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オーバーロード ~もう一人の超越者~

作者:ALISA
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第3話 森の賢王(前編)

 戦極ドライバーは、戦極凌馬という科学者の手によって生み出されたベルトだ。
 それを用いる事で、超人的な身体能力を誇るアーマードライダーへの変身を可能とする。

 しかし、本来の用途は生命維持装置である。
 ヘルヘイムに実る果実は、あらゆる種族を魅了する。
 なんだか美味しそうだ、と思って食してしまうと細胞レベルで変異を起こし、異形の生物......インベスへと変貌させる。
 インベスに変貌した時点で自我は無くなり、元に戻す方法は存在しない。
 故に、ヘルヘイムに実る果実は生命にとって極めて有害な代物であると言える。
 有害なのは果実だけではない。
 ヘルヘイムの植物は、常に湿気を放出するため燃えにくく、ゴムのような伸縮性とダイヤモンドのような硬度を持つ。
 また極低温やマグマのような高音多湿の環境でも根を伸ばして生息することができる高い環境適応能力と脅威的な生命力を有している。
 加えてヘルヘイムの植物に侵された大地から他の植物が根を下ろすことはない。
 環境に適応し、その環境を変化させる凶悪な外来種。それこそがヘルヘイムの植物だ。
 何処からやってきたのかは判っていない。
 外宇宙。並行世界。マルチバース......列挙すればキリがない。
 判っているのは人類にとって、害悪な存在であることだけ。

 そんなヘルヘイムの植物から人体に無害な養分だけを抽出するのが、戦極ドライバーの本来の用途である。
 アーマードライダーへの変身はあくまでも抽出したエネルギーを用いた副次的な効果でしかない。

 戦極ドライバーの中身はブラックボックス化されており、戦極凌馬以外は誰も作成することはできない。
 始まりの男により沢芽市からヘルヘイムの植物はすべて外宇宙へと移動させられた事で脅威が消えた為、量産された戦極ドライバーは設計図共々ほぼ全てが処分されてしまっている。


 では、ナバナの手にあるこの戦極ドライバーは一体なんだろうか?
 夢の中でサガラと名乗る男から受け取ったモノがそもそも現実世界に存在する事がおかしな話だ。
 かつてのYGGDRASILLに戦極ドライバーに該当するアイテムは存在しない。
 YGGDRASILLには確かにヘルヘイムというフィールドはある。
 当然フィールドにも森はあるが、精々エリアアイテムの為、多少頑丈という程度の強度。
 果実や花は極彩色でもないし、プレイヤーを魅了するといった性質は持ち合わせていない。
 インベスという種族もYGGDRASILLの中には元々存在している。


「......こんな色をしているのに不思議と美味そうに感じるんだよな」
 極彩色の果実を手に取り、皮を剥く。
 中の果実はどちらかと言うとライチに近い。
 頬張る。

 美味い。
 食感は種無しの巨峰のような柔らかさだ。
 咀嚼する度に果実の味が変わり、色んな味にコロコロと変化する。
 柑橘系の酸っぱさ。
 メロンのような芳醇な甘さ。
 マンゴーのような濃厚な甘さ。

 柔らかい果肉から溢れる果汁が口の中に広がり、倦怠感が嘘のように吹き飛ぶ。
 食べ続けるのにこれほど飽きないものはない。
 そう思わせるほどの魅力が果実には詰まっていた。
「コレ以外食べたいと思えないのが難点だな」
 ナバナはこの世界に転移して、何度か【トブの大森林】に足を運んでいた。
 その中で森に実る果実やモンスターを始め鹿・兎のような動物も狩った。
 その中で料理しようと試みたが、ニオイだけで不快になり、中断した。
 果実を口にしようとすると、得体の知れない気持ち悪さを感じ、とても食べられなかった。
 だがエントマはナバナが狩ってきた動物やモンスターをそのままボリボリと食べた。
 逆に、ヘルヘイムの植物には興味すら持たれなかった。
 他のナザリックの面々にしても同様で、果実を手に取ろうともしなかった。
 この感動を分かち合いたいという感情と誰にも知られたくないという優越感は、その反応で見事に消え失せてしまった。

「理解されないってのは......寂しいもんだな」
 剥かれた果実の皮を握りしめて、ナバナはアインズから貸し与えられた部屋を出た。


ーーーNow Loading......ーーー


 ナバナが【トブの大森林】に足を運んでいるのは、動植物の生態系を調べる為のフィールドワークが主目的ではない。
 勿論、そちらも重要なことなのだが、本来の目的は別にある。

