| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

綾小路くんがハーレムを構築する話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

ギャル系後輩美少女が接近 ゲームセンター編

 
前書き
ようこそ実力至上主義の教室へ,綾小路清隆,七瀬翼,天沢一夏,椿桜子,ハーレム 

 
7月初旬。

AM6:00

部屋に籠る熱気に俺は起こされる。自分がいつも起きている時間とは言え、今回は起こされたと言う表現が正しい。

この時期の朝は億劫だ。夜は寝苦しく、朝から暑いお陰で寝起きは当然悪くなる。

綾小路「暑い……シャワーでも浴びるか。」

俺はそう呟きながら渋々身体を起こした。これだけ朝から暑いと頭も働かない。

まずはシャワーでも浴びようと洗面所に向かった。早速浴室に入り、頭から一気にシャワーをかけた。

朝からシャワー浴びると言うのも存外悪くない。むしろ朝に浴びるシャワー程気持ち良いものは無いと思っている。

綾小路「……ふぅ。」


シャワーを浴び終えた俺は制服に着替えた。髪をタオルで拭きながら洗面所を出た。


キッチンに入り、スポーツドリンクを冷蔵庫から取り出して喉に流し込んだ。朝食用のヨーグルトを持ってテレビを付けてから腰を下ろした。


特別見たいテレビがある訳ではないが、天気等の情報は知っておこうと思った。ヨーグルトを食べながら、テレビを見ていると……


『続いてのコーナーは~……夏休みにお勧めの観光スポットをご紹介していきたいと思いまーす♪』


綾小路「夏休み……か。」


テレビから聞こえた『夏休み』というワードに俺は反応した。


普通の学生であれば、夏休みを心待ちにしている者が多いだろう。しかし、今の俺は夏休みが始まる事を待ち望んでいない。どっちかというと憂鬱な気分になるくらいだ。


何故なら……夏休みが来れば新たな特別試験が始まってしまうからだ。


綾小路「……何も夏休み期間中に試験行う必要は無いと思うんだがな…。」


今回の試験は昨年も行われた『無人島試験』。ただ、去年と違う点は全学年対抗試験というところだ。


必然的に南雲や龍園たちとも戦うことになる。それはそれで楽しみでなんだが(試験自体も純粋に面白そうだしな)


