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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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西ゼムリア通商会議~ミルディーヌ公女の婚約と思惑~

~エルベ離宮・待機室・紅き翼側~



「………………」

「えええええええええっ!?リ、リィンとミュゼが婚約!?」

「グランセル城で初めて出会った時からリィンと婚約する事も目的としていることを自ら語っていたが、まさか本当に婚約を結ぶとは……」

「フフ、エリゼ君達公認とはいえ、”そっち方面”に関しては”超”がつく程の鈍感であるあのリィン君を攻略するとは、さすがはミュゼ君だね。」

「というかよくリィンに婚約を認めさせたよね?リィンの性格を考えたら、”政略結婚”なんて受け入れられないと思うのに。」

「ハッ、あの女郎蜘蛛の事だから、大方シュバルツァーの寝込みを襲って”既成事実”を作ってそれを理由にシュバルツァーも認めざるを得なかったんじゃねぇのか?」

ミルディーヌ公女の驚愕の宣言にアリサが驚きのあまり口をパクパクしている中エリオットは信じられない表情で声を上げ、ラウラは驚きの表情で呟き、アンゼリカは苦笑し、フィーは不思議そうな表情で呟き、アッシュはジト目である推測をし、アッシュの推測を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「き、”既成事実”って……彼女は大貴族の令嬢なんだから、幾らなんでもそんなふしだらな事はしないと思うんだが……」

「え~?みんなの話だと”皇族”のアルフィン皇女が自分からリィンに迫ってそのまま抱かれたらしいから、その可能性もありえるんじゃないかな~。」

「ミ、ミリアムちゃん!」

「そもそも寝込みを襲う以前に完全に隠形に徹したわたくしを察知できる程気配察知能力に長けてるリィン様でしたら、就寝中に何者かが近づけばすぐに気づいて起きると思いますし、何よりもリィン様の魔力と一体化しているベルフェゴール様達も気づいてリィン様を起こすと思いますが……」

アッシュの推測を聞いて表情を引き攣らせた後答えたマキアスの意見に対してミリアムはからかいの表情で答え、ミリアムの言葉を聞いたエマは顔を赤らめて声を上げ、シャロンは困った表情で指摘した。

「ベルフェゴールは状況を面白がって黙って見ているかもしれないが、他のメンツに関しては間違いなくリィンを起こすだろうな。」

「そうね……――――――そういう訳だから、そろそろ姿を現してアタシ達にも事情を説明してくれないかしら?」

ユーシスの推測に同意したセリーヌが周囲を見回して問いかけたその時

「あら、使い魔如きがよく私の気配を察知する事ができたわね。」

「アンタの場合”前科”があるから、気配を察知できなくても”こういった類の話題”に関しては隠れてあたし達の様子を伺っているという推測は簡単にできるわよ。――――――それで?さっきのミルディーヌ公女のリィンと婚約したという発言……一体どういう事よ?」