「(確か......あの村娘は俺を【森の賢王】と呼んでいた。俺やアインズさんに匹敵する気配をこの森からは感じなかったが、YGGDRASILLのプレイヤー、あるいはそれに準ずる何かの可能性もある)」
 先日、カルネ村を襲った連中の召喚した天使はYGGDRASILLに存在したモンスター達だった。
 唱えられている魔法もYGGDRASILL由来の魔法だったとアインズも言っていた。

 ナバナやアインズが転移する前にYGGDRASILLのプレイヤーがその魔法や技術・アイテムをばら撒いたのではないか、と言うのがナバナとアインズが導き出した結論だった。
 その為、2人は別々に行動して情報を集める事にした。
 アインズは冒険者サイドでこの世界で使える資金調達と情報収集を。
 ナバナはそれ以外のルートでの情報収集とフィールドワークを。

「(本当に賢しい輩は闇に潜む。俺やアインズさんに気付かせない程の気配遮断が出来るとなると、カルネ村を襲った連中との一件も確認されているかもしれない......)」
 やっちまったな、と頭を抱えながらナバナは【トブの大森林】の深い場所へとやって来ていた。
「この森も大体歩き尽くしたな......本当にいるのか?【森の賢王】なんて」
『ほう?某を探していたでゴザルか?』
 その声と同時に、背後から凄まじい打撃が飛んで来た。
 初速だけなら視認できないレベルの速度。
 その威力がナバナの頭部目掛けて襲い掛かっていた。
 咄嗟に左前方向に飛び込んだ為、避けることに成功する。
 頭部に飛来していた打撃はナバナの前方にある大木を薙ぎ倒していた。
 ーーー尻尾による打撃。
『良い反応速度でゴザル。今逃げるならば追わないでゴザルが......どうするでゴザル?』
「......やるじゃないか、魔獣の分際で。でも逃げるつもりはないな。お前を探していたんだからな、【森の賢王】」
『不意打ちを偶然躱せただけで粋がるなでゴザル』
「姿も見せない恥ずかしがり屋よりマシだろう」
『ほう?言うではゴザラヌか。では某の異様に瞠目し畏怖するがよい』
 その台詞の後、木を薙ぎ倒してナバナの前に現れたのはーーー。

 ーーーでっかいハムスターだった。
「......お前、ジャンガリアンハムスターって種族か?」
『なんと!?某の同胞を知っているのでゴザルか?』
「知っている......というか、売られているのを見たことがあるだけだ」
『なんと!?某の同胞が奴隷のように売買されているとは......もし宜しければ教えて欲しいでゴザル。種族を残せないのは生物として失格でゴザルからな』
「......残念ながらサイズ的に無理だ」
『そうでゴザルか。それなら仕方ないでゴザル。では、始めるでゴザルよ。命の奪い合いを』
 【森の賢王】はやる気になっているようだが、ナバナの方は完全にやる気を失っていた。
「......これが【森の賢王】......か。外れだな。そりゃ気配も分からんわけだ」
『何をブツブツ言っているでゴザル?まさか怖気付いたでゴザルか?』
「......少し黙れ」
 瞬間、【森の賢王】を名乗るハムスターは【ヘルヘイム】の植物による拘束を受けて、一瞬で宙吊りになり、身動きを封じられる。
『な、なんでゴザルか!?この植物は!!』
 必死になってハムスターが植物を取り除こうとするが、逆に縛り付ける力が増していく。
『うぅ......こ、降伏でゴザル。助けて欲しいでござる』

「ーーーアウラさん。居るんだろ?」
「へぇ、気付いてたの?ナバナ様」
 森に来てからずっと監視してただろ、と言いかけてやめた。
「良ければこのハムスター......あげるよ」
「え?いいの?」
「そのかわり、今この瞬間から......俺が【森の賢王】だ。良いよな?」
「名乗るのは自由じゃない?アタシは魔獣貰えるなら何でもいいし」
「と言うわけだ。このお姉さんにしっかり面倒見てもらえよ」
 ナバナは【ヘルヘイム】の植物を解除し、拘束を解いた。
 アウラは魔獣使いであると、アインズから伺っていたし、コミュニケーションの取れる魔獣を無碍には扱わないだろう。
 かくして、ナバナは【森の賢王】の座を奪い取るとこに成功したのだった。
 
 

 
後書き
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