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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§41 超神話黙示録

 
前書き
あけましておめでとうございます。
センター試験ですねぇ。受験生の皆さん頑張ってください、って流石に今の時期見てないか(苦笑
周囲に受験生がいらっしゃる方は一層の応援を受験生の皆さんにお願いします、とあたしゃあ何様だ(苦笑

……結構浪人するとノイローゼになったりするんですよ(遠い目

そんなこんなで以前投稿した話の修正が終わっていないのですがご勘弁を(滝汗






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「さて。どーすっかねぇ」

 キョロキョロと周りを見渡して呟く。黎斗と教主が戦う前から散々な惨状だったとはいえ、これを放置は忍びない。

「黎斗様、数々のご無礼をお許し下さい」

「んえ?」

 背後を見れば、平伏する馨と甘粕の姿。はて、何かやっただろうか?

「お二人ともどうしたんですか……?」

 考える。二人の黎斗への対応が上位者へ対する者に様変わりした原因を。ついさっきまではいつもと変わらなかったはずなのに。

「師父をも下すその技巧、不肖この陸鷹化感服致しました。ご無礼をお許し下さい」

 震える少年に至っては、こちらが罪悪感を覚えるほどだ。傍目にわかるほど怯える彼の額には大粒の汗が大量に浮かぶ。

「……あ、あのー? もしもしー?」

 この状況は一体何だ。周りの対応が激変した元凶に心当たりが無い。羅濠教主との戦いの前後で何も変なことはしていないはずだ。権能も派手なのは使ってないし。

「ん? 権、能……?」

 権能を使った。それは問題無い筈。それは問題無い?

「あ」

 そもそも一般人は権能なんか使えない!!

「あぁあーー!!」

 黎斗の痛恨の叫びが響く。

「お義兄様。少々落ち着きをもたれては如何ですか?」

 呆れたような教主の声。

「それとそろそろこの鎖を解いては頂けないでしょうか。お義兄様に縛られているのも良いのですがここでは下々の者に示しがつきません。……もっとも、お義兄様が辱めたいのでしたら喜んで」

「はい解除!!」

 うっすらと頬を桃色に染め、危険な言葉を口走り始めた教主に慌てた黎斗は急いで破滅の呪鎖(グレイプニール)を解除する。ぱちん、と妙な音と共に教主を縛り付ける呪いの鎖は消えていく。

「権能使う一般人です☆ ……は我ながら無理だなこりゃ」

 もはやどうしようもない。これで誤魔化すのは無理だ。

「試合に勝って勝負に負けた感がハンパないんすけど……」

 諦めたように引きつった笑い。世の中に出る、しかないか。まぁ最悪また幽世に引きこもれば良い。数百年も隠遁してれば忘れ去られるだろう、きっと。ネットが出来ないのは悔しいがしょうがない。

「幽世にネット環境整える権能どっかの神が持ってないかなぁ」

 あったら協力を依頼するのだけれど、などと現実逃避。

「……とりあえず甘粕さんも馨さんも顔を上げて下さい。そこの恵那のお師匠様のみなさまも。別に世界滅ぼすとかはやんないんで僕。めんどくさいですし。今まで通り普通の対応をお願いします」

 平伏する大人達を必死に説得する。目指せ平和な日々、というやつだ。無駄な足掻きだと知ってはいるけれど。

「魔術組織に肩入れする気もないんで。……甘粕さん達にはけっこー関わっちゃってますけど」

 某光の巨人みたく、普段は一般人、怪獣(かみさま)出現時のみウルトラマン(カンピオーネ)、が理想の立ち位置なのだが。まったくもって、世の中はままならない。

「ほう。久しいのぅ。破魔の主(ディスペルロード)よ。相も変わらず健在だったか」

「ッ!?」

 懐かしい声。ここで聞こえるなんて信じたくない声。今でも鮮明に思い出せる。かつて、島を一つ丸々潰した死闘の末にようやく封印した中華の大英雄。

「斉天大せ……って、恵那ぁ?」

 振り向いた黎斗の頭を無数の疑問が覆い尽くす。何故恵那がここに? どうやって? ヴォバン達は? 何故恵那は雲に乗っている?

