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DQ11長編+短編集

作者:風亜
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男装の勇者
  第六話:仲間を探し求めて

 ジュイネとグレイグは暫く休んだ後、デルカダール王からの助言を受け勇者ゆかりの地にて魔王を倒す手掛かりを得る為、最後の砦を旅立ってはぐれた仲間を探しながらドゥルダ郷を訪れた二人は、齢11歳にして大僧正のサンポに出会い、本来ならジュイネの師となるはずだったニマ大師が魔王誕生の際、その強烈な衝撃波から郷全体を護る守護方陣を命懸けで展開し亡くなった事を知る。

ドゥルダ郷の人々は誰一人ジュイネを責める事はなく寧ろ手厚く労い、異変後の世界では特に食糧なども不足しているにも関わらず、規模は小さいながらも宴を催してくれた。

⋯⋯魔王を倒すのに有益な情報は得られなかったが、数日前から郷を訪れニマ大師の死を知るとドゥーランダ山頂へ向かった修行者が戻って来ないという事で、救助隊を出したが怪我をして戻って来た為代わりにジュイネとグレイグが山頂へ向かう事になりサンポ大僧正も同行する形となった。

グレイグ
「⋯⋯む? 山頂の御堂に何者か居るようだぞ」

サンポ
「修行者は郷の入口でニマ大師の死を聞いたらしく、私は直接会ってはいないのですが⋯⋯。何ということでしょうか、ずいぶん痩せ細った姿で座禅を組んだまま亡くなられている⋯⋯」

ジュイネ
「あれ⋯⋯? 身に付けてるペンダントってもしかして」

グレイグ
「ぬおッ?! 座禅を組んでいる横に置かれているのは⋯⋯、数あるムフフ本の中でも秘蔵とされる“ピチピチバニー”ではないか!!」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

サンポ
「⋯⋯⋯⋯??」

グレイグ
「ハッ、いや、その⋯⋯。この修行者は、世を儚んで亡くなったのだろうがその最期は⋯⋯きっと満ち足りていたに違いない」

ジュイネ
「それはともかく修行者が身に付けてるペンダントなんだけど、どう見てもこれ⋯⋯僕が譲り受けたユグノア王家のペンダントと同じなんだけどまさか───」

グレイグ
「そんな馬鹿な⋯⋯ユグノアの前王であるロウ様だというのかッ? 何という痛ましい姿に」

ジュイネ
「ロウおじいちゃん⋯⋯死んでしまったなんて⋯⋯」

サンポ
「⋯⋯待って下さい、ロウ様はまだ生きています! ですが、このままでは死⋯⋯。ロウ様はこの霊験あらたかなドゥーランダ山頂にて冥府へ出向いているのかもしれません」

グレイグ
「冥府⋯⋯だと?」

サンポ
「ドゥルダ郷では命懸けの修行を冥府で行う場合もあります。短期間で数年分の修行の成果を得られますがその分、命の危険も伴うのです⋯⋯」

ジュイネ
「冥府で修行してるのかもしれないけど、このままだと死んでしまうんでしょう? 何とか冥府に行って、ロウおじいちゃんを連れ戻せないかな」

サンポ
「私なら⋯⋯貴方を冥府へ送ることは可能ですが、冥府に向かうだけでも危険を伴うのです。それでも⋯⋯行く覚悟がありますか?」

ジュイネ
「うん、だって⋯⋯僕にとっては唯一の肉親でもあるし、このままにしておけない」

サンポ
「分かりました⋯⋯では石段に座って下さい。私が儀式を行い踊りますので、それをしっかり見ていて下さいね」

グレイグ
「待て、俺も行くぞジュイネ。共にロウ様を救い出そう」

ジュイネ
「⋯⋯グレイグはその手に持ってる本でも読んでなよ?」

グレイグ
「なッ、いや、これは⋯⋯ッ」

 ジュイネから笑顔で言われつつ怖いものを感じ、グレイグは急いで元の位置に本を手放す。


グレイグ
「俺はお前の盾であり俺の命はお前に預けているのだし、傍から離れる気は無いぞ」

ジュイネ
「そう、なら勝手にどうぞ。⋯⋯じゃあサンポ大僧正、お願いするよ」

サンポ
「はい、任せて下さい。ではお二人共、横に並んで座っていて下さいね⋯⋯」

グレイグ
「(ジュイネを怒らせてしまったようだ⋯⋯これからはピチピチバニーに反応する訳にはいかんな⋯⋯)」

サンポ
「ドゥーラリホ~、ドゥーラリホ~⋯⋯」

グレイグ
「さ、サンポ大僧正⋯⋯? 何なのだ、その踊りは」

サンポ
「冥府へ送る儀式の踊りです⋯⋯どうか黙って見ていて下さい⋯⋯ドゥーラリホ~、ドゥーラリホ~⋯⋯」

ジュイネ
「(な、何だか眠くなってきた⋯⋯)」

グレイグ
「(これで本当に冥府へ行けるの、か⋯⋯?)」


────────────

────────

─────


「⋯⋯おや、命の大樹の魂の循環が絶たれた事で、また憐れな魂が迷い込んで来たようだねぇ」

グレイグ
「あ、貴女は───」

ジュイネ
「⋯⋯グレイグ、鼻の下伸びてるよ」

グレイグ
「の、伸びてなどない⋯⋯?!」


「あはは! 面白いねぇあんたら。わざわざこんな所まで来るなんて、物好きも居たもんだ。あたいの弟子と引けを取らないね」

ジュイネ
「弟子って⋯⋯」

「連れ戻しに来たんだろう、あいつを。⋯⋯まだ修行を終えてないから返せないというか、あいつ自身まだ現世に還る気はないだろうけど会うだけ会ってみるかい?」

ジュイネ
「ロウおじいちゃんの、ことですよね。はい、会わせて下さい⋯⋯!」

「ふーん、成程ねぇ⋯⋯あんたがあいつの実の孫って訳か」

グレイグ
「貴女はやはり、大樹崩壊の折に郷を命懸けで護り亡くなられたニマ大師では⋯⋯」

ニマ大師
「あぁ、その通りさ。⋯⋯あたいの弟子になるはずだったユグノアの王子と、まさかこんな所で逢う事になるとはねぇ」

ジュイネ
「ニマ大師⋯⋯」

ニマ大師
「何だい、あたいが死んだ事に責任感じてるのかい? 安い同情はやめるんだね、あたいは郷を護る為にやるべき事をやったまでさ。魔王誕生を全部自分のせいにしない事だね」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

ニマ大師
「ちょっと待ちな、あんた───」

 ニマ大師はジュイネの胸元を注視すると、その部分に両の手を翳す。

ニマ大師
「⋯⋯こりゃまた、相当に厄介なもんを抱えてるじゃないか」

ジュイネ
「分かるの、ですか」

ニマ大師
「そりゃあね⋯⋯、あんたが本当はどっちかも把握済みだけど、このままだとあんたは───」

グレイグ
「胸元に受けた傷跡に、何か問題でもあるのですかッ?」

ニマ大師
「はぁ⋯⋯あんたちょっと煩いよ。かなりデリケートな話になるから、あんたみたいなガタイだけは良い心配性な男には話せないね」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ニマ大師
「まぁ何だ、魔王を倒せば問題なくなるにしてもその為にはチカラを付けなきゃならない訳だ。ジュイネ⋯⋯あんたも今のロウのように修行をする覚悟はあるかい?」

ジュイネ
「はい、あります」

ニマ大師
「よく言った⋯⋯と言いたい所だけど、勇者のチカラを大幅に引き抜かれた身で修行となると普段より何倍もの負担になる。現世に残して来た身体が耐えられるかどうか⋯⋯まさに、命懸けになるよ」

グレイグ
「ジュイネ、何も冥府での修行で命を懸けなくとも⋯⋯」

ジュイネ
「ロウおじいちゃんだってきっと諦めてないから、冥府まで来てニマ大師から修行を受けてるんだ。⋯⋯魔王を倒すために僕だって強くならなきゃいけない。ニマ大師、どうか僕に修行をつけて下さい」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ニマ大師
「そこまでの覚悟があるなら言う事ないね。⋯⋯さぁ、この奥に来な。あんたの祖父が修行の真っ最中だ⋯⋯まずは会わせてやらないとね」


 階段を登った先のドゥルダ郷を模した修練場にて、元の姿のロウが舞い踊りながら巨大な魔法陣を展開し、もうすぐ完成する所でへばるがニマの叱責により気合いで完成させ、魔力が身体中に満ちた様子でそのままグランドクロスという大技を上空へ放って見せた。

ロウ
「どうですか大師様! わしもまだまだやれば出来るでしょう!?」

ニマ大師
「あぁ⋯⋯大したもんだね。冥府まで来てあたいに修行を請うだけあるよ」

ロウ
「うっひょひょーい、大師様に褒められるとはそれだけで飯何杯もいけますわいッ!」

ニマ大師
「それはそうとお前、あたいの横にいる奴らが気にならないのかい?」

ロウ
「へ? ⋯⋯⋯⋯」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ロウ
「うぬ⋯⋯!?」

 一旦大師に目を戻してからロウは二度見するようにジュイネとグレイグを交互に凝視する。

ロウ
「ジュ、ジュイネではないか⋯⋯?! それにグレイグ、お主まで⋯⋯。おぉ、わしの愛しの孫ジュイネよ⋯⋯死んでしまうとは何事じゃ⋯⋯!」

ニマ大師
「早とちりして泣くんじゃないよ、こいつらは死んでここに来たんじゃない。現世で干からびてるお前を見て死んじまうと思って連れ戻しに来たんだとさ」

ロウ
「な、何じゃ⋯⋯寿命が縮まる所だったわい。わしならこの通りピンピンしとるぞ! ジュイネ⋯⋯、お主なら生きてくれているとわしは信じておったよ。何せわしの自慢の孫じゃからのう⋯⋯!」

