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DQ11長編+短編集

作者:風亜
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男装の勇者
  第八話:過去と未来の行く末に

 ─────お姉様、私達はとうとう、魔王ウルノーガを倒し命の大樹を復活させる事が叶いました。


皆さんそれぞれの場所に帰られましたが、聖地ラムダでささやかながら宴を催す事になりまして、数週間振りに皆さんとまたお会い出来るのがとても嬉しいです。

お姉様の墓前にも、きっと色々なお話をして下さる事でしょう。楽しみですね、ベロニカお姉様⋯⋯⋯


シルビア
「みんな久し振りね~! 元気だったかしらっ? アタシは世助けパレードのみんなと日々沢山の人に笑顔を届けてるわよん!」

カミュ
「長く眠ってたのから目覚めた妹のマヤも連れて来たかったんだが、まだ体調が万全じゃなくてな⋯⋯。一緒にお宝探しの旅をする約束してるから、早いとこ元気になってほしいもんだぜ」

ロウ
「わしは少しずつではあるが人手を集めユグノア王国の復興に着手しておる所じゃが、他にも復興しなければならぬ場所も多いしの⋯⋯。しかしどんなに時間が掛かろうとわしゃ諦めんぞい!」

マルティナ
「お父様と私とグレイグは今は復興中のイシの村に居て、復興を手伝っているわけだけど⋯⋯、それが終われば次はデルカダール王国ね。何年掛かるか判らないけれど、必ず成し遂げてみせるわ」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

セーニャ
「ジュイネ様、大丈夫ですか? 何だか、お疲れになられているように見えるのですが」

ジュイネ
「⋯⋯え? あぁ、うん⋯⋯大丈夫だよ」

グレイグ
「大丈夫ではないだろうジュイネ、お前⋯⋯俺達にはよく休めと言うのに自分は殆ど休まずに率先して村の復興にチカラを注いでいるではないか。それだけ責任を感じ、償おうとしているのは判るがこのままではお前の身体が持たないぞ」

ジュイネ
「大丈夫だってば。⋯⋯勇者としての僕の次の使命は、世界の復興なんだ。休んでなんていられないし、本当はすぐにでも復興に戻りたいけど⋯⋯聖地ラムダの人達がせっかく僕らのために開いてくれた宴だし、楽しまないと悪いからね」

セーニャ
「(こんな時、お姉様だったら───)」


カミュ
「⋯⋯なぁ、こうしてみんなまた集まれたんだし、行っときたい所があるんだけどよ」

ロウ
「どうしたのじゃカミュよ、何か気になる事でもあるのか?」

カミュ
「あぁ⋯⋯魔王を倒した後ケトスでみんなそれぞれの場所に送り届けてる時、グロッタの南付近が妙に光輝いて見えて気になってな。クレイモランに送り届けてもらった後少し休んでからオレだけで見に行こうかとも思ったが、目覚めたばかりのマヤを一人にする訳にもいかなくてよ」