「相変わらずの間抜け顔よのぉ。その軟弱な顔は相変わらず笑えてくるわ」

 しかも散々な言われようだ。恵那が裏の顔を出したのか、と内心これからの生活に恐怖する。「黎斗のやつマジでウザいんだけどー」などとケータイ片手にガールズトークをする様を幻視し目眩を覚える。そして、それは明らかなミスだ。

「お義兄様。多分この者はお義兄様の知る者とは別の者かと……」

「主と張り合うのは骨が折れる」

 恵那の姿をしたナニカが言う。彼女の周囲を呪力がとりまく。

「至れる哉、坤元。萬物資りて……」

 口訣を唱える彼女を見て、ようやく黎斗の思考回路が戻ってくる。

「ふはは! 必殺、石山巖窟!!」

 黎斗と教主の周りが石化していく。おまけに、羅濠教主も黎斗も、大地に沈んでいく。

「おまっ、ふざけんな!!」

 ぶっちゃけ封印されたところで痛くも痒くもない、多分。だって勘は危険を訴えてないし。だが、ここで封印されてしまえば脱出までの間甘粕達を守る存在が居ないわけで。もはや一刻の猶予も無い。

「おらぁ!!」

 影から取り出した刀で、己が膝を(・・・・)両断する。凄まじい激痛が黎斗を襲い、大量の血飛沫が周囲を朱く染め上げる。

「「「!!!?」」」

「があぁあ゛ああ!!」

 痛い痛い痛い……!!

「なんつー滅茶苦茶な……」

 唖然とする周囲を尻目に一人呆れる雲の上の少女。視線の先には絶叫しながらも両足を切断した愚か者。おかげで両足は奈落の奥底へ閉じ込めても、本体はこちらへ残ってしまった。

「そうか。再生か」

 絶叫しながら飛翔した黎斗の足は瞬時に再生する。傍観していた少女が無造作に振るった如意棒がロンギヌスと衝突。不協和音が辺りに響く。

「まだ痛いよあぁもぅ!」

「なら大人しく封印されてくれんかのう」

 不協和音が連鎖する。一瞬で何撃も打ちつ打たれつ。

「甘粕さん、馨さん、一般人をお願いします!!」

「……かしこまりました。ここはお願いします」

 一連の事態に硬直していた術者達が動き出す。最低でもこの間くらいは時間を稼がねば。

「って、それ如意棒じゃん。お前マジで斉天大聖かよ」

 声だけだったならば幻聴だと思えた。空耳であってくれればどれだけ良かったことか。

「さて。いくかね」

 笑いながらこちらを見やる斉天大聖。その姿は先ほどまでの姿とは違う。古の時に戦った姿。過去激戦を繰り広げた時と瓜二つ。

「恵那を依り代として復活したか……!!」

 恵那は神懸りが出来る。神の呪力をその身に宿せる稀有な存在だ。ただし負荷をかけすぎれば神に身体を奪われてしまう。――ならば、一時的に神は現世へ舞い戻ることが可能となる。

「封印はどうした!?」

「あぁ。あの呪縛は通りすがりの神殺しが破壊して行ってくれたわ。あっはっは!」

 哄笑する斉天大聖に愕然とする黎斗。護堂がまたやらかしたか、と思考するのは僅かの間。護堂に斉天大聖を解放するメリットなど無い筈。どっかの戦闘狂ならやりかねないが、自称無害な護堂が進んでやるとは考えにくい。--何より護堂が破壊するなら大規模破壊になるはずで。ほぼ無傷で斉天大聖がこちらへくるとは考えにくい。あの護堂に繊細な破壊工作が出来るわけがない。もし出来るならミスター遺産破壊者の異名を頂戴してはいないだろうし。

「誰だよ一体ッ……!!」

 なおも文句を言おうとして、諦める。今はコイツを何とかしなければ。幸いここで発見できたのは僥倖だった。避難が完了していない区域にこのバカ猿を通してしまえば、どうなるか。猿天国の完成だ。もう手がつけられない。