ジュイネ
「ロウおじいちゃん⋯⋯! 心配したんだからね! 現世ではあんなやせ細っちゃってて⋯⋯死んじゃったのかと思ったじゃないか⋯⋯っ」

 ジュイネは実の祖父に泣きながら抱きつき、その孫の背中を優しくぽんぽんするロウ。

ロウ
「おうおう、心配掛けてすまんのぅ⋯⋯! 所でグレイグ、お主は───」

グレイグ
「ロウ様⋯⋯これまでの無礼、真に申し訳ございません。今は⋯⋯ジュイネに命を預けその盾として、傍に居させて頂いております」

ロウ
「そうかそうか、わしらの仲間になってくれたという事じゃな。お主もウルノーガに運命を狂わされた一人じゃ、ここは一致団結して魔王を倒さねばな。⋯⋯では大師様、グランドクロスも習得した事ですしわしは愛する孫と仲間と共に魔王打倒の旅を続けます。大師様の魂もいずれ必ずや命の大樹の循環に戻して差し上げましょうぞ!」

ニマ大師
「こら待ちな、⋯⋯まだ修行は終わってないよ」

ロウ
「⋯⋯ほえ??」

ニマ大師
「さてジュイネ、始めるとしようかい」

ジュイネ
「はい」

グレイグ
「お待ち下さい、ニマ大師⋯⋯どうか私にも、修行をつけて頂けないでしょうか。自分だけ何もせずに現世に戻るのは心苦しいのですが」

ニマ大師
「そうしてやりたい所だけど、時間が無いんだ。あんたを除け者にするわけじゃないんだけど、この二人に覚えさせたい大技がどうしてもあってね⋯⋯あんたの役割は、修行を終えて冥府から現世へ戻ったら干からびてるだろう二人を抱えてドゥルダの郷に戻り休ませる事⋯⋯それまでは、修行風景を見学しといてくれないかい?」

グレイグ
「成程⋯⋯承知しました」


ニマ大師
「じゃあまずは、右手を前に出して魔力を集中させな。あんたの心の強さが、そのまま剣の形を成すはずさ。それが、覇王斬という奥義になる」

ジュイネ
「はい⋯⋯」

 ジュイネが言われた通り右手を前に出し魔力を集中させると、朧気な形状の剣が出現した。

ニマ大師
「ふむ⋯⋯まぁ最初はこんなもんだろうね。それじゃ次は、戦いの中でその心の剣を強くしていこうじゃないか、覇王斬としてね」

ロウ
「ふあッ!? ジュイネが大師様と直に戦うのは早過ぎるのでは⋯⋯」

ニマ大師
「何言ってんだい、戦うのはお前だよ、お・ま・え」

ロウ
「わ、わしがジュイネと戦うのですか⋯⋯?!」

ニマ大師
「修行なんだから実の孫と祖父だろうがそれくらい当然だろ。⋯⋯お前に少しあたいのチカラを分けてやる、遠慮は要らないから本気で孫と戦いな!」

 ニマ大師はロウに両手を翳してチカラを注ぐ。

ロウ
「ぬおおぉッ⋯⋯、大師様のお陰で身体にチカラが満ちて若返った気分ですぞい!」

グレイグ
「ジュイネ、本当に大丈夫なのか⋯⋯?」

ジュイネ
「手加減されたら修行にならないよ。⋯⋯どんなに僕が追い詰められても手を出したりしないこと。ここは見守っててね、グレイグ」

グレイグ
「う、うむ⋯⋯」


 ロウは二体の分身を作り出し、ジュイネに容赦無く攻撃呪文を放ってはその合間に本体が覚えたばかりの大技グランドクロスも放って来る為、その猛攻に耐えつつジュイネは魔力を高め心の剣を強く大きくして行き、やがて威力を増した覇王斬はロウの本体を確実に撃破する。

ジュイネ
「はぁ、はぁ⋯⋯っ」

ニマ大師
「よく頑張ったじゃないかジュイネ! この短期間で覇王斬を習得するなんて⋯⋯その身体で正直驚いたよ。それだけ、あんたの心が強い証拠だね」

ジュイネ
「心強い、仲間が居ますから⋯⋯僕だけの、チカラじゃないです、よ⋯⋯」

グレイグ
「ジュイネ、奥義は習得したのだから身体を休めねば⋯⋯」

 今にも倒れそうなジュイネを支えるグレイグ。

ニマ大師
「ふふ、そうかい。あんたにとって、仲間の存在が心の強さの原動力になってるって事だね⋯⋯。さぁて、あたいは倒れたロウを起こしてやろうかね」


ロウ
「───ふほほ、わしがグランドクロス、ジュイネが覇王斬を習得した事で正に向かう所敵無しじゃ! 首を洗って待っておれよ魔王ウルノーガめッ」

ジュイネ
「ゔっ⋯⋯!?」

 突然の激しい痛みに胸を押さえるジュイネ。

グレイグ
「どうしたジュイネ、やはり先程の修行の反動が───」

ジュイネ
「ち、違う⋯⋯これは、“奴”が───」

ロウ
「な、なんじゃあ?! 冥府の上空にクラゲのような、デカくて禍々しい黒い物体が現れおったッ」

ニマ大師
「⋯⋯なる程ね、こんな所にまで執拗に勇者を探してお出ましになるとは」


『見つけたぞ⋯⋯勇者よ。やはりまだ死んでいなかったか⋯⋯。冥府から現世に還れぬようにしてくれる⋯⋯!』

 黒い触手がジュイネへ向け襲い掛かるがニマが守護法陣を張って一度は触手を弾き返すも、修練場の地面に勢いよく突き刺さった触手は守護法陣の内側に居る四人へ向け地中を這って真下から襲い掛かり、四人を容赦無く縛り上げ
ニマの守護法陣も解けてしまう。

ニマ大師
「く⋯⋯っ、やるじゃないか。流石魔王ってだけはあるね⋯⋯!」

グレイグ
「まッ、魔王の触手がジュイネを冥府まで追って来たというのか⋯⋯?!」

ニマ大師
「現世の霊験あらたかなドゥーランダ山頂ではあんた達の本体を狙えないから、わざわざ冥府までお出ましになって勇者の魂を消し去りに擬態を寄越して来たのさ⋯⋯!」

ロウ
「魔王らしい、底意地の悪さじゃわい⋯⋯! 覚えたてのグランドクロスをぶち当ててやりたい所じゃが、身体を縛られておってはそれも叶わんッ」

 巨大などす黒いクラゲのような物体に擬態した魔王の触手は、ジュイネばかりを執拗に締め上げ身体のあらゆる箇所に触手が食い込み蠢いて苦痛を与えている。

ジュイネ
「うあ"ぁっ⋯⋯!!」

グレイグ
「ジュイネ!?(くそッ、俺はジュイネを護る盾だというのに、このような触手如きで身動きが取れぬとは⋯⋯ッ)」

ニマ大師
「(まずいね⋯⋯あの魔王の触手、ジュイネを取り込もうとしている。僅かに残る勇者のチカラを奪った上で消し去りたいのか⋯⋯? それとも───)」

ジュイネ
「いや、だ⋯⋯っ」

魔王の擬態
『⋯⋯⋯?』

ジュイネ
「僕のせいで、これ以上みんなが苦しむのはイヤなんだ⋯⋯!!」

 ジュイネの身体から突如光が溢れ、魔王の触手がその清き光に四人を縛っていたチカラを失い勝手に解け、ニマはしめたと言わんばかりに声を上げる。

ニマ大師
「ロウ、ジュイネ! ありったけのグランドクロスと覇王斬を上空に居るデカブツに放つんだ! それを合わせ技として⋯⋯最終奥義のグランドネビュラで魔王の擬態にぶちかましてやりな!!」

ロウ
「合点承知! 行くぞいジュイネよッ!!」

ジュイネ
「うん!」

グレイグ
「(見ているだけというのはもどかしいものだが⋯⋯ここはジュイネとロウ様に任せるしかない)」

 グランドネビュラの膨大なエネルギーが魔王の擬態を捉え貫くと同時に上空で爆発が起き、目も開けていられない程の光に包まれた時ニマ大師の微笑みをジュイネは垣間見た気がした。


──────────

────────

─────


「⋯⋯⋯⋯?」

グレイグ
「おぉ、ジュイネ⋯⋯やっと目を覚ましてくれたか」

ジュイネ
「あ⋯⋯おはよう、グレイグ⋯⋯」

 ジュイネはまだ眠たげに目を擦り上半身を起こす。

グレイグ
「おはよう、ジュイネ。⋯⋯っと、そんな呑気な挨拶をしている場合ではない。お前⋯⋯冥府から現世に戻った後、三日も眠り続けていたんだぞ」

ジュイネ
「え、そうだったんだ⋯⋯ロウおじいちゃんやグレイグは大丈夫だったの?」

グレイグ
「ロウ様は枯れ枝のようだったが、何と自力で山頂から下山してな⋯⋯。同じく枯れ枝のようになってしまったジュイネは俺が抱えて下山した訳だが、冥府で修行をしていない俺の体力はほぼ削れていなかったから問題はなかったぞ」