何とベルフェゴールが転位魔術でその場で現れ、ベルフェゴールの疑問に呆れた表情で答えたサラは真剣な表情でベルフェゴールに訊ねた。



「どういう事も何も、言葉通りご主人様はミュゼの気持ちも受け入れて婚約を結んだだけよ?」

「!!」

「という事はリィンはミュゼとは”政略結婚”するつもりなのか……?」

ベルフェゴールの答えを聞いたアリサは目を見開き、ガイウスは戸惑いの表情で訊ねた。

「ま、結果的にはそうなるでしょうけど、ミュゼもそうだけど、ご主人様が婚約した最大の理由はエリゼ達同様恋愛的な意味よ?」

「ええっ!?エ、”エリゼちゃん達と同じ恋愛的な意味”って事はミュゼちゃんもそうだけど、リィン君もお互いに惹かれ合って婚約したって事なの!?」

ベルフェゴールの答えを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中アネラスは驚きの表情で訊ねた。

「当り前じゃない。うふふ、ご主人様から婚約を申し込まれた時のミュゼの取り乱した様子は見物(みもの)だったわよ~♪」

「ハアッ!?」

「え、えとえと……という事はミュゼちゃんは”リィンさんから婚約を申し込まれたんですか”……!?」

からかいの表情で答えたベルフェゴールの答えに再びその場にいる全員が血相を変えている中アガットは困惑の表情で声を上げ、ティータは興味ありげな表情で訊ねた。

「ええ。あ、ちなみにご主人様がミュゼに婚約を申し込んだ同じ日にルシエルがご主人様に自分と”守護天使契約”を結んで欲しいという申し出をして、ご主人様はその申し出を受け入れて”契約”を交わしてご主人様の”守護天使”の一人になったからルシエルもミュゼと共に正式にご主人様のハーレムメンバーになったわよ♪それとご主人様のハーレムメンバーって訳じゃないけど、ルシエルの配下の天使達もそうだけど、ベアトリースの配下の魔族達も全員正式にご主人様の”配下”としてご主人様に仕える事になったそうよ。」

「ル、ルシエルさんまで………」

「しかもルシエルの配下の天使達やベアトリースの配下の魔族達まで正式にリィンの”配下”になるとは……」

「完全にセシリア将軍の予想通りの展開になっているよね……」

「どうせ”契約方法”は”性魔術”なんだろうな、あの草食動物の皮を被った超肉食動物のシスコンリア充剣士がっ!!」

「フフ、さすがリィン様ですわね。――――――という訳で次々と突如現れた”新顔”の方々に許してしまった”遅れ”を取り戻す為にも、いっそこの会議の最中にリィン様を呼び出して”既成事実”を作られたらどうでしょうか、お嬢様♪ベルフェゴール様でしたらリィン様を呼び出す事もそうですが、お嬢様がリィン様との”既成事実”を作る協力もして下さると思いますわよ♪」

「うふふ、わかっているじゃない♪」

「みんなの前でとんでもない提案をするんじゃないわよ、シャロン!!」

ルシエルもリィンと契約した話を知ったその場にいる全員が冷や汗をかいている中トワは表情を引き攣らせ、ラウラは真剣な表情で呟き、エリオットは複雑そうな表情で呟き、クロウは悔しそうな表情で声を上げ、シャロンは苦笑した後からかいの表情でアリサにある提案をし、シャロンの提案を聞いたベルフェゴールはからかいの表情を浮かべ、シャロンの提案にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは顔を真っ赤にして声を上げて反論した。

「やれやれ……話には聞いていたが、あのエステルとも並ぶ程の”人たらし”な人物だな、灰色の騎士は。」

「契約している異種族の数を考えたら完全にエステルを上回っているから、下手したらエステル以上かもしれないわね……」

「しかも彼の場合エステルさんと違って異性ばかりを惹きつけていますから、性質が悪いですね……」

一方ジンとシェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、エレインは呆れた表情で呟いた。



「そんなことよりもその女ならあの公女がメンフィルの駐留軍付きの大使館が自分の本拠地であるオルディスに設立されることにすらも反論しない思惑も知っているんじゃないの?」

「へ……それってどういう事ですか?」

「言われてみれば、幾らメンフィルとの関係回復を重視しているとはいえ、ラマール地方の公都にしてカイエン公爵家の本拠地であるオルディスに他国の駐留軍付きで大使館が設立されることはミュゼにとっても様々な問題が発生する事が考えられるな……」

「ああ……特に戦後ミルディーヌ公女とカイエン公爵家の継承権争いをすると思われるバラッド侯やナーシェン卿がその件を理由にミルディーヌ公女をカイエン公爵家当主の座から引き下ろそうとする事は目に見えているな……」

呆れた表情で呟いたサラの指摘を聞いたマキアスが不思議そうな表情を浮かべている中、事情を察したラウラとユーシスはそれぞれ真剣な表情で考え込み

「た、確かにリィンさんの霊力(マナ)と一体化している事でこの会議の前に行われたと思われる連合と新生軍の打ち合わせの内容もそうですが、その時にオルディスに駐留軍付きでメンフィル帝国の大使館が設立されることを知ったにも関わらず何の反論もせずに受け入れたミュゼさんの思惑もベルフェゴールさんなら知っていそうですね……」

