実の母親でも
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第二章
「それで今度ね」
「実のお母さんのことを知ったのね」
「今何処でどうしてるのかね」
「そうなのね、それでどうするの?」
妻は夫に問うた。
「実のお母さんと」
「会うかどうかだね」
「どうするの?」
「会わないよ」
即座にだ、夫は妻に答えた。表情も変わっていない。
「絶対に」
「そうするの」
「うん、何でも前科七犯で」
「七犯って」
「恐喝に詐欺にってね」
「そんな人なの」
「それが間違いないらしいし」
妻に真顔で話した。
「今もかなり胡散臭い人と付き合ってるらしいから」
「それでなのね」
「会わないよ」
絶対にというのだ。
「そうするよ」
「そうなのね」
「けれど実の父とはね」
「その栃木にいる」
「刑務所に入ったのも実の母に騙されてらしいし」
「根っからの悪人じゃないのね」
「だからね」
そうした人だからだというのだ。
「一度ね。更正して真面目に働いて家庭に持ってるそうだし」
「今はそうされているのね」
「今度会いに行こうと思ってるんだ」
「その時は私も一緒に行かせてもらうわ」
朋絵は妻として応えた、そうしてだった。
実際に時間を見て栃木まで行って夫と共に彼の実の父に会った、その出会いはお互いに事前に連絡をし合ってのことで。
突然の衝撃はなかった、だが。
笑顔で会えた、そうしてだった。
楽しく話も出来た、そのうえで夫婦は一生の記憶になる時間を得られた。だが実の母とは決して会わず。
啄木は朋絵に話した。
「また悪いことしてね」
「捕まったのね」
「これで八犯だよ」
「本当に碌でもない人みたいね」
「だから会わないよ」
「そうしないと駄目な人ね」
妻は夫の言葉に頷いた、そうして以後実の母のことは話さなかった。そうして子供が出来たら大事に育てたのだった、放り捨てたりせずに。
実の母親でも 完
2022・7・23
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