ジュイネ
「そっか、よかった⋯⋯。ロウおじいちゃんは今どうしてるの?」

グレイグ
「ドゥルダ郷に戻った直後、粥を口にした途端元の姿のロウ様に戻ってな⋯⋯あれにも驚いた。その後はジュイネが目覚めるまで修練場で自己鍛錬をしておられる」

ジュイネ
「ロウおじいちゃん、すごいなぁ⋯⋯。僕なんて三日も寝っぱなしだったのに」

グレイグ
「無理もないだろう⋯⋯お前の場合は、寝ている内に枯れ枝のような状態から元の姿に戻っていったのだ。とはいえ、三日も寝ていたのだから腹が減っているのではないか?」

ジュイネ
「うーん、そうでもないけど⋯⋯(そういえば、あれからお腹が空かなくなってる気がする)」

ロウ
「⋯⋯おぉジュイネや、起きたようじゃの!」

ジュイネ
「ロウおじいちゃん! 元気そうでよかったよ、痩せ細った姿を見た時はほんとに心配したんだから⋯⋯」

ロウ
「そう簡単に愛する孫を置いて死ぬわけにはいかんわい。⋯⋯その代わり、お主もわしを置いて先に行くような事はせんでくれよ」

ジュイネ
「⋯⋯うん」


ロウ
「そうじゃ⋯⋯わしはジュイネに謝らねばならん事がある」

ジュイネ
「え? もしかして⋯⋯冥府に行く前にムフフ本を読んでいてそれを座禅の横に置いておいたものだからグレイグがそれに手を出しちゃったことかな?」

グレイグ
「(!? まだ根に持っていたのか⋯⋯)」

ロウ
「そ、それはそれですまん事をしたがそうではないんじゃ⋯⋯。お主の、出自についての事でな」

ジュイネ
「僕の⋯⋯?」

ロウ
「実は⋯⋯修行の前に冥府で大師様に、わしにとって幸せな夢を見せられてのう」

ジュイネ
「ムフフ本の内容を夢でしてもらえたの? それはよかったね」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

ロウ
「違う違う、そうじゃなくての⋯⋯。ユグノア王国での暮らしが幸せに続いておって、娘と婿殿が結ばれ勇者である孫が生まれて、ジュイネが健やかに育った夢をな」

ジュイネ
「どうしてニマ大師は、ロウおじいちゃんにそんな夢を⋯⋯」

ロウ
「それも修行の一環だったのじゃよ。離れ難い幸せな夢を見て尚、そこからきちんと目覚め現実で起きた事を忘れず、冥府での命懸けの修行をする覚悟があるのかとな⋯⋯」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

ロウ
「ジュイネが健やかに⋯⋯ありのままに育った姿は、まさに我が娘エレノアのように美しかった。───勇者の紋章を携えて生まれたジュイネを、男子として育てる事を提案したのは他でもない、わしなのじゃよ」

ジュイネ
「そう、だったの⋯⋯」

グレイグ
「─────」

ロウ
「アーウィンもエレノアも始めの内は反対していたんじゃがの、先代勇者の生まれ変わりとして立たせるには女子では心許なく、男子として育てれば面目は立つと判断したのじゃよ。今思えば、真に勝手な事をしたと反省しておる⋯⋯」

ジュイネ
「⋯⋯ロウおじいちゃん」

ロウ
「お主の揺りかごの中に入っておったエレノアの手紙には、お主を“ユグノアの王子”と表記してあったな。それをお主の育ての親であるテオ殿は何か察して、お主を男子として育てる事にしたのじゃろうなぁ」

ジュイネ
「僕は、男子として育てられたことに嫌な思いは一度もしてないよ。強くあるようにと育ててくれたテオおじいちゃんには感謝しかないし⋯⋯」

ロウ
「そうだと、いいんじゃがな⋯⋯。わしの夢の中で見た本来在るべきだったお主は、品のある美しい姫として育っておったからの。左手の甲に紋章を持つ勇者の生まれ変わりの姫として剣技も身につけ強さと美しさを兼ね備えておった。⋯⋯姫では勇者として成り立たぬと判断したわしの考えは浅はかだったのじゃ。本当にすまん事をした」

グレイグ
「(出来る事なら俺も、そんなジュイネを見てみたかった気もするが⋯⋯)」

ジュイネ
「うーん⋯⋯自分じゃ全然想像出来ないや、美しい姫なんて。やっぱり僕は、今の僕の方が好きだから⋯⋯今ここに在る僕が、本来の僕でしかないんだよ。惜しまれても⋯⋯姫としての僕は居ない。在るのは亡国の王子で、先代勇者の生まれ変わりの僕でしかないんだから」

ロウ
「そうか⋯⋯そうじゃな。勝手な事ばかり言ってすまんのう」

ジュイネ
「ううん、それだけ僕を思ってくれてのことだろうから⋯⋯感謝してるよ」

ロウ
「───そうじゃジュイネ、お主に“ユグノアの子守歌”を教えたいんじゃが」

ジュイネ
「ユグノアの、子守歌⋯⋯?」

ロウ
「お主がまだ腹の中におった時から、我が娘エレノアはユグノアの子守歌をよく聴かせておってな⋯⋯。とはいえお主は覚えとらんじゃろうから、教えておきたいんじゃよ。わしの歌では、ちと聞き苦しいかもしれぬが」

ジュイネ
「そんなことないよロウおじいちゃん。その歌聴かせてよ、しっかり覚えるから」

グレイグ
「私は席を外していますので⋯⋯」

ジュイネ
「え、どうしてグレイグ?」

グレイグ
「いや、無骨な俺がおいそれと聴いていいものではない気がしてな」

ジュイネ
「そんなことないのに⋯⋯そうだ、じゃあ覚えたら僕が聴かせてあげるから待っててよ」

グレイグ
「あぁ、楽しみにしているよ」



ジュイネ
「───グレイグ! ロウおじいちゃんから教わった“ユグノアの子守歌”を覚えたよ! 何だか聴いたことある感じがして、すぐ覚えちゃった」

グレイグ
「そうか、どうりで早いと思ったが⋯⋯では、聴かせてくれるか」

ジュイネ
「うん! ⋯⋯~~~♪ ~~~♪⋯⋯」

グレイグ
「(何と澄んだ声音⋯⋯⋯自然と目を閉じて、聴き入ってしまう⋯⋯───)」


ジュイネ
「⋯⋯⋯グレイグ、グレイグってば⋯⋯起きてよ!」

グレイグ
「はッ、何だ⋯⋯俺は、いつの間にか眠っていたのか??」

ロウ
「ほっほ、ユグノアの子守歌はある意味強力でのう⋯⋯あのメタル系の魔物ですら眠らせてしまうと言われておるくらいじゃからな。エレノアの歌声と似ていて驚いたぞい、やはり親子じゃな⋯⋯」

グレイグ
「とても心地良かった⋯⋯聴かせてくれて感謝するぞ、ジュイネ」

ジュイネ
「そう、かな⋯⋯何だか恥ずかしいや」


─────────

──────

 ドゥーランダ山を下山したジュイネ達は世助けパレードなる集団のウワサを耳にし、現れるであろう場所に向かうとそこには、一人の小太りの壮年男性が魔物に襲われ掛けておりそこへ颯爽と現れたのは何故だか奇抜な格好をしたパレードの集団でそれを率いていたのはなんとかつての仲間のシルビアだった。

シルビア
「やだ~、ジュイネちゃんじゃないのよ~!? 会いたかったわ~!」

ジュイネ
「元気そうでよかったよシルビア⋯⋯。その格好、というかこの集団はどうしたの?」

シルビア
「世界に笑顔を取り戻す世助けパレードをしてるのよ~。ジュイネちゃんも参加してみないっ?」

グレイグ
「な⋯⋯何なのだこいつらは。そのシルビアという奴は本当にジュイネの仲間なのか??」

シルビア
「あら~? もしかしてグレイグ将軍も仲間になったのかしら? それは頼もしいわね~! アナタもパレードに参加するといいわよ~」

ロウ
「ほう⋯⋯世界に笑顔を取り戻すとな。面白そうじゃの、わしも参加させてもらうとするか!」

シルビア
「流石ロウちゃんね~、ノリがいいわ!」

グレイグ
「いや、そんな事をしている場合では───」

シルビア
「んもう、生真面目なグレイグちゃんね! そんなアナタにはこの格好が似合うわよんっ!」

グレイグ
「お、おいこらやめろ⋯⋯!? ジュ、ジュイネ助けてくれッ」

ジュイネ
「あはは⋯⋯グレイグがピエロの格好になっちゃった。以外と似合うよ」

シルビア
「さぁ、ロウちゃんもこれに着替えて♪」

ロウ
「グレイグと同じピエロの格好のようじゃが⋯⋯ほっほ、なかなかしっくりくるわいっ」

ジュイネ
「ロウおじいちゃん、かわいいよ」

シルビア
「さ~ジュイネちゃ~ん? アナタには⋯⋯これよっ!」

ジュイネ
「紫と白の基調の⋯⋯ダンサー服??」

シルビア
「特注のパレード服よん! ジュイネちゃんと再会したら着せてあげようと思って新調したの、きっと似合うわよ~ん?」

ジュイネ
「───えっ、ちょっと待って、着替えた途端身体が勝手に⋯⋯?!」

グレイグ
「(こ、腰振りダンスとは⋯⋯あまり健全ではない気が)」

シルビア
「それじゃあ助けた男性をプチャラオまでパレードで送り届けてあげましょ♪ しゅっぱ~つ!」

──────────

───────

ジュイネ
「ぜぇ、ぜぇ⋯⋯踊りながら練り歩くのって結構体力使うんだね⋯⋯」

グレイグ
「村まで着いたのだから俺はもうピエロの服は脱がせてもらうぞ」

ロウ
「もう少し着ておきたい所じゃが⋯⋯わしも脱ぐかの」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