今回の俺はそんな悠長な事は言ってはいられないかもしれない。1年の中に紛れ込んでる『ホワイトルーム生』が俺を貶めようと狙ってくる可能性が極めて高い。


月城が理事長としてこの学校に居られるのもそう長くはない。月城はどんな手を使ってもこの特別試験で俺を退学に追い込もうとしてくるだろう。


綾小路「……やれやれ。面倒事は尽きないな。」


ただ、平和に学校生活を送りたい俺にとって難儀な問題ではあるが……俺の邪魔をしてくるのであれば全力で叩き潰すまで。


誰がホワイトルーム生でも関係ない。最終的に俺が勝てばそれでいい。そこは今までと変わらない。


俺はそう考えながら、テレビを消して部屋を出た。

AM7:20

寮のロビー前。

外に出た瞬間、俺を襲ったのは蒸し暑い熱気。

じっとしているだけでも汗が滴り落ちてきそうな程の暑さ……流石の俺でも堪える…。

朝から勘弁して欲しいものだ。

綾小路「……暑い。」


気付けば、朝起きた時と同じ言葉を繰り返す。それはもう仕方ない。暑いのだから。


地球温暖化が原因とは言え、年々暑くなっていく夏という季節を好きになれそうにない。


俺はうんざりした気持ちで照りつく日射しを浴びながら、通学路を歩く。暑いとは言え、誰も居ないこの時間は気が楽でいい。


今の俺は色々と目立ち過ぎて心が休まる時間がないからな……朝くらい穏やかに過ごしたいところだ。


俺がそう考えて歩いていると……


『……あ!きたきた!綾小路せんぱーい♪』

『……』


学校の校門の方から俺の事を『先輩』と呼ぶ声がした。


何故、あいつらがこの時間に居るんだ?正直……今、会うのは非常に善くない状況だ…。


だが、校門の前に居る以上スルー出来ない。一呼吸置いてから二人の元に真っ直ぐ向かった。


天沢「おっはようございま~す、綾小路せんぱーい♪」

七瀬「……おはようございます、綾小路先輩。」

綾小路「おはよう……天沢、七瀬。」

天沢「遅いですよ~!私たち10分も前から先輩のこと待ってたんですから~。ねぇ~七瀬ちゃん♪」

七瀬「私たちが待っていた時間は8分42秒です。10分は経ってませんよ、天沢さん?」

天沢「うっわー……こまか。七瀬ちゃんらしいね~」

綾小路「……」


俺の前に現れた人物は1年Aクラスの天沢一夏と1年Dクラスの七瀬翼だった。


天沢は笑顔を振り撒きながら、俺に近づいて挨拶をしてきた。一方の七瀬は俺と一定の距離を保った状態で挨拶をした。


この二人とは4月にあった特別試験で面識がある……それはもうかなり深く。俺は周囲を警戒しながら、天沢たちの様子を観察する。


天沢「あれあれ~?もしかして綾小路先輩警戒してます?」

綾小路「まぁな。」

天沢「え~そんなに警戒しないでくださいよ~。私たちは綾小路先輩に朝の挨拶をしたかっただけなんですから~♪」

綾小路「……たかが挨拶の為だけに、この時間に登校してこないだろ。俺を待っていた理由は何だ?」

天沢「えーそんな急かさなくてもいいじゃないですかぁ~♪どうせまだ誰も登校してこないんだし、お喋りしましょうよ~♪」

綾小路「……」

俺としてはお喋りなんかしてる暇は無い。

この状況を誰かに見られたら面倒なことになる。用件があるなら、さっさと話して貰いたいのが本音だ。

しかし、天沢が素直に本題に入ってくれる訳がない。どうしたものか…

七瀬「……天沢さん。綾小路先輩も困っていますし、早く話した方がいいんじゃないですか?」

天沢「あーはいはい……分かってるって、七瀬ちゃん。これはほら!先輩をからかってるだけ♪」

七瀬「それは時間の無駄です。」

天沢「うるさいなぁー……勝手についてきた癖に余計な口出ししないでほしいんだよね~」

七瀬「それは貴女の行動次第ですよ、天沢さん。疑問に思った事があったら遠慮なく発言させて頂きます。」

天沢「うわぁ……めんどくさ…まぁ、いいや。時間が無いのも事実だし、ここらで話すとしましょうかね♪」

俺が天沢に手を焼いてると七瀬が助け舟をくれた。天沢は七瀬に反論しつつも話してくれるみたいだ。

七瀬の口振りからして何か俺に用件があるのは間違いないようだな……一言一句聞き逃さないよう、気を締めて聞くとしよう。

天沢「あーコホン!私がここで先輩を待っていた理由ですね~……先輩に1つお願いがあるんです。」

綾小路「……お願い?それは何だ?」

天沢「それはですね~……今日1日だけでいいんで私と遊んでくれませんか?せんぱーい♪」

綾小路「……は?」

七瀬「!」


天沢からのいきなりのお願いに俺は固まった。天沢の隣に居る七瀬も一瞬驚いた表情をしていた。


特別試験の内容(全学年対抗の無人島試験)が決まったこのタイミングで遊びの誘い?何か裏があるとしか考えられないな。


俺が誰とグループを組むか探りに来たのか?いや、天沢の性格上それは考えにくいか。そんな回りくどい真似は俺相手にもうしないだろう。


さて、ここはどうするか……即断るか。それとも探りをいれてから答えるべきか。


天沢「あはは♪先輩めっちゃ驚いてますね~?そうですよね~いきなりこんなお願いされたらびっくりしますよね?」

綾小路「そうだな。目的は何だ?」

天沢「随分直球で聞いてくるんですね?でも残念♪別に目的なんてないですよ?ただ純粋に先輩と遊びたいだけなんで♪」

綾小路「……特別試験前だぞ?今はタイミングが悪いと思うんだが。」

天沢「だからこそですよ~。息苦しい試験が始まる前に息抜きしておくのも大事じゃないですか~♪」

七瀬「ちょっと待って下さい、天沢さん!今回の特別試験は全学年対抗の無人島試験です。試験前に私たちと一緒に行動すれば綾小路先輩に迷惑が掛かると思います。」

天沢「七瀬ちゃんは黙っててくれない~?私は先輩に聞いてるんだし。」

七瀬「……」

天沢「可愛い後輩の頼み聞き入れてくれますよね……せ・ん・ぱ・い?」


満面の笑みを浮かべて、俺の答えを待つ天沢。その眼からは『断りませんよね、先輩♪』と問いかけてるように見えた。


断るのは簡単だが……安易に断るのは危険だ。何しろ相手は天沢。下手に断れば何をしでかしてくるか解らない……ここは天沢の要求を呑んだ方が良さそうだ。


正直リスクが大きいが、何か裏があるなら探っておくに越したことはない。


綾小路「……分かった。いいぞ。」

七瀬「な!?」

天沢「やったぁ~♪先輩大好き♪」

綾小路「……おい。」

俺が了承すると、右腕に抱きついてきた天沢。その姿は漸く構って貰えた猫のようだ。

そして、そんな天沢を見た七瀬が……

七瀬「ちょっと待ってください!それなら私も同行します。」

天沢「はぁ!?なんで七瀬ちゃんまでついてくるわけ?そんなの許すわけないじゃん。」

七瀬「貴女一人では暴走しかねないでしょう?見張りが必要です。ダメと言われても同行させて貰います。」

天沢「ぜっっったいにダメ!!!これは私と先輩のデートだから♪邪魔しないで!」

七瀬「行きます!」

天沢「ダメ!」

七瀬「行きます!!」

天沢「ダーメー!!」

七瀬「行きます!!!」

天沢「ダメったらダメ!!!」


強引に俺たちの間に割り入って同行すると主張してきた七瀬に対し、負けじと文句を言う天沢。


二人は詰め寄らんばかりに舌戦を繰り広げ始めた。二人の気迫は言うなれば、鈴音と伊吹を彷彿とさせるものがあるな……。


とにかく、ここで言い争いをして貰っては困る……さっさと話しを纏まらせるか…。


綾小路「……落ち着け、2人とも。もう、あれだ。3人で行こう。」

天沢「ちょっ!?なんでそういう結論になるんですか、綾小路先輩!」

綾小路「こんな所で言い争っても仕方ないだろ?それに七瀬の方も一歩も引く気がないみたいだぞ。」

七瀬「その通りです。」

天沢「……」

俺が出した決断は3人で放課後を過ごすということ。

俺が七瀬の味方をしたのが気に入らないのか、頬を膨らませている天沢。

俺は間髪入れずに説得する。

綾小路「仮にここで天沢が断ったとして七瀬は無理矢理着いてくるかもしれないぞ。だったら一緒に行った方が合理的だ。分かるな?」

天沢「うぅ~……あーーーもう!!!分かりましたよ!七瀬ちゃんもついてくればいいんじゃん!私と先輩のイチャラブっぷり見ても知らないかんね?」

七瀬「そんな邪なこと私が同行する以上させません。」

天沢「ふーんだ……勝手に言ってなよ。」

結局3人で遊ぶという提案に天沢が折れることで落ち着いた。

当の本人は納得してないのか、不貞腐れるように明後日の方向を向いていた。

七瀬「それでは綾小路先輩。話しも終わったところで私と天沢さんはお先に失礼します。」

天沢「えー!?まだ私は先輩と一緒に居たいのに~。」

七瀬「ダメです。もう行きますよ、天沢さん。これ以上綾小路先輩を束縛する訳にはいかないでしょう?」

天沢「はぁ~……はいはい、わかったわかった。」

七瀬「では、綾小路先輩……放課後に後ほど。」

綾小路「……あぁ。」


話しが纏まった後、七瀬は天沢を引っ張って先に校舎に入っていった。天沢たちと話していた時間は10分にも満たなかったが、朝から疲れたな。


そして面倒な事になった……まさかこのタイミングで天沢たちが俺とコンタクトを取ってくるとは…。


最大限警戒を怠らないように注意しておこう。やれやれ……今日は心が休まる瞬間が無さそうだな…。俺は深くタメ息をつきながら、教室に向かった。

放課後。

2-D教室。

授業も無事終了し、今は放課後。各々が帰る準備をしている中、俺は席に座って考え事をしていた。

と言うのも先程、天沢たちと放課後に会う約束をしたわけだが……肝心の待ち合わせ場所を取り決めていないことに気付いたからだ。

綾小路「……」

この場合……俺はどうすればいいんだろうか?

