相良絵梨の聖杯戦争報告書
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令呪オークション その3
「ええ。法政科に話をつけたの私」
内通者は姉弟子様でした。
あっさりとそれを言って、理由を語る。
「今の絵梨はオブザーバーから離れつつあったからね。
下手すれば当事者になりかねないでしょう?
一度引き離そうと思って」
言っている事は正しいのだが、報連相の一つぐらいくれたなら……よそう。
姉弟子様のいつもの事である。
「じゃあ、これでお役御免ですか?」
「まさか。
引き離すだけよ。
オブザーバーの仕事は継続してもらいます」
「あー。つまり、聖杯戦争の全マスターが出そろうまでおとなしくしろと?」
「そういう事。
手を引かせるかわりに、現在のマスターとサーヴァントの情報をもらってきたわ」
姉弟子様と化野菱理の取引によって現在分かっているマスターとサーヴァントの情報だが、日本に来たアインツベルンが何かを呼んだのは確定。
ランサーだが、魔術協会からの派遣魔術師バゼット・フラガ・マクレミッツによってフラガ家伝来のルーン石の耳飾りを触媒に召喚した事が分かっており、クー・フーリンと推測されると同時に、彼女が令呪を奪われた事で他のマスターに使われている事が確定している。
アトラム・ガリアスタは死亡後に各所に色々な情報を渡るように手配していたらしく、彼が呼び出したのはキャスターでメディアである事が発覚。
野良である彼女を手に入れる為にも絶対命令権を持つ令呪が必要であり、時計塔の強力な介入のきっかけとなる。
で、六導玲霞に出た令呪が宙に浮いているが、英国で捕まった相良豹馬はアサシンでジャック・ザ・リッパーを呼ぼうと……ん?
「相良豹馬には令呪が出てなかったのですか?」
「体の隅々を探したけど無かったらしいわよ。
で、時計塔はこう考えているわ。
日本に戻った相良豹馬が召喚儀式を行い、六導玲霞を殺して彼女の令呪も利用する。
彼が帰っていたら六つの令呪を持つジャック・ザ・リッパーが暴れまわったでしょうね」
危なかったと安堵するが、思ったより情報が少ない。
姉弟子様は私の顔を見て、先回りして話をつづけた。
「あなたたちが御三家の遠坂と間桐の参加を遅らせたのが大きいわ。
聖杯戦争において遠坂・間桐・アインツベルンの御三家はシード枠があるようなものよ」
「それが、まだ出てきていないから……」
「そう。数合わせの補欠を選ぶようになったという訳。
おそらく、六導玲霞の令呪はそういう形で出たと時計塔は判断しているわ」
なるほど。
姉弟子様が時計塔に情報を売って私を引き離したい訳だ。
補欠連中でも、間違いなく私はとびっきりの候補者なのだろうから。
ホワイトボードに現在の状況を書いて整理する。
マスター
アインツベルン
サーヴァント
不明
マスター
バゼット・フラガ・マクレミッツ (令呪喪失・意識不明)
サーヴァント
ランサー クー・フーリン
マスター
アトラム・ガリアスタ (死亡・令呪使用済)
サーヴァント
キャスター メディア
マスター
六導玲霞
サーヴァント
未召喚
未召喚サーヴァント
五騎 (セイバー・アーチャー・アサシン・ライダー・バーサーカー)- アインツベルン召喚一騎
未決定マスター
三人
「……なるほど。
聖杯戦争が始まったとはいえ、本来入るはずだった遠坂と間桐の分がまだ余っている。
おまけに、六導玲霞の令呪譲渡が可能と来れば……」
「おかけで、時計塔は有象無象が入り乱れて出る出ないに足の引っ張り合いの楽しい事に。
それを踏みつぶして化野菱理でなければ止められなかったルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの強さが目立つけど、彼女は自分がマスターになる気がないみたいよ」
「はい?
あそこまで強引に来て、マスターになる気がないって!?」
私の驚きに姉弟子様が苦笑する。
理由を聞くとある意味納得するものだった。
「彼女は得ようとした令呪を彼女の師であるロード・エルメロイ二世に渡すつもりだったらしいわよ。
彼の本来の名前はウェイバー・ベルベット。
第四次聖杯戦争における生還者で、エルメロイ家を継いで現代魔術科学部長に成り上がった」
「そこまで高みに登ってなお根源を求めますか。魔術師ってやつは……」
私の呆れ声に姉弟子様も苦笑する。
私も姉弟子様も根源を求めていないからこそ、その渇望が理解できない。
「で、誰が来るんですか?
オークション?」
明後日深夜零時に開始のオークションである。
時計塔の根回しがそれで終わるとも思えないが、参加の意思表明は姉弟子様の所に化野菱理から来ていた。
「ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは確定として、獅子劫界離。彼はフリーランスの死霊魔術師ね。
おそらく、時計塔の誰かに雇われたんでしょう。
カーシュラという魔術師も参加を表明しているけど、北米からの飛行機で来るところを見ると米国に雇われた魔術師かしら?
あと、令呪移設の為に冬木から言峰神父がやって来るそうよ」
その言葉に私の顔が引きつる。
冬木での振る舞いから、私は彼をまったく信用していなかった。
「逃げましょう。
おそらく、確実に襲ってきますよ」
「やっぱり?」
私や姉弟子様と六導玲霞の隠れていたセーフハウスが何者かの襲撃を受けて全焼したのが、私たちが移動してから五時間後の事である。
当然、オークションは中断となった。
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