人生コンティニューしたらスクールアイドルを守るチートゲーマーになった
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37話 Onlyな演出家
「はっ!!」
「ぐわぁ!——————なかなかやるな.........だがこれならどうだ!」
≪リキッド! ナウ!≫
メダジャリバーの突きがソーサラーの体をすり抜ける。俺は確かめるように肩から切り入れるのだがそれも通用しなかった。
リキッド———————その文言通り液状化したのだろう。こういう特殊能力を発動されるとムテキゲーマーにとってはとんでもなく厄介だ。基本的に物理攻撃しかレパートリーがないので、それが効かない敵には苦戦———————最悪、そのまま膠着状態が一生続いてしまう可能性だってある。
そうなれば俺の負けだ—————————が、そんなヘマをしないために今までライダーシステムを強化を続けてきたんだ!
≪パーフェクトパズル!≫
少し距離をとってガシャットギアデュアルを起動する。それを持ったまま戦うわけにもいかないので、右側のキメワザスロットホルダーにセットする。そしてエナジーアイテムを弄り始める。
「液状化に対抗するには..................これだ!」
≪液状化!≫
普通に考えれば出る結論ではある。姿が変化する相手に今まで通じていた攻撃が効かなければ、自分も同じ姿になる—————————ごくごく自然な話である。
液状化した状態でソーサラーに斬りかかる。ジャリンという爽快な音を立てて液体が見事に切れる切れる。その爽快感を忘れないうちにもう一度切っておく。どうやらダメージ率によって魔力が解除されるようで、ソーサラーから液体感を感じなくなっていた。俺もそれを確認して液状化を解除する。
≪メダガブリュー!≫
続いてオーズの最強武器であるメダガブリューを装備する。ティラノサウルスの顔が描かれたこの武器は無に返す力とかコアメダルを砕くそうだが...............................まぁ、要するに破壊力が強いって事でいいんだろう。
早速、アックスモードを一振り。今度は先ほどのメダジャリバーとは打って変わって重低音が全身に響き渡る。威力も先程とは桁違いだ。あまりに強い衝撃なのか堪らず、ソーサラーは背を向ける。
体勢を直して、ソーサラーが振るった薙刀を左腕で軽々と受け止める。受け止めたと同時にメダガブリューの刃で腹を抉る。
今のはかなり効いたようでその傷を痛がるように少し後退りする。体力が少ないけれども戦っているためかソーサラーの足元がおぼつかない。そんな状態での薙刀など当たるはずもなく、軽く避けて戦斧を振り下ろす。
そしてそのまま距離を取って、更に付属のセルメダルを喰わせる。
≪ガブッ! ゴックン!!≫
≪プットッティラーノヒッサーツ!≫
バズーカモードにしてセルメダルの強力なエネルギーを凝縮した破壊光線をチャージする。ソーサラーとの距離はおよそ5mほどだ。この距離で破壊光線が当たらないはずがないのだが......................
≪リフレクト! ナウ!≫
紫色の破壊光線が放たれたのと同時に反射の力を纏った魔法陣を形成する。その魔法陣に防がれた破壊光線は方向を変えて、俺の元に帰ってくる。普通ならここで反射攻撃を喰らってしまうのだが——————————
≪反射!≫
俺の胸筋に当たった攻撃はエナジーアイテムによって《《反射攻撃を反射し返す》》。2回目の反射返しは想定外だったようで、その反射された破壊光線を喰らってしまう。その破壊力はソーサラーの装甲を確実に溶かしていた..................
