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士道剣の脳裏に過ぎったのは、BURKスコーピオンで宇宙に飛び立つ前のこと。自身と同じ調査隊のメンバーとして選抜された、エリート隊員達との語らいの日々だった。
特に印象深いのは――全く反りが合わないまま共に到着の日を迎えた、
鶴千契隊員だ。
常に寡黙で冷静な男だが、その佇まいに反して怪獣や敵性異星人に対しては非常に好戦的であり、「あんな蛮族を宇宙に出したら地球人が誤解される」とまで評されたこともある獰猛な男であった。
その姿勢も、地球を守らねばという使命感の強さ故……なのだが、「怪獣が居たなら即座に倒せば良い」という攻撃的な思想を隠そうともしないのである。荒事をなるべく避け、慎重に調査を進めるべきだという考えを持っていた士道とは、まさに水と油であった。
「だから! 例えホピス星で怪獣を発見したとしても、いきなり俺達の方から攻撃を始めたら現地の星人を巻き込む可能性があるだろうが! その短絡的な思考はいい加減どうにかならないのか、鶴千!」
「……あの爆発の熱量では、現生人類の生存率は絶望的だ。俺達が躊躇えば、その瞬間に殺られる。お前のそういう甘い考えこそが、仲間を窮地に追いやりかねんということが分からんのか? 士道」
BURKスコーピオン打ち上げの前日。地上に設けられた宇宙基地の休憩室で、毎日のように激しく議論を戦わせていた士道と鶴千は、この調査隊メンバーの中においても屈指の体格と戦闘能力の持ち主であり、ほとんどの乗組員達は慄きながら2人の様子を見守っていた。
もし2人の争いが本気の殴り合いに発展したら、「カミナリ親父」の弘原海隊長しか止められないのではないか。そんな噂が囁かれるほどに、両者の「腕っ節」は突出していたのである。
「おいおいお前ら、せっかく同じチームに選ばれた仲間達同士で何を揉めてんだ! こういう時はな、まず握手で友情を深め合うんだよっ!」
――だが。そんな険悪な空気などどこ吹く風と言わんばかりに、気さくな様子で割って入って来る青年が居た。「握手をすれば仲間」をモットーとする、
手力握人隊員だ。
身長195cmという大柄な2人に対して、173cmと(調査隊メンバーの男性隊員としては)比較的小柄な彼は、その体格差を全く気にせず堂々と2人に絡んで行く。そんな手力の登場に、士道と鶴千は顔を見合わせてげんなりとした表情を浮かべていた。
「……続きは次の機会だ。手力が来たらもう議論にならん」
「……そうだな。また煩いのが来てしまった」
「えっ? おいちょ、待てよ士道! 鶴千! 仲直りの握手がまだだぜぇ!?」
双方の睨み合いなど全く意に介さず、良くも悪くも空気を読まない彼の登場により、毒気を抜かれた2人は深々とため息を吐いてしまう。彼らの議論はいつもこうして、強制終了させられているのだ。
そんな彼らの「日常」を遠巻きに見守っていた、ベテランの
多月草士郎隊員と
木場司隊員は、静かに苦笑を浮かべている。かつては士道と鶴千の教官だった彼らにとって、仲を取り持つ手力の存在は非常に大きなものであった。
「全く……いつもいつも、あの2人には困ったものだな。手力がいなければ、今頃どうなっていたか……」
「己の使命に誇りを持っているからこそ、譲れないものがあるのだろうが……その矜持は、仲間達と力を合わせて初めて実を結ぶものだ。手力の存在がきっと、あの馬鹿共にそれを教えてくれるさ」
「……やれやれ。いつになったら私達は、あいつらのお目付役から解放されるのだろうな? 木場」
「解放など期待しない方がいいぞ、多月。手力が付いていても、あいつらはやはり水と油だ」
手力の介入により議論を打ち切られた後も、肩越しに睨み合いながら別室に移動して行く士道と鶴千。そんな2人を一瞥しながら、木場は
戦友の心労を労わるように多月の肩を叩いている。
一方、怪獣の着ぐるみを着た1人の男――
