人生コンティニューしたらスクールアイドルを守るチートゲーマーになった
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53話 HeavenかDarkか
「ここは—————————」
深天稜。それがこの男の名前である。彼は仮面ライダースペクターであり、才の1番の理解者とも言える者なのかもしれない。そんな彼が今いるのは彼の持つスペクターアイコンが彼の体を吸い込み、何処か異次元のような空間に誘ったのだ。
しかし、この異次元の空間は稜にはこの場所が何処か一瞬で分かった。
「浦の星の屋上か............よりによってなんでこんな所に——————」
いつもAqoursが練習している場所だ。見慣れた光景、日常的な光景————————しかし、稜にとっては特定の条件を満たすと嫌な情景が思い出される。
そしてその情景は現実に。突然、寮の前に七色の黄金をピクセル状の物から顕現させる。現れたのは——————————
「ムテキゲーマー!?まさか.........才か!?」
「——————————」
「いや、ここはスペクターアイコンの作り出した世界。つまりアイツはアイコンの意思が映し出した幻影..............俺の心の中にある物をアイコンが再現しているのか———————」
「—————————!」
「おわっ!!」
突如としてムテキゲーマーが稜に殴りかかる。稜は間一髪でその攻撃を避ける。しかしそれはあくまで、ムテキゲーマーが光速で動いていないことが幸い。動いていたら一発KO。つまり奴は稜に変身させようとしていると推察できる。
稜はその促しを察知し、自分の腰にゴーストドライバーを顕現させスペクターアイコンを起動、すぐさま変身を実行する。
≪カイガン! スペクター!≫
≪レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!≫
変身したスペクターは反撃をしようと背後からムテキゲーマーにスイングをかけたパンチを喰らわせようとする——————が、そのパンチはすり抜けるように背後にショートワープされる。そして背中に蹴りと視認不能の連続攻撃を3発喰らう。あまりに強い衝撃にスペクターは壁にぶつけられる。
「やっぱり強い——————なら!」
≪ガンガンハンド!≫
召喚したガンガンハンドのロッドモードでムテキゲーマーに攻撃するが、効果なし。逆にノーガードで受け止められたところで、ガラ空きだった腹部にパンチ。軽いパンチだったのでワンツーパンチであることは想像できた。2回目をガンガンハンドの刀身部分で防ぐ。
そして咄嗟にガンモードに切り替えて、近距離銃撃をする。しかし無意味だ。ムテキゲーマーが召喚したガシャコンキースラッシャのアックスモードが火花を散らす。
≪ガイガン! ノブナガ!≫
ノブナガ魂にゴーストチェンジしたスペクターは銃を複製して、蜂の巣にしようとするがそれもまた無意味。
ガンモードにしたキースラッシャーの重い光弾がスペクターに直撃する。
「クソっ............まだだ!俺は絶対に勝つ!!」
————————※——————————
「はっ!!」
「ふん。」
アタッシュアーローの矢がダークキバを襲う。しかし、緑色のキバの紋章でその攻撃を防ぐ。そのカウンターでジャコーダーの鞭が滅を捉えようとする。だがそれも間一髪で滅に防がれてしまう。
「チッ..........なら!」
≪ボルキャンサー! リリースだ!≫
この前に封印したシザースの契約モンスター ボルキャンサーを召喚する。このモンスターは正直言って、仮面ライダーシザースより強い疑惑が浮上するほどに強い。変身者であった何処かの刑事はコイツに食われたのだとか。
「なるほど!!昆虫には昆虫だね!!」
「何言ってるの千歌。甲殻類の間違いでしょ?」
「果南さんも千歌さんも違いますわ!!サソリとカニで共通するのは節足動物という点ですわよ。」
緊張感を感じさせない会話が背後から聞こえてくる中、ダークキバの面前に立つ滅はバグヴァイザーに保存されているデータを召喚する。召喚されたのはキャンサーゾディアーツ。同じカニである。その2体は互いに戦いをおっ始める。結局、状況は振り出しに戻ってしまうのであった。