ジュイネ
「そういえば、気になる光だったけど⋯⋯魔王を倒した直後だったし疲労もあったから、調べに行く余裕はなかったもんね」


 一行はグロッタの町の南方面へと向かった。
そこには今まで見た事のない景色が広がっており、遺物や遺跡のようなものが広範囲に散乱していた。

ロウはそこである重要な書物を見つけ、皆に読んで聞かせた。

『ロトゼタシアの大地より生まれし悠久の時間の流れを紡ぐ精霊、その名は失われた時の化身。

神の民の伝承いわく、失われた時の化身が守りしは刻限を司る神聖なる光。

その光輝き燃ゆる時、悠久の彼方に失われしものが大いなる復活を果たさん───』


グレイグ
「復活、とは⋯⋯もしやその光には、失ったものを蘇らせるチカラがあるのでは」

セーニャ
「失ったものを、蘇らせるチカラ⋯⋯⋯もしや、お姉様を⋯⋯!」

マルティナ
「ロウ様、その光のチカラについてもっと詳しく書かれていないのですか?」

ロウ
『───刻限を司る神聖なる光、忘却の塔にて静かに輝けり。

古より神の民が守りし“神秘の歯車”を手に入れし時、

失われた時の化身が集う忘却の塔を目指すべし』


シルビア
「神秘の歯車、それがベロニカちゃんを蘇らせる手がかりになるのかしら⋯⋯」

カミュ
「少しでも希望があるなら、それに懸けてみるべきだ。オレはそうして運命が変わったんだからな」

セーニャ
「⋯⋯蘇生呪文は、肉体の破損が激しいほど難しくなります。亡くなってしまった直後で、且つ蘇生可能な範囲ならば蘇生率は高まります。ただ、ベロニカお姉様のように肉体が完全に消失し、何ヶ月も経っていては望みはありませんが。───たとえ僅かな希望でも、もう一度お姉様に会えるなら⋯⋯私は、その希望に懸けてみたいと思いますわ」

ジュイネ
「───⋯⋯だめだよ」

セーニャ
「えっ、ジュイネ⋯⋯様?」

 その苦しげなひと言に、驚きを隠せないセーニャ。


ジュイネ
「魔王が誕生した時、数多くの人々が亡くなったんだよ。ベロニカだけ、蘇らせたとしても⋯⋯それをベロニカが喜ぶとは思えないよ」

カミュ
「いや、けどこうも考えられねぇか? もしかしたらベロニカだけじゃなく、他に死んだ多くの人達も蘇らせる事が出来るんじゃ───」

ジュイネ
「そうかも、しれないけど急にそんな都合のいい話⋯⋯」

グレイグ
「確かに、な⋯⋯。一度失ったものは、元には戻らないのが現実だ。俺は一瞬、かつての友を取り戻せるのではと思ってしまったが⋯⋯⋯」

ジュイネ
「─────」

カミュ
「本当に失ったものを蘇らせるチカラがあるってんなら、それを確かめるくらい構わねぇだろ。その時に改めて判断しようぜ」

ロウ
「うむ⋯⋯カミュの言うように確かめる価値はあると思うぞ。して、肝心の神秘の歯車じゃが───ほれ、そこの壁にそれらしき窪みがある。もしかすると、近くに落ちている可能性もあるのう」