グレイグ
「どうしたジュイネ、手と腰を振り踊り続けているようだが⋯⋯もうプチャラオまで着いたのだから止めてよいのだぞ?」

ジュイネ
「も、もしかしてこのパレード服⋯⋯脱がないと踊りやめられないの⋯⋯??」

グレイグ
「な、何だと⋯⋯?! このままではジュイネが休まず踊り続け、疲れ果ててしまうぞ⋯⋯! ロウ様、手伝って下さい! ジュイネのパレード服を協力して脱がせましょうッ」

ロウ
「う、うむ⋯⋯!」

グレイグ
「お、おいこらジュイネ、大人しく脱がせてくれ⋯⋯ッ」

ジュイネ
「そ、そんなこと言われても身体が勝手に動いて⋯⋯うわぁっ」

グレイグ
「シルビア⋯⋯この服に踊り続ける呪いが掛けられているのじゃあるまいなッ?」

シルビア
「う~ん、そんなわけないと思うんだけどねぇ~?」


ジュイネ
「⋯⋯上半身は何とか脱げたけど、下半身脱げてないから腰振り続けちゃう⋯⋯恥ずかしい」

グレイグ
「一旦押し倒して脱がすか⋯⋯?」

ロウ
「大胆じゃなグレイグ⋯⋯」

ジュイネ
「わっ、そんな⋯⋯待ってよ、グレイグ⋯⋯?!」

─────────

──────

 シルビアが抱えていた親子関係の悩みが解決し、はぐれた他の仲間を探してジュイネ達は再び船で旅立つ事になるが、早々に問題が発生する。


グレイグ
「船倉から物音がする、だと⋯⋯? ネズミでもいるのか」

ジュイネ
「見て来ようか、グレイグ」

グレイグ
「あぁ、俺とジュイネで見てくるとしよう」


???
「ハグモグモグ⋯⋯久しぶりにまともな食べ物にありつけた⋯⋯。──様はオレに残飯しか寄越してくれないから⋯⋯食糧のある船倉に飛ばしてもらえてよかった⋯⋯」

グレイグ
「おい、食糧を漁っているそこのお前! 何者だ、いつから我々の船に乗り込んだッ」

???
「ひえっ、大きい声⋯⋯?!」

ジュイネ
「え、カミュ⋯⋯? カミュじゃないの⋯⋯!?」

グレイグ
「何だと? そういえば見覚えが⋯⋯」

カミュ
「あ、あなた達は⋯⋯オレの名前、知ってるんですか⋯⋯??」

ジュイネ
「知ってるも何も、旅の仲間じゃないか。よかった⋯⋯生きてくれていたんだね」

カミュ
「す、すみません! 食べてしまった食糧は船で働いて返します! ずっと、まともに食べてなかったから⋯⋯」

グレイグ
「おいジュイネ、カミュの様子がおかしくはないか」

ジュイネ
「そう、だね⋯⋯まさかと思うけど、記憶を失ってる⋯⋯?」

カミュ
「え、えっと⋯⋯停泊中の船に乗り込んで食糧漁ってたんです。すみませんでした⋯⋯!」

ジュイネ
「土下座なんてしなくていいんだよ、元々仲間なんだし。⋯⋯それより僕達のこと、ほんとに忘れちゃったの?」

カミュ
「は、はい⋯⋯何も覚えてなくて。気づいたら、どこかの浜辺にいて───」

ジュイネ
「そっか⋯⋯きっととても大変な思いをしたんだね。僕達と居れば記憶を取り戻せるかもしれないから、また一緒に旅をしよう?」

カミュ
「ありがとう、ございます⋯⋯。あの、あなたの、名前は?」

 差し伸べられた手を取り立ち上がるカミュ。

ジュイネ
「僕は、ジュイネって言うんだよ。⋯⋯改めて挨拶すると、何だか変な感じがするよ」

カミュ
「ジュイネ、さん⋯⋯(何だか懐かしい響きだ)」

グレイグ
「俺はグレイグ。勇者であるジュイネの盾として、仲間に加わったのだ」

カミュ
「ユウ、シャ⋯⋯? ジュイネさんは、ユウシャなんですかッ?」

ジュイネ
「どうなんだろ⋯⋯自分じゃ未だに勇者っていう実感があまりないんだけどね」

グレイグ
「勇者に関しては、覚えているのか?」

カミュ
「その、何というか⋯⋯何となく」

ジュイネ
「カミュは僕の勇者のチカラを必要としてるから、微かに覚えてるんじゃないかな」

グレイグ
「ふむ⋯⋯そういうものか」

カミュ
「─────」

グレイグ
「ジュイネをじっと見つめて、どうした? 何か思い出した事でもあるのか」

カミュ
「え、えっと⋯⋯ジュイネさんって、キレイな顔してますね」

ジュイネ
「⋯⋯えっ?」

グレイグ
「お前⋯⋯急に何を言い出すかと思えば」

カミュ
「す、すみません⋯⋯! ほんとにそう思ったので⋯⋯」

ジュイネ
「ふふ、そう言ってもらえてうれしいよ。⋯⋯さぁ、船倉から出て他の仲間にもカミュが生きてくれてたことを知らせなきゃ。記憶は、無くしちゃってるけど⋯⋯」



 ───内海を航行していると突然嵐に見舞われ、そこに現れた大型の海獣に船が襲われて大きく揺すぶられ、ジュイネは暗黒の海に投げ出された。

⋯⋯目が覚めると不思議な場所に居た。晴れ渡る澄み切った空、地面には色とりどりの花々が咲き乱れ、綺麗な小川が流れている。

その場に一つだけある水車小屋には、何故か様々な姿に変わる預言者と名乗る者がおり、よく分からない話を一通りされたあと『世界を救え』と言われデコピンを食らい再び意識を失って目覚めると、仲間達が心配そうに自分を覗き込んでいた。

不思議なチカラで何かに助けられたらしく、船着場の宿舎で休ませてもらう事になり他の仲間が先に行った後、海辺に光が差し文字が現れた。『勇気を胸に、いかずちを手に』と。


 バンデルフォン地方に降り立ちネルセンの宿屋を訪れると、泊まれば不可思議な夢が見られると話題になっており、もう一つ重要な情報として美人の女武闘家も泊まっていたという事だった。

それはマルティナではないかと察したジュイネ達は、その女武闘家はどこへ向かったかと宿屋の主人に尋ねたが、泊まってから翌日になって飛び出すように出て行ってしまった為どこへ行ったかまでは分からないという。

とりあえずジュイネ達は一晩宿屋に泊まり、誰でも見るという不可思議な夢を見た。⋯⋯口惜しいと嘆く戦士らしき姿と、その戦士を救ってほしいと懇願する女性の声がした。

ロウにとってその嘆きの戦士に見覚えがあり、鎧からしてユグノア王家の者と察しユグノア城跡へ向かう事を提案したが、新たな宿屋の噂話からどうやら美人の女武闘家はモンスターカジノと化したグロッタの町のVIPルームに居るらしかった。

何故そんな所に居るのかという疑問もそうだが、マルティナを放っておくわけには行かない為ユグノア城跡は後回しになりグロッタの町へ向かう事になった。


 グロッタの町は、ほぼ魔物に占領されていた。カジノ経営の為人間が強制労働させられている。下手に手を出すと人間を人質にされる可能性を考慮し、捕まっているかもしれないマルティナを先に助け出してからグロッタの町を解放する事にし、まずはVIPルームへ行く為にその入り口を塞いでいる魔物が欲しているラブリーエキスを入手すべくカジノでコインを稼ぐ。

ラブリーエキスをコインで何個か交換出来るほど稼いだ一行は、VIPルームに居る可能性のあるマルティナに会う為VIPルーム入り口を塞いでいる魔物にラブリーエキスを渡し、勝手に恍惚状態と化した魔物は突如、目の前のジュイネに残りのラブリーエキスを顔にぶちまけた。