俺の方から1年のクラスに赴くべきか?しかし、入れ違いになったら面倒だ。

こんな事になるなら連絡先を聞いておくべきだったか……いや、それはそれで危険か。

さて、どうしたものか…

堀北「随分と気難しい顔してるわね、清隆くん?」

綾小路「……そうか?」

堀北「えぇ。何か考え事かしら?」

俺がどう動くべきか悩んでいると、隣の鈴音が話し掛けてきた。

鈴音が放課後、俺に話し掛けてくるのは珍しい。放課後になると、いつも直ぐ帰ってるからな。

綾小路「まぁ……考え事と言えばそうだな。」

堀北「やっぱり。何を考えていたの?」

綾小路「あー……いや、大した事じゃないんだが…」

堀北「そう……大した事じゃないのなら、話さなくてもいいわ。別に興味は無いから。」

綾小路「……」


そっちから聞いてきたから俺は答えたのに興味は無いと言い放つ鈴音……流石だな。まぁ、実際俺の悩みは大した事じゃないのは事実だから何も言えないが。


さて……ここで彼是考えていても意味がない。とりあえず、校門の前に行って見るとしよう。一番生徒の出入りが視認出来る校門前なら自力で探すのも可能だ。


幸い天沢と七瀬は目立つ髪型をしているから、直ぐに見つけられるかもしれない。俺から1年のクラスに赴く勇気が無い以上、この判断が最善だと言える。


とにかく、天沢たちと入れ違いになる前に行動に移すか……俺はそう考えて席を立った、次の瞬間…


『あ・や・の・こ・う・じ・せんぱ~い♪』

『天沢さん、声が大きいです。そんな大きな声で呼ばなくても良いのでは?』

綾小路「!」


教室の外から俺を呼ぶ声がした。それはもう廊下に響き渡るくらい大きな声量で。


俺は反射的にカバンを持って教室を出ようと行動に移す。が……


ガラッ!


天沢「綾小路せんぱーい♪居ますか~?一夏ちゃんが迎えに来ましたよ~♪」

七瀬「天沢さん、私も居るのですが?それに少し声を抑えて下さい。周りに迷惑です。」

天沢「もー……ほんと一々うるさいね~七瀬ちゃんは。」

七瀬「今の天沢さんに言われるのは心外ですね。貴女の方がうるさいと思いますよ?」

天沢「あーはいはい……ったく。あ!綾小路先輩居た~♪」

綾小路「……」


時既に遅し……俺が教室を出る前に天沢たちが教室のドアを開けた。


二人は口喧嘩を挟みながら、教室に入って来た。天沢は俺の姿を視認すると、人懐っこい笑顔を浮かべながら手を振っていた。七瀬は礼儀正しく、俺に向かって軽い会釈をしてきた。


何てタイミングで現れるんだ……この展開になる前に早く行動に移すべきだったな…。二人は徐々に距離を縮め、俺の席まで辿り着く。


天沢「やっほ~綾小路せんぱーい♪先輩に早く会いたくて私たちの方から来ちゃいました♪」

綾小路「……あぁ。」

天沢「あれあれ~?なんか、嬉しく無さそうですね~?先輩が約束の場所指定してくれなかったから、わざわざ私たちが迎えに来てあげたんですよ~?」

綾小路「……それは大いに感謝してる。」

天沢「ですよね♪じゃあ、早速『デート』行きましょうか!せ・ん・ぱ・い♪」


『デート』という言葉を強く主張しながら、笑顔で話す天沢。


その瞬間、クラスがザワつく。当然だろう……後輩の女子が俺みたいな冴えない男とデートすると言ってるのだから。


クラスの大半がザワついてる中、隣に居る人物の鋭い視線が突き刺さった。


堀北「……」

綾小路「……先に言っておくがこれには事情がある。」

堀北「……別に私は何も聞いてないけど?何をそんなに焦ってるのかしら、清隆くん?」

綾小路「……」

黙ったまま、此方を見つめてくる鈴音に対して俺は耐えきれずそう答える。

鈴音は俺の事をまるでゴミを見るような冷ややかな目を向けていた。

うん……凄く恐い。何故か解らないが、怒っている気がする。どうしてだろうか?

天沢「あ!堀北先輩じゃないですかぁ~こんにちは♪」

堀北「こんにちは、天沢さん。彼を連れて何処に行くのかしら?」

天沢「具体的に何も決まってないですよ、堀北先輩♪今日は綾小路先輩が『私たち』に付き合ってくれる約束なので。ですから~……綾小路先輩のことお借りしていきますね、堀北先輩♪」

堀北「別に彼は私の物では無いのだから、借りるも何も無いわよ?」

天沢「そうなんですかぁ~?一夏ちゃん的には今の堀北先輩の表情……綾小路先輩のこと取られたくないって顔してるように見えますけどね~♪」

堀北「……」

天沢「まぁ、そう思ってるのは堀北先輩に限った話しじゃないみたいですけど……ね♪」


天沢は小悪魔の笑顔を浮かべて、鈴音を挑発するように言った。今の鈴音に対して挑発するとは……やはり天沢も相当肝が座ってるな。と言うか、間に挟まれてる俺の身にもなって頂きたい。


