知恵の実について
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第二章
「読んだけれど」
「違ったんだ」
「イタリア語のものもよく読むとね」
そうすればというのだ。
「当時の林檎とはね」
「違うんだ」
「古代よ」
アダムとイブが楽園を追放されたのはというのだ。
「そうだったわね」
「遥か昔だね」
「その時の林檎は何だったかしら」
古代のそれはというのだ。
「一体」
「クラブアップルのことかな」
同僚はすぐに答えた。
「それは」
「ええ、そちらよね」
「そうだね」
「クラブアップルは今私達が食べている林檎の原種だけれど」
ミレッラはこのことも話した。
「けれどね」
「実は小さくてね」
「すっぱいわね」
「食べるにはね」
どうにもというのだった、同僚にしても。
「向かないよ」
「それを品種改良していってよ」
「今僕達が食べている林檎があるね」
「そうね」
「うん、そうだね」
「そうよ、随分甘く香りもいいと書いてあるけれど」
失楽園の中ではというのだ。
「クラブアップルはね」
「とてもそんなのじゃないね」
「ええ、だからね」
「あの知恵の実はだね」
「林檎ではないのではないかしら」
「そうなんだ」
「アダムとイブが身体を覆ったのはイチジクの葉だったわね」
ミレッラはこのことも指摘した。
「そうだったわね」
「うん、そうだね」
「普通林檎を食べたら」
その実をというのだ。
「その木の葉を使ってね」
「身体を覆う」
「最も身近にあるから」
食べたその時にというのだ。
「身体を覆うに向き不向きがあるにしても」
「そうなるね」
「けれどね」
それがというのだ。
「イチジクだったわね」
「大事な部分を隠していたのは」
「林檎の木の葉を身体に纏うのではなく」
「イチジクだった」
「そのこともね」
例え林檎の木の葉が身体を覆うのに不向きでもというのだ。
「おかしいわね」
「そうだね」
同僚もそれはと頷いた。
「言われていみれば」
「果たして知恵の実は本当に林檎だったのか」
「考えてみる必要がある」
「植物学からもで」
そしてというのだ。
「聖書、神学からもね」
「検証する必要があるんだね」
「そう考えているのよ」
「成程ね、面白いことだよ」
同僚もそれはと頷いて応えた。
「まさに学問だよ」
「そう言ってくれるのね」
「既存の常識と思われていることでも」
それでもというのだ。
「それが正しいのかどうかを考えて」
「検証することもっていうのね」
「学問だね」
「ええ、常識は永遠であるとは限らないわ」
ミレッラもそれはと答えた。
「本当にね」
「そうだね」
「重いければ重いだけ落ちる速さは速い」
アリストテレスがかつて唱えた説である。
「それはガリレイに否定されたわ」
「実は違っていたね」
「どんな重さのものであっても」
「落ちる速さは同じだね」
「ええ、そうよ」
こう同僚に答えた。
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