「キキー! お前あのナイスバディな女武闘家には及ばないが、カワイげあるからあの方のお眼鏡にかなうかもなー? だからお前だけVIPルームへ招待してやるー!」

「──────」

カミュ
「ジュイネさん、液体かけられちゃって大丈夫ですか⋯⋯?!」

グレイグ
「おい、話が違うではないか! ジュイネだけをVIPルームへは行かせられ──」

ジュイネ
「ふふ、ふふふ⋯⋯⋯ぼく、ぴちぴちバニーになりたいなー」

 先頭にいて皆からは背を向けたままのジュイネが妙な事を口走る。

ロウ
「なぬぅ!? そ、それはならぬぞジュイネ。成人を迎えているとはいえ16のお主にはまだ早いぞいッ!」

シルビア
「ジュイネちゃんの様子がおかしいわよん⋯⋯!?」

グレイグ
「ま、待てジュイネ⋯⋯勇者のお前がピチピチバニーになりたいなど」

ジュイネ
「うるさいなー、ぼくはユウシャなんかよりピチピチバニーになりたいんだ⋯⋯───みんなうるさいから、ねんねしなよ」

 虚ろな表情で振り向いたかと思えば、ジュイネは仲間四人へ向け“ユグノアの子守歌”を歌い出し、止める間もなく四人は深い眠りに陥った。


──────────

───────

???
「さっさと起きなさい、あたしのかわいい玩具達。⋯⋯起きなさいって言ってるのよ!!」

グレイグ
「ふぐッ⋯⋯?! いきなり強烈な蹴りを食らうとは何事⋯⋯⋯姫様!?」

 目を覚ました仲間達が目にしたのは、肌や目の色が変わりバニースーツ姿と化しているマルティナだった。四人は円形状の煌びやかな広間に寝ていたらしい。

ロウ
「な、なんと⋯⋯夢にまで見た姿が現実に⋯⋯?! いやいやまさか、これが夢なのかのう⋯⋯??」

シルビア
「どうやら夢じゃなさそうだわねぇ、マルティナちゃんったらどうしちゃったのかしら⋯⋯」

カミュ
「こ、この怖そうな女の人が、ジュイネさん達の仲間の一人なんですか⋯⋯? あ、そういえばジュイネさんは」

マルティナ
「あぁ⋯⋯あの子ね。ジュイネなら今このモンスターカジノを取り仕切るブギー様に調教されてるとこよ」

グレイグ
「ちょ、調教ですとッ」

カミュ
「えっと、ちょうきょうって何ですか⋯⋯?」

ロウ
「うむぅ、それは聞かんでくれ⋯⋯」

シルビア
「⋯⋯今のカミュちゃんは知らなくていい事よん」

マルティナ
「正確には、着替えさせられてるとこじゃないかしら。───喜びなさい、あんた達はこれから“あたし達”の玩具になるのよ?」

グレイグ
「玩具⋯⋯とは、どういう」

マルティナ
「玩具はオモチャでしょ? 壊れるまでスキにして遊んでいいのよ⋯⋯! ブギー様はそれを許してくれるから」

 ニタリ、とおよそ彼女らしくない嫌な笑みを浮かべる。

ロウ
「そ、そうか判ったぞい! 姫よ、お主はそのブギーとやらに操られておるのじゃ。目を覚ましてくれい!」

マルティナ
「うるさいジイさんね⋯⋯すぐ壊してしまいそうだわぁ。そこのビビりなツンツン頭も、簡単に音を上げそうねぇ⋯⋯。壊れにくそうなのは、旅芸人と将軍くらいかしら?」

???
「ダメだよマルティナ⋯⋯玩具を独り占めするなんて」

グレイグ
「んなッ、ジュイネ⋯⋯ジュイネ、なのか??」

カミュ
「わあ⋯⋯ジュイネさん、なんてダイタンな───ダイタンって、なんだっけ」

 新たに声のした方に皆目を向けると、そこにはマルティナと同じような黒のバニースーツに身を包んだジュイネが煌びやかな広間に現れていた。

ジュイネ
「ブギー様ったらひどいんだ、ぼくはピチピチバニーになりたかったのに、バニースーツじゃ意味合いが違うんだよね」

グレイグ
「(ピチピチバニーとバニースーツの違い⋯⋯それは確かにあるな。どちらにせよ似合う───そうじゃないッ!)」

シルビア
「マルティナちゃんは既に洗脳されてるようだけど、ジュイネちゃんはラブリーエキスを直接顔に掛けられちゃったものだからおかしくなって、その上ブギーちゃんとかいう奴に洗脳されたんじゃないかしらん⋯⋯」

マルティナ
「失礼ね、あたしは正気よ! ブギー様を侮辱するのは許さない⋯⋯覚悟なさい、旅芸人の玩具!!」

シルビア
「あらご指名ね~、謹んでお相手させて頂きますわよん!」

ロウ
「⋯⋯わしも加勢するぞい!」


グレイグ
「カミュ⋯⋯下がっていろ、ジュイネの相手は俺がする」

カミュ
「え、でもオレだってジュイネさんを⋯⋯」

ジュイネ
「う~ん、ぼくが今相手にしたいのは青髪のきみかな。⋯⋯ぼくを欲しそうにしてる」

カミュ
「!」

グレイグ
「お、俺とてお前を───」

ジュイネ
「あなたは何ていうか、今ぼくを欲しいというより助けたいって感じでしょ。それじゃダメだよ」

グレイグ
「今のお前を助けたいと思うのは当然ではないか!」

ジュイネ
「わかってないな⋯⋯今のぼくは欲しいと思ってくれる人にあげたいんだよ。⋯⋯子守歌じゃこの場の全員眠らせちゃうから、これを使うね。──《ラリホー》」

グレイグ
「(ぬ、ぁ⋯⋯また、強烈な眠気、が)」

 グレイグはその場に頽れる。

ジュイネ
「さぁ⋯⋯えっと、カミュだったっけ。ぼくを、すきにしていいよ」

カミュ
「─────」

 ジュイネはバニースーツ姿で両の手を前に差し出して微笑みを浮かべ、カミュを招き入れようとする。

カミュ
「確かに、オレは⋯⋯今のジュイネさんを欲しいと、思います。けどやっぱり、こんなのダメですよ。目を覚まして下さい、ジュイネさん⋯⋯?!」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

 焦れったそうにジュイネはカミュに迫り、そのまま押し倒して四つん這いになり、顔を間近に寄せ囁きかける。

ジュイネ
「目を覚ますのは、きみの方だよ」

カミュ
「───⋯⋯」

ジュイネ
「ぼくが、欲しいんでしょ?」

カミュ
「ッ!」

 自分でも驚く素早さで、カミュは力強く身体を起こし逆にジュイネを押し倒して馬乗りになる。

ジュイネ
「そう⋯⋯それでいいんだよ」

カミュ
「ジュイネ、さん⋯⋯──ジュイネ」


 両の手首を掴み、顔を近づけて口元に口付けようとした瞬間、グレイグがカミュの背後のフード部分を掴み勢いよく引いて後ろの方へ投げやる。

ジュイネ
「あれ⋯⋯もう少しだったのに。ジャマしちゃダメじゃない。ラリホーの効きが悪かったのかな」

グレイグ
「ジュイネ⋯⋯いい加減にしろ。お前は、勇者なのだぞ」

ジュイネ
「勇者がバニーガールじゃいけない?」

グレイグ
「いや、それ以前の問題──」

ジュイネ
「ほら⋯⋯網タイツ、どお?」

 ジュイネはグレイグを誘うように脚を艶めかしく動かす。

グレイグ
「⋯⋯⋯そういうのは健全ではない、やめろ」

ジュイネ
「ふふ、生真面目だなぁ。我慢しちゃって⋯⋯ほんとはすきなくせに」

 その時、マルティナの甲高い声が聞こえそちらに目を向けると、シルビアとロウがマルティナを大人しくさせたようだった。

ジュイネ
「あーぁ、ブギー様の一番のお気に入りのマルティナが倒されちゃった。ブギー様も黙ってられないだろうなぁ。ぼくは即席の二番目みたいなものだし、どうってことないだろうけど」

 ジュイネの言う通り、でっぷりとした醜悪な妖魔軍王ブギーが煌びやかな広間に現れ、マルティナが倒れているのを見るや否や敵意剥き出しで襲ってきたが大した強さではなくグレイグ、シルビア、ロウだけでも倒すのは容易かった。

⋯⋯ブギーが倒されると、マルティナとジュイネの姿は自然と元に戻り、洗脳も解けたようだった。意識の戻ったマルティナの話では、本当はネルセンの宿屋で見た夢の真相を確かめる為にユグノア城跡へ向かうつもりだったが、途中グロッタの魔物の強制労働から命からがら逃げた人に会い助けを求められたのでグロッタの町を解放するのを優先したという。だが人質を取られ妖魔軍王の術中に嵌まってしまい、洗脳され続けていたらしい。

気絶していたカミュも程なく目覚め、一行はモンスターカジノから解放されたグロッタの町から出発し、ネルセンの宿屋で見た不可思議な夢の真相を辿る為ユグノア城跡へ向かった。




 ───ユグノア城跡の地下通路にいた嘆きの戦士を一度鎮めた後、その意識の中に入ったらしい僕は、気づいたら大広間のような場所に居て、多くの人々に囲まれ祝福の言葉を受けているアーウィン王と呼ばれるユグノア国王を初めて目にした。あの人が、僕の実の父親⋯⋯

僕の存在は、誰にも認識されていないようだった。兵士が国王を呼びに来た時も、アーウィン王がすぐ横を通り過ぎた時も、僕の存在に気づいた様子はひと欠片もない。

勇者の誕生を祝福する数々の声から察するに、自分が生まれたばかりの頃だと分かった。

アーウィン王がユグノアの前王であるロウおじいちゃんとデルカダール王と城の中庭で話している間に僕は、兵士達の会話から赤ん坊の頃の自分とエレノア王妃が居る部屋を見つけ出し、そっと入ってみた。

⋯⋯するとそこには、赤ん坊の僕を抱いてソファに座っているエレノア王妃、と⋯⋯赤ん坊をまじまじと見つめる幼い頃のデルカダール王女のマルティナが居た。

「触ったらこわれちゃいそうなくらい赤ちゃんって小さいのね⋯⋯。ジュイネにちょっとだけ触ってみてもいい? エレノアさま」

「えぇ、もちろんよ」


 マルティナがそっと人差し指で触れようとすると、赤ん坊の自分はその指先を小さな手できゅっと掴んだ。

「⋯⋯ジュイネはマルティナの事が好きなのね、遊んでほしいみたいだわ」

「ふふっ、わたしもジュイネのことすきよ! もうすぐアーウィンさまがジュイネを迎えにくるみたいだから、また今度いっしょにあそびましょうねっ」


 ⋯⋯盗み聞きするつもりじゃなかったにしても、そのやり取りを聞いていて僕は少し恥ずかしくなってしまった。

「この子が大きくなったら、父親のアーウィンに似てどんな困難も乗り越える、力強く凛々しい子になってほしいわ」

「エレノアさまに似たらきっと、みんなにやさしい子になるわ!」

「ふふ⋯⋯私はこれでも昔はお転婆だったのよ。そう、ちょうど今くらいのマルティナのようにね」

 実の母が昔はお転婆だったと聞いて、意外だった。僕の場合は小さい頃イタズラっ子だったけど、お転婆とイタズラっ子は根本的に意味合いは違うにしても、活発な子だったのは同じなんだろうかと感じる。


