展覧会の絵
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第八話 絞首台のかささぎその十五
「誰にでも得手と不得手があってね」
「そして枢機卿にとってはですね」
「それが料理なんだ」
こう言うのだった。
「だから。神父にはね」
「私にはですか」
「感謝しているよ」
やはり言葉にも顔にもだ。十字は感情を見せない。しかしだった。
こう言ってそしてだ。その無花果をだ。
また一個手に取りそして食べる。皮は剥かない。先の部分だけ食べないが他の部分は全て食べる。その無花果は実によく熟れていて甘かった。
無花果のその自然な甘さを味わいながらだ。十字はまた言ったのだった。
「そしてこの無花果だけれど」
「スーパーで買ってきたものですが」
「日本のスーパーだね」
「そうです。それは如何でしょうか」
「日本はいい国だね」
まずはこう言った十字だった。
「これだけ新鮮で美味しい果物が。それも様々な果物がね」
「安く手に入りますね」
「そういう国はあまりないよ」
「イタリアと比べてもですね」
「豊かだね」
こうまで言う十字だった。
「イタリアは食べ物は安いけれど」
「それでもですね」
「ここまで美味しくはないかもね。味の好みは人それぞれだけれど」
「薄い味だと思いますがが」
「うん、料理の味はね」
「バターやチーズを使うにしても」
そうしたものを使ってもそのままイタリアの味にはならないのだ。これは料理人や食べる人間の傾向や好みだけではなくだ。気候風土も関係している。
それでだ。日本の料理は味が薄くなるのだった。
「例えオリーブを使っても」
「不思議なことにイタリアのオリーブを使ってもですね」
「味は薄く。日本人の好みになるね」
「はい」
「正しいけれど」
「そうあってですか」
「例えオリーブやパスタがイタリアのものだったとしてもね」
例えそうだったとしてもだというのだ。
「トマトやガーリック、スパイスが違うと」
「イタリアの味にはならないですか」
「そう。だからね」
「イタリアの味にならないのも当然だと」
「そうだよ。そういうものだよ」
まさにそうだとだ。十字は神父に話す。
「それはね。けれどこの味は」
「日本の味は」
「僕にも合うね」
とはいっても笑わない。ここでもだ。
「いい感じでね」
「左様ですか。そしてその理由は」
「僕にも日本の血が流れているからだろうね」
「それ故にですか」
「元々の日本の味が。文化が僕の中にある」
そうなっているとだ。十字は最後の無花果を食べながら淡々と話していく。
「だからね」
「成程。それでは」
「日本の味も楽しませてもらうよ」
とはいってもにこりともしない。感情は一切出ない。今の十字の顔は何処か能面めいていた。仮面舞踏会の仮面ではなくだ。今はそれになっていた。
そしてその能面の顔でだ。抑揚のない声で話すのだった。
「これからもね」
「では。私もこれから」
「日本の味を作ってくれるんだね」
「和食も如何でしょうか」
神父はだ。こう十字に提案してきた。
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