そして、天沢は周囲を見渡しながらそう続けた。鈴音に限った話しじゃない?と言う言葉から、俺はここで初めて周囲を見渡した。


それはもう……恐る恐ると。そこで、目に映ったのは……


軽井沢「……(何でここに天沢って子が来てんのよ!?てか、いま清隆とデートって言った?あたしに隠れてなに約束してんのよーーー!!!)」

佐藤「……(あの子たぶん、後輩だよね?まさか清隆くん狙い?またライバル増えるのぉ~~!?)」

松下「……(私の他にも綾小路くんに興味持ってる子は居るみたいだね、やっぱ。にしても皆、女の子っていうのは……ねぇ?)」

櫛田「……(堀北たち相手だけでも面倒なのに遂には後輩にまで手ぇ出してんのかよ……チッ。少しは抑えろや!!!こっちの身にもなれっての!!!)」

長谷部「……(今回は後輩の女の子と約束?私と愛里が居るのに、きよぽんってほんと節操なしだね~……これはお灸を据えなきゃダメかなぁ?)」

佐倉「……(あの女の子清隆くんと仲良いのかなぁ?もしかして清隆くんのこと気になってるのかな……あわわ。)」

綾小路「……」


此方を食い入るように見つめている恵たちの姿。恵、波瑠加、桔梗は黙ったまま、鈴音同様ゴミを見るような目で俺を見ている。


麻耶と愛里は今にも泣きそうな目をしており、松下は面白く無さそうな表情を浮かべていた。


何だこの雰囲気は……今すぐダッシュで離れたい。そして遠くに逃げたい。


七瀬「綾小路先輩ってモテるんですね?」

綾小路「……いや。」

七瀬「そうなんですか?私には先輩方全員が綾小路先輩の事を見てる気がするのですが…」

綾小路「……気のせいじゃないか?」

天沢「先輩ったら、謙遜しちゃって可愛いですね♪ここで長居するのも勿体ないですし~そろそろお暇しましょうか……せーんぱーい?」


天沢は媚びるように俺の事を『先輩』と言った後、腕を組んできた。それはもう俺の腕を離さないよう力強く。


腕を組まれて分かったが……天沢の膂力は中々凄い。女子高生の平均は優に越えているだろう。


天沢一夏やはりただ者ではないな……ってそんな分析してる余裕は無い。


綾小路「ちょっと待て……何で腕を組むんだ?」

天沢「それは勿論『デート』なんですからこれくらい当然ですよ♪ほら、七瀬ちゃんも先輩の腕組んで!」

七瀬「何故、私もなんですか?理解が出来ないのですが…」

天沢「いいから、早く早く♪」

七瀬「良く分かりませんが……こうですか?」

「「「「「「「!!!×7」」」」」」」


天沢に言いくるめられて、七瀬まで俺の腕を組んできた。二人の柔らかい感触が俺を襲う。


だが、その柔らかさを堪能する間もなく、突き刺さる視線に俺は冷や汗を掻いた。今の俺は……後ろも隣も振り返ることが出来ない。


いや、振り返るな、俺。今は前だけ見るんだ、俺。とにかく、ここを立ち去ることだけ考えろ、俺。


天沢「えへへ//////♪」

七瀬「少し恥ずかしいですね、この体勢は…//////」

綾小路「……」


何故か嬉しそうな天沢たちとは違って俺の心は穏やかでは無かった。


もうあれだな……恵たちに対しての事情説明は、全て明日の俺に任せよう…。


俺はそれ以上考えるのを止めて、天沢たちと教室を出た。背中に沢山の視線を感じながら……


ケヤキモール前。

俺たちは学校を出た後、ケヤキモールまで来た。

遊べる娯楽施設と言えば、ここに全て揃っているから当然の選択だと言える。

天沢「ケヤキモールとうちゃーく♪」

綾小路「何かプランはあるのか?」

天沢「そりゃもう、色々考えてきましたよ~一夏ちゃんは。まずは服とか見て回りたいですし~カラオケも行きたいですし~ボウリングも行きたいです♪」

綾小路「……今日一日じゃ回れないだろ。」

七瀬「私もそう思います。天沢さんここは一つに絞るべきです。」

天沢「そんなの言われなくても分かってるし。あくまでこれはただの私の願望。この中から厳選して何処に行くか決めるんだから、黙って待ってなよ。」

七瀬「……」

天沢「うーん、やっぱ最初は無難に先輩の服選びからにしようかなぁ……私のセンスを見せつけるチャンスだし♪あ~でも、初っ端からアクティブ全開で遊ぶのもアリだよねぇ?それともそれとも~段階飛ばして薄暗い個室で先輩とあーんな事やこーんな事とか……きゃ~//////♪」

天沢は隣で何処に行くか考えながら、一人世界に旅立っていた。

暫くは天沢は放っておいて大丈夫だな……行く場所が決まるまで、大人しく待っているとするか…。

しかし……

綾小路「……」

七瀬「……」

天沢を待ってる間、俺と七瀬は暇だ。

俺の腕を組んだまま、ただ黙ってる状態ってのも可笑しな状況で凄く気まずい。

ここは軽く何か会話でもしておくか……じゃないと空気が持たない。

綾小路「あー……七瀬は何処か行きたい場所は無いのか?」

七瀬「行きたい場所……ですか?何故、そのような事を私に聞くのですか、綾小路先輩?」

綾小路「何故って言われてもな……単純に気になっただけだ。七瀬だって行きたい場所があるなら案を出してもいいんだぞ?」

七瀬「私は天沢さんが暴走しないよう監視をしに来てるだけなので。お二人が行く場所に着いて行くだけです。」

綾小路「……そうか。」

七瀬「はい。」

興味本位で聞いてみた質問だったが、なんとも七瀬らしい答えが返ってきた。

あくまで自分は監視役。そう考えての行動ってことだな。

俺たちがそんな話しをしてる内に……

天沢「決めました!今日はカラオケに行きたい気分です♪」

綾小路「カラオケか……七瀬もそれでいいか?」

七瀬「勿論です。」

天沢「やったー♪じゃ、早速向かいましょう~!」

天沢が何処に行くか場所を決めたようで、俺たちはカラオケに行くことになった。

カラオケならこれ以上他のクラスに見られる心配は要らないから好都合だ。

早速向かうとしたいところだが……

綾小路「この状態で行くのか?と言うか、いつまで腕を組んだままなんだ?」

天沢「え~別にいいじゃないですかぁ~このままでも♪どうせ先輩のことだから、他の女の子にもこれくらいは許してるんですよね?」

綾小路「……」

天沢「はーい。無言は肯定と取りまーす♪ってことでこの状態のままってことでお願いしますね、せんぱーい♪」

七瀬「……」


俺としてはこの腕を組んだ状態を続けるのは周りの視線もあって避けたいところだったが……天沢に論破されて何も言い返せなかった。


実際、恵を筆頭に波瑠加や愛里、桔梗に帆波と数え切れないくらいこの程度の事は許してるからな……うん。


そして、天沢は先程よりも強く腕を組んできた。その瞬間、七瀬に組まれている腕も強くなったのは気のせいだろうか?




