「───きゃあっ! かみなり⋯⋯!?」

「特別な日だというのに、急に外が荒れてきたわね⋯⋯」

 晴れていたはずの空が急な暗雲と雷と共に大粒の雨が窓を打ち付け部屋の中が薄暗くなった。⋯⋯そこへ、アーウィン王がエレノア王妃とマルティナ姫の居る部屋までやって来る。

「もうすぐ、四大国会議が始まるよ。エレノア、ジュイネをこちらへ⋯⋯」

「はい⋯⋯私はその場には居られないけれど、どうかジュイネをお願いします。何だか、胸騒ぎがして⋯⋯」

「心配しなくても大丈夫だよ、エレノア。⋯⋯何があっても君とジュイネは、私が守るからね」


 アーウィン王はマルティナの頭を優しく撫で、エレノア王妃から赤ん坊の頃の僕を引き受けると四大国会議に向かった。部屋に残されたのは、周りからは見えない僕と、エレノア王妃⋯⋯幼い頃のマルティナ。

「⋯⋯マルティナ、少しの間、ごめんなさいね」

「え、なぁにエレノアさま⋯⋯?」

 エレノア王妃、が⋯⋯幼い頃のマルティナの額を人差し指で優しく小突いた。⋯⋯そうすると、マルティナは急に眠たそうな表情になって、俯せにゆっくり倒れかかるのをエレノア王妃が包み込むように抱き支え、ベッドの方に静かに寝かせた。

「───⋯⋯」

 何故だろう⋯⋯エレノア王妃、の宝石のような瞳と目が合う。僕のことは、この人には見えていないはずなのに。


「あなたは⋯⋯そう、ジュイネ⋯⋯なのね」

「───! 僕の、ことが⋯⋯見えるの、ですか?」

「ええ、見えていますよ。───随分、立派になったわね⋯⋯」

 エレノア王妃は慈しむようにそう言って、僕を一心に見つめてくる。この人が⋯⋯僕の、本当の───なんて、綺麗な人なんだろう。声も、聴き入ってしまうほど慈愛に満ちている。


「どうして⋯⋯アーウィン王の意識の中に入ってから、ここに居る誰も僕を認識していないのに。それに、僕があなたの息子⋯⋯ジュイネだと、分かるのですか?」

「判らないはずはないわ。⋯⋯だって、あなたのその凛々しい目元、夫のアーウィンにそっくりですもの」

 エレノア王妃は優しく目を細め、僕は何だか恥ずかしくなって一度目を逸らしてしまった。

「私にだけ、ジュイネが見えるのは⋯⋯ずっとあなたを、待ち望んでいたからだと思うの」

「え⋯⋯」

「アーウィンは⋯⋯16年前のあの日からずっと、ユグノアにあった悲劇の悪夢を見せられ続けているの。私は魂だけの存在となって彼に寄り添い、悪夢の中では実体となれるのだけれど⋯⋯悪夢を変えられるだけの力が無くて」

「僕がいつかここに来ることを、あなたは分かっていたの、ですか」

「ジュイネが⋯⋯私の愛しい子が生きていてくれれば、悪夢に囚われたアーウィンをきっと救ってくれると思っていたのよ」

「───魔王を誕生させてしまって世界が崩壊する前に、ロウおじいちゃん⋯⋯あなたのお父上と共にユグノア城跡で鎮魂の儀を行なった時に、一瞬何かを感じて⋯⋯⋯あの16年前からずっと、アーウィン王とエレノア王妃は⋯⋯苦しみ続けていたのですね」

 僕はそこで言葉を切り、悔しい気持ちで俯いて拳を強く握った。


「ユグノア王家の鎮魂の儀は、私には届いていたわ。その時だけでも、とても心が安らいだ⋯⋯けれど、アーウィンには届かなくて。───その時にユグノア城跡の地下通路のアーウィンの嘆きに、はっきりと気付かなくても無理はないの。世界に闇のチカラが強まったせいもあってアーウィンの嘆きが届き易くなり、その嘆きに私の声も乗せて、あなた達をここへ導く事が出来た⋯⋯。どうかアーウィンを永き悪夢から解放してあげて、ジュイネ⋯⋯。勇者であるあなたなら、それが出来るはず」

「──⋯⋯っ」

 僕は俯いたまま、エレノア王妃に顔を向けることが出来ない。

「どう、したの? 私の愛しい子⋯⋯」

「僕が⋯⋯勇者の紋章を持って生まれたから、ユグノア王国はウルノーガに目を付けられ滅ぼされた⋯⋯。僕は、勇者ではなく、災いを呼ぶ悪魔の子───」

「それは⋯⋯それは違います、ジュイネ」

「違いません⋯⋯。現に僕は、魔王を誕生させてしまった。勇者のチカラをあんな簡単に奪われて⋯⋯命の大樹が内包していた勇者の剣も奪われ、魔王の剣と化し⋯⋯命の大樹は枯れ果て、落ちてしまった。多くの人々の命も、奪ってしまった。悪魔の子と言わずして、何と言うのですか⋯⋯」

「ジュイネ⋯⋯」

 疼き出した胸の痛みを僕は片手で押さえる。⋯⋯エレノア王妃は、僕に触れようとして来た。けれどその手は、僕の身体を儚くすり抜けてしまう。

「目の前に愛しい我が子が居て、苦しんでいるのに⋯⋯抱きしめてあげられないなんて」

 エレノア王妃が静かに泣いているのが分かる。泣かないで、下さい⋯⋯亡くなってまで、本当の母に涙を流させたくなんて、ないのに───


「⋯⋯魔物達に襲われ城を出る前に、私が走り書きをして赤ん坊のあなたが眠る揺りかごに忍ばせた手紙は、知っていますか?」

「はい⋯⋯」

「その手紙に、“あなたは誇りあるユグノアの王子”と書きましたが⋯⋯良識のある方に拾われ、男子として育ったのね」

「─────」

「ごめんなさい⋯⋯勝手な事を。勇者の紋章を携えて生まれたあなたは本当は女の子なのに⋯⋯先代の勇者が男子だからと、男子として育てる事を決めてしまって」

「ロウおじいちゃんから、聞いてます。エレノア王妃はむしろ、僕をありのまま育てたいと言っていたと」

「⋯⋯確かにあなたを男子として育てた方が良いと言ったのは、私のお父様。だけど私もどこかで、男子として育った方が勇者の立場としては適切なのではないかと思っていたから⋯⋯走り書きの手紙に、咄嗟に“あなたはユグノアの王子”と書いてしまった。結果として⋯⋯苦しめてしまったわね」

「そんなこと、ないです。僕のことを思ってくれての事だし、それに男子として育ったことを嫌だと思った事は一度も⋯⋯ないですから」

「そうだと、良いのだけれど⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」


「嵐が、酷くなってきたわ⋯⋯」

 呟くようなエレノア王妃の言葉に、僕は窓辺に目を向けた。⋯⋯轟く雷の音、大粒の雨が窓を打ち付け続けている。

「うー⋯⋯ん、エレノア、さま⋯⋯??」

 そこで別の声がした。⋯⋯眠らされていた幼い頃のマルティナが目を覚ましたらしい。エレノア王妃の名を眠たそうに口にしている。

「時間がありません、ジュイネ⋯⋯。これから多くの魔物達がこの城を襲うでしょう。私とマルティナは、アーウィンと共に城の地下通路へ向かわねばなりません⋯⋯。あなたも、付いてきて」

「⋯⋯⋯⋯」

「そんな悲しそうな顔をしないで⋯⋯。この夢は悪夢とはいえ、実際にあった真実。それは決して変えることは出来ない。だからこそ⋯⋯どんなにつらくても見届けて。そうでなければ、アーウィンを⋯⋯あなたの父を救えない」

 ───僕はその時、頷くのが精一杯だった。エレノア王妃は、夫のアーウィン王を救いたい⋯⋯もちろん、僕もそうだし、エレノア王妃も救いたい⋯⋯。だけど、何だろう。二人が救われたとして、僕は───


「ジュイネ、もうこの先は互いに口を利く事が出来ません。だから⋯⋯一度だけ、私を母上と、呼んでくれませんか」

 震える声と、潤ませた瞳⋯⋯それを前にして、断れるはずはなかった。

「母上⋯⋯」

「───ありがとう、ジュイネ。私の、愛しい子⋯⋯」



 その後の場面は、目まぐるしく変わった。数多くの魔物の襲撃⋯⋯赤ん坊の頃の僕を連れた、父上と母上とマルティナの地下通路への逃走。父上は母上とマルティナを先に外へ逃がし、追って来た魔物達と対峙。僕はただ見ていられなくて、一緒に戦うつもりで戦闘に加わった。父上は、まるで気付いた様子は無かったけれど。

魔物は父上や僕からすれば大したことはなかった。ただ、外へ逃がされた母上とマルティナ⋯⋯特に母上とは、本当の別れ際にもう一度だけ目が合った。───母上は一瞬だけ微笑み、マルティナと共に雨の降りしきる中姿が見えなくなった。

