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王妃と棗

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第二章

「黄金のお皿に盛られた赤い卵の様なものは」
「いや、棗だが」
「棗?何処かで聞いた様な」
「そなたもよく知っておるだろう」
「私がですか」
「そうだ、余と結婚する前に店で売っていたな」
「あっ、そうでした」
 ここで、でした。
 王妃はやっと思い出してそれで言いました。
「棗ですね、それは」
「そうだ、しかしそなた忘れていたのか」
 王は驚きを隠せないお顔で王妃に尋ねました。
「そうだったのか」
「申し訳ありません」
「謝らずともいい、しかし自分が売っていたものを忘れるとは」
「王、これは当然のことです」 
 ここで、でした。
 大臣がすっと出て来て王様にお話しました。
「王妃様は長い間王宮で王を助けて政を見られてきました」
「それでか」
「お店のことから離れて」 
 そうしてというのです。
「もう棗のことを考えることも思い出すこともです」
「余を助けてだな」
「政のことに専念されてこられたので」
「それで棗を忘れてしまったか」
「左様です、人は長くそこから離れ別のことに専念しますと」
「ずっと馴染んでいたものも忘れるか」
「そうしたものです」
 こう王にお話しました。
「ですから王妃様のことは」
「驚くことではないか」
「それもまた人です」
「そうなのだな、では王妃にはあらためてだ」
 王は微笑んで答えました。
「余と共にな」
「棗をですね」
「食べてもらおう、美味いぞ」
 王妃に自ら実を一つ取ってでした。
 それを差し出しました、王妃はその実を受け取ってです。
 お口に入れました、そうして美味しいとにこりと笑いました。王もそんな王妃を見て笑顔になりました。インドの古いお話です。 
 そしてこのお話には一つ隠されたお話があります。
「この大臣はお釈迦様なんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「お釈迦様なんですか?」
「このお話の大臣さんは」
「そうだよ、お釈迦様の前世なんだよ」
 あるお寺でお坊さんが子供達にお話していました。
「お釈迦様は前世でもとても頭がよくてお心の奇麗な人だったんだ」
「そうだったんですか」
「それで王様を助けてですか」
「王妃様のことをお話されたんですね」
「そうだよ、これもお釈迦様の行いなんだよ」
 こうお話するのでした、このお話は実はお釈迦様のお話なのだと。


王妃と棗   完


                 2022・5・12 
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