「問題はその痴女が口を割るかどうかだろ。」

「ん。それにリィンもそうだけど、ミュゼにも口止めされているかもしれないよね。」

一方サラの言葉にエマは納得した後不安そうな表情でベルフェゴールを見つめ、アッシュとフィーはジト目でベルフェゴールを睨んだ。



「別にそのくらいなら教えてあげてもいいわよ。」

「ふえ?い、いいんですか?」

「こっちにとってはありがたいけど……一体何が狙いなのかしら?」

しかしベルフェゴールが口にした意外な答えにティータは目を丸くし、シェラザードは警戒の表情でベルフェゴールに訊ねた。

「別に狙いなんてないわよ。――――――そもそもミュゼの方から貴女達に教えるように頼まれているもの。」

「ええっ!?ミュ、ミュゼが私達に!?一体どうして……」

ベルフェゴールの答えに驚いたアリサは新たな疑問を訊ねた。

「さあ?そこまでは教えてくれなかったけど、私の予想だとミュゼ自身の思惑を知った貴女達が今会議に参加しているエレボニアのミュゼ以外の面子に教える事で、自分は何も企んでいない事を知ってもらう為じゃないかしら?」

「……ベルフェゴールさんの予想も気にはなりますけど、とりあえずミュゼちゃんの思惑について教えて下さい。」

肩をすくめて答えたベルフェゴールの話を聞いたトワは真剣な表情でベルフェゴールに話の続きを促した。



「ミュゼの思惑は3つあってね。一つはメンフィルの大使館がオルディスにある事で、メンフィルに関する情報収集やエレボニアの皇家や政府の関係者もそうだけど、他のエレボニアの貴族達がメンフィルに何らかの交渉をする際の仲介人か代理人としてのエレボニアにとっての重要な役割をミュゼに任されることになる――――――つまり、様々な面でミュゼにとってのメリットがあるからだそうよ。」

「確かに戦後のメンフィルとエレボニアの関係を考えると、敗戦国であるエレボニアにとって国家間の関係で言えば上になるメンフィルとの交渉は非常に重要なものになるだろうから、当然交渉の際の仲介や代理を任されることになるカイエン公爵家はエレボニアにとって非常に重要な立場になるだろうな。」

「それに自身の本拠地であるオルディスにメンフィルの大使館が存在している事で、エレボニアの中でメンフィルに関する情報を逸早く手にできるでしょうから皇家や政府、そしてエレボニアの貴族達に対して優位に立てますね………」

ベルフェゴールの話を聞いたジンとエレインはそれぞれ真剣な表情で推測し

「うふふ、それもあるけど万が一エレボニアでのミュゼの立場が追い詰められる程不味くなった場合、エレボニアが簡単に手出しできない大使館にすぐに逃げ込めるからよ♪」

「大使館にエレボニアは簡単に手出しできないとはどういう事だろうか?」

「大使館はその大使館を設立した国の施設――――――つまり、”他国領”に分類される事で”治外法権”になるから、大使館側から許可が出ないと軍や憲兵もそうだけど、貴族や皇族も踏み込む事はできないんだ。」

「もし許可も無く大使館に踏み込んだりしたら当然”外交問題”になるから、例えばエレボニアの領土内で犯罪を犯した外国人が自分の祖国の大使館に逃げ込んだりしたら、事情の説明もそうだけど引き渡しの交渉とかもする必要があるんだよ~。」

ベルフェゴールの話を聞いて新たな疑問を抱いたガイウスの疑問にトワとミリアムが答え

「なるほどね……エレボニアがあの公女を拘束しようと考えた時に公女が大使館――――――ましてやエレボニアを敗戦させたメンフィルの大使館に逃げ込む事ができれば、公女を拘束するのはほぼ不可能になるでしょうし、何よりもメンフィルは”転位”の技術に長けているから大使館からそのまま他国へと逃亡する事も容易でしょうね。」

「ミュゼ君の事だから、メンフィルからの覚えがいい自身の存在はアルノール皇家や政府にとって重要であると同時に頭が上がらない――――――つまり、”目障りな存在”になると推測しているだろうから、”非常時の手段”を増やしておきたい彼女にとってメンフィルの大使館がオルディスに建てられる事は”絶好の避難場所”を得られるようなものなんだろうね。」

「チッ、ちゃっかり絶好の逃げ場も確保するとか、あの女らしいぜ。」

トワとミリアムの話を聞いたセリーヌは呆れた表情で、アンゼリカは疲れた表情で呟き、アッシュは舌打ちをして忌々し気な表情を浮かべて端末に映るミルディーヌ公女を睨んだ。