母上とマルティナが出て行った扉は、開きそうになかった。実際にあった悪夢の道筋は変えられない⋯⋯。もし、変えられるんだとしたら僕は迷いなく母上とマルティナを守りに向かうだろう。──だけど、それすら許されない。

ユグノア王国を滅ぼした元凶、魔道士ウルノーガがデルカダール王に成り代わり、アーウィン王⋯⋯僕の父を殺したのを目の当たりにした時もそうだった。助けたくても助けられない⋯⋯無力感に苛まれ、父の無念が否応なしに伝わって来る。


 ───それから、どれくらい経ったのか。視界が、暗闇に覆われている。よくは見えないけど、少し先に何物かが蠢いている⋯⋯。何かを捕食、しているのだろうか。

“それ”は、バクーモスと名乗り、死した父に尚も悪夢を見せ続け16年もの間絶望を貪っている魔物だった。そいつは新鮮な絶望に飢えていたらしく僕を標的にし、命の大樹での出来事を鮮明に思い出させた。

魔王を誕生させ、世界を壊してしまい、何一つ守れなかった無力な勇者───バクーモスは僕に、そう囁く。その通りだ⋯⋯だからこそ僕は、災いを呼ぶ悪魔の子。

海底王国の女王セレン様は、勇者とは最後まで決して諦めない者のことだと言った。⋯⋯けどそれなら、僕じゃなくてもいいはずだ。諦めない人達は、他にもいる。僕は、無力な勇者をやめてしまいたい⋯⋯魔王を誕生させてしまった罪から、逃れたい───


『ジュイネ、ジュイネ⋯⋯聴こえていますか』


 この、声は⋯⋯エレノア、王妃⋯⋯? 真っ暗な闇に堕ちていく中、暖かな光で優しく包み込むような声音が聴こえる。

『あなたの中に宿る希望の光は、決して潰える事はありません』

 希望の、光⋯⋯。それって、勇者のチカラのこと⋯⋯? けど、それはウルノーガに。

『あなたの勇者のチカラは、完全に奪われてはいない⋯⋯。その証拠に、左手の甲のアザは消えてはいません』

 それは、分かってた。僕はまだ、勇者のチカラを失ってはいない⋯⋯それはつまり、まだ勇者として求められている⋯⋯

『さぁ⋯⋯あなたの中に眠る希望の光を解き放ち、絶望の闇を照らすのです』


 希望の、光⋯⋯そうだ、仲間のみんなはまだ、諦めてない。まだ見つかっていない仲間もきっと、諦めてはいないはず───

なら僕に出来ることは、今この時を諦めないこと⋯⋯。勇者としての責任を果たすまでは、死ねない。───死ねないんだ。


 僕はその直後、バクーモスのもたらす闇を払い仲間の元に戻り、父アーウィンの亡骸に取り憑いていたバクーモスを炙り出して倒すことに成功した。⋯⋯その結果、父アーウィンの魂は解放され、母エレノアと共に天へ召された。

と言っても、命の大樹は魔王を倒さなければ蘇らない為、厳密に言えば命の循環からは切り離された状態にある。⋯⋯両親が本当の意味で安息を得るには、命の大樹の復活が欠かせない。理由は、この際何だっていい。悪魔の子のままだろうと、無力な勇者だろうと、僕は⋯⋯僕の責任を果たすんだ、必ず。例えそれが、勇者であるが故の呪いだったとしても。



【求めるは黄金の勇者像】

??? 
「なぁクソアニキ、おれ黄金の勇者像が欲しいなぁ。だから勇者捕まえて来いよ」

カミュ
「ゆ、ユウシャなんてどこに⋯⋯」

???
「しょーがねぇなぁ、おれ様のチカラで勇者の居場所特定してやるよ。───⋯⋯海の上、船に乗ってるみてぇな。クソアニキを船倉に飛ばしてやるかぁ、停泊中の船に乗り込んで食糧漁ってたとか適当な理由つけとけよ!」


─────────

───────

カミュ
「寒い、所⋯⋯寒い地方まで、行ってくれませんか。そこに行けば⋯⋯何か掴めそうな気が、するんです」

グレイグ
「寒い地方と言えば、クレイモラン地方か。どうする、ジュイネ」

ジュイネ
「もちろん、カミュの記憶を取り戻す手がかりになるならクレイモランに行ってみよう」

カミュ
「(フゥ⋯⋯よかった、これで黄金城へ⋯⋯キラゴルド様の元へ勇者のジュイネさんを連れて行ける)」


 クレイモラン王国では黄金病という奇病が流行っており、突如として人の身体全体が黄金と化してしまうという。時折黄金兵なる集団が船からやって来ては、黄金と化した人間を攫って行くらしいが、ジュイネ達が町を訪れて黄金病の聞き込みなどをしていると黄金兵の集団が町を襲いに現れた。

その際教会に居たジュイネ達は、まともに戦えないカミュを教会の中に居させ自分達は黄金兵を倒しに向かおうとするが、カミュが頭を抱えて急に頭痛を訴えジュイネにすがりつき彼だけ行かせまいとする。

カミュ
「ジュ、ジュイネさん⋯⋯急に頭が痛くなってオレ、不安なんです⋯⋯! あなたに、側にいてほしいッ⋯⋯」

ジュイネ
「カミュ⋯⋯」

マルティナ
「仕方ないわ、カミュとジュイネはここに居て頂戴。私達が黄金兵の相手をしてくるわね」

グレイグ
「⋯⋯⋯⋯」

マルティナ
「グレイグ、突っ立ってないで行くわよ」

グレイグ
「⋯⋯はい」

 神父が用意してくれた部屋のベッドの端にカミュを座らせ、共に横に座ったジュイネはカミュの背中を優しく摩る。

ジュイネ
「早く良くなるといいんだけど⋯⋯」

カミュ
「ジュイネさんは、優しいな⋯⋯そんなジュイネさんがオレは好きだって思います」

 抱えていた頭から手を離し、じっとジュイネを見つめるカミュ。

ジュイネ
「⋯⋯もしかして、頭が痛むのは嘘だったの?」

カミュ
「ウソじゃ、ないです。少しは痛むんですよ⋯⋯少しは。ユウシャであるあなたに、してもらいたい事があったはずなのに思い出せなくて⋯⋯」

ジュイネ
「前にカミュは、贖罪⋯⋯って言ってたよ」

カミュ
「しょくざい⋯⋯? オレは何か貴重な食べる食材でも探してたんですかね??」

ジュイネ
「ぷ⋯⋯っ、あははっ、その食材じゃないよ。って⋯⋯笑うところじゃないよね、ごめん」

カミュ
「⋯⋯⋯⋯」

ジュイネ
「どうしたの?」

カミュ
「ジュイネさんの笑った所も、ステキだなぁって」

ジュイネ
「そ、そう⋯⋯」

 恥ずかしくなって顔逸らすジュイネ。

カミュ
「そんなステキなジュイネさんを、黄金像にしたら⋯⋯さぞかし、キレイなんでしょうね⋯⋯」

 夢見るように述べるカミュ。

ジュイネ
「⋯⋯え?」

カミュ
「───すみません、ジュイネさん」

ジュイネ
「⋯⋯⋯っ!?」


 素早く取り出した布をジュイネの口元に宛てがいベッドに押し倒す形で組み伏せ、一時は抵抗していたジュイネだが次第にその抵抗力も失せてゆき、意識が朧気になり徐ろに瞳を閉ざす。

カミュ
「(キラゴルド様に頂いていた、強力な眠り薬を含ませた布を使って、ジュイネさんを眠らせる事に成功した⋯⋯。あとは、このルーラ石を使って黄金城へ戻ればキラゴルド様がユウシャであるジュイネさんを黄金像にしてくれる⋯⋯)」

カミュ
「(眠っているジュイネさんもキレイだな⋯⋯。このまま、半開きになってる口元も奪いたいくらいだ。いやいや待て⋯⋯キラゴルド様に献上するんだから手を付けちゃいけない。早く、黄金城へ戻ろう)」


 黄金城へカミュが勇者を背負い捕えて戻ると、一人の少女が上座の玉座から苛々した様子で下僕を罵倒する。

キラゴルド
「おっっせぇよクソアニキ! どんだけ待たせんだよこのノロマ!!」

カミュ
「ひッ、す、すみません⋯⋯! けど、こうしてユウシャは無事に捕らえて来ました⋯⋯」

キラゴルド
「遠目に居たらよく見えねぇだろ、近くに持って来い!」

カミュ
「承知、しました⋯⋯ッ」

 キラゴルドは値踏みするように、意識の無いジュイネを眺め回す。


キラゴルド
「あぁ⋯⋯? なんだこいつ、勇者って言うからてっきり男かと思ったら、オンナ顔してんじゃん。それともマジでオンナだったりすんのか⋯⋯? おい、クソアニキ!」

カミュ
「な、何でしょうかキラゴルド様⋯⋯」

キラゴルド
「上半身脱がして、こいつの両手縛って吊り上げろよ」

カミュ
「そ、そんな事したら、ジュイネさんが痛い思いを⋯⋯」

キラゴルド
「はぁ⋯⋯? クソアニキもまた吊り上げられておれにオモチャにされたいのかよ」

カミュ
「お、黄金像化は⋯⋯?」

キラゴルド
「そんなんいつだって出来る、その前に勇者ってので遊んでやるんだよ! 特別にクソアニキも参加さしてやる、喜べよな!」

カミュ
「(ユウシャで遊ぶなんて、恐れ多い事なんじゃ⋯⋯でも、ジュイネさんとして、なら⋯⋯?)」


キラゴルド
「はーん⋯⋯やっぱこいつ、そうなんだ。男しか勇者になれないわけじゃなかったんだな。だったらおれでもよかったのにさ。まぁいいや、今や魔王様のお気に入りの六軍王の一人だしな! それに、クソな世界を救う勇者なんかより人間共をこき使ってやる方が何倍も面白いってもんよ! アッハハハハ!!」

