銀河を漂うタンザナイト
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アスターテ星域会戦④
前書き
今回でアスターテ会戦は終わりです。
第2艦隊旗艦パトロクロス 艦橋
「第6艦隊旗艦ペルガモン応答せよ、繰り返す。第6艦隊旗艦ペルガモン応答せよ」
「ダメです、繋がりません!」
通信士が泣きそうな顔で言う。
「そうか、第6艦隊は全滅したのか……」
「はい、その可能性が高いかと…」
「わかった、ありがとう」
ヤンは通信士に礼を言う。すると、横にいたアッテンボローが口を開いた。
「ラップ先輩、無事でしょうかね?」
「あぁ、無事であって欲しいさ」
「「‥‥‥」」
二人の間に降りかかった重苦しい空気を振り払うかのようにアッテンボローが口を開く。
「で、これからどうしますか?」
「第6艦隊の残存艦艇を集めて再編したいところだが……」
「この状況じゃ無理でしょうね」
「ああ、そうだな」
「となると、我々と第4艦隊だけで戦うしかないということですか」
「そういうことになるな」
「はあー」
アッテンボローは大きなため息をつく。
「仕方ないさ、これが戦争なんだから……」
「そうですね……」
こうして、帝国軍による奇襲により、同盟軍は多大な損害をうけ4万の総兵力の内、すでに半数近くを失っていた。しかし、それでもなお帝国軍の攻撃は止まらない。
「なに、第6艦隊が壊滅しただと!?」
「はい、残念ながらその可能性が高いかと……」
『確かに、あり得ないことではないな…』
「そんな馬鹿な、あの艦隊には歴戦の勇士達が集まっていたはずだぞ!それをたった一撃で葬り去るなど……」
パエッタは信じられないという顔をしながら、そう言う。
「お言葉ですが閣下、敵艦隊は第6艦隊13000隻に対し、20000隻です。数の上では負けているのですから壊滅したとみてよろしいかと…」
「むう……」
ヤンの言葉にパエッタは反論できなかった。
「ではどうするのだ?まさか一戦も交えずに撤退するわけにもいかんぞ」
「はい、敵はまだ健在です。ここで撤退せずに留まっていれば我が艦隊は帝国軍に蹂躙されるだけとなります」
「ならばどうするというのだ?」
『もはや勝敗は決しました。この上は敵に追撃される前にできるだけ整然と撤退し損害を少なくすべきかと、小官は愚考いたします』
ここでクロパチェクが無線から口をはさむ。
「いやしかし、撤退するわけには、うぅむ……」
パエッタは考え込む。
「閣下、今は悩んでいる場合ではないかと、このままでは我々は全滅です」
「わかっておる」
パエッタはそう言って目を瞑ると大きく深呼吸をし、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「全艦、戦闘態勢を維持しつつ一旦後退、敵艦隊の攻撃を警戒せよ!!」
「…了解です」
ヤンの言葉と共に第2、第4艦隊は後退を開始するが・・・。
「報告、センサーに感あり。帝国艦隊です!!」
「な、なんだと!?」
「敵艦隊、こちらに向かってきます!!」
「ば、バカな!!第6艦隊は壊滅したというのか!?」
レーダースクリーンを見ると、帝国艦隊が第2、第4艦隊に接近しつつあった。
「閣下、いかがいたしますか!?」
「う、あ…迎撃だ!全艦、応戦せよ!!」
「了解です」
「第2、第4艦隊は密集して火力を集中しつつ距離を取って反撃を行う!!」
パエッタの指示により第2、第4艦隊は帝国艦隊から離れようとする。
「よし、これでいい……これでいいはずだ…」
パエッタがぶつぶつと呟くと同時に帝国軍が動き出す。
「敵艦隊、発砲しました!」
「反撃せよ!!撃ち方始め!!」
オペレーターの悲鳴のような声が上がる。次の瞬間、各艦の主砲からビームが発射された。
「回避運動開始!!」
旗艦パトロクロスを含む各艦は帝国艦隊と距離を取ろうとするが・・・。
「敵の追撃が激しすぎて逃げきれません!!」
「なんということだ……」
パエッタは呆然としながらスクリーンを見つめていた。
一方そのころ、帝国艦隊は第2、第4艦隊を射程内にとらえ砲撃を開始する。
「全艦砲撃開始!!」
そして、ついに両軍が接触する。
「敵艦隊が来ました!」
「怯むな!撃てぇ!!」
第2、第4艦隊の全艦艇の主砲が一斉に火を噴く。しかし、勢いに乗る帝国艦隊の前にその攻撃の効果は微々たるものだった。