「その機械—————確か父さんが持っていた物だ。あの父さんがお前らに貸すとも考えずらい.................さては、アークか?」
「いかにも。オハラにできてアークに製作できないものはない——————それにこの力は我々の計画の根源になるであろう物だ。」
「何———————?」
「まぁ、貴様には関係のない話だ————」
「!!!」
言うことだけ吐き捨ててから、すぐさまサソリの矢が立て続けに飛んでくる。ダークキバはそれを避けつつもジャコーダーの鞭で攻撃しながら距離を詰める。
至近距離まで攻めた所でジャコーダーを剣モードにして、その全て血塗られた刀身を滅に振り下ろす。それは見事に滅の肩にヒット、続けて二撃、三撃と与える。だが滅も魁の胸をアタッシュアローの刃の部分で切り裂く。最後に刀身で滅の金属装甲を突くと同時に、ダークキバも突きを喰らってしまう。しかしダメージの差は歴然。というかダークキバには喰らっても微粒子レベルのダメージしかない。滅はダークキバの攻撃に膝を着く。
ダークキバは滅を見下ろして、話し始める。
「核爆弾を喰らっても傷ひとつつかない鎧———————そんな鎧が何処かにあるらしい。俺の鎧ってのはその鎧の3倍の強度を誇るそうだ—————滅、アークはキバットに興味があったのか?もし使い魔として使うつもりであったなら、それは愚直な結論だ。」
「——————なら、新しいアークの結論はこうだ。ラーニングによって強くなる人工知能こそ、この世界を支配するに最も最適。すなわち——————最も強いということだ。」
「!!!!!!!!!」
膝をついたのも束の間、すぐに立ち上がり矢を放ってくる。意表を突かれたダークキバは受け止めざるを得なかった。もちろんそんなダメージになりはしない。そこが驚きなのではなかった。
「明らかに威力が上がっている..........それも1.5倍とかそんな次元じゃない。数倍だ。そんなパワーアップがわずか数秒で...........」
「ラーニングによって強くなる—————それが俺たち人工知能だ............」
「なら、強くなる前に倒すだけだ!」
「だがこのまま戦うのでは勝ち目がない——————《《俺》》ではな。」
「まさか——————!!!」
「ぐっ—————」
静かに苦悶の表情を浮かべる虎太郎の腰には、闇に染まったアークルが巻き付けられていた。このままではAqoursに危害が及んでしまう。
ダークキバは咄嗟に念動力で囚われている鞠莉以外のAqours8人を闇のオーラから遠ざけた。果南や曜はバランスを保っていたが、それ以外の6人はバランスを崩し、その体を地面に打つける。少々手荒であるが———————命には変えられない。
闇のオーラは矢澤虎太郎を再び闇のクウガに変えてしまう。
アルティメットクウガは暗黒の波動をダークキバに浴びせる。ダークキバは直撃はまずいと直感して、紋章で事なきを得る。
しかしその防御壁を解除したと同時に容赦ないパンチがダークキバを襲う。もちろんダメージの容量には余裕がある。しかし、あまりに強い衝撃に体はやっと起き上がったAqours達の方に飛んでいく。
「ピギィ!」
「魁君大丈夫ずら!?」
「あぁ、だが———————」
「困ったわね........虎太郎君がまたあのフォームに—————」
梨子が深刻そうな表情で闇のオーラに染まったクウガを見る。しかしダークキバこと魁はそれ以上に深刻そうな口調で語り始める。
「困ったなんて次元の話じゃない—————滅がアルティメットクウガを崇めているように見える。つまりあのクウガの体を遠隔操作しているのは《《アーク自身》》だ。」
「ということはあの2人は味方同士ということですの?」
「そういうことだ。滅だけならなんとかできたかもしれないが—————」
「どうするのよ。才が来るまで時間稼ぎか、逃げる?」
「——————王者として、逃げるという選択肢はない。それに才にばっかり頼っているのもダメだ。俺たちでなんとかしなきゃいけない時だってあるからな。」
「じゃあどうするの————!?」