カミュ
「おっしゃ、この周辺をくまなく探してみるとしようぜッ」

セーニャ
「はい⋯⋯!」

シルビア
「セーニャちゃん、焦っちゃダメよ。じっくり探してみましょ」

マルティナ
「⋯⋯グレイグは、ジュイネの傍に居て頂戴。私達は神秘の歯車を探すから」


グレイグ
「───ベロニカを蘇らせられたとして、お前はどんな顔をして会えばいいか分からないのだろう」

ジュイネ
「それは、そうだよ。⋯⋯顔向けすら、出来ないよ。言葉をかけるにしても、謝る事しか思い浮かばないし」

グレイグ
「俺も、そうかもしれん。いや⋯⋯相手はベロニカではないのだが」

ジュイネ
「分かってるよ。グレイグからしたら⋯⋯そうだよね」


カミュ
「おい、それらしいもん見つけたぜ!」

セーニャ
「神秘の歯車、これでお姉様を───ですが、『失われた時の化身が集う忘却の塔を目指すべし』とは、どこなのでしょうか」

カミュ
「実はな、もう一つ気になってたんだが⋯⋯ケトスに乗ってる時、命の大樹の北に寂れた塔のある場所を見つけたんだ。そこに行ってみねぇか?」

ジュイネ
「ケトスでしか降りられない場所なら⋯⋯僕しか呼べないケトスを僕が呼ばなかったら、行く必要ないよね」

セーニャ
「⋯⋯⋯分かりました。私一人、例え時間がかかっても自力で命の大樹の北の寂れた塔に向かいますわ」

 別段感情を露わにした訳ではなく、毅然とした態度でジュイネに言い切るセーニャ。


ジュイネ
「───⋯⋯無理はさせられないよ、セーニャまでどうにかなったりしたら僕は僕を許せないし。分かったよ、ケトスを呼んで寂れた塔に向かおう」





 忘れられた塔、とこしえの神殿。そこには時の番人なる者がおり、失ったものを取り戻すには世界ごと時を巻き戻す必要がある事を知る。

それにより魔王が誕生する前の時間に戻れるとも知った一行だが、現在の記憶を持ったまま時を遡れるのは只一人⋯⋯⋯勇者であるジュイネだけだった。

セーニャ
「そんな⋯⋯、ジュイネ様以外は時を遡れず、私達は世界の巻き戻しによって今ある記憶を忘れてしまうのですか⋯⋯?!」

グレイグ
「何とか、ならないのか⋯⋯! それでは、魔王誕生後の辛い記憶をジュイネは只一人背負う事になる⋯⋯ッ」


ジュイネ
「───いいんじゃないかな、それで」

カミュ
「お前、何言って」

ジュイネ
「だってそうでしょ。あの時より強くなった今の僕が時を遡って、魔王が誕生するのを阻止すれば⋯⋯僕らはベロニカを失うこともないし、多くの人々の命も失わずに済む。いい事だらけだよ、魔王誕生後の世界を無かったことに出来るなら───僕は迷わず世界を救い直しに行くよ」

マルティナ
「待ってジュイネ、少し冷静になりましょう? 性急過ぎるわ、そんな簡単に決めていい事じゃないのよ。それに⋯⋯時を遡るのを失敗する可能性だってあるのに」

シルビア
「そうよジュイネちゃん。魔王誕生後だろうとアタシ達、ジュイネちゃんと共有してきた色んな感情をそう簡単に忘れたくないわ⋯⋯」

ロウ
「その通りじゃよ。確かに悲しい事が多過ぎた⋯⋯だからこそ我々はそれを受け入れつつ前に進まねばならんのじゃ。何も、魔王誕生後の世界を無かった事にせんでも良い⋯⋯。ましてお主一人に辛い記憶を背負わせるなど」

ジュイネ
「僕一人が魔王誕生後の世界を覚えてるくらい、どうってことないよ。だってそれは僕の勇者としての罪だから当然の事なんだ。⋯⋯それより時の流れは待っちゃくれない、こうしてる間にも魔王誕生前に戻れなくなってしまう。だったら今すぐ」

カミュ
「待てっつってんだろジュイネ! せめて一晩考える時間作って冷静になれッ。⋯⋯それでもお前一人時を遡るって覚悟が変わらなかったら、オレらはもう何も言わねぇ。だから───」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯。分かった、そうする」

グレイグ
「⋯⋯では一旦皆で、復興中のイシの村に戻るとしよう」



 その夜、イシの村の桟橋にて。


カミュ
「他のみんなとは、一通り話し合ったのか?」

ジュイネ
「うん⋯⋯。グレイグとはまだちゃんと話せてないけど」

カミュ
「おっさんなら、神の岩の麓に向かってったぜ」

ジュイネ
「⋯⋯セーニャにすら、僕一人で過去に戻るのを反対されちゃった。あんなにベロニカとまた会いたがってたのに」

カミュ
「そりゃそうだろ、自分は過去に行けない上に勇者のお前だけは行けるが⋯⋯万が一時を遡るのに失敗して時の渦に吞まれたら、永遠に時の狭間を彷徨う事になるらしいからな」

ジュイネ
「最初は、ベロニカだけを蘇らせることに抵抗感じたけど⋯⋯魔王誕生前に戻って、ベロニカや多くの人々の命も失わずに済むなら僕はやっぱり時を遡ろうと思う。例え時の狭間を永遠に彷徨うことになっても、後悔は無いよ。それに⋯⋯過去に戻れたら、勇者としての失敗を無かったことに出来るんだし」

カミュ
「そりゃ違うな⋯⋯お前は自分の罪だと感じている勇者としての失敗を一人で背負い続けるつもりなんだろ。時を遡れないオレ達は、世界が巻き戻されたら魔王誕生後の世界を忘れちまうからな」