「二つ目は”有事の際の災害派遣”もしてもらえるからそうよ。」

「”有事の際の災害派遣”だと?」

「その”災害派遣する人達”ってエレボニアに設立予定のメンフィル大使館に駐留する駐留軍の事だよね?そもそもミュゼちゃん――――――カイエン公爵家にはラマール領邦軍の指揮権があるのに、何でメンフィル軍による災害派遣を頼ろうとしているんでしょうね?」

ベルフェゴールの話を聞いて新たな疑問を抱いたアガットは眉を顰め、アネラスは戸惑いの表情で疑問を口にした。

「ミュゼの話だとメンフィル軍に所属している飛竜や天馬(ペガサス)と言った”飛行騎獣”を駆る騎士達による災害派遣があれば、今まで助けられなかった、もしくは助けるのが難しい状況に陥った人達を助ける事ができるからとの事よ。」

「……考えたわね。確かに小回りができる上ヘリや飛行艇と比べると圧倒的に小柄な”飛行騎士”ならヘリや飛行艇は着陸できない場所も着陸できる上ヘリや飛行艇では救助が厳しい、もしくは不可能な状況での救助も可能になるわ。」

「言われてみればそうね……例えば火事になって出入口が瓦礫や炎等で封鎖されて早急な救助が厳しい状況の建物に残された人達を救助する為に、飛行騎士だったらヘリや飛行艇では不可能だった空からの直接建物内への突入・救助も可能になるでしょうね。」

「それに飛行騎士ならある程度の高度を保つ必要があるヘリや飛行艇と違って低空飛行もできるだろうから、低空飛行する事で水難事故等で船から海や湖に投げ出された救助対象を見つけやすくなるな。」

ベルフェゴールの説明を聞いたシェラザードとエレイン、ジンはそれぞれ真剣な表情で推測し

「というかそれ以前に何らかの事故が起こった際に大使館に駐留しているメンフィル軍が”他国”の為に”災害派遣”なんてしてくれるの?それも戦争相手だった国の為に。」

「その辺に関してはあの公女の事だから、既に”災害派遣”が要請があればすぐに応じてもらえるような交渉をしているのでしょうね。」

「勿論それもあるでしょうけど、そもそもメンフィル側としても大使館に駐留する軍を”災害派遣”する事はメンフィルにとっても”メリット”が発生するからというのもあると思います。」

「”災害派遣がメンフィルにとってもメリットが発生する”……それはどういう事だろうか?」

ジト目のフィーの疑問にサラが疲れた表情で答え、真剣な表情で推測したトワの推測が気になったガイウスは不思議そうな表情で訊ねた。



「”大戦”の時にも戦後のエレボニアをメンフィルが保護する理由の一つとして、今回の戦争によって各国が抱いているであろうメンフィルに対する不信感のある程度の緩和もある事をセシリア将軍は肯定したよね?大使館に駐留するメンフィル軍を”有事の際の災害派遣”する理由もその件に関係していると思うよ。」

「あ……ッ!」

「確かに命の危機に陥ったエレボニアの民達をメンフィル軍の関係者が救助するような事があれば、各国もそうだけど、何よりもエレボニアのメンフィルに対する不信感を和らがせる事はほぼ確実になるだろうね。」

「しかも”有事の際の災害派遣”という約束があれば、エレボニアの政府や皇家もそうだが、何よりも国民達がエレボニアがメンフィル帝国の大使館に駐留するメンフィル軍の軍事費の半分を負担する事に対する不満や反感をある程度抑えられるだろうな。」

トワの指摘を聞いてすぐに事情を察しがエリオットは声を上げ、アンゼリカとユーシスは真剣な表情で推測した。

「そしてこれが最後の理由にしてミュゼにとっての本当の目的だと思うけど……ミュゼの故郷にメンフィルの大使館や軍が存在する事で、メンフィルがメンフィルの”本国”――――――つまり、ディル=リフィーナからの商人の誘致をしてくれるからよ。」

「ふえ?オルディスに在留しているメンフィル帝国の大使館や駐留軍の人達の生活向上の為に何でメンフィル帝国がメンフィル帝国の本国――――――異世界から商人を誘致をしてくれるんですか?」