荒島真己隊員が、多月達の傍らをのっしのっしと通り過ぎていた。その珍妙な格好について苦言を呈する
叶亥治郎隊員は、教え子の奇行に今日も頭を悩ませている。
「……荒島君、いつまでその着ぐるみで基地内を歩き回るつもりだね。『あの2人』なら今ここには居ないのだぞ」
「そうは言いますけどね、叶先生。基地内に居れば必ずどこかで『あの2人』にかち会う可能性はあるんですよ? いつもいつも、女臭くて敵わないんですよぉ」
大学の准教授位を持つ初老の男性であり、惑星探査の専門家として今回の調査隊に参加している叶。そんな彼の教え子である荒島も、優れた頭脳と身体能力を兼ね備えた優秀な隊員……ではあるのだが、女性の色気や芳香に関しては大の苦手という一面があるのだ。
彼らの云う「あの2人」とは無論、駒門琴乃隊員とシャーロット博士のことである。特に芳醇な女の香りを、その豊満な肉体から絶えず振り撒いている彼女達2人は、荒島にとってはまさしく「天敵」なのだ。
「俺は理性的かつ合理的に、遭遇時のリスクを想定して回避に努めているまでですよ。うん、我ながら完璧な防護服だ! くっせぇ匂いもこれで完全シャットアウトだぜ!」
「……君を見ていると、私は教職者としての無力さを痛感するよ」
そんな教え子の言い分を承知の上で、叶は顔を覆い天を仰いでいる。もう少し他に手はなかったのか。その思いが今、彼の胸の内を満たしていた。
――その頃。BURKスコーピオンの船内にある格納庫では、BURKエイティーツーの整備が進められていた。
これから自分達が乗り込むことになる通信車の機能を確認していた2人の若手――
日ノ出新隊員と
氷川雄一郎隊員は、車内のコンピュータを真摯な面持ちで操作している。
「……これくらいの動作点検なら、もう俺1人で充分だ。日ノ出、お前はそろそろ上がれ」
「そう言う氷川は、昨日からずっと篭りっきりじゃないか。お前こそ、いい加減休みなよ。明日にはホピス星に出発するって話なんだから、少しでも体力を回復させないと」
「このBURKエイティーツーは、未知の惑星に向かう俺達の命を背負うことになるんだ。妥協は出来ん。……それに俺は、『機械のような奴』らしいからな。機械なら機械らしく働くまでだ」
その寡黙な性格と仏頂面から、「機械のような男」と評されることが多い氷川。そんな彼が呟いた自嘲の言葉に、日ノ出は眉を吊り上げる。
人助けを趣味と公言するお人好しとしては、そんな同期を放っておけるはずがないのだ。半ば意固地になりながら、彼はその場から動くことなくコンピュータと向かい合っている。
「その機械みたいな奴を、壊れるまで放っておけるわけないだろ。……そんな奴だからこそ、助けようとするバカだって出て来るんだ」
「……ふん。お前も相当に、甘い奴だな」
そんな同期の姿に苦笑を浮かべながら、氷川は作業のペースを徐々に早めて行く。自分の「無茶」にいくらでも付き合う気でいるのなら、その「無茶」を可及的速やかに終わらせるしかない。それが機械と呼ばれた男なりの、最適解であった。
一方、何機ものBURKセイバーが配備されている宇宙基地の飛行場では、2人の男が自分達の護衛機を整備していた。
今回選抜されたメンバーの中でも特に歳若い
前田力也隊員と、フランス支部の外人部隊出身という異色の経歴を持つシゲタ隊員だ。BURKスコーピオンの乗組員達にして、BURKセイバー隊のメカニックでもある彼らは、自分達の命運を預ける機体を入念に点検している。
「……前田。お前、本当にこの調査隊に参加するつもりなのか。あの爆発が起きた星でこの先、何が起こるか分からねぇんだぞ」
「あはは、今さら何言ってるんですかシゲタさん。何が起きるか分からないから、俺達が調査に行くんじゃないですか」
数々の工具を手に、螺子の1本に至るまで念入りにチェックしている前田は、シゲタの神妙な言葉に強気な笑みを浮かべていた。
――弱冠14歳でBURK隊員の資格を得た
風祭弓弦。彼以来の逸材とも呼ばれている前田は、BURKスコーピオンの乗組員になるということの意味を承知の上で、シゲタの言及を笑い飛ばしている。