ジュイネ
「─────」

カミュ
「なぁ⋯⋯やめちまえよ、お前は“ここ”に居ろ。ベロニカの想いを無駄にすんな、あいつはオレ達を⋯⋯お前を命懸けで守った事を後悔なんかするわけねぇし、自分が死んだ事実を無かった事にしてほしいとも思ってるはずがねぇだろ。他の多くの人の犠牲も気にし過ぎるな、あれは⋯⋯仕方なかったんだ」

ジュイネ
「だけど⋯⋯! んっ」

 不意に口元をカミュに塞がれるジュイネ。

ジュイネ
「んん⋯⋯っ、はっ、やめてよ。⋯⋯っ!」

 口元を口元で塞いで来るのをやめようとしないカミュ。


ジュイネ
「───やめろって、言ってるだろっ!」

 ジュイネはカミュを強く突き放す。

カミュ
「⋯⋯⋯⋯」

ジュイネ
「僕が⋯⋯本当に男だったら、そんなことしないくせに」

カミュ
「どうだろうな、そうとは限らねぇぜ」


ジュイネ
「────。とにかく⋯⋯そういうの、やめてよ」

カミュ
「悪かったよ。けどどうせ⋯⋯世界が巻き戻されちまえばオレは忘れちまうんだ。黄金城での件も───。お前は、忘れられない。そうだろ」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」


カミュ
「もっとお前にオレを刻み込んでやりたかったが、もうやめとくぜ。時を遡るお前の覚悟が変わらないなら、止めやしねぇさ。なんつーか⋯⋯ホムラの里での件は嬉しかったんだぜ、オレの為に血を流してまで───まぁ、オレじゃなくてもお前は同じ事したんだろうけどな」

ジュイネ
「カミュ、僕は」

カミュ
「もういいって。ほら、まだちゃんと話してない奴がいるだろ。⋯⋯そいつのとこ行ってやれ」

 ジュイネはその場を後にし、神の岩の麓へ向かって行った。

カミュ
「はーあ、何言ってんだオレは⋯⋯」



 淡い月明かりがのぞく、神の岩の麓。

ジュイネ
「⋯⋯グレイグ」

グレイグ
「む、ジュイネか⋯⋯。どうやら一度決めた心は変わらぬようだな」

ジュイネ
「うん。世界を救い直して、あの時死ぬべきじゃなかった多くの人々を⋯⋯ベロニカを助けたいんだ」

グレイグ
「そうか、ならば何も言うまい。⋯⋯しかし魔王誕生前となると、お前達とは仲間になる前の敵対関係のままだな」

ジュイネ
「正式ではないけど、離れていても事実上もう仲間だったようなものでしょ。それに魔王誕生前に正式に仲間になれなかったのは、イシの村のみんなを城の地下に幽閉したと見せかけて守ってくれてたからだし⋯⋯。その時デルカダール王に取り憑いてたウルノーガに逆らったら、村のみんな殺されてただろうから⋯⋯グレイグには感謝してるよ」

グレイグ
「それなら、いいのだが」

ジュイネ
「グレイグはきっとまた、僕の盾になってくれるって信じてるから何の心配もしてないよ」


グレイグ
「あぁ⋯⋯俺は何度でもジュイネの盾となる。お前は我が“剣たる主”なのだから」

ジュイネ
「うん、ありがとう。⋯⋯グレイグは僕のこと、男か女かどっちかでしか見てなかったりする?」

グレイグ
「そんな事は、ないと思うが⋯⋯。どちらだろうと、お前はお前だろう」

ジュイネ
「そっか、そう思ってくれてるならいいよ。───僕は誰のものにもならないから」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ジュイネ
「それとも、グレイグは僕のこと欲しい?」