カラオケ前。

結局、腕も組まれたままカラオケまで来た俺たち。

そんな俺たちを待っていたのは……

天沢「えー!!!満室!?」

店員『はい。大変申し訳無いのですが只今、お部屋の方が満室となっておりましていつお部屋をご用意出来るか……』

天沢「そんなぁ~……」

満室で部屋に入れないという状況だった。

特別試験前に息抜きしようという生徒は他にも居るだろうからな。

それにしても満室とは運がない。

七瀬「天沢さん今日は諦めて違うところを回りませんか?」

天沢「はぁー……仕方ないか。今回ばかりは先輩とカラオケはお預けだね。また来まーす。」

俺たちは店員に軽く挨拶をしてから店から出た。

これで振り出しか……次のプランを考えないといけないな。まぁ、俺が考える訳ではないが。

綾小路「どうする、天沢?」

天沢「そうですねぇ~……あ!じゃあそこのゲームセンター行きませんか?ちょうど近くにありますし。」

綾小路「……ゲームセンター?」


天沢の次なる提案はゲームセンターだった。カラオケ店の近くにあるゲームセンターを指差しながら天沢は言った。


ゲームセンターか……そう言えば、一度も訪れた事は無かったな。


もし、誰かに誘われていたら行っていたかもしれないが生憎俺は友人はそう多くない為、こういう場所を訪れる機会に恵まれなかった。


啓誠や明人、それに洋介はこういうところを訪れるタイプでは無いしな。


天沢「どうですか、先輩?」

綾小路「俺は別に構わないが……買い物とかボウリングじゃなくていいのか?」

天沢「はい♪これ以上、先輩との貴重な時間を潰したくないですから♪」

綾小路「七瀬もそれでいいか?」

七瀬「構いません。」


七瀬にも確認を取り、ゲームセンターに行くことに決定した。


ゲームセンターの入り口まで来ると、色んな種類のUFOキャッチャーが多数並んでいた。奥の方にはガンシューティングゲームやレースゲーム、プリクラ機等が置いてあった。


なるほど……結構楽しめそうな場所だな。


天沢「さて、何処から回ります?せーんぱい♪」

綾小路「お前に任せる。俺は初めて来たからよく分からない。」

天沢「えー!そうなんですか~?とっくに軽井沢先輩たちと一緒に来てると思ってました。」

綾小路「いや、初めてだ。天沢たちは来たことあるのか?」

天沢「私は何回かありますよ~♪パンチングマシーンとかあるんでストレス発散しに来たり?あはは♪」

七瀬「私は初めてです。このような場所に訪れようと思った事が無いので。」


二人に尋ねてみると真逆の返答が返ってきた。天沢は何となく来てそうな雰囲気はあるが、七瀬はこんな所来るタイプでは無いか。


かくいう俺も来てみようと考えた事は無かったからな。そこは七瀬と同じだな。


そして、俺が人生初めてゲームセンターに足を踏み入れようとしたその時……


『……あ。綾小路先輩だ。』


俺を『先輩』と呼ぶ声がして足を止める。


思わず、振り返るとそこには……


綾小路「……椿か。」

七瀬「こんにちは、椿さん。」

椿「……どうも。」

天沢「あれ~Cクラスの椿ちゃんじゃん。今日は宇都宮くんと一緒じゃないんだね~?」

椿「いつも一緒に居るわけじゃないよ、天沢ちゃん。そっちこそ綾小路先輩と一緒みたいだけど?」

天沢「まぁね~♪今日は先輩とデートだから……まぁ、一人邪魔者が居るけど。椿ちゃんこそ、何しにここに来たの?」

椿「……別に。暇潰しだよ、暇潰し。」

天沢「……ふーん。」


後ろに居たのは1年Cクラスの椿桜子。口に入ってる飴玉を舐めながら、此方の様子を伺っていた。


今日はよく後輩に会うな……周りに他クラスのやつらが居なくて助かった。


それにしても椿がここに来るとは……尾行の線も一瞬頭に過ったが、それは無いだろう。それなら直ぐに気付くからな。


椿「それに私はUFOキャッチャーに用があるの。」

七瀬「UFOキャッチャーですか?」

椿「うん。飴入ってるお菓子の箱取りに。ほら、あれ。」

椿がここに来た理由はUFOキャッチャーだと言う。

椿の指差す方向には椿が今食べている飴と同じ種類のお菓子の箱が沢山置いてあるUFOキャッチャーがあった。

飴の為に態々、ゲームセンターに訪れるとはよっぽど飴が好きなんだな。

七瀬「これが1回100円で挑戦出来るんですか?」

椿「そうだよ。七瀬ちゃんやったことないの?」

七瀬「ありません。UFOキャッチャー自体初めて見ました。」

椿「へぇーそうなんだ。」

天沢「私もUFOキャッチャーはやったことないな~……あ!そうだ!先輩試しにやってみてくださいよ~♪」

綾小路「……俺が?」

天沢「はい♪先輩のカッコいい姿見たいので♪いいですよね、せんぱーい?」

UFOキャッチャーの話しから拡がった急な無茶振り……勘弁してほしいものだ。

俺も七瀬と同じでUFOキャッチャーを今日初めて見たっていうのに。

しかし、満面の笑顔を向けられると断りづらい……これはやるしか無いな。

綾小路「あー……分かった。どれをやればいいんだ?」

天沢「えっとですね~……あ!私このクマのぬいぐるみ欲しいです♪」

綾小路「これか……とりあえず、やってみるが期待しないでくれ。」


天沢に頼まれて俺は大きなクマのぬいぐるみの入ってるUFOキャッチャーに目を向けた。1回100円、6回500円で挑戦出来るようだ。そして、ここのゲームセンターは端末を翳して払えるシステムになってる造りになっていた。


まぁ、学校のシステムに沿った造りということだろう。俺は端末を翳してとりあえず、1回チャレンジ出来る料金を払った。


流石の俺でも初めてで直ぐに取れるとは思ってはいない。だが、一度この目で分析して再度挑戦した方が良いと踏んだ。


天沢「せんぱーい頑張ってくださーい♪」

綾小路「あぁ。」


俺は機械の説明音に耳を傾けて集中する。縦横のアーム移動は一度ボタンを押して離したら動かせなくなるらしい。ならば、しっかりとアームの角度や位置を調整しないといけないな。


まずは横にアームを動かして天沢のご所望のぬいぐるみまで移動する。ぴったりとその位置まで持っていった。後はこの縦の移動次第。俺はしっかりとUFOキャッチャー内部の空間を把握する。


このへんか……よし。まずはお試しだ。最初は失敗しても仕方ないし、気楽にやるとしよう。そんな軽い気持ちで俺はボタンを押した。すると…


ウィーン……ガシッ!ウィーン……ガコン!


天沢「え!?やったやった♪先輩取れましたよ!!!」

椿「すごっ……」

七瀬「ほんと凄いですね、綾小路先輩?」

綾小路「……まさかだな。」

初めてのUFOキャッチャーは何と一発で成功した。

自分でも本当に驚いた……こんなに簡単に取れるものなのだろうか?

何にせよ、成功したのだから結果オーライだな。

天沢「しかも一発じゃないですか~♪せんぱいメッチャカッコいい~♪」

綾小路「まぁ、偶々だろ。天沢はこれが欲しかったんだよな?」

天沢「はい、そうです♪本当に私にくれるんですか?」

綾小路「くれるも何もお前が欲しかったんだろ?ほら。」

天沢「やったぁー!ありがとうございます♪メッチャ大事にしますね?先輩からのプレゼント……えへへ//////♪」

俺は取れたクマのぬいぐるみを天沢に渡した。

天沢の喜びようからみて、本当に欲しかったみたいで取れて良かったと思った。

椿「ほんと、先輩スゴいですね?」

綾小路「いや、運が良かっただけだと思うぞ。」

椿「運でも何でも普通1回で取れませんよ。私なんてこの間、10回くらい挑戦して取れませんでしたし。」

天沢「10回やってダメってさー……椿ちゃんセンス無いんじゃないの~?」

椿「うるさいな……今回は絶対取るから。」

天沢「そういうのフラグって言うんじゃないの~?試しにやって見せてよ。」

椿「言わなくてもそのつもりで来たし。そこで見てなよ。」

天沢「ふーん。精々頑張って~♪」

七瀬「椿さん、頑張ってください。」


天沢に挑発された椿は俺たちの前でUFOキャッチャーに挑戦するようだ。本当に天沢は煽るのが上手いな(言っておくが褒めてない)七瀬は素直に椿を応援していた。


椿は6回500円を選び、端末を翳して料金を払っていた。俺が挑戦したぬいぐるみと違って、お菓子の箱は難しそうだな……多分、アームで掴んで取る事は叶わないだろうから、アームで押し込んで取る形になるのだろう。