「それは————『待たせたな!!』」
「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」
≪ボルケニックアタック!!≫
≪ヤベーイ!≫
空気すら溶かしてしまいそうマグマドラゴンが滅とアルティメットクウガを襲う。クウガには少しであったが、滅には大きく後退りとダメージを与えたように思える。その彼は——————
「魁、待たせたな!」
「竜介先生!」
「久々の登場ですね(ニヤニヤ)」
「そうなんだよ俺2号ライダーのはずなのに——————って、何言わせんだよ!!千歌!!」
「いいから今は目の前のことに集中してくれ!!」
「お、おう。そうだったな。じゃあ俺があの2人を少しでも食い止めて時間を作る。その間にお前は鞠莉を助けろ。」
「了解————!」
≪ビートクローザー!≫
「行くぞ!!」
「クローズ。お前の力はどんなものか——————試してやる。」
「————————」
クローズマグマは向かって来ている滅を迎え討つ。思惑通り、ゆっくりとクローズマグマにアルティメットクウガも向かっている。ダークキバはその隙を突いて鞠莉を救出に向かう。
クローズマグマは振り下ろされたアタッシュアローをビートクローザーで受け止める。振り払うと同時に竜の一閃が滅の胸部装甲に軌道を描く。その軌道はUターンをして、もう一度その装甲を切り裂く。さらにマグマの熱を纏ったパンチが、腹部に炸裂する。
突然の猛攻に滅はバランスを大きく崩され、後退せざるを得なくなる。
滅の力は先程のラーニングでより強化されていた。しかし、新たな格上の敵に対しても優位に立てるほど優秀ではない。ましてや今のクローズマグマはハザードトリガーを使用してのオーバーフローモードであり竜介のハザードレベルが大きく変動しているが故、時間経過と共にどんどん強くなっている。ハザードレベルのようなスペックが未確定な相手に固定された強さをラーニングする滅には不利な条件でしかない。
その事実を知り、攻撃の手が止んでいる滅をクローズマグマのマグマが煮えたぎる。全身が極熱に覆われる『ボルケニックモード』に移行したクローズマグマは文字通り装甲を溶かすキックで宙に浮かせ、その間に百烈極熱パンチを滅に喰らわせる。
ダークキバは鞠莉を助ける目前のところまで来ていた。しかし——————
「姉さ—————!!コイツら.........!!」
先程のキャンサーゾディアーツとボルキャンサーの一騎打ちが未だに続いていたのだ。流石に自分の邪魔をされたので、ダークキバは戦いに夢中になっているキャンサーゾディアーツの背中を蹴り飛ばし、ボルキャンサーをドミノ倒しに飛ばす。
だがゾディアーツの体はすぐにダークキバの足元に帰ってくる。何故なら——————
「おいおい.......竜介先生、1番対処に困る奴を残してくれたな!」
「————————!」
アルティメットクウガはつかんでいたボルキャンサーの首を闇の衝撃波で吹き飛ばし消滅させた。さらに、倒れていたゾディアーツを闇紫の重力波で引き寄せ、サクッと蹴り殺してしまう。先ほどまでいい勝負をしていた2人の蟹がこんなにも呆気なくやられてしまうことに嫌な感じがする。
その予感通り、アルティメットクウガは暗黒掌波動を放ってきた。ダークキバはその攻撃に直撃してしまう。負けじとして、ジャコーダーの鞭モードでクウガの体を拘束し、魔皇力を強制的に注入するが——————
「——————」
「ジャコーダビュートを————って、消えた?」
「————————!!!」
「うわぁ!!!」
鞭は糸のように引き裂かれたかと思うと、視界から一瞬消えるほどの高速移動で間合いに入られ、闇を纏ったパンチをアッパーでモロに喰らう。浮き上がったその体が落ちてくると同時に蹴りを入れられる。その衝撃は凄いもので体が中庭にある掲示板にぶつかり、その掲示板を倒してしまう。
罪悪感を感じながらもそばにあった掲示板をクウガに投げつける。当然ながら、掲示板はクウガのチョップで八つ裂きにされる。だが攻撃後の隙を狙って、ダークキバはジャンピングキックを繰り出すが——————キックが闇のような膜に寸止めされてしまう。
