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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
ランシール
  観光の町ランシール

「ここが神殿……」
 町の男性に教えられてやってきた神殿の入り口は、白を基調とした円柱状の石柱が何本も立ち並んでおり、その中心に粛然とした大きな扉が構えてあった。
 一見入るのをためらいそうな建物だが、壁のいたるところに子供の落書きみたいな文字で、『ようこそ・地球のへそへ』と羊皮紙で書かれた張り紙が貼ってあり、虚脱感あふれる雰囲気を醸し出していた。
「なんだか、ここで本当に自分が強くなれるのか不安になってきた」
「……珍しくお前と同意見だ」
どうやらユウリも、私と同じように不安を感じているらしい。
 想定外のことに暗雲が立ち込める中、意を決したユウリが先に歩み出て、目の前の扉をノックする。
「おーい、誰かいないか?」
 ユウリが大声で尋ねると、しばらくして建物の中から物音が聞こえてきた。何やら慌てているらしく、時折バタバタという足音と、何か物にぶつかったような音が聞こえてくる。
「お前に劣らないくらいのおっちょこちょいな奴がいるんだな」
 物音を聞いたユウリが感心するようにつぶやく。何か言おうとした時、神殿の扉が開いた。
「おっ、お待たせしました……! ようこそ地球のへそへ!」
『………………』
 そういいながら現れたのは、二足歩行で立つ猫の姿だった。
 いや、よく見ると、猫の着ぐるみをかぶっている人間だった。
 全く予期していなかった事態に、私とユウリの目が点になる。
「あ、あのー、どうしました?」
 時が止まったかのようにピクリとも動かない目の前の二人を見かねたのか、着ぐるみ人間は戸惑いながらも尋ねてきた。
 困惑しているのは私たちの方である。なぜ神殿で着ぐるみを着た人が出迎えてくれるのだろうか? そのあまりにも理解しがたい出来事に、私はいまだに思考回路が追い付いていない。
「……一応聞くが、その着ぐるみはいったいなんだ?」
 ようやくユウリが、声を絞り出しながら質問した。着ぐるみの彼(声からして男性だろう)は、動くことのないガラス玉の目を輝かせながら、
「着ぐるみなんてとんでもない! ボクはここの観光地のマスコットキャラ、『へそにゃん』! 地球のへその真ん中から生まれたんです!」
 そう言って彼は両手を前に出し、招くようなポーズを見せた。もう何が何だかわからず、突っ込みが追い付かない。
 すると、横でユウリが呪文を唱えようとしているのが目に入ったので、私はさすがにそれはまずいと思い、すぐにユウリの手首を掴んで制する。でも気持ちはわからなくもない。 
「あのー、私たち、ここが観光地とは知らず、修行のためにここへ来たんです。地球のへそに行けば強くなると聞いたんですが、ここはそういう場所ではないんですか?」
 私が説明すると、着ぐる……へそにゃんは戸惑ったようなしぐさを見せた。
「え、えーと……、ごめんなさい、マスコットのボクにはわからないので、今責任者を呼んできます!」
 想定外のことが起きると対処できないという、まるで仕事を始めたての新人さんのようなセリフを吐いたへそにゃんは、扉を開け放ったまま、慌てた様子で神殿の奥へと戻っていった。
 二人でじっと待っていると、ほどなく足音が聞こえてきた。今度は複数。やって来たのは、一人はへそにゃん、もう一人は初老の男性だった。
「初めまして、私はここの神殿の最高責任者で、エドガンと申します」
 一歩前に出て、丁寧にお辞儀をするエドガンさんは、神殿の責任者という割には、上下ともシンプルな麻の服という、ラフな格好をしている。それに、肌も健康的な小麦色で、まるでその辺で畑でも耕してるんじゃないかと思うくらい身近な存在に感じられた。
「俺はユウリ。ここにくれば修行が出来ると聞いてやって来た」
 ユウリの自己紹介の後、私も簡単に挨拶をした。すると、エドガンさんは顔を曇らせる。
「修行、ですか……。すいませんが、あいにく今はこの通り、観光地として成り立ってまして、昔のように修行の場として提供差し上げるわけにはいかないのです」
「観光地……?」
 周りを見回しても、観光客どころか往来する人なんて私たち以外に誰もいない。
 私が腑に落ちない顔をしていると、ユウリが口を挟む。
「こんな誰もいない辺境の町が本当に観光地で生計を立てているのか?」
 その言葉を聞いた途端、エドガンさんのこめかみに、ぴくりと血管が浮き出るのを見逃さなかった。
「申し訳ありませんが、修行を目的としていらっしゃるというのなら、どうかお引き取りください。観光としてなら一向に構いませんが」
 そういうとエドガンさんは、俯きながら私たちに背を向けた。
「まっ、待って下さい!! 私たち、魔王を倒すためにどうしても強くなりたいんです!!」
 私の叫びに、エドガンさんはぴたりと足を止める。
「今、なんとおっしゃいましたか?」
 そう言うと、真剣な面持ちでこちらを振り向く。
「俺たちは魔王を倒す旅をしている。……俺はオルテガの息子だ」
「まさか……あの英雄の……!?」
 ユウリの言葉に、エドガンさんは信じがたい表情で、
「魔王を倒す……。あの英雄の息子さんなら、このご時世でもそう考えるかもしれませんね」
 そう言ってため息を吐いた。
 横に立っているへそにゃんも、責任者のただならぬ様子に困惑しているようだ。
 だがやがて、何かを決意したように肩を下げる。
「本気でそう考えるのでしたら、どうぞお入りください。観光でないのなら、入場料など結構ですので」
 エドガンさんは、先程とは一転した態度で私たちを神殿の中へと招き入れてくれた。
 先に中へ入るエドガンさんの後ろをついていくと、へそにゃんもあとからついてきた。
 神殿の内部はとても広く、部屋と部屋の間の通路もずっと奥まで続いている。天井を支える等間隔に並んだ石柱は、まるで天まで伸びているかのように壮観だった。
「この神殿は古くから建てられてまして、歴史的にも芸術的にも大変価値のある建造物なんです。そのおかげで、ここを観光地にすることが出来たのです」
 言われてみれば、石柱も美しいが、神殿の中全体を見渡してもそこは圧巻だった。天井に張り巡らされた色とりどりのガラスは、複雑な模様を描きながら日の光を通し、神殿内部の色彩を鮮やかにしている。壁も幾何学模様をあしらった凝った造りになっており、職人の丁寧さが窺えた。
「確かに、この中を見ているだけでも心が洗われますね」
 私が感嘆の声を上げると、隣を歩いているユウリからも、息を呑む音が聞こえた。
「ついてきてください。ここから先は、関係者以外立ち入り禁止となっております」
 エドガンさんは通路の最奥にある扉の前に立ち、鍵を開けた。扉を開き、エドガンさんに続いて中に入ると、先程とは違い、薄暗く細長い通路が奥までずっと伸びているのが見えた。
「この先をまっすぐ行き、外へと続く扉を通れば地球のへそと呼ばれる大岩にたどり着きます。その大岩の裂け目から中に入れる場所がありまして、そこが修行場となっております。最奥部には到達した者にしか手にすることができない証があり、それを持ち帰ればクリアとなります。けれどお気をつけください。この場所は古くから修行の場として多くの冒険者たちが挑んできましたが、最後まで到達できた者は誰一人いませんでした。それに、ここから先はお一人で行かなければなりません」
 エドガンさんが、神妙な面持ちで説明すると、ユウリが訝しげに尋ねる。
「到達できた者はいないと言ったが、出来なかった奴らはどうしたんだ?」
 エドガンさんは、その言葉を待っていたかのように懐からペンダントのようなものを取り出した。
「これは、旅の扉の残滓を集めて結晶化し、リレミトの魔法をかけたものです。これを持って念じれば、瞬時にここに帰ってくることができます