そして、椿はアームを動かし始めた。椿の目当ての飴の入ったお菓子の箱一直線にアームを落とした。


ウィーン……ググッ……ウィーン……。


椿「……」

天沢「あらら……ダメだったね。」

七瀬「まだ、チャンスは5回残ってます。頑張ってください。」

最初は敢えなく失敗。いい角度で押し込んだように見えたが取ることは叶わなかった。

椿は続けて同じようにアームで押し込むものの成功とはいかず、気付けば、挑戦出来る回数は残り1回となっていた。

椿「はぁー、全然ダメ。何回やっても落ちそうにない。」

七瀬「もう少しで取れそうなんですけどね…」

天沢「てか、これってアームが欠陥品なんじゃないの?こんなにやってビクともしないっておかしくない!ちょっと店員呼んで来よっか?」

椿「そこまでしなくていいよ。後1回しかないし、これだけやって帰るから。」

椿の健闘ぶりを見てか、いつしか天沢も椿を味方するような口振りに変わっていた。

UFOキャッチャーでこんなにも結束が固くなるとは……

七瀬「綾小路先輩、何かコツとかありませんか?」

綾小路「コツ?」

七瀬「はい。椿さんの為に技術的なアドバイスをしてあげたら宜しいかと。」

急に七瀬から質問された。

技術的なアドバイスって言われてもな……俺は偶然取れただけでコツも何もない。

とりあえず、椿の5回の挑戦を見て思った事を話せばいいか…。

綾小路「そうだな……横のアームをもう少し右に調節してそのまま押し込めばいけるんじゃないか?」

椿「右?どれくらいですか?」

綾小路「だから、さっきりよりもう少し右に…」

椿「……口で説明されても良く分からないので先輩が最後にやってくれません?」

綾小路「……俺が?」

椿「どうせ、私がやっても取れませんし……先輩の方が取れそうですから。」

天沢「お!いっけぇ~綾小路せんぱーい♪椿ちゃんのリベンジだ~♪」


軽い助言程度で言ったつもりが、ここでまさかのキラーパス。この土壇場で俺に任せるか、普通?プレッシャーが凄いんだが……先程、一発で成功してるだけに。


しかし、椿の5回の押し込みのお陰で取れる可能性はある。とりあえず、やってみるか。気は乗らないが…


俺は椿の隣まで移動して、椿の代わりにボタンを押す。横のアームを椿よりも少し右に動かし、縦のアームを落とした。


ここで取れたらカッコいいだろうなー……まぁ、そう何度も取れるわけが無いか…


ウィーン……グググッ……ガコン!


椿「あ!」

綾小路「お。」

天沢「まぢ?」

七瀬「え?」


そんな偶然起こるわけがないと思っていた俺だったが……結果は何と成功。椿が欲しがっていたお菓子の箱は上手くアームに押されて落っこちた。


3人とも……いや、俺も驚いて間の抜けた声が出てしまった。


実際、取れるとは微塵も思わなかったからそんな声が出るのも仕方ない。


綾小路「取れたな。」

天沢「スゴいスゴいスゴーい♪やりましたね~せんぱい!超カッコいい~//////♪」

椿「ほんと、先輩スゴすぎません?何でそんな簡単に取っちゃうんですか。ズルすぎですよ。」

綾小路「……俺も驚いてる。」

七瀬「アームを落とす位置も先輩の計算通りだった訳ですね。素晴らしいです。」

天沢には祝福され、椿には嫉妬され、七瀬には絶賛され、三者三様違った反応だった。

とりあえず、なんとか格好は付いたから良かったかもな。

綾小路「そんな細かな計算はしてないぞ?椿の最初の頑張りがあったから取れただけさ。ほら、椿。」

椿「くれるんですか?先輩が取ったんですから先輩の物にしてもいいんですよ?」

綾小路「……いや、俺が貰っても仕方ないだろ。これは椿の戦利品だ。遠慮なく貰ってくれ。」

椿「……ありがとうございます、綾小路先輩//////じゃあ、代わりにこれあげます。取ってくれたお礼です。」


実際、飴の箱を貰っても手に余る。俺だけじゃ、この量の飴食べきれないからな……。


俺は椿に飴の箱を渡した。表情は崩していなかったが、少し嬉しそうだった。本当に飴が好きなんだな……椿は。


そして、椿からお礼として飴を貰おうとしたその時だった…


『ゲーセンとかマジで久しぶりなんだけど~』

『私も~。松下さんと篠原さんで来たとき以来?』

『そうだね~。あ!見てこのぬいぐるみ可愛くない?』

綾小路「!」


入り口の方から何と、恵たちの声が聞こえた。どうやら恵たちもゲームセンターに来てしまったようだ。


これは非常にヤバい状況だ……今、恵たちに見つかる訳にはいかない。だが、入り口に居るということはゲームセンターから出るのは不可能だ。


俺だけ隠れるか?いや、そんな事をしても天沢たちが見つかれば意味がない。どうする?


