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音痴のラブソング

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第二章

 敏行を大学の傍の公園に案内してそこで二人きりになって話を聞くことにした、陽子は自分から彼に尋ねた。
「先生に言いたいことって何かしら」
「はい、実は僕歌を作ったんです」
「えっ、歌!?」
 告白だと確信していた、それがだ。
 何故歌かと思って驚いた、その彼女に敏行は一緒に座っているベンチの隣から言ってきた。
「先生にと思って作詞作曲した歌です、聴いて下さい」
「私のなの」
「はい、この歌です」
 敏行は歌いはじめた、その歌を聴いてだった。
 次の日陽子は友人に困り果てた顔で話した。
「いや、歌詞と曲は兎も角ね」
「それでもだったの」
「凄い音痴でね」 
 それでというのだ。
「困ったわ、けれど最後までね」
「聴いてなのね」
「私が好きだってことははっきりわかったから」
 だからだというのだ。
「それでね」
「受けたの、告白自体は」
「歌自体が告白だったし」
「そのことはそうしたのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「もう私の前で歌うことは止めてってね」
 その様にというのだ。
「言ったわ」
「そうもなのね」
「ええ、それで昨日のうちに手を握ったから」
「その日のうちになの」
「そうしたわ、後はね」
 陽子は友人に笑いつつ話した。
「徐々にね」
「関係を深めていくのね」
「そうするわ。ただ歌はね」
 こちらのことは苦笑いで話した。
「もうね」
「いらないのね」
「それだけはね、気持ちは充分伝わって受け取ったしね」
 それでと言ってだった。
 陽子は友人に彼のことをさらに話していった、そうして敏行との交際をはじめたが彼に歌だけは歌わせなかった。それは彼が高校から大学に入り就職して結婚してからもだった。それだけは駄目であった。


音痴のラブソング   完


                 2022・6・27 
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