だが、外人部隊の隊員として多くの血を見てきたシゲタの表情は優れない。数多の修羅場を目の当たりにしてきた年長者は、自分の半分程度も生きていない少年の未来を憂いているのだ。
「……しかしな前田、お前はまだ15だ。その歳で入隊試験をパスしたってのは確かに大したタマだが、ガキであることに変わりはねぇ。リーゼロッテの奴にも言えることだが……自分から命を懸けに行くには、お前らはあまりにも若過ぎる」
「いつか大人になる日を待っていたら、その間に全てが終わってしまいます。戦場においては常に巧遅より拙速……なのでしょう? 俺はその原則に則り、
今行くべきだと判断しました。だから、この調査隊に参加したんです。……ガキだとしても、です」
前田としても、シゲタの言い分が理解出来ないわけではない。それでも彼はこの若さで、すでにBURK隊員としての矜持というものを身に付けていたのである。
自分が教えた「原則」をそのまま返されてしまった年長者は、深々とため息をつきながら天を仰いでいる。だが、その表情は先ほどまでの暗いものではなくなっていた。
「……言うようになっちまいやがって。俺達大人の立つ瀬がねぇだろうがよ」
自分の方こそ、彼を子供扱いし過ぎていたのかも知れない。そう思えてしまうほどに、前田力也という少年は戦士としての覚悟を固めていたのだ。
――そして、この翌日。
BURKスコーピオンの乗組員としてホピス星に旅立った彼らは、その旅路の先で「死」の運命を迎え――奇跡的な「邂逅」を果たしたのである。
◇
士道だけではない。一度は命を落としながらも、ウルトラマンとして蘇った男達は次々と目覚め、懸命に落石の中から抜け出そうとしていた。
今もなお戦っている仲間達の元へと駆け付けるため、彼らは懸命に大岩を押し退け、積み上がった岩山の外へと這い出て行く。
「……!」
そんな彼らの勇気と闘志に呼応するかのように。薄汚れた隊員服の胸ポケットから、眩い光が溢れ出して来る。
――ペンライト型変身システム起動点火装置「ベーターSフラッシャー」。
赤と白銀を基調とするその「装置」が、懐の中から煌々と輝きを放っていたのだ。自分を使え、と言わんばかりに。
「……ッ!」
士道達の決意は、同時だった。彼らはその装置を手に取ると、全ての迷いを振り切るように勢いよく天へと掲げ――スイッチを押し込む。
刹那。その先端部を中心に広がって行く、推定200万
Wの烈光が男達の全身を飲み込み。やがてその輝き――フラッシュビームの中心部から、光の巨人達が拳を突き上げるように、「ぐんぐん」と顕現して行くのだった。
――鋭い目付きとスラリとした長身を特徴とする、士道剣が変身する「ウルトラマンシュラ」。
――左肩にある銀色の十字紋様と後頭部から伸びている湾曲した1本の角を特徴とする、鶴千契が変身する「ウルトラマンメディス」。
――細くシャープな赤のラインと、額のクリスタル「ミラリギャザー」を特徴とする、手力握人が変身する「ウルトラマンミラリ」。
――ほとんど赤一色で統一されたボディと逞しい筋肉を特徴とする、多月草士郎が変身する「ウルトラマンアトラス」。
――ロケットのような形状を持つ独特な頭部を特徴とする、木場司が変身する「ウルトラマンヴェルゼ」。
――ウルトラマンゼノンやウルトラマンメビウスに近しいオーソドックスな外見を特徴とする、荒島真己が変身する「ウルトラマンリード」。
――ボディビルダーを想起させる筋骨逞しい体型を特徴とする、叶亥治郎が変身する「ウルトラマンポーラ」。
――たすき掛けのような大きな赤い模様と、その縁をなぞるように細い青いラインが入った左右非対称の模様を特徴とする、日ノ出新が変身する「ウルトラマンヘリオス」。
――初代ウルトラマンをベースに、赤白のヘッドギアや鎧を着用したような外見を特徴とする、氷川雄一郎が変身する「ウルトラマンアルミュール」。
