共の手を借りることもない。

 ――そもそも私は、最初から奴らのことが気に食わなかったのだ。旧シェードの生き残り風情が、天峯様達に代わって我々に指図するなど、烏滸がましいにも程がある。確かに戦闘のプロ揃いなだけあって、構成員達に対する教導は的確そのものであったが、それとこれとは話が別だ。

 ――旧シェードの「No.0」こと、羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)。彼と同時期に徳川清山(とくがわせいざん)の手で開発された、「始祖」の改造人間達。その「年季」に裏打ちされた膨大な戦闘経験に基づく教導が無ければ、無知な民兵でしかなかった我々ノバシェードは、仮面ライダー共に蹂躙される一方となっていただろう。その点は私も認めているし、感謝もしている。

 ――が、それだけだ。我々がこのような道に進まざるを得なくなった元凶の産物に、ノバシェードの指揮権まで奪われてなるものか。我々はこのタイプγで奴らを超え、天峯様達の遺志を守り抜くのだ。

 ――ノバシェードアマゾン支部所属・怪人研究所所長斉藤空幻。

 ◆



(タイプγ、それに「始祖怪人」ですか)

 この端末に残されていたのは、「タイプγ」と称されるフィロキセラ怪人の開発に携わっていた、斉藤空幻所長の最期の記録だったのだろう。
 その記録を読み終えた清音は、記述の中にあった「始祖怪人」という単語に着目していた。

 No.0こと羽柴柳司郎と言えば、旧シェードの創設者である諸悪の根源・徳川清山が1970年代に開発した最初期の改造人間。約5年前、仮面ライダーAPによって打倒された最古の怪人。
 その羽柴と同時期に生み出されたという怪人が、この現代にもまだ生存しているのか。

(50年近くも戦い続けて来た歴戦の怪人達が、今のノバシェードのバックに付いている……なるほど、ただの戦闘員でも手強くなるはずですね)

 清音にとっては、タイプγの真相以上に深刻な問題であった。斉藤空幻の遺産は同士討ちの自滅に終わったようだが、「始祖怪人」の暗躍は今も続いている。

 ならば一刻も早くこの情報を持ち帰り、世界各地の仲間(ライダー)達に報せねばならない。本当の戦いは、これからなのだということを。

 ――そのように逸るあまり。彼女は、ある1点を見落としていた。

 この研究室に残置されている、培養カプセルの数は5個。

 その全てのガラス壁が、すでに破壊されており――地に転がっているタイプγの死体の数は、4体。

 死体が一つ、足りていないのだ。

「……!」

 その事実に彼女が気付き、背後からの殺気に振り返った時にはすでに――潜んでいた最後の1体が、その触手を伸ばしていたのである。
 
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