「”大使館”は他国の領土に建てられるから、その大使館の関係者が他国でも祖国で行っていた習慣等を可能にする為に祖国の商人達を大使館の近郊で取引をしてくれるように誘致するのだと思うわ。」

ベルフェゴールの話を聞いて新たな疑問を抱いたティータの疑問にエレインが答えた。

「”オルディスにメンフィルの大使館や軍が存在する事でメンフィルがメンフィルの”本国”――――――異世界からの商人の誘致をしてくれる”………――――――!も、もしかしてオルディスに駐留軍付きのメンフィル帝国の大使館が建てられる事を何の反論もせず受け入れるつもりでいるミュゼにとっての”本当の目的”って……!」

「オルディスに在留しているメンフィルの大使館や駐留軍の関係者達の生活向上の為に異世界から商人を誘致する事で、オルディス――――――カイエン公爵家の外貨を得る手段を増やす事もそうですが、オルディスに”異世界の商品が集まる”という新たな魅力を付加させることでオルディスの経済を著しく発展させる事を考えていらっしゃっているのでしょうね。」

一方察しがついたアリサは血相を変え、シャロンは静かな表情で推測した。

「ほ、本当に彼女はそこまで考えてオルディスに駐留軍付きのメンフィル大使館が建てられる事を受け入れたのか……!?」

「四大名門の令嬢である彼女なら私やユーシス君のように幼い頃から”帝王学”は叩き込まれているだろうし、何よりも彼女の”異能じみた能力”も考えると間違いなく”駐留軍付きのメンフィル帝国の大使館がオルディスに建てられればオルディスがいずれそうなる盤面も見えていたんだろうね。”」

「ミュゼさんの”異能じみた能力”――――――まさに実際の未来を予測できる”盤面を見る能力”ですね……」

「なるほどね~。しかも”沿海州の盟主”の異名で呼ばれる程の大陸でも最大規模の港を有するオルディスなら、相乗効果でオルディスの経済を更に発展させられるだろうね~。」

「……多分だけど、ミュゼちゃんは最終的にオルディスを”沿海州の盟主”とエレボニア……ううん、大陸最大規模の”異世界商業都市”の二枚看板に発展させることを考えているかもしれないね……」

二人の推測を聞いて信じられない表情で声を上げたマキアスの疑問にアンゼリカが真剣な表情で答え、エマは複雑そうな表情で呟き、ミリアムとトワはそれぞれ真剣な表情で推測した。



「まさか駐留軍付きの大使館がカイエン公爵家の本拠地であるオルディスに設立されるという普通に考えれば戦後ミュゼの立場――――――カイエン公爵家当主を狙うバラッド侯やナーシェン卿にとってはミュゼを追い落とす絶好の理由となる件を逆手にとる事でオルディスを著しく発展させる方法を考えているとは……」

「ホント、前カイエン公とは比べ物にならない狡猾な公女ね……」

「最初の理由はともかく残り二つの理由は国民達の政府や皇家の信頼回復もそうだが、エレボニアという国全体の経済回復・発展の為にも例え駐留軍付きというリスクを背負ってでもメンフィル帝国の大使館は帝都(ヘイムダル)に設立すべきという事もミルディーヌ公女なら理解しているのに、オルディス――――――カイエン公爵家に力をつけさせる事を優先するとは、ミルディーヌ公女にはアルノール皇家に対する忠誠心は存在しないのか……!?」

ラウラは真剣な表情で端末に映るミルディーヌ公女を見つめ、セリーヌは疲れた表情で呟き、ユーシスは怒りの表情で端末に映るミルディーヌ公女を睨んだ。

「別にそこは怒る事じゃないでしょ。メンフィルの大使館がオルディスに設立される事で後にオルディスに様々な利益をもたらす事がわかっていたミュゼは”オルディスの領主として当然の判断”をしただけだし、エレボニアの皇家に対する忠誠心もちゃんとあるじゃない。現にあの娘が連合の上層部に意見した事で今回の戦争による敗北で立場が危うくなるエレボニアの皇家の面々は今後も引き続きエレボニアの皇家として存続できるじゃない。その気になればミュゼが今のエレボニアの皇家を排除して、ミュゼ自身がエレボニアの”皇”にもなれたのに、あの娘は”現エレボニア皇家に仕える大貴族”以上の立場を求めていない事は今までのあの娘の行動や言動でわかるでしょう?」