カミュ
「(オレがジュイネさんを脱がしてみたら⋯⋯何だ、真ん中の胸元にまるでぽっかり穴が空いたみたいな真っ黒いものが───)」

キラゴルド
「おいおいクソアニキ⋯⋯いくらそいつにちっさいムネがついてるからってそれガン見すんなよ⋯⋯おれはそれよりデカくなってやるかんなっ?」

カミュ
「キラゴルド様は、知っているんですか? ジュイネさんの胸元の真っ黒いもの⋯⋯」

キラゴルド
「あぁ⋯⋯それは間違いなくあの御方⋯⋯魔王様の強烈な闇のチカラによる傷痕ってもんよ。いずれそいつ自身を喰らって、魔の物に成り果てるかもなぁ? 面白いじゃねーか、勇者が魔物になるってのも見物だぜぇ?」

カミュ
「(魔物⋯⋯ユウシャの、ジュイネさんが───)」


キラゴルド
「さぁて⋯⋯おれの下僕の犬らしく、そいつの身体にむしゃぶりついてあらゆるとこ噛み付いてやれよ⋯⋯きっといい鳴き声上げてくれるぜ?」

カミュ
「そんな事⋯⋯したくありません⋯⋯」

キラゴルド
「あ"ぁん? おれ様の言うことを聞けないたぁいい度胸してんじゃねーかクソアニキ。虐められる仔犬みてーにまたキャンキャン鳴かしてやるかッ?」

カミュ
「⋯⋯⋯ッ」

キラゴルド
「クソアニキ⋯⋯ほんとはソイツに気があるんだろ。我慢すんなよ⋯⋯自分の気持ちに正直になれって。蹂躙してやんだよソイツの何もかも。オマエのモンにしちまえ⋯⋯特別に許してやるからよ」

カミュ
「(ジュウリン⋯⋯よく分からないけど、ジュイネさんの全部をオレのものにしていいってことか⋯⋯?)」


 カミュはそこでおずおずと、ジュイネの左肩に口元を近づけ思い切って強めに噛んでみる。すると相手の身体は一瞬ビクッと反応し微かに呻き、それを耳にしたカミュはもっと別の場所⋯⋯身体のあらゆる場所を噛んでみたい衝動に駆られる。

カミュ
「(なんてやわらかい肉質なんだろう⋯⋯本当に食べてしまいたい⋯⋯けどそんな事したらジュイネさんのキレイな身体がボロボロになってしまう⋯⋯そうならないように、出来るだけ甘噛みにしよう。歯型くらいは付けていいよな⋯⋯オレのモノって証明にもなるし)」

 甘噛みしながら舌先も駆使しあらゆる箇所を舐め回す。その度に相手は身体を痙攣させ消え入りそうな儚い声を上げて喘ぎ、それを上座の玉座からキラゴルドは頬杖をつき楽しげに眺めている。


キラゴルド
「いいプレイの仕方知ってんなぁ⋯⋯クソアニキも所詮飢えた獣でしかねーのな」

黄金兵
「キラゴルド様、大変です⋯⋯!?」

キラゴルド
「んだよ騒々しい⋯⋯今いいとこなんだから邪魔すんなよ下僕如きが」

黄金兵
「し、しかし四人の人間が黄金城を襲撃し、破竹の勢いで玉座の間に向かっておりま───ギャア!?」


グレイグ
「⋯⋯見つけたぞ、黄金城の親玉めッ!」

キラゴルド
「あーぁ、ユーシャ様のお仲間ご到着かぁ⋯⋯意外とここまで来るの早かったじゃん。クソアニキはそのまま勇者を蹂躙してろよ、おれが直々にコイツらの相手してやる⋯⋯!!」

 少女の姿をしていたキラゴルドは、金属で覆われた硬質の身体をした大型の獣と化し、グレイグ達の前に立ちはだかる。


カミュ
「(あぁ、そうだ。このままユウシャ様と⋯⋯ジュイネさんと一つになろう。そうすればショクザイなんてしなくてすむ⋯⋯)」

ジュイネ
「だ⋯⋯め、だよ⋯⋯カミュ⋯⋯」

カミュ
「!?」

ジュイネ
「ねぇカミュ⋯⋯キラゴルドは、あの子は⋯⋯カミュの妹の、マヤちゃんなんでしょ⋯⋯?」

カミュ
「なッ、何で、それを」

ジュイネ
「蹂躙、されてる間⋯⋯カミュの記憶が流れ込んで来たんだ⋯⋯。妹さんに渡したプレゼントが、黄金化の呪いのアイテムで⋯⋯マヤちゃんは、そのせいで───」

カミュ
「うッ、うるさい?! オレのせいじゃない!! お前は大人しく蹂躙されてろッ」

 ジュイネの首に手を掛け強く絞めるカミュ。


ジュイネ
「ぐっ⋯⋯逃げちゃ、だめだカミュ⋯⋯。一緒に、マヤちゃんを助け、なきゃ⋯⋯。その為に、僕の⋯⋯勇者のチカラが必要だったん、でしょ⋯⋯?」

カミュ
「もう、何もかも、遅い⋯⋯。妹は、マヤは⋯⋯六軍王の一人にされて壊れちまった。オレがあいつを助けられず放置し続けたせいで。後戻り出来ねぇよ⋯⋯オレは償いとしてマヤにこき使われてりゃいいんだ。そして勇者は、いずれ黄金化させてこの城に永遠に飾る。マヤの権力の象徴として、な」

ジュイネ
「カミュが諦めたとしても⋯⋯僕は、諦めないよ⋯⋯」

カミュ
「黙ってろ、今更お前に何が出来るってんだッ!」

 左肩に強くかぶりつき血を滴らせる。

ジュイネ
「んっ、く⋯⋯もう、すぐ⋯⋯もうすぐだ。グレイグ達が、キラゴルドを弱らせてくれる⋯⋯その、直後に」

 ジュイネの左手の甲の紋章が輝くと同時に、カミュはジュイネを組み伏せていられなくなって身を引き、いつの間にか脱がされていた服を身に纏ったジュイはキラゴルドへ向け紋章の輝きを一心に浴びせる。

キラゴルド
『ギャアアァッ、黄金のチカラが⋯⋯おれから黄金のチカラがあぁ⋯⋯?!』」

カミュ
「マヤ⋯⋯!?」

ジュイネ
「カミュ、まだ間に合うよ。マヤちゃんの元へ⋯⋯行っておいで」

カミュ
「あぁ⋯⋯!」


 カミュが弱ったマヤを抱き上げ心から謝罪すると、まだ許すつもりはないとマヤは一蹴するが、おれも悪いことしたと言って意識を失い、そのまま目覚めることはなかった。

ジュイネ
「大丈夫、マヤちゃんには大き過ぎる闇のチカラを使ったせいで疲れてるだけだから。暫くは眠ったままだろうけど、いずれきっと目を覚ますよ」

カミュ
「ジュイネ⋯⋯本当に、お前にも悪い事をした⋯⋯。記憶は取り戻せたが、こんなオレが仲間に居る必要ねぇな。贖罪は果たされたのかもしんねぇけど、ある意味新たな贖罪を生んじまった」

ジュイネ
「じゃあそれを、僕達と魔王を倒す為の贖罪にしてよ。君のチカラが、まだ僕には必要だよ」

カミュ
「ジュイネ、お前───」

グレイグ
「しかしここでキラゴルドはジュイネに何を⋯⋯」

ジュイネ
「黄金の勇者像が欲しいらしくてここに連れてこられたけど、何度試しても黄金化出来ない内にグレイグ達が助けに来てくれて、実際何もされてないから心配要らないよ」

グレイグ
「本当か⋯⋯? それならば、良いのだが」

ジュイネ
「さぁ、黄金城から出てクレイモラン王国に黄金病の元は断ったって伝え、よう⋯⋯」

グレイグ
「お、おいジュイネ⋯⋯!?」

 前のめりに倒れる所抱き支えるグレイグ。

ジュイネ
「あ、大丈夫⋯⋯キラゴルドをマヤちゃんに戻すのに、かなり紋章のチカラを使っただけ、だから───」

 言いながら深い眠りに陥るジュイネ。

グレイグ
「全く⋯⋯相変わらず無理をする。⋯⋯カミュよ、本当にジュイネは何もされていないのだろうな?」

 横抱きしつつ問うグレイグ。
 
カミュ
「してない⋯⋯オレは記憶を失ってた上にキラゴルドと化してた妹の言う事を聞いてただけだからな⋯⋯」

グレイグ
「⋯⋯ならばこれ以上、問い詰めるのはやめにしよう」

 グレイグは何か察しつつもジュイネを連れ先へ行く。

カミュ
「(覚えてる⋯⋯ジュイネに何をしちまったか。だがそんな事他のやつらには口が裂けても言えねぇ⋯⋯。それに、ジュイネがまだ仲間としてオレを必要としてくれるなら⋯⋯オレはそれに従うまでだ。本当にすまねぇ⋯⋯ジュイネ)」


 
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