――ウルトラマンパワードに近しい外見である一方で、ブフ相撲の力士を想起させる模様と体型を特徴とする、前田力也が変身する「ウルトラマンブフ」。
――ゾフィーに近しい外見である一方で、身体の一部が金色となっているボディを特徴とする、シゲタが変身する「ギガロ」。
そして――唯一誰とも一体化することなくその姿を露わにした、青の巨人。レッド星雲の戦士「レッドマン」を想起させるシルエットと、彼とは対照的な青いボディを特徴とする「ブルーマン」。
『……シュウワッチッ!』
彼らはその一瞬のうちにマッハ5の閃光と化し、崩落した洞窟から飛び出して行く。その光が弘原海達の眼前に降り立った時、この戦いは新た局面を迎えることになるのだ。
◇
その「邂逅」と「変身」を経て――彼ら12人のウルトラ戦士は今、キングジョーの前に立ちはだかっているのである。思わぬ形での「再会」を果たした男達は皆、崩落に巻き込まれた全員が、ウルトラマンとして蘇っている事実を直感的に理解していた。
そして、ウルトラ戦士達と一体化した今だからこそ。士道達は、彼らの「窮状」もすでに察知していたのである。
別次元の宇宙へと渡る旅は、それ自体が命を縮める危険な行為だというのに、ウルトラ戦士達はそれでも士道達のために駆け付けて来たのだ。しかもウルトラ戦士達は、その士道達を蘇生するために己の命をさらに削り、「依代」として復活させていたのである。
弘原海達を勇気付けるように雄々しく地を踏み締めている彼らだが、本来ならばまともに戦える状態ではないのだ。疲れを見せまいと胸を張っている彼らはすでに、キングジョー以上に消耗しているのである。
だが、それでもウルトラ戦士達は、一歩も退くことなくキングジョーと相対している。「ウルトラマン」としての譲れない矜持が、彼らの両足を奮い立たせているのだ。
その巨大な勇姿を目の当たりにしたBURKの隊員達は皆、過去のデータに存在しないウルトラマン達の迫力に息を呑んでいた。
『隊長ッ、あのウルトラマン達……データにはありませんが、私達と一緒に戦ってくれるみたいですよ!?』
『これは頼りになりそうですねっ! 残った「奥の手」は1発限りだし、絶対に外せませんからっ……!』
『ふ……ふんっ! せっかくの手柄を横取りされるなんて、癪ですけど! どーしてもウルトラマン達が戦うつもりだっていうのなら! わざわざ邪魔する理由もないですし!? 特別に共闘させてあげなくもないですけどっ!』
BURKセイバー隊に属する美女達の多くは、加勢に駆け付けて来たウルトラマン達の姿に黄色い歓声を上げ、士気を高めていた。リーゼロッテも口先では文句を垂れつつ、頼もしい援軍が現れた安堵感に口元を綻ばせている。
一方。巨人達の勇姿を仰ぎながらも、光線銃による銃撃を続けている弘原海と琴乃は、顔を見合わせ――洞窟の方向へと振り返っている。士道達がまだ脱出して来ていないことに、2人は一抹の不安を覚えていた。
「くッ……あのウルトラマン達、洞窟の方向から飛んで来たような気がするが……あいつらは大丈夫なんだろうな!?」
「連絡が取れない以上、今はその可能性に賭けるしかありません……! 隊長、攻撃を続けましょうッ!」
それでも今は、彼らの捜索に注力出来る状況ではない。ならば迅速にキングジョーを撃破し、この一帯を制圧するしかない。
その決意を胸に引き金を引く弘原海と琴乃は、真相を知る由もなく、キングジョーへの攻撃に集中している。そんな彼らの様子を一瞥するウルトラマン達は、互いに頷き合いながらキングジョーに対して拳を構えていた。
『弘原海隊長、駒門隊員……! くそッ、こうなったらすぐにこいつを倒すしかないッ! 行くぞ皆ッ!』
『おうッ!』
『……ふん』
かくして――M78星雲の宇宙人達からその命を託された士道達は、ベーターSフラッシャーでウルトラマンの姿に変身し、宇宙ロボットとの死闘に臨むことになったのである。
マッハ5の速さで空を飛び、残されたエネルギーを駆使してこの強敵に立ち向かう不死身の男達となったのだ。それゆけ、我らのニューヒーロー!