「まさか—————ぐわっ!!」
「———————」
キック状態で寸止待っていたダークキバは殴り飛ばされ、そのまま地面に打ち付けられる。アルティメットクウガは距離こそ離れたが、再びこちらに迫ってくる。そこでキバットII世が魁に声をかける。
『大丈夫か?』
「ああ、なんとかな——————」
『あのクウガの闇は俺の闇とは違う。闇とはそれを持つものによってその性質が変わってくる。あの闇は醜く、愚かで、悪そのもの。故に強くある。』
「あぁ......だが、あんなのは邪道だ。俺が魅せてやるさ。本当の闇をな。」
『それでこそ俺が認めた王だ。』
「そうだ—————俺は王だ!!」
そう。AqoursHEROES☆は個性的なヤツらばかりだ。天才ゲーマーに、筋肉バカにクーデレな努力家、祝うヤツ、そして王———————1人を除いては。
「そうであるけど——————アルティメットクウガは以前とは比較にならないくらい強い。暗黒を最大限に利用している。俺のキック寸止めは多分バリアに近しいもの————————才ならともかく、俺にはあれを強行突破するだけの力はない。」
『———————なら答えは1つだ。』
「え?」
『自分には勝ち目のない敵に勝つ方法——————俺たちには封印するという手段があるだろう。』
「!!!!—————でも虎太郎ごと封印するのか?」
『才が来たときに解放すればいい。そうすれば最悪の状態は回避できる。』
「それしかないのか—————」
少し躊躇いながら、ダークキバはブランクシールフエッスルをキバットII世に咥えさせ、封印の風笛を弾く。
≪ クウガ! 封印だ!≫
手から出る稲妻と共に金色の球のような膜が生成される。その膜は闇のバリアを纏っていたクウガの身体を包み込む。そしてその体は徐々に縮こまっていく。
すかさず、キバットII世が咥えていたフエッスルを手元に戻しその膜に翳す。その黄金の膜はそのフエッスルにみるみる吸収されていく。そして完全にアルティメットクウガを吸収したフエッスルは黄金色と化す。
「すまない...........少し辛抱してくれ。」
『さて、クローズに加勢してあのカラクリ男にトドメを刺すぞ。』
「あぁ..........!」
急いでクローズマグマvs滅の戦いを終わらせようとそっちに向かおうとする———————が、ぼんやりとした残像がダークキバと交錯する。
「————————?」
「—————このフエッスルは返してもらいます。」
「なっ!?」
魁は自分の不覚に後悔した。
しかし目の前にいる——————青の複眼、首元のマフラーのような装置、両腕の鋭い爪。さながら極寒の森に潜むオオカミのような———————
「そのベルト........確かフォースライザー。お前も滅亡迅雷.netのメンバーか?」
「そうだとでも言っておきます。ですが、私はまだ《《その時》》ではないので。」
「何?」
「クウガは今のところ唯一のアークの依り代。それを封印されるのは———————《《どちら》》としても、困ります。」
「どちら?」
そのオオカミのライダーはフエッスルを地面に落とし、自身の右足で粉々に砕く——————
粉々になったフエッスルからは忌まわしい、悪意の塊、せっかく封じた似非のオーラが顕現する。
「では、来たるべき時に。」
「おい、待て!!」
怒号も虚し。そのオオカミは吹雪を纏い、どこかに行ってしまった。しかしそれどころではない。煙のようであった闇のオーラはアルティメットクウガへと変貌する。
そして———————
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
「おわぁぁぁ!!」
闇がビックバンのように体育館裏の駐車場に展開され、ダークキバとクローズマグマはぶっ飛ばされる。その攻撃はまるで悪意のビッグバン。そして、その攻撃はこちらに深傷を負わせると同時に、彼らが目的を果たしたが故の撤退の意味も含まれていたと魁は気付かされた。
「クソっ—————あの妨害さえなかったら..........」
「ぐっ.........!がっ.........!」
「竜介先生?大丈夫か?」