「……………………」

「それは………」

「さっきから気になっていたけどアンタ、何でそんなに政治に関する事に詳しいのよ?」

ベルフェゴールの指摘に反論できないユーシスは複雑そうな表情で黙り込み、ラウラが答えを濁している中サラは困惑の表情でベルフェゴールに指摘した。

「あら、私が”魔神”――――――”不老不死でスタイルも完璧の美女”である事を忘れたの?こう見えても私は貴女達より”ちょっとだけ年上”だから、過去にご主人様程じゃないけど私が個人的に気に入ってしばらく傍にいてあげた男達もいて、その中には”権力者”もいたからね。その権力者の男の”愛人”である事で面倒な事に巻き込まれない、もしくはすぐに対処する為にも一時期は”そっち方面”も勉強したわよ~♪」

「わ、私達より”ちょっと年上”って……」

「どう考えても”ちょっと年上”どころか、”滅茶苦茶年上”だよね。」

「つーか自分で”不老不死でスタイルも完璧の美女”って言うとか、どれだけ自信過剰な痴女なんだよ。」

「それよりも”勉強した”って、アンタ、本当に”怠惰”を司る”魔王”なの?勉強――――――”努力”は”怠惰とは正反対になる行為”じゃない……」

ウインクをして答えたベルフェゴールの答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサとフィー、アッシュとセリーヌはそれぞれジト目でベルフェゴールを見つめて指摘した。



少し前―――――



ベルフェゴールがアリサ達の前に現れる少し前、ミルディーヌ公女の婚約宣言に一部のVIP達は様々な反応をしていた。



~紋章の間~



「”アルスター襲撃”の翌日に連合の使者の方達と共に私達を訊ねた時にもシュバルツァー将軍と婚約を結ぶ事を目標にしているような事を口にされていましたが……」

「ま、まさか本当にシュバルツァー将軍と婚約なさるなんて……」

「フフッ、あの時の私の宣言が”冗談ではなく本気である事”を理解して頂き何よりですわ。」

「あの……話が若干逸れて申し訳ないのですが、シュバルツァー将軍の婚約者の件で気になったのですが、彼は一体何人の女性と婚約なさっているのでしょうか……?今までの話だけでもシュバルツァー将軍は”ミルディーヌ公女殿下も含めて既に4人もの女性と婚約している”という事になっていますが……」

「それに確かシュバルツァー将軍はヴァイスハイト陛下のご息女――――――メサイア皇女殿下とも婚約しているはずですが……」

アリシア女王は驚きの表情で、クローディア王太女は信じられない表情でそれぞれ呟き、アリシア女王とクローディア王太女の反応を見たミルディーヌ公女は微笑み、ルーシー秘書官は戸惑いの表情である疑問を口にし、アルバート大公は困惑の表情でヴァイスに視線を向けた。

「リィンの現在の婚約者の数か……恐らく”協力契約”している異種族達とも婚姻を交わすだろうから……ミルディーヌ公女も数に入れて今で何人になる?」

「リィンが”協力契約”している異種族はセレーネ嬢やメサイア皇女殿下も含めると現在で9人で、婚約関係の人間の女性はミルディーヌ公女やアルフィン皇女を含めれば4人になりますから現在で13人になりますね。――――――最も、私が存じているだけでも自らの意志でリィンとの婚姻を望んでいる、もしくはリィンに好意を抱いていると思われる女性が他にも3,4人……いえ、4,5人いる上、リィンの性格を考えれば今後も更に増える可能性は十分に考えられるかと。」

レミフェリア側の質問に対してふと天井を見上げて考え込んだシルヴァン皇帝はセシリアに訊ね、訊ねられたセシリアはアリサ、シャロン、ステラ、アルティナ、シズナを思い浮かべた後苦笑しながら答えた。

「こ、婚約者が13人!?しかもそこに更に4,5人――――――いえ、それ以上増える可能性も十分に考えられる……!?」

「ほう。今後も増える見込みが判明している女性達も含めると既に俺の現在の妃の数を上回っているじゃないか。さすが俺が見込んだ男だ、はっはっはっ。」

「フフ、リィン君の事ですからヴァイスさんのように婚約どころか”結婚してからも増える”かもしれないわね♪」

セシリアの答えを聞いたメンフィルとクロスベル以外のVIP達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ルーシー秘書官は信じられない表情で声を上げ、ヴァイスは感心した後呑気に笑い、ルイーネは苦笑していた。

(こ、婚約者が13人~~~~~!?)