「ぐっ..............」
「お前————————そんなにスクールアイドルが認められないのか?」
「当たり前だ。我々は———————この内浦の名門黒澤家だ!!太古から続いてきた古き良き歴史を...........................華美で風流に反する物で汚すわけにはいかないのだ!!!」
「お父さん.....................」
『お父様の言う事にも一理あるとは思いませんか?ダイヤ、ルビィ。」
「お母様!」
「え!?ダイヤさんのお母さん!」
「真珠................」
「!!!!!」
廊下から縁側にやってきたのは、黒澤家当主の妻................黒澤天青の言葉通りなら名前は黒澤真珠。その風貌はダイヤをそのまま成長させたかのような女性。これぞ大和撫子の目標点———————そう揶揄できるほどだ。
「伊口才さん。貴方はどう思いますか?」
「え?」
「確かに貴方の言う通り、このままでは内浦は存亡の危機に立たされるでしょう。ですがそれと同時にこの家系の威厳も保たなければなりません。それをどうお考えになりますか?」
俺は一瞬自分で自分の答えを確かめるほど、この人の問い方は繊細かつその本質を問うていた。でもすぐにその答えは確信を持って答えられるものに変化していた。だがこれは答えというよりは証明に近い。要求に対して与えられた疑問を真実であると証明するということだ。
「—————————温故知新って知ってるよな?」
「確か.................『ふるきをたずねて新しきを知る』って意味の?」
「そうだ、曜。中国の『論語』為政篇で書かれていた言葉だ。」
「それがどうしたんだ?」
虎太郎が俺に対して確認するするように疑問を呈する。ここでいう疑問というのは全く意味がわからないわけではなく、それとこの事がどういう因果で繋がっているかが知りたいのである。その疑問に対して俺は声の調子を数段上げて話す。
「俺は日本の和風とかいうのは、そういう物の結晶だと思ってるんだ。」
「と言いますと?」
「日本の和っていうのは調和の『和』なんだよ。この現代になって、日本で日本に存在している和は明治維新で江戸以前の文明物を指すことが多くなった。でも本当の和ってのは海外から導入したものや新しく発見された物と既存の文化が融合することこそが『和』であって、《《伝統》》なんだよ。」
「うーん、難しすぎてよくわかんないな................果南ちゃんわかる?」
「さぁ....................?取り敢えず走ってくる?」
「取り敢えず走ろうとするな!あとで俺が簡単に説明してやるから黙ってろ!」
このような話は千歌と果南には到底理解不能な話である。これが理解できるとなると、ツッコミを入れた稜。なんでも容量よくこなせそうな曜や虎太郎、文学少女の花丸と黒澤一家くらいだろう。
「これを言ったらもう言いたいことはわかってくれたか?」
「歴史や伝統というものは流行物と融合してこそ成り立つということね.........................」
「梨子、半分は正解だ。でもそれは黒澤家にスポットを当てた場合の話だ。」
「??」
「Aqoursにも焦点を当ててみれば一瞬でわかる。俺たちがやってきたことは、その伝統を理解することも1つ—————————それこそ温故知新。即ち『和』に他ならないんだよ。」
「成る程。つまり黒澤家がそれと関わっても何の不敬にも穢れにも当たらないというわけですか....................流石は天賦の方と噂されるだけのことですわ。」
「わかってくれましたか。」
黒澤母が俺の証明に対してある程度の理解を示してくれたところで自らの夫に言い放つ。
「——————————そろそろ《《正直》》になられたらどうですか?お父様」
「フッ...................お前には敵わんよ.....................」
「どういうことですか?」
梨子の疑問に黒澤母は少し意地悪そうな微笑を浮かべて、こう答える。
「お父様はスクールアイドル———————特に高海千歌さんには何かを惹きつけるセンスがあると前々から言っておりましたわ。特にあの海開きの日からですか...................」
「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」
「本当...............ですか?」
褒められた張本人である千歌が黒澤母に問い直す。
「ええ。あの日からお父様は貴方達スクールアイドルに対して感嘆の一声を上げていたものですから...................」
「お父さん————————!」
「勘違いするな、ルビィ!スクールアイドルがそうなのではない!ただ個人的に資質ある人間だと感じただけだ!」
「お前そんなキャラだっけ......................?」
若干のキャラ崩壊を起こしているが................でも父親っていうのは形は違えど子煩悩だ。威厳を見せる奴もいるし、フレンドリーに接する父親もいる。そして黒澤天青という人間は明らかに前者だ。
一見すれば頑固な人間だろうが、高海千歌という普通だがカリスマ性が高い少女を認めているのだ。それがそういう人格者であるという何よりの証拠に他ならない。
「この流れに乗って————————ライブ、見に来てくれますか?」
「「「「「「「「え!?!?」」」」」」」」
「才が...................」
「ませ男の才君が.................」
「誰にも敬意を払ってなかった才君が..............」
「才くんが敬語を.............」
「オイ!俺のことどんな目で見てんだよ!!」
思考停止していない善子、梨子、曜とルビィにが順に驚きの言葉を述べる。特に梨子に至っては『ませ男』って————————勝手に造語を作るなよ.....................