「敵艦隊突っ込んでくるぞぉ!!」
「な、なんだと!?」
「閣下、如何なさいますか?」
「…お、応戦だ、撃って撃って撃ちまくれ!!」
「しかし、それでは…」
「構わん!反撃だ!!反撃せよ!!」
パエッタは半ば自棄に、半ば功名心から命令を下す。このとき第2艦隊旗艦パトロクロス艦橋部にいた全員が司令官パエッタ中将が冷静な判断力を失ったかと思ったが、実際は違いパエッタにも考えがあった。パエッタはこの戦いの勝敗が既に決まっていることを知っていたがそれと同時にチャンスとも感じていた。というのも今回のこの戦いは、自由惑星同盟国防委員長ヨブ・トリューニヒトが自分の派閥に属する軍人や個人的に手柄を立てさせたい人物を指揮官に指名しており、それはパエッタも当て張るのだった。なにより彼は他の2提督と違い、この戦いの少し前に起きたレグニッツァの戦いで、指揮下の艦艇の内約8割を敵の策略により失うという大敗北を喫しており、後がない立場だったのだ。だからこそ、この戦いで名誉挽回しようと躍起になっていたのだ。だが、そのことが彼の視野を狭めてしまっていた。
「閣下!敵艦隊に動きがあります。敵はわが軍を中央突破するつもりです!!」
「何を考えているんだ奴らは……」
「閣下、いかがいたしますか?こちらも敵に対応して防御陣形を取り応戦すべきです」
幕僚の提案に対しパエッタは一瞬考えた後に首を横に振った。
「その必要はない、突撃し敵艦隊に猛攻を加え一気呵成に粉砕する!」
「なっ!?」
艦橋内を衝撃が走る。さすがに見かねたヤンを始めとした数名が声を上げる。
「つ、ついに頭の配線が切れたのか!?」
「パエッタ中将!!」
「黙っていろヤン准将!!私が先頭に立って戦えば味方の士気もきっとあg「本艦に敵弾接近!!」
パエッタの声を遮るようにオペレーターが叫ぶ。
「回避運動開始!!」
パエッタの命令で第2艦隊旗艦パトロクロスは回避行動をとるも、その直後、第2艦隊旗艦パトロクロスに攻撃が命中し、船体が大きく揺れる。
「ぐわぁ!?」
パエッタは突然の衝撃に椅子から吹っ飛ばされて壁に叩き付けられてしまう。
「閣下!!」
「大丈夫ですか!?」
周囲の部下たちが慌てて駆け寄る。パエッタの制服は血で真っ赤に染まっており、彼がかなりの重傷であることを示していた。
「うぅ、ゴホッゴホッ…」
パエッタが咳き込むと口から大量の血液が出てくる。
「閣下しっかりなさってください!!」
「だ、だいじょうぶだ……」
パエッタはそう言って立ち上がろうとするものの足元がおぼつかない。
「閣下!!ご無理をされてはいけません!!」
「パエッタ中将が負傷された、医療班は直ちに艦橋へ」
「了解しました」
パトロクロス医療班の衛生兵たちはパエッタの体をストレッチャーに載せると医務室へと連れていこうとするが
「ま、待て!!」
「閣下、どうかご辛抱を!」
「や、ヤン准将を呼べ、今すぐに…」
パエッタは必死の形相を浮かべながら部下たちに訴える。
「閣下……」
「ヤン准将・・・君が、艦隊の指揮をとれ・・・今いる士官の中で、どうやら君が、最高位のようだ・・・」
「私が、ですか?」
「そうだ、貴官の…、用兵家としての手腕を…、振るうといい…」
それだけ言いつくすとパエッタは力尽きたのかストレッチャーに倒れこむ。
「閣下!!」
「軍医!急いでくれ!!」
「分かっています!!」
第2艦隊旗艦パトロクロス艦橋部にいた全員の視線が集中的にヤンに向けられる。
「…まいったな、これは」
指名されたヤンはというと頭をかいてぼやく。
第4艦隊臨時旗艦 標準型戦艦リューリク 艦橋部
一方パエッタ負傷の知らせは第4艦隊司令部にももたらされていた。
「なに、パエッタ中将が!?」
「はい、敵艦からの砲撃を受け負傷したとのことです」
「それで容体は?」
「出血は多いようですが命には別状はないと思われます」
「それはよかった」
「ですが、問題は……」
「ああ、次の指揮官が誰かという事だ」
幕僚の言葉に現第4艦隊代理指揮官アラン・クロパチェクは腕を組む。
「現在、第2艦隊は旗艦パトロクロスが被弾し、パエッタ中将は重傷を負っている状態です。代理の指揮官に関してはまだ報告がありません」
「ふむ、そうなると誰が指揮を執るかだな、本来なら第2艦隊の将官クラスの幕僚が務めるべきなのだろうが……」