(し、しかも更に増える見込みがあるって……リィンさんって、パパ以上に罪作りな男性だよね……)

(いや、そこで何で僕が出てくるのさ。この場合の比較対象はセリカさんやヴァイスさん、後はウィルさんやリウイ陛下、ロイドだよ……)

(まさに”英雄色を好む”という諺を体現していますわね、シュバルツァーは。)

一方話を聞いていたエステルは信じられない表情を浮かべ、ミントは表情を引き攣らせた後苦笑し、ミントの感想にヨシュアは疲れた表情で反論し、フェミリンスは呆れた表情で呟いた。



「話を戻すが……リィンとミルディーヌ公女の婚約によって、エレボニアの領地で我が国の大使館が設立されるオルディスは”元戦争相手の国であるエレボニアに所属している領土でありながらリィンの身内が納めている領土でもある事”で、大使館の関係者達の安全度はメンフィルと同盟関係を結んでいるリベールやクロスベルと並ぶ程跳ね上がる事は理解できるだろう?」

「……それは………」

「お言葉ではありますが、その理論からすれば帝都(ヘイムダル)も同じではないのでしょうか?今までの話からするとシュバルツァー将軍はアルノール皇家の一員であるアルフィン皇女殿下も娶るようですし……」

シルヴァン皇帝の問いかけに反論できないオリヴァルト皇子が複雑そうな表情で答えを濁している中、アルバート大公がシルヴァン皇帝に指摘した。

「フッ、アルバート大公はアルフィン皇女が受けた”処罰内容”をもう忘れたのか?アルフィン皇女の処罰内容はリィン専属の使用人兼娼婦を務める事もそうだが、”アルフィン皇女の身分剥奪並びにエレボニアからの追放”もある。よってアルフィン皇女は既にアルノール皇家から”廃嫡”されているのだから、”今のアルフィン皇女――――――いや、アルフィン卿はアルノール皇家の一員ではない”だろうが。」

「………………」

「……ッ!」

「……くっ………」

(先輩……)

アルバート大公の指摘に対して嘲笑した後答えたシルヴァン皇帝の説明にセドリックは辛そうな表情で黙り込み、今のアルフィンがアルノール皇家の一員でないのはメンフィルが原因である事を指摘したかったが指摘をすればすぐにレミフェリアに”既に終わった話”であるアルフィンの処罰の件について反論する資格がない事の指摘――――――”アルフィン皇女の処罰についての指摘に対して反論された時の二の舞”になる事やそれを理由に賠償内容の話し合いの場でのレミフェリアの立場が悪くなる事も察していたルーシー秘書官は身体を震わせて悔しそうな表情でシルヴァン皇帝を睨みながら唇を噛み締めて黙り込み、アルバート大公は無念そうな様子で唸り声を上げ、ルーシー秘書官の様子に気づいたクローディア王太女は心配そうな表情でルーシー秘書官を見つめた。



「陛下、駐留軍による”災害派遣”の件についてはお伝えした方がよいのでは?仮にもエレボニアがエレボニアの領土に駐留する我が軍の軍事費の半分を負担する事になるのですから、そのくらいの説明はすべきかと思いますが。」

「ああ……そういえばその件はまだ話していなかったな。」

「え………さ、”災害派遣”ですか?」

「”駐留軍による災害派遣”………まさか、オルディスに駐留するメンフィル帝国軍はエレボニア帝国に地震や火事等何らかの”災害”が起こった際にエレボニアの国民達の人命救助の為に駐留軍を派遣するおつもりなのでしょうか?」

セシリアとシルヴァン皇帝の会話が気になったクローディア王太女は呆けた声を出した後戸惑いの表情を浮かべ、二人の会話から既に事情を察したアリシア女王は驚きの表情でシルヴァン皇帝達に訊ねた。