天沢「あれあれ~?なんか軽井沢先輩たちもここに来ちゃったみたいですね♪」

綾小路「……まずいな。」

七瀬「何故まずいんですか、綾小路先輩?」

綾小路「それは……まぁ色々と…」

天沢「ここは私に任せてください!綾小路先輩、奥に行きましょう!良い『隠れ場所』があるので♪」

綾小路「……本当か?」

天沢「はい♪こっちです、綾小路せんぱーい!七瀬ちゃんも着いてきて~!あ、ついでに椿ちゃんも。」

七瀬「良く状況が理解出来ませんが、分かりました。」

椿「私も?」


俺がどう対処すべきか困っていると、天沢は良い隠れ場所があると提案してきた。


若干、天沢の言うことを信頼していいのか?頭を過ったが悠長な事は言ってられない。今は大人しく着いていくことにした。椿と七瀬も渋々、天沢の後に続いた。


そして、辿り着いた場所は……


天沢「ここです、綾小路せんぱーい♪」

綾小路「ここって……」

天沢「さぁさぁ♪中に入ってください。」

綾小路「いや、しかし……」

天沢「何を躊躇ってるんですかぁ?早くしないと軽井沢先輩たちに見つかっちゃいますよ~?ほら、こっち来ますよ♪」

綾小路「……」


天沢に案内された場所に俺は狼狽える。一瞬入るのを躊躇うが……後ろから聞こえつつある恵たちの声に逆らえない。


もう、入るしかないか……俺は意を決して、そこに入る。続いて七瀬と椿も入ってくる。


丁度、全員が入り終えたところで……


軽井沢『ねぇねぇ~せっかく来たしこのメンツでこれ撮らない?』

佐藤『いいね~♪どれにする?』

松下『この辺、全部最新機種っぽいね。とりあえず、あっちの方にする?』

軽井沢 佐藤『『おーけー♪♪』』


恵たちが談笑しながら、俺たちの横を歩いて行った。


中に入っていたお陰で、気付かれなかったようだ。


危なかった……入るのが遅かったら見つかってたかもしれない。


天沢「どうやら軽井沢先輩たちは行っちゃたようですね♪バレなくて良かったですね、せんぱーい♪」

綾小路「…………そうだな。」

天沢「あれあれ~どうしたんですか、綾小路せんぱーい♪なんか様子が変ですよ~?」

綾小路「……」


そりゃ、そうだろうと俺は思う。ここは俺に相応しくない場所なのだから。


俺たちが避難した場所は……プリクラ機。カメラで撮ってシールに映された写真を加工出来る機械。女子高生が楽しむ為に作られた場所に俺は居る。


しかも、男1人女子3人の状態でだ。こんな風に固まるのも無理はない。


七瀬「この機械は何をする場所なんですか?初めて拝見したのですが…」

椿「七瀬ちゃんプリクラも初めて?撮ったことないの?」

七瀬「ありません。撮るということは……写真か何かなのですか?」

椿「そうだよ。ここのカメラで撮ったやつがシールになって出てくるの。今時だと、スマホに写真が送れるようになってるんだよ。」

七瀬「なるほど。」

七瀬は何をする場所なのか椿に説明して貰っていた。

俺は知識は有れど、人生でここに入る予定は微塵も無かった。

まぁ……恵たちから誘われていたら入っていたかもしれないがな。

天沢「せっかくだし私たちも記念に撮りましょっか、綾小路せーんぱい?」

綾小路「……いや、出来れば俺は遠慮したいんだが…」

天沢「えー!?私のお陰で軽井沢先輩たちに見つからずに済んだんですよね~?それなら、私のお願い聞いてくれてもよくないですかぁ~?ねぇー七瀬ちゃん?」

七瀬「私としては何故、あの先輩方から隠れる必要があったのか解りませんが……私は単純にこの機械に興味があります。一緒に撮りましょう、綾小路先輩。」


ここでまさかの七瀬からの掩護射撃。こうなったら撮るしかないのか?


しかし、このメンツでプリクラを撮るのはリスクがある(特に天沢)


ここは……断るべきだ。この3人は危険だ。あらゆるリスクは試験前に避けねば。さぁ、断れ、俺。


天沢 七瀬「「……ダメですか??」」

綾小路「…………1回だけな。」

天沢「やったぁ~♪せんぱーい大好き~♪」

七瀬「では、早速撮りましょう。どうすればいいのでしょうか?」

椿「まずは端末翳してお金払ってから始まるよ。撮る前に音声流れるからその時ポーズ取る流れになるかな。」

七瀬「なるほど。では料金は私が…」

綾小路「いや、俺が払おう。」

七瀬「いいんですか、綾小路先輩?」

綾小路「あぁ。」

七瀬「ありがとうございます、綾小路先輩。」

二人の後輩美少女からの上目遣いに俺は屈した。

天沢のお陰で見つからずに済んだのは事実。これくらいの要求は呑むのは当たり前か……それにたかが『プリクラ』なら何も心配要らないか…。

俺は端末を取り出して七瀬たちの代わりにポイントを払った。

天沢「へぇー結構設定あるんだね~?」

七瀬「これ、目の大きさだけじゃなく、肌の色や脚の細さまで変えられるのですか?それって殆ど合成な気が…」

天沢「いや……プリクラって多分、そういうもんだよ。加工して楽しめればいいでしょ的な?」

椿「まぁ、全部お奨めモードでいいんじゃない?細かいことは私も良く知らないし。」

天沢「だよねぇ~♪じゃ、こうしてこうしてっと。」

綾小路「……」

女子によるプリクラの話しは俺にはさっぱり着いていけなかった。

実際、男が手を出していい領分じゃない気がする。特に俺みたいな冴えない男にとっては。

天沢「よーし、設定はこれでいいとして~……次は配置決めよっか。まず綾小路先輩は絶対真ん中で~♪」

綾小路「いや、俺は端っこでいいんだが…」

天沢「ダメでーす♪もう決まりましたから。私は先輩に抱きついて撮るから前でいいや。二人は?」

椿「じゃ、私は左側で。」

七瀬「では、私は必然的に右側ですね。」

天沢によって写真を撮る配置が勝手に決められた。

本当は端が良かったが……3人の美少女に囲まれ身動きが取れなくなってしまった。

天沢「準備OKかな?先輩ポーズしましょう、ポーズ!」

綾小路「いや、動けないんだが…」

天沢「ですよね~。じゃ、撮るよ~?ハイ♪」


天沢と機械音の掛け声によって撮影が始まった。天沢は俺に抱き着きながら、ピースをしていた。密着しているせいで柔らかいものが俺の胸板に伝わる。


左側の椿は無表情のピースをしている。ちゃんと写る為に若干俺に寄りかかっていた。右側に居る七瀬は緊張しているようで、無意識に俺の腕を組んでいた。そのせいで天沢以上に柔らかいものが右腕に直に伝わっている。


そのお陰で俺は撮影が終わる最後まで全く身動きが取れず、3人から伝わる体温と甘い香りに耐えながら撮った。


七瀬「……撮影は終わったようですね。この後どうすれば?」

椿「最後に撮ったプリを好きに落書き?みたいなこと出来るよ。それやったら終わり。」

天沢「はいはーい!落書きは一夏ちゃんに任せて♪」

七瀬「分かりました。では、天沢さんお願いします。」

天沢「じゃあ、ちょっと待っててくださいね~綾小路せんぱーい♪」

綾小路「……分かった。」


俺が必死に心頭滅却しながら、撮影に挑んでいたところで撮影が終わった。本当に終わって良かった……俺の精神衛生上よろしくない状況だっただけに。


後の処理は良く分からないから、天沢たちに任せよう。俺は先にプリクラ機から出る。よし……恵たちは居ないな。


まぁ、いざと言う時はこのまま走ってゲームセンターを出れば事は済むか……一番良いのは会わないことだが。とにかく、気は抜かないでおこう。


天沢「お待ちどおさま~♪プリクラ出来ましたよ~♪はい、七瀬ちゃんたちの。」

椿「ありがと、天沢ちゃん。」

七瀬「ありがとうございます、天沢さん。」

天沢「あ!それとここに端末翳せば、写真を保存出来るみたいです。ちゃんと私たちとの思い出スマホに残してくださいね?」

綾小路「……分かった。」

天沢「では、ご覧ください綾小路せんぱーい♪」

天沢はプリクラを持って機種から出てきた。俺たちにそれを配ってくれた。そして、天沢に言われた通り、端末を翳して写真を保存した。

プリクラで加工された姿は正直見たくないが……出来映えは気になる。

果たして、どんな風に俺が写ってるのだろうか?