「まさか才さんが敬語を使うとは...............」
「ダイヤ、それダジャレ?」
「この状況で言うと思いますか————————?」
「だよね〜」
「お前は何がしたいんだよ................」
あまり気にしていなかったのだが、先程から果南が暴走気味だ。おそらく難しすぎる話を聞きすぎたのか..............この状況から察するに鞠莉と果南のボケを稜とダイヤでツッコんでいたんだろうな............
「ライブに来るのか....................答えは出ましたか?」
「——————————このような流れになって観に行かんわけにもいくまい。」
「じゃあ!!!」
「「「「「「「「やった〜!!!!!」」」」」」」」
黄色い声が日本庭園....................それすらも超えて、内浦全体に響き渡った。
そんな中で天才は自分のアイデンティティに反する行動に赤面するのであった........................
—————※—————
黒澤家に乗り込んでから数日が経過する。
あの後、しっかり鞠莉と魁も落ち着いた状況で黒澤天青と対面した。そしてAqours全員でそれ云々の挨拶を交わしてその場を立ち去った。
その後ダンスの振り付けやポジションも決定した。今回のセンターはもちろん高海千歌である。曲風や演出、衣装が変われば、それに応じてセンターポジションも変えるのだ———————————と言っても経験したライブ回数も今回を入れて3回だけなのでなんとも言えないのだが。
そして今現在、6月第4金曜日の午後5時ごろを指している。いよいよ明日はライブ当日。流石に地元で知名度はあるとは言え、急にその日にライブを始めても観客は限られてくるので前日予告を行う。この15人でそれは役割分担ということで、それぞれ沼津市の中で人通りの多い場所に行ってそれを告知する。
そして俺と一緒に沼津港で告知するのは鞠莉になったのであった—————
「才、何してるの?」
「何って.................プロジェクションマッピングだよ————————よし、出力っと。」
「ワーオ!Aqoursの9人のミニチュアね!!」
びゅうおの展望回廊の下に見えるコンクリ部分にプロジェクションマッピングを提供する。描かれているのはAqoursの9人のミニチュア。そしてその隣にゲリラライブの通達を忘れない。
「これで俺たちだけビラ配り免れたけど...............これからどうする?皆ビラ配りしてるだろうし..............」
「ふぅ...........そうね............じゃあ、ちょっと行きたいところがあるんだけど?」
「よし!じゃあ連れて行ってやる!」
≪爆走バイク!≫
エグゼイド専用の黄色のバイクが召喚される。このガシャットは変身に使うこともできるのだが、バイクに変身するという不便なことを自らするつもりはない。バイクは運転してこそだ。
「はい、ヘルメット。」
「ありがと。」
「じゃ..............道案内頼むぜ。」
「うん....................」
いつもの鞠莉とは違い、ローテンション———————いや正確には落ち着いていると言えるのかもしれない。その容貌で落ち着いた雰囲気はまさしくオトナの女性と胸を張って言える。
そんな心を透かすように鞠莉は俺の鳩尾辺りに手を回して、ホールドする。心拍音が聴けてしまうその距離では、俺がどう言う感情を抱いてしまっているのかが瞭然になってしまうだろうが....................悪い気にはなれない自分がいた。
「しっかり掴まってろよ!」
「うん。」
金色の髪をたなびかせてそのバイクは走り出す——————————
——————————————————
「ここか........................って、パノラマパークだけどな。」
「あら?残念だったかしら?」
