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DQ11長編+短編集

作者:風亜
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温め合いの果てに

 
前書き
 過去編の神の岩でのマルティナとのイベントに手を加えた話。 

 
 イシの村復興後、マルティナと暮らす事になって。

「⋯⋯ジュイネは、この村の成人の儀で神の岩の頂上まで登ったのよね?」


「うん、そうだよ。幼なじみのエマと一緒にね」


「そう、あの子と一緒に⋯⋯」

 マルティナはそれを聞いて複雑な気持ちになり目を伏せる。

「どうしたの、マルティナ?」


「───私、ジュイネと二人だけで神の岩に登りたいわ。今すぐ行きましょう」


「え、今から? もうすぐ夕方だし⋯⋯それにマルティナは、高い所が苦手なんだよね」


「平気よ、あんなに高い場所にある命の大樹にも行った事があるんだし、神の乗り物ケトスにだって何度も乗っているのよ」


「ケトスには不思議なチカラがあって、風の抵抗とかも感じないから怖くないだけじゃ」


「いいから早く行きましょう、私はあなたと二人で神の岩の頂上まで登ってみたいのよ」


「う、うん、僕もいずれはそうしたいと思ってたけど⋯⋯。神の岩を登る時は、なるべく高い所だってことを意識しないで下の方を見ないようにね」


「わ、判っているわ。高所ではいつも、そうしているもの⋯⋯」

 平静を装うにも表情が強張っていたらしく、そんなマルティナをジュイネが優しく励ます。


「大丈夫だよマルティナ、僕がついてるから。いつだって手を貸すからね」


「そ、そうね⋯⋯ジュイネに意識を集中させていれば、きっと平気よね」


 途中紅白の魔物に阻まれながらも、マルティナは何とかジュイネの助けもあって神の岩の頂上へと辿り着いた。

「すっかり、暗くなったわね⋯⋯。明るい内に来た方が、景色も良かったかしら。少し霧が出て来たみたいで、遠くまでは見通せないわね」


「エマと登った時も霧が出てたけど、その後晴れてきてすごい遠くまで見渡せたっけ」


「あら、そうなの⋯⋯。残念ね、私もあなたとその景色を見たかったわ」

 顔を伏せてしまったマルティナに対し、ジュイネは素直な気持ちを述べる。

「夜の神の岩の頂上はミステリアスな雰囲気で、明るい時とはまた違って見えて素敵だよ。マルティナと二人きりで来ると、格別だね」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。⋯⋯手、握ってもいいかしら」

「うん、もちろん」


 マルティナは始めゆっくりと、そしてしっかりとジュイネの右手を両の手で握りしめ身体を寄せる。


「はぁ⋯⋯ジュイネの前で強がってもダメね。やっぱり高い所は苦手だわ」


「暗いから、足元気をつけてね。このまま寄り添っててもいいから」


「えっ? えぇ、ありがとう⋯⋯」

 ジュイネの気遣いが嬉しくて自然と笑顔になったマルティナは、今度は無心でジュイネの横髪を指先で触れる。

「───⋯⋯」

「あの⋯⋯マルティナ。そんなに僕の髪、気になる?」


「あ、ごめんなさい。つい触れたくなるのよ⋯⋯ジュイネの髪質って、本当にエレノア様とそっくりだから」


「そうなんだ⋯⋯。人からよくサラサラヘアーって言われるけど」


「ジュイネが生まれる前、初めてエレノア様の御髪に触れさせて頂いた時⋯⋯今でもはっきり覚えているけれど、それはそれは感動したわね。私もエレノア様のようになりたいって、幼い頃から髪の手入れは欠かした事はないわ」


「僕はペルラ母さんによく、ジュイネの髪はとてもサラサラしていて綺麗だから短く切るのは勿体ないって言われて、いつもこの長さでキープされるんだよね」


「あぁ⋯⋯その気持ちとてもよく判るわ。何だったら、エレノア様くらいに伸ばしてもいいのに」

 マルティナに間近で夢見るような表情で言われ、ジュイネは困惑する。


「えっ、それはさすがにちょっと⋯⋯。女の子みたいに思われる頻度が高くなっちゃうよ」


「それもそうだけど、きっとエレノア様と瓜二つだと思うのよね⋯⋯。髪の手入れは、欠かしてないのでしょう?」


「うーん、別に特別なことをしてるつもりはないけど」


「あら、そうだったの? 羨ましいわね⋯⋯それでそのサラサラな髪質をキープしてるだなんて」


「僕よりマルティナの長い黒髪の方がよっぽど綺麗でサラサラに見えるけどな⋯⋯。えっと、触れてみてもいいかな」


「えぇ、構わないわよ。⋯⋯はい」

 マルティナは長いポニーテールを手前に持って差し出し、ジュイネはその髪に優しく触れる。

「⋯⋯⋯⋯」


「(毛先とか、ゴワゴワしてないかしら⋯⋯。枝毛とかあったら、幻滅されちゃうわよね⋯⋯)」

 マルティナの心配をよそに、ジュイネは屈託のないふわりとした笑顔を見せる。


「指通りが滑らかで、とても触れ心地がいいよ」


「そ、そう? ふふ⋯⋯良かったわ。───あら、雨が降ってきたわね」


「ほんとだ⋯⋯。雨に濡れちゃうといけないから、ルーラで村にすぐ戻ろうか」


「いえ⋯⋯もう少し、あなたと共にここに居たいわ。ジュイネと居ると、よく雨に降られる気がするけど嫌いじゃないの。雨は⋯⋯正直好きではないけれど、あなたと再会してから嫌いじゃなくなったのよ」