「恵那を返してもらうぞ!! お前はここで始末する!!」

 おそらくは恵那を核として呪力を纏い顕現している。もし封印が完膚なきまでに破壊されていても封印の影響からは完全に逃れていないだろう。仮に完全に逃れているのならば恵那を取り込んでいるメリットなど無い。つまり現状の状態を維持するには恵那を通して呪力を流さなければならないはず。この場合、恵那は蛇口で大聖は水だ。バケツが水で満杯状態だと万全状態。つまるところ蛇口を奪えば残った水――依り代を失い不完全な状態で顕現している大聖――をどうにかすれば良い、筈。

「仮定の話が多すぎてどうしようもない、か。」

 しかも時間をかければ蛇口なしで満杯状態の、勝手に水が湧き出るバケツ――完全復活状態――を相手にする羽目になる。それだけは避けなければならない。この怪物が十全の力を振るうこととなれば、それは即ち世界の危機だ。

「ホントどこのだれだよふざけんな……」

 冷や汗が黎斗の額を伝う。ロンギヌスを握る手には力が籠る。

「さぁ逝くぞ歌い踊れ神殺し。蛆のような悲鳴をあげろ。……じゃったかのう」

「……惜しい。微妙に違う」

 大体蛆の悲鳴って何だろう。こっちは気合万全だというのに毒気を抜かれてしまう。そんな些か緊張感にかけるやりとりをしつつも、お互いがお互いを油断無く見据える。

「はぁっ!!」

「そらっ!」

 ロンギヌスと如意棒がぶつかりあう。一瞬の鍔迫り合いの後で黎斗が受け流した。阿呆のような質量を持つこの神具相手に真っ向から受け止めるのは流石の黎斗でも荷が重い。役者不足だ。もっとも牡牛の剛力を使えば話は別だろうが、こんなことで呪力を無駄遣いなど出来ない。

「まだまだいくぞ!!」

「お前ふざけんな!」

 軽い会話とは裏腹に大聖と黎斗の応酬は神速を凌駕し光速に迫る。数十、数百打ち合うも互角で互いに一歩も譲らない。受け流し、隙を見つけて刺突。回避され再び迫りくる攻撃を受け流す。

「腕は健在のようじゃのう。なら、これはどうじゃ?」

 拮抗状態を破らんと、大聖が動く。大聖の顔と腕が背後から新たに生える。計三対、すなわち三面六臂となった大聖と三本に増えた如意棒による乱撃に、とうとう黎斗が被弾する。数十打ち合った所で腹部に一撃。如意棒はいとも容易く黎斗の肉体を貫通し。黎斗は遥か空へと打ち上げられる。

「がはっ!?」

「逃さんよ!」

 縮地で即座に追撃する大聖の一撃を辛うじて受け流し、着地。ふぅ、と息をひとつ吐く。これは不味い。近隣住民の避難が完了するまでは(・・・・・・・・・・)派手な動きが使えないのが痛い。

「やつの火眼金晴を邪眼で相殺出来てるだけマシか」

 斉天大聖の瞳、火眼金晴は呪術を無効化し、相手の身体の自由を奪う。黎斗の我が前に邪悪なし(オンリー・ザ・シャイニング)の無効化能力を弱体化させ麻痺効果を付加させたような代物で危険きわまりない。火眼金晴の無力化に邪眼の全能力を傾けている為、他に対して無力化の力を及ぼせないのだ。

「鋼を上回る体躯。神速を凌駕しうる機動。数々の反則的能力(チート)。無理ゲーは相変わらずだな!」

 悪態を吐きつつ権能は出来る限り使わない。"こいつ"相手に権能の大安売りは悪手でしかないことを知っているから。だがそれもいつまで出来るか。あの時は頼りになる相方(スサノオ)や酒呑童子といった仲間に恵まれていたのだが。

「ほれほれいくぞ!!」

 ますます加速する攻防。打ち合いの余波で周囲が滅茶苦茶になっていく。如意棒を回避出来ない訳ではないが、回避すればしただけ周りへの被害は甚大になる。いくら元が荒野とはいえ、大穴を大量生産されれば修復は容易ではない。地殻まで破壊されてしまえば尚更だ。この猿神に地殻程度破壊できない訳はない。つまりは、全て回避せずに真っ向から打ち合うしかない。もっとも、そうは言っても結局のところ受け流しているのだが。まぁ直接回避するよりはましだろう。