グレイグ
「お前は自分を“もの”ではないと、先程言ったろう。欲しい以前に、貰う気はない」

ジュイネ
「⋯⋯グレイグがそんな人でよかったよ」

グレイグ
「(いや、しかし俺はあの時⋯⋯たった一人常闇の魔物を倒すと決めた際にジュイネの口元に───その時俺は確かに、欲していたのかもしれん)」

ジュイネ
「どうしたの?」

グレイグ
「何でも、ないのだ。⋯⋯お前は世界を救い直し、俺はきっとまた勇者の盾となる。それまで暫しの別れだが、また逢おうな⋯⋯ジュイネ」

ジュイネ
「⋯⋯うん」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ふー、気持ちいいわねー!」

「お、お姉様ったら⋯⋯泳いじゃいけませんわ」

「いいじゃないのよセーニャ、貸し切りの広い露天風呂なのよっ? ホムラの里の問題を解決して無料で貸し切ってもらってるんだし、固い事言いっこなしなし!」

「ふふ、そうですね⋯⋯それじゃあ私もベロニカお姉様を見習って泳ぎますわ!」

マルティナ
「あらあら、姉妹で泳いじゃって⋯⋯。すぐにのぼせちゃっても知らないわよ?」

ジュイネ
「あはは、ベロニカとセーニャらしいなぁ」

ベロニカ
「⋯⋯それにしても、混浴じゃなかったらもっと良かったんだけどねっ? まぁカミュとグレイグは気を使ってるのか結構距離置いてるし、ロウおじいちゃんなんかはのぼせるといけないからってシルビアさんが一緒に打たせ湯の方に行ったけど」

セーニャ
「お二人とも、寂しそうじゃありませんか? お話くらいしてもいいのでは⋯⋯」

ベロニカ
「あんたねぇ、みんなタオル巻きの許可もらってるからって裸には違いないのよっ? ほっときなさいって。───何だかここまでの事思い返すと、あんたすごかったわよね!」

ジュイネ
「え?」

ベロニカ
「命の大樹での事よ。ホメロスの不意打ちに気付いて、その上あたし達を闇の攻撃から守ってくれたでしょ。いつもぼーっとしてるあんたにしては、急に頼もしくなったじゃないのよ」

ジュイネ
「そう、かな」

ベロニカ
「デルカダール王にずっと取り憑いてたウルノーガがやっと姿を現して戦った時も、ずいぶんあたし達より強くなってた気がするのよね。どんな裏技使ったのよ?」

ジュイネ
「裏技っていうか、その⋯⋯」

ベロニカ
「まぁあんたがどんな裏技を使ったとしても、あたし達はあんたに助けられたわけだし⋯⋯ありがとね、ジュイネ」

ジュイネ
「そんな⋯⋯僕にとってはみんなが居てくれたからここまで来れたんだよ。ありがとう、ほんとに⋯⋯ベロニカ」

ベロニカ
「何て言うかまぁ、お互い様って事かしら? ⋯⋯あとは何でか知らないけど勝手に復活した邪神を倒すだけね。黒い太陽に引きこもってるヤツなんて、こっちから倒しに行ってやりましょっ」

マルティナ
「そうね⋯⋯腕が鳴るわ。ジュイネだけじゃなく神の民の里では、私達もチカラを目覚めさせてもらったし。それにいつの間にか知らない技も覚えて⋯⋯早く披露したいものだわ」

ジュイネ
「(デビルモードのことかな⋯⋯それは、忘れたままでもよかったのに)」

セーニャ
「そういえば私、お姉様が扱う呪文を覚えていた気がするのですが⋯⋯すっかり忘れてしまいましたわ」

ベロニカ
「は? 何言ってるのよセーニャ。あたしがあんたみたいな回復呪文使えないように、あんたがあたしみたいに攻撃呪文使えるわけないでしょ! 呪文には人それぞれ得手不得手があるのよ、夢でも見たんじゃないのっ?」

セーニャ
「そうですよね、私なんかがお姉様の攻撃呪文を覚えられるはずないですもの⋯⋯」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」