「そうだ。半分とはいえ他国の駐留軍の軍事費をエレボニアが負担するのだから、その件でメンフィルに対して反感や不満を抱くエレボニア人達の不満もある程度抑えられると意見が出た為、その意見を採用する事にした。」

「メンフィル帝国軍の”災害派遣”と仰いますが、もしエレボニアに何らかの災害が起こった際に具体的にはどのような”災害派遣”を行われるのでしょうか?」

アリシア女王の問いかけに答えたシルヴァン皇帝の話を聞いて新たな疑問を抱いたアルバート大公は質問をした。

「我が軍に所属する騎士の中には天馬(ペガサス)等と言った馬の代わりに飛行可能な”騎獣”を駆り、”地上を駆けるのではなく空を駆ける騎士”――――――”飛行騎士”と呼ばれる存在がいる。飛行騎士はまさに言葉通り空を縦横無尽に飛行できる上飛行艇やヘリと比べれば圧倒的に小柄な飛行騎士ならば飛行艇やヘリでは着陸不可能な場所にも着陸できる上、救助対象者に直接近づいて救助する、火災が起きた建物内に取り残された救助者がいる場所に直接突入しての救助等と言ったヘリや飛行艇では救助が不可能、もしくは厳しい状況での救助も容易になる。」

「また我が軍には飛行騎士の他にもファーミシルス大将軍閣下のようなその種族の身体的特徴の一つとして背中に翼がある事で自力での飛行が可能な異種族の兵――――――”飛行歩兵”と呼ばれる存在も所属しており、彼らにも飛行騎士達のように飛行専用の救助も訓練の一環として行っていますわ。」

「何と……メンフィル軍にはそのような存在がいるのですか……」

「その割には既に大使館が存在しているロレント――――――リベールではそのような話は聞いた事がありませんが……」

シルヴァン皇帝とセシリアの説明を聞いたアルバート大公は驚き、ルーシー秘書官はアリシア女王とクローディア王太女を気にしながら疑問を口にした。



「ロレントの場合は幸いにも”災害”の類が今まで起こらなかったというのもあるが、そもそもロレントに存在する高層の建造物が非常に限られている為、例え”災害”が起こったとしても飛行騎士達による人命救助はほとんど必要ないからだ。」

「……そうですね。シルヴァン陛下の仰る通り、ロレント地方は農産物の主要産地である事から高層の建造物と言えば時計塔くらいしかありませんし、そもそもリベールの各都市もグランセル城とZCF(ツァイス中央工房)、後は郊外にある”四輪の塔”を除けば高層の建造物はありませんから、例え”災害”による人命救助が必要としている状況であってもわざわざリベールにとって他国の軍であるメンフィル帝国軍の力を借りる程の事態に陥る事は滅多にありませんね。」

シルヴァン皇帝に同意したアリシア女王は静かな表情で答えた。

「そ、そういう事でしたらエレボニアの中央に位置する帝都(ヘイムダル)に大使館を設立して頂いた方が、”有事”の際災害派遣して頂く駐留軍の各地方への移動時間はほぼ同等になる為、効率もいいと思われるのですが……」

「先程も言ったようにエレボニアでの我が国の大使館を設立する場所の基準は”エレボニアの方針がメンフィルとの敵対に変わった場合に備えて我が国、もしくは我が国と同盟関係の国の領土と隣接している事、そして大使館が設立される領土を納める領主への信頼度だ。”そのどちらにも当てはまらない帝都(ヘイムダル)に大使館を設立するつもりは毛頭ないし、そもそも”災害派遣”の件にしても万が一”災害”が起こった際に他国――――――それも戦争相手だった我が国の駐留軍の協力を最初から当てにする考えはどうかと思うが。」

「……………………」

シルヴァン皇帝に意見をしたレーグニッツ知事だったがシルヴァン皇帝の反論を聞くと辛そうな表情で黙り込んだ。

「……第10条の疑問についても理解しました。次は第2条の疑問――――――”領土割譲が戦争勃発前に貴国がエレボニアに要求した賠償の時よりも緩和されている事”について伺いたいのですが。」

そして重苦しくなった空気を変えるためにアリシア女王はシルヴァン皇帝に新たな質問をした――――――



 
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