広固から
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第二章
寺を後にしてだ、暫く歩いてふと振り向くとだった。
そこには何もなかった、そこにあった筈の寺が。
それで驚いたが近くに何か気配を感じてだった。
それが虎や豹なら危ういと思いすぐに山を下った。そのまま広固に戻って寺に帰ってみるとだった。
彼の弟子達がすぐに彼のところに集まって言ってきた。
「師匠、長白山に行かれると言われましたが」
「これまで何処に」
「何処におられましたか」
「随分と長かったですが」
「いや、長白山に行ってだ」
そしてとだ、ここで彼はあの山でのことを話した。
「それだけだが」
「それではあっという間で」
「すぐに帰られています」
「そんな筈がありません」
「あの時から二年も経っていますので」
「二年!?馬鹿な」
教白は弟子達の言葉に驚いて返した。
「そんな筈がない、あの寺には一日もいなかったが」
「いえ、それがです」
「二年です」
「二年も寺を空けておられました」
「そうでした」
「まさか」
ここでだった。
教白はわかった、それで言うのだった。
「実は寺で桃を二つ馳走になったが」
「その二つの桃ですか」
「それがですか」
「一個が一年で」
「二個で二年ですか」
「そうだったのだ、では私は寺に一日もいたつもりでなかったが」
それでもというのだ。
「二年もいたのか」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「その寺で二年修行されたのですか」
「そうなのですか」
「そういえば随分と経典を読んだし座禅も組んだ」
こう言うのだった。
「二年分は」
「ではですか」
「あの山で、ですか」
「お師匠様は二年あの山で修行をされまいsたか」
「その様だ、こうしたこともあるのか」
教白は考える顔で述べた、そしてだった。
彼は弟子達にこのことを詳しく話した、そのうえで書き残させた。その為この話は今に伝わっている。桃の不思議な話の一つである。
広個から 完
2022・5・13
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