| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

海産物は好きでも

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第三章

「私牡蠣いいわ」
「えっ、いいんですか」
「お袋好きだろ」
「好きだったのよ」 
 郁恵は息子夫婦にこう返した。
「前までね」
「それどういうことだよ」
「前までって」
「ああ、母さんあたったんだよ」 
 ここで夫の仁が言ってきた。
「牡蠣にな」
「ってまさか」
「お義母さんこの前」
「牡蠣食べ放題でね」 
 それでというのだ。
「食べ過ぎてなんだよ」
「あたったのか」
「牡蠣って食べ過ぎるとそうなるし」
「だからか」
「お義母さん牡蠣はなのね」
「本当に牡蠣も大好きなんだよ」
 この海の幸もというのだ。
「あいつは海の幸は何でもでな」
「けれどそれでか」
「あたったから」
「ああ、あいつは牡蠣は駄目だ」
 食べられないというのだ。
「だから今日はは」
「じゃあ別の用意しておくか」
「そうね、牡蠣以外のものをね」
 息子夫婦もそれならと話してだった。
 スーパーに行って郁恵用に海老を買った、それをフライにしてだった。
 帰ってきた郁恵に夕食でそれを出した、すると郁恵は笑って言った。
「全く、牡蠣も食べ過ぎるとね」
「駄目なんだ」
「そうよ、あんたも気を付けるのよ」 
 孫に笑顔で話した。
「さもないと祖母ちゃんみたいになるよ」
「お腹壊すの?」
「そうなるからね、じゃあ祖母ちゃんは海老を食べるから」
 明るく笑って言うのだった。
「皆は牡蠣を食べてね」
「そうするね」
「好きでも食べ過ぎには注意だな」
 夫は考える顔で妻に語った。
「何でも」
「そうね、この歳になってわかったわ」
「それじゃあな」
「生きている限り気をつけるわ」
 こう言って海老フライを食べるのだった、郁恵はその海老フライを実に美味そうに食べた。その顔はまさに正真正銘の魚介類好きの顔だった。だが今は牡蠣は食べないのだった。


海産物は好きでも   完


                 2022・8・23 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