 旅の扉の残滓? 結晶化? よくわからない単語の羅列に、首をかしげる。
「要するにこれを持ってれば、リレミトを覚えていないお前でも、ここに戻ってこれるってことだろ。まあ俺は、途中で離脱するつもりはないけどな」
 ユウリは自分には必要ないからと、私にそのペンダントを渡すようにエドガンさんに促した。
「ですが、そのペンダントを使うのも本人次第。今まで数多の冒険者達が過度な自信を持つあまり、ペンダントを使わず先へと進み、二度と帰ってこれなくなりました」
 つまりペンダントを持っていても、使うタイミングを誤れば、命を落としてしまうかもしれないと言うことか。
「そう言った無謀な人たちによって、いつしか地球のへそは『一度入ったら二度と帰ってこれない不吉な場所』という噂が立ち、訪れる人は殆どいなくなりました」
「そうか。それで今は修行場ということを隠して、観光地として客を寄せ集めようとしているわけだな」
 腑に落ちた顔で、納得するユウリ。しかしその割には、観光客が殆ど見かけないのはどう言うことだろうか。
「ユウリさんの仰る通りです。……しかしここは人里離れたところにある町のせいか、ここ何年も観光客は殆ど来ておらず、今や我が町は財政危機に陥っているのです」
 すると、ずっと黙っていたへそにゃんが、ずいと顔を出してきた。
「苦肉の策でマスコットキャラを作ったんですが、現状は全く変わらなくて……」
 ああ、やっぱりへそにゃんはマスコットキャラだったんだ。
「根本的な解決策を考えないといけないのですが、どうにも思い浮かばないんですよね」
「なるほど……」
 二人が思い悩んでるのを見て、私も顎に手を当てて考え込む。
「おい、今は地球のへそに挑むのが先だろ」
「あっ、そうだった」
 ユウリに指摘され、はっと顔を上げる私。
 出来ればペンダントを使わずクリアをしたい。けれどその前に死んでしまったらどうしよう。そんな複雑な気持ちを抱えつつも、私は素直にペンダントを身につける。いくら強くなると言っても、そこで命を落としてしまっては元も子もない。気を付けなければ。
「では、早速挑戦しますか?」
「あっ、はい!!」
 勢いよく返事をすると、エドガンさんが目の前の廊下に進むよう手で促した。
「それなら、こちらへどうぞ。奥の扉を開ければ、地球のへそに通じます」
 その言葉を聞いた途端、廊下の先にある扉が、随分遠くに感じられた。
「それじゃあ、行くね」
 一度深呼吸をして、私は一歩前に出る。エドガンさんは不安そうにしていたが、口を出すことはなかった。
「あまり自分の実力を過信するなよ。それでなくてもお前はすぐ調子に乗るからな」
「わ、わかってるよ!」
 ホント、ユウリってば一言多い。何もエドガンさんの前で言わなくてもいいじゃない。
「では、お気をつけて」
「頑張って下さい!!」
 私は心の中でぶつぶつ文句を言いながらも、三人に見送られ、地球のへそへと挑むことにしたのだった。

 
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