「いやそういうわけじゃないけど....................もっと遠くへ行くのかと構えてたからさ......................」
鞠莉に案内された———————というよりは途中で目的地を聞かされて、バイクで走ったというのが正解だろう。その目的地とは伊豆の国パノラマパークの山頂にある天空公園の展望台。ここからは内浦や沼津だけでなく日本に誇る霊峰富士もその気難しい顔を見せてくれる。
「でもこんな私たちにとってありふれた場所が1番大事—————————そうでしょ?」
「確かにそうだな。」
鞠莉の言葉に肯定で返したあとに、木で作られた展望台の囲いに自分の腰を預ける。その姿を客観的に想像した際に少しばかり自惚れをしてしまう—————————だがそれは瞬間に過ぎず、すぐにマリのキャッチボールが返ってくる。
「そういえばまだお礼を言ってなかったわね。」
「お礼?」
「才。あなたはAqoursを守り抜くだけじゃなく、私たち3年生に希望を持たせてくれた。本当にやりたいことをやらせてくれた。それにリョウやマイブラザーも本当にやりたいことをしている。そんな風になったのも全てあなたのお陰よ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ——————————俺たち仮面ライダーはお礼や見返りを受けたらそれはヒーロー失格だ。俺は確かに円満に事が運ぶようにと考えていた——————————でもそれは俺自身のの正義だ。俺はただヒーロとして、俺自身の正義として納得もしてないのに夢を諦めるなんて絶対にさせない.......................それだけのことさ。」
竜介先生が言っていた言葉。そしてその言葉の数々が俺にインスピレーションを与えているのだ。そしてそれは俺のライダー観念としては当たり前になっている。
「そう.................さすがヒーローね。」
「そりゃ『でもね』」
「才はそれでいいかもしれないけど................私は無理よ?」
「え?」
「あなたに見返りもなしに守ってもらうなんて私は無理。私だけじゃないわ。果南やダイヤ。チカっちたち————————皆そう思ってるわ。あなたはヒーローでもあるけど、同時にこのAqoursで唯一無二の演出家なのよ?その手伝いをしてくれるヒーローが何人いても唯一な事に変わりはない。」
「鞠莉....................」
鞠莉の顔——————————そこには哀しみの気持ちも多少なりとも含まれているようで、怒りも含まれているような........................そんな複雑な感情を隠し切れていない顔だ。そんな顔を受け止めた俺はたじろぎを無意識に行ってしまう。
「《《だから》》だよ。」
「??」
「俺はこのAqoursのマネージャーだ。それは自分で決めた事だ。それが俺のやりたいこと。やりたい事をやって見返りを貰うなんておかしな話だと思わないか?」
「——————————————」
「俺は好きだ。この内浦も。浦の星も。そして————————お前らAqoursのこともな。そして大切な存在を守り抜くことが——————————俺なりの正義と言わずしてどうする。」
「—————————そうね。あなたにそんなこと言われたら、言い返しようがないわ。でもこれだけは分かって。」
「??」
キャッチボールが少し間が空いてしまう。個人的な意見であるが、少し熱くなった状況に冷風が通り抜けることは非常に恥ずかしい気分になる。
「あなたはこのAqoursにとって《《特別な存在》》。同じに思ってるリョウや虎太郎、マイブラザー達とは一線を画す存在よ。そしてあなたは気付いてないでしょうけど....................
あなたのことを愛しているわ。
さえずりの丘から鐘が鳴り響く。
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