「そっか⋯⋯、でもマルティナの身体が冷えちゃうよ」


「そうね、確かに冷えてきたわ⋯⋯。───温め合いましょうか」


「えっ」

 強すぎず、かといって弱くもない雨の中、マルティナのひと言で一瞬思考停止するジュイネ。


「こ、ここで?? 汚れ、ちゃわないかな⋯⋯」


「大丈夫よ⋯⋯多少の汚れは気にならないわ。───行くわよ、ジュイネ!」

 マルティナは鋭い蹴りを何度も見舞い、ジュイネは何とか受け身をとったり素早く躱す。


「(あっ、“温め合う”ってこういうことか⋯⋯。素手じゃ敵う気しないけど)」


 ⋯⋯二人は一通り身体を動かし、温まってきた所で雨はいつの間にか止み、霧も晴れて夜空に星々が瞬く。

「強くなったわね⋯⋯本当に。再会したての頃とは比べものにならないわ」


「そ、そうかな⋯⋯⋯。まだまだ、マルティナには敵わないよ」

 ジュイネはまだ息を乱していたが、マルティナは息ひとつ乱しておらず崖のふちに姿勢良く佇んでいる。

「さっきのように素手ならまだしも、あなたが剣を手にしたら私じゃもう敵わないと思うわよ」


「そんなことないと思うけど⋯⋯。それよりマルティナ、そんなとこに立ってて大丈夫?」


「え? そんなとこって───」

 マルティナはこの時自覚なく、ジュイネとの“温め合い”に夢中でその終わり際に降り立った場所が崖のふちの断崖絶壁だった事にふと振り向いた時に気付き、思わず下方を見てしまい目眩を起こしてバランスを崩す。

「ぁ⋯⋯」

「マルティナ!!」


 ジュイネは落ちてゆくマルティナの片手を間一髪で掴み落下を防ぐ。

「マルティナ、大丈夫⋯⋯?!」


「あっ、あぁぁ⋯⋯だめジュイネ、わたし今⋯⋯足が地面についてないわ⋯⋯っ。た、高すぎるのこわい、こわいの助けてっ!」

「お、落ち着いてマルティナ、今引き上げるから⋯⋯!」


 パニック状態に陥り目をぎゅっと瞑っているマルティナを励ましながら引き上げるジュイネ。⋯⋯その際、勢い余って仰向けになったジュイネの上にマルティナが折り重なる形で俯せになり、胸元がちょうどジュイネの顔面に覆い被さった。

「───⋯⋯あら? 私、どうしちゃったのかしら⋯⋯。ってジュイネ!? 私の胸の下敷きに───何があったの?!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 マルティナはすぐジュイネの上から退いたが、ジュイネは両腕を上向きに仰向けのまま目を閉ざし口は半開きのまま意識が無く、息すらしていないようだった。

「(何てこと⋯⋯私のせいでジュイネを窒息させてしまったの⋯⋯!? 急いで蘇生させなければ! 私は一切呪文は使えないからこれしか───)」


 マルティナはぐったりしたジュイネに対し人工呼吸を試みる。すると⋯⋯

「んっ⋯⋯えふ、えふっ」

「あ、ジュイネ! 息を吹き返した⋯⋯?!」


「はぁ、ふぅ⋯⋯⋯。あれ⋯⋯マルティナ、どうしたのそんなに、泣きそうな顔して───わっ」

「良かった、意識を戻してくれて⋯⋯! 私のせいであなたがまた遠くへ行ってしまうんじゃないかって心配したわ⋯⋯っ」


 上半身を起こしジュイネの顔面を自分の胸元にうずめ、強く抱き締めるマルティナ。

「むぐぐっ⋯⋯」

 背中をパシパシと軽く叩いて苦しい事をマルティナに訴えるジュイネ。


「あ、あらごめんなさいっ。またあなたを窒息させる所だったわね⋯⋯」

「ぷはぁ⋯⋯と、とにかくマルティナが無事でよかったよ。あんなにパニックになってるマルティナは初めて見たから⋯⋯」


「自分から高めにジャンプする分には問題ないのだけど、あんなふうに高所からぶら下がった状態で地面に足がついてない感覚は耐えられないのよ⋯⋯」


「僕も崖から落ちたことあるのはマルティナも覚えてると思うけど、あの時は足場が急に崩れ出して、身体ごと落下したものだからすぐ意識を失っちゃったんだよね⋯⋯。マルティナはそんな僕を助けようと自分から崖下に飛び込んで行ったんだってね」


「あの時は、無我夢中だったから⋯⋯。今度は絶対にあなたを離すわけにはいかないって。そう想ったら、崖下に飛び込むのなんてちっとも苦じゃなかったわ」


「そうだったんだね⋯⋯。改めて、ありがとうマルティナ。その時の僕を助けてくれて」


「いいのよ、それくらい。⋯⋯それに、今度はジュイネが私を助けてくれたでしょう。その直後に、意図せず私はあなたを窒息させてしまったけれど」


「あれ、そういえば窒息からの蘇生って⋯⋯」


「私の人工呼吸に決まってるじゃない?」

 さも当然に答えるマルティナに、ジュイネは思わず真っ赤になる。


「ふふふ⋯⋯。あらジュイネ、あなた仰向けに倒れたせいか髪が随分汚れてしまってるわよ。もう晴れてるけど雨も降っていたから地面は濡れていたものね⋯⋯」


「マルティナこそ、地面についちゃったのか長いポニーテールが汚れちゃってるよ。早く家に戻って汚れを落とさないと」


「そうね、じゃあ帰ったら私がジュイネの髪を丁寧に洗ってあげるわね」


「それなら⋯⋯マルティナの髪は僕がちゃんと洗ってあげるよ」


「あら、嬉しいわね⋯⋯洗いっこするのが楽しみだわ」




end



 
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