ベロニカ
「打たせ湯の方に行ってるシルビアさんとロウおじいちゃんはともかく、あの二人⋯⋯カミュとグレイグ、あたし達から距離置いて露天風呂の隅っこで大人しくしてるのもつまらないわね。ちょっかい出してやろうかしらっ」

ジュイネ
「な、何をするつもりベロニカ。まさか───」

大人ベロニカ
「ねぇカミュ~、グレイグ~⋯⋯あたしぃ、のぼせちゃったみたいなんだけどぉ~」

カミュ
「のわッ?! ベロニカお前⋯⋯露天風呂に大人の姿に戻れる紅いペンダント持ち込んでんじゃねーよ!?」

グレイグ
「はッ、はしたないポーズをとるんじゃない?! こっちはわざわざ目を逸らしていたというのに見せに来るとは不覚だ⋯⋯ッ」

大人ベロニカ
「あははっ! なに狼狽えてるのよ、二人してかわいいわねー!」

ジュイネ
「ベロニカ、二人を困らせちゃダメだよ⋯⋯」

大人ベロニカ
「何ならもっと困らせてやるわよ。⋯⋯ほらジュイネ、あんたもセクシーポーズの一つでも二人の前でしてみなさいっ!」

ジュイネ
「えっ、え?! 僕⋯⋯っ」

カミュ
「⋯⋯⋯⋯」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ジュイネ
「ぱ⋯⋯⋯ぱふ、ぱ」

大人ベロニカ
「脱いでると意外と大きいのは分かるけどそれはやらなくていいから!!」

 ベロニカが後ろから両肩を掴んで勢いよく引き寄せた拍子に何故か身体に巻き付けていたジュイネの白いタオルが、はらりとほどけ落ちる。

ジュイネ
「───ぁ」

カミュ
「」

グレイグ
「」


────────────

─────────


 ⋯⋯⋯ついに邪神を倒し黒い太陽から脱出して光の粒が満たす大空の中、神の乗り物ケトスの上でふとジュイネは勇者としての役目を終えた左手の紋章に目を向け、最後にやるべき事を思い付く。

それは、とこしえの神殿にて時の番人と化している“彼女”を元の姿に戻し、勇者の剣を授け、紋章を譲渡する事。

それによって“彼女”は自分と同じように時を溯り、愛する者との再会を果たす事だろう。


 ───勇者の剣は壊れずに音を立てて地に落ちた。

それと同時に、ジュイネは糸が切れた人形のように倒れてしまう。

⋯⋯これまで勇者の紋章のチカラで保たれていた身体が、遂には耐えきれなくなったらしい。

ジュイネはその場で仲間達に囲まれ、心配されて言葉を絶えず掛けられているようだがうまく聞き取れない。視界すらぼやけている。

何となく、こうなる事は分かっていた。

勇者の紋章を譲渡し失った事で、時を溯った際の反動が今になって現れたのだ。過去へ戻って世界を救い直すという行為は、それだけ危険な事だった。溯るのを失敗し、永遠に時の狭間を彷徨う事になるよりはマシかもしれない。

───僕はもう、勇者としての役目を果たしたんだ。世界を救い直したし、ベロニカも多くの人々も死なせずに済んだ。これで⋯⋯よかったんだ、思い残すことはない。


さよならなんて、言わないから⋯⋯きっと、みんなまた逢えるって、信じて────



──────────

────────
 
──────


 久し振りに仲間達が集まった。イシの大滝のほど近くに彼の墓石が建っている。彼は最期、勇者としてではなく一人の人間としてこの世を去った。

皆それぞれ彼に想いを馳せていると、仲間の一人がある事に気付いて声を上げる。

流れの弱い澄んだ水辺に、小さな揺りかごが浮かんでいる。

その中に、赤ん坊がすやすやと眠っていた。


仲間達は、彼が新しい命となって自分達の元へ逢いに戻って来てくれたのではないかと思い、皆でその子を育てる事にした。

それからというものとても活発に育ち、皆が手を焼くほどだった。


「⋯⋯ジュイネ!」


 誰かが、その名を呼ぶ。愛おしい想いを込めて。




end



 
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