綾小路「!」

天沢「どうですか、せんぱーい!皆、可愛くないですかぁ?」

綾小路「……そうだな。俺以外は良いと思うぞ。」

天沢「えー先輩もメッチャ可愛いですよ~♪」

椿「確かに先輩可愛いですよ。」

七瀬「こんなに印象が変わるとは……驚きました。」


プリクラの加工は色んな意味で凄かった。まるで俺が女の子になったかのような小顔になり、目も大きくて肌も白くなっていた。天沢たちは女子なだけあってプリクラが様になってる。


だが、俺の場合端的に言って気持ち悪い。こんなにも自分が気味悪いと思った事は無い。やはり、俺には合わなかったようだな……天沢たちは可愛いと言ってくれたが、男に可愛いは合ってるのだろうか?


まぁ、プリクラだしこんなものか。いい経験が出来たと思えば……ん?


綾小路「あの、天沢?この落書きは一体…」

天沢「あ、気づいちゃいました?こ・れ・は~先輩に対する愛を表現するために書いたんですよ~//////♪改めて見ると、恥ずかしいですね~……きゃー//////♪」

七瀬「あ、天沢さん!何故私たちも捲き込んでるんですか!……これは流石に私も恥ずかしいですが//////」

椿「……私も他の人に見せれないんだけど//////見せる相手居ないけど。」


俺はある一点の部分に目をやる。それは……天沢が加工した落書き。天沢に尋ねると、両手を頬に添えて恥ずかしがっていた。


そこに書いてあった落書きは……『I LOVE せんぱい❤️』と書かれてるものや、七瀬たちに向かって『せんぱいの愛人❤️』と書かれているもの、更には『綾小路せんぱいの後輩ハーレム❤️』と書かれているものがあった。


なんだこれは……これ誰かに見られたら120%終わりだろ。落書き機能を使ってこんなものを書くとは…


綾小路「……ここの部分だけ消せないのか?」

天沢「むーだでーすよぉ~♪もう加工終わってプリントされちゃってるんですから♪それに書いてること本当の事じゃないですか~//////♪」

七瀬「天沢さん。私は先輩の愛人になったつもりはないのですが?」

椿「私もとんだ風評被害なんだけど…」

天沢「いいの、いいの♪もう私たち半分愛人みたいなもんなだから♪それにこれ持ってるの私たちだけなんだし、別に大丈夫でしょ♪」

綾小路「……」


うん、全然良くない。持ってる人物がこのメンツな時点で危ない。七瀬と椿は多分、大丈夫だと思うが……天沢はヤバい。


これはもう……俺の弱味を1つ握られたようなものだ。


天沢に一杯食わされた。いや、こういう展開も考慮するべきだった。安易にプリクラを許した俺の責任か……


天沢「それより、綾小路せんぱーい!次はあっち行きませんか?向こうにあるシューティングゲーム面白そうですよ~♪」

七瀬「天沢さん、待ってください!話しはまだ…」

椿「無駄だよ、七瀬ちゃん。天沢ちゃんが真面目に話すわけないでしょ。諦めなよ。」

七瀬「……そうですね。」

椿「とりあえず、天沢ちゃんに着いていこっか。私も暇だし。」

七瀬「分かりました。では、行きましょうか。綾小路先輩も早く着いて来て下さい。」

綾小路「……あぁ。」


天沢は満面の笑みを浮かべながら、次の遊び場に向かっていった。


あの笑みの理由は……単にプリクラを撮れて満足したのか……それとも俺を脅す材料が出来たという会心の笑みか。


どっちにしても分からないが……とりあえず、自分の責任で面倒事が増えたのは間違いない。この件については一度、諦めようと考えながら七瀬たちに着いて行った。





















帰り道。

すっかり、夕日に染まった外は蒸し暑さは殆ど無かった。

この時間になると、暑さが和らぐから有り難い。

天沢「あーーー遊んだ~♪楽しかったですね~綾小路せんぱーい?」

綾小路「……そうだな。」

天沢「特にあのレースゲーム盛り上がりましたね~♪七瀬ちゃんは激弱だったけど……ぷっくく♪」

七瀬「……初めてやったんですから、仕方ないじゃないですか。」

椿「でも、逆走は無いよね。」

天沢「ないない。あはは♪」

七瀬「でも、シューティングアクションは私が上手でしたから。」

天沢「確かに。あれって才能?凄かったよね~?」


俺たちは寮へと帰路につきながら、談笑をしていた。プリクラを撮った後、俺たちはガンシューティングゲームでそれぞれ個人で勝負したり、レースゲームをして遊んだ。


レースゲームは天沢が1位を4回取って圧勝していた。一方、七瀬はレースゲームはからっきしだったがシューティングゲームは一番上手かった。


椿は特出すべきものは無かったが、遊び慣れてる感じがあった。


天沢「あ!1年の寮まで着きましたね。ここまで送ってくれるなんて先輩優しいなぁ~♪」

綾小路「……一応な。」

天沢「ありがとうございます♪あ!じゃあ、そんな先輩にご褒美あげます。特別試験のグループは私と七瀬ちゃんとゴリラ……じゃなかった宝泉くんと作りました。」

綾小路「そうか。」

天沢「あれ?あんま驚きませんね……まぁ、いいや。では、綾小路せんぱい!また今度会いましょうね♪」

綾小路「……あぁ。」

天沢「あ、それからそれから~……特別試験『頑張り』ましょうね?」

七瀬「今日はありがとうございました、綾小路先輩。楽しかったです。特別試験『頑張って』下さいね?」

椿「飴の箱ありがとうございました。『また』会えたらいいですね。」

綾小路「またな。」


1年の寮まで着いた天沢たちはそれぞれ独特な言い回しをして別れを告げてきた。俺はそれに引っ掛りつつも軽く別れを告げた。


今日遊んだ中で、特に怪しい動きは無かった(プリクラは除く)何かあるとすれば……やはり特別試験でだろう。


この3人は特に注意しておこう。誰が『ホワイトルーム生』でもおかしくはない。警戒しておかないとな。プリクラの件は……天沢と今度話し合いの場を設けるとしよう。


俺はそう考えて天沢たちに背を向けて自分の寮へと向かった。



















天沢「……(はぁ~……今日は最高だったな~♪デートは出来なかったけど、先輩からぬいぐるみプレゼントして貰っちゃったし~♪それにそれに先輩と記念に良い思い出も出来たし~//////♪次はどうやって遊ぼうかな~?あはは♪)

七瀬「……(今日の綾小路先輩を見る限り、ついていく事を断られる可能性は低そうですね……後は無人島試験で綾小路先輩にどう近付くか考えておかないといけませんね。)」

椿「……(綾小路先輩。飴の箱は本当に嬉しかったですが……特別試験となると別です。覚悟しておいてください。)」


この時、俺は天沢たちが秘めている胸の内を知る由も無かった。


後日、天沢たちと『デート』した件についてはしっかりと恵たちに弁明した。


しかし、納得は全くして貰えず新たな遊ぶ約束を取りつけられたのは言うまでもなかった。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