ダークキバには大したダメージはなかったが、クローズマグマには電撃が放出されていた。その出元はハザードトリガー。その異変に気づいたダークキバは急いでビルドドライバーに挿さっているトリガーを抜く。
竜介の変身は解除されると同時に魁の鎧も軽くなる。安全確認ができたのか、校舎を挟んで観戦していたAqoursが2人に駆け寄ってくる。
「はっ.......はぁ——————!」
「大丈夫ですか?」
「2人とも大丈夫!?」
曜が心配そうに聞いてくる。
「俺もそうだが、竜介先生にも大した怪我は無さそうだ。」
「俺は大丈夫だ———————でも鞠莉が!!」
「鞠莉さん........まさか!?」
「——————連れて行かれたの?」
果南の胸の底から這い上がった低い声に、魁は無言で肯定するしかなかった。
みんなの空気が重くなる。太陽は輝きを覆われる。千歌の顔もどんよりとする。ルビィはダイヤの後ろにくっつく。善子は顔をそらす。天空に棲む神々が一斉に怒る。その失態は—————————
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そうか—————鞠莉が............」
傘は俺の体が濡れることを防ぐ。だが魁はそうではない。滝のように降る雨を1人懺悔のように受け続けている。
「俺が————守らなければいけなかったんだ。助けられたはずだ。」
「事情は花丸から聞いた。アイツは冷静に動いてくれて助かった。誰だって不覚を取ることはある。当然、俺も然るどころか何度もあるけどな。」
「———————————」
外から部室を覗くと、竜介先生が壁にもたれかかって座り寝していた。おそらく相当疲労しているのだろう。そして、雨のせいでもあるが部室がいつもより暗く見えた。
俺は魁から渡されたハザードトリガーを見つめる。
「お前の言う通り壊れてたよ。容量オーバーだ。ハザードトリガーの限界をも軽く超えてしまったみたいだな。竜介先生は。」
「あぁ............そういえば稜はどうした?」
「稜は——————これだ。」
「スペクターアイコン?」
「稜はスペクターアイコンが作り出した世界で修行中だ。スペクターアイコンと稜の心は繋がっている。アイツに出てくる意思がなかったら、出てくることはない。」
「そうか..............情けない。」
「?」
ポツリと独り言を呟く魁。俺が神妙そうな顔をしたのを読み取ったのか、魁は続ける。
「自分の姉すら守れずに何が王だってことだ。」
「——————滅亡迅雷は《《3日後》》に鞠莉を返すと伝書を残していった。その日は—————もうわかってるな?」
「アイツらには絶対に手出しをさせないって約束したのに——————クソっ!!!!」
「オイ.........」
「俺は——————王失格だ!!」
魁の拳から深紅色のインクが滲む。その色は白に染まっている校舎に一筋の赤ペンキを垂らしたようであった。しかしその血は何事もなかったかのように洗い流される。
「魁——————」
バチッ!!
俺は——————殴った。
本気ではないけれども、それでも目覚めるくらいには殴った。ワイシャツが地面に溜まった水を吸う。
魁は俺を見上げて少し怖気付いても見えた。俺にはそんなジメジメした怒りは一生持てないのかもしれない。乾いた怒り、虚から生まれるようなものだが——————その気持ちは本当だとわかって欲しい。
「自分を—————否定するな!」
「でも............!」
「俺たちは何があっても自分を見失なっちゃいけない。どんなに苦しい状況でも、自分を信じろ!!」
「才——————」
「稜は今、自分を見つけるために戦ってるんだ。自分を見失うことは、覚悟を放棄するのと同じだ!!」
「だがどうすればいいんだ!?花火大会はあと3日後!!仮に3日後に返してもらったとして、本当にうまくいくのか!?そもそも出場できるのか!?」
「——————借りは.........返すべきだ。」
俺はマキシマムガシャットを魁に投げる。魁は咄嗟にキャッチした。
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