「恵那の救出どころじゃあない、か」

 教主も居ないし護堂も居ない。須佐之男命も居ない、とないないずくしの現状では我儘を言ってはいられない。戦力は無いのに、守らなければならない対象は多い。

「しゃーない。――我は時を刻むもの。満ちて、引け。汝の時は我が手の内に」

 時が、止まる。時詠(イモータル)により無限に加速した時間の中で黎斗は大聖の背後に周り込む。久々の超加速だ。ここまで加速度を上昇させると長くは保たないし消耗も激しい。神速レベルまで加速度を落とせばそれなりの時間維持は可能だが、心眼を使う大聖相手にその程度では心もとない。

「定義。斉天大聖。定義。恵那。両者の(えにし)を断ち切らん!!」

 黎斗の紡ぐ言霊が、彼の右手を燃やし始める。深紅に染まるその(かいな)は、寸分の違いなく大聖の背後に吸い込まれ――切り裂く。

「よっ、と」

 崩れ落ちる恵那を拾い、全速離脱。大地に着く寸前、軋む音。それは停止する世界の終わり。そして世界は動き出す。

「ん…… れーとさん?」

 恵那が、ゆっくりと目を開ける。やはりというべきか、衰弱っぷりが酷い。

「また、助けられちゃったね。あはは……」

「喋らなくて良いから、ちょっと休んで」

「駄目だよ。いくられーとさんが強くてもかみさま相手に敵うはずがないよ。草薙さんを呼ばないと」

「大丈夫だから」

 護堂は、まだ(・・)駄目だ。今の護堂が斉天大聖に挑むのは生まれたての雛が鷲に挑むようなもの。勝ち筋を見つけ出し、どんな状況下でも勝利するのが神殺し(カンピオーネ)魔王(カンピオーネ)たる所以とはいえ、これは難易度がぶっ飛びすぎだ。

「ジュワユーズ。恵那を安全な所まで護衛して。お願い」

 自身の影に声を伝える。影が揺らめき、一人の少女が姿を現す。虹色に輝く髪を持つ美少女だ。表情に起伏はあまり見られず、幼げな容姿。背丈も黎斗の腰ほどまでしかない。小学校低学年といっても通じるほど。

「やれやれ。久々の呼び出しかと思えば。まぁ、了解したぞ我が主よ」

 だがそれは彼女が戦力外ということではない。シャルルマーニュの愛剣として名を馳せた彼女は、デュランダルの姉妹剣だ。その柄には聖槍が埋められているという。聖槍(ロンギヌス)の所有者たる黎斗の元にいる以上、彼女は常に聖槍の加護の元にあるも同然。本来以上の性能を引き出すことができる。聖騎士級程度ならある程度相手取ることも不可能ではない。おまけにロンギヌスを通じてある程度の念話によらない意思疎通も可能。こういう別行動にはうってつけだ。

「では失礼する。主よ。ゆめゆめ油断するでないぞ」

 鮮やかに変化する長髪を揺らしながら頷く愛剣は恵那を連れ、凄まじい速度で離脱していく。そして暢気に欠伸をしながら眺めているのは斉天大聖。

「しっかしやるのう。我から娘っ子を取り返したのは神速の権能か? 黎斗(・・)よ」

「まぁ。そんなとこ――!?」

 恵那の撤退を許したのはおそらくこちらの気を緩めさせる為。しくじった。そう気付いた時には遅い。斉天大聖が敵対者から奪った紅葫蘆が、抗えない力で黎斗を吸い込む。

「しまっ――!!」

 黎斗の言葉は途中で消える。確実に吸い込まれたことを確認し、斉天大聖は紅葫蘆の蓋をした。

「……ふむ。やはり手強いがこんなところか。詰めが甘いのは昔から変わっておらんのぅ」

 無人となった瓦礫の荒野で、斉天大聖は一人、嗤う。嗤う。哄笑が響く。 
 

 
後書き
教主のキャラ崩壊がマジメに半端ないどうしよう(死 
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