「しかし、そのような人物がそう簡単に見つかりますかな?」
「確かに難しい問題だが、俺には1人心当たりがあるな」
「それはいったい……?」
「あぁ、エル・ファシルの英雄ヤン・ウェンリーだ」
クロパチェクは自信満々に答えた
。
「なっ!?そ、そんな無茶苦茶な、いくらなんでも無理ですよ!?」
「なぜだ?少なくともあいつは同期で主席だったワイドボーンをシュミレーター戦で破ったし、なによりエル・ファシルで300万人の民間人を一人も犠牲無く救い出したんだ、あいつならなんとかできるさ」
「はぁ…?」
幕僚は困惑気味に気のない返事をする。
「ま、それはいいとして現在の我が軍の状況はどうなっている?」
「ハッ、第2艦隊は旗艦パトロクロスが敵からの攻撃で中破、その際に司令部も攻撃により指揮系統が途絶、他の艦艇も少なからず被害を受けています。我が艦隊はいまのところは損傷軽微、敵艦隊に対し第2艦隊右翼集団と共に応戦中です」
「敵艦隊の動向はどうだ?」
「はい、敵艦隊は第2艦隊と交戦中でこちらの動きに気づいている様子はありません」
「よし、ならば敵艦隊左翼に回り込んで、第2艦隊と連携して敵艦隊の横腹を突き崩し、第2艦隊が態勢を立て直すための時間を稼ぐぞ」
「了解しました」
こうして、第4艦隊は敵艦隊左翼に対して攻勢を仕掛けるべく行動を開始したのであった。
帝国軍遠征艦隊旗艦 戦艦ブリュンヒルト 艦橋
「報告、敵第4艦隊、我が艦隊の左翼に進出を開始、戦闘態勢に入った模様!!」
「来たか……」
ラインハルトは静かに呟く。
「ラインハルト様、いかがいたしますか?」
「慌てることはない、全艦隊に通達。艦隊を単横陣に再編。左翼の目障りな敵第4艦隊はシュターデンとエルラッハに対応させろ」
「了解いたしました」
通信オペレーターは命令を復唱すると各艦へと伝達するべく回線を開く。
「キルヒアイス、お前は敵の狙いをどう読む?」
「はい、敵の狙いはおそらく我々を引きつけて戦力を分断し、敵第2艦隊の戦力再編を成功させることにあると思われます」
「ふっ、俺もそう考えていたところだ」
「では、如何なされるおつもりで?」
「そうだな…。よし、こちらもそれに乗るとしよう。我々はこのまま直進して敵第2艦隊を砲撃、その後、左旋回を行い敵第4艦隊を包囲殲滅する。キルヒアイス、各艦の準備はいいか?」
「はい、いつでもいけます」
その言葉と同時にラインハルトは手を振り下ろす。
それを合図に帝国遠征軍の全艦艇が一斉に動き出す。
そして、左翼に位置するシュターデン艦隊とエルラッハ艦隊もそれに呼応して前進を開始する。
「よし、全軍前進、敵を蹴散らせ!!」
こうして、ラインハルト率いる帝国軍遠征艦隊は総力を挙げて敵に攻撃を敢行したのであった。
「代理指揮官殿、敵が向かってきました!」
「ふむ、予想通りだな。各艦は敵との相対距離をゼロに保ちつつ応戦、決して突出しすぎないように注意しろ」
「了解です」
クロパチェクの指示を受けて、各艦の艦長たちは部下たちに指示を出す。そしてすでに帝国艦隊左翼に展開した第4艦隊に対してほぼ同数のシュターデン・エルラッハ両艦隊が突撃してくる。
「敵は勢いに任せて突っ込んでくるつもりだ。こちらは冷静に対処すれば必ず勝機はある。落ち着いていくぞ」
「了解しました」
「よし、主砲斉射三連。ファイアー!!」
クロパチェクはそう言うと自らが指揮する第4艦隊麾下の全艦が主砲を放つ。放たれた閃光はシュターデン・エルラッハ両軍の先頭部隊を飲み込み轟沈させる。
「おのれぇ、怯むな!撃ち返せ!!撃って撃って撃ちまくれ!!」
エルラッハ少将は自らの座上する旗艦ハイデンハイムで怒声を上げる。シュターデン・エルラッハの両艦隊は小生意気な敵艦隊に果敢に反撃を試みるも、クロパチェクは事前に砲撃のタイミングを見計らっており、第4艦隊は敵艦隊の攻撃に対して距離を取りつつ、巧みに回避しつつ反撃に転じていく。その結果、同盟軍第4艦隊に対してシュターデン・エルラッハ両艦隊は多大な損害を被る結果となる。しかし、それでもなおも同盟軍第4艦隊は止まらない。
逆にシュターデン・エルラッハ艦隊が敵第4艦隊に対する攻撃に手間取っている間に、第2艦隊右翼集団と連携して敵第2艦隊への制圧射撃を開始し、敵艦隊を徐々に押し込んでいったのである。
そして、この攻撃により第2艦隊はある程度態勢を立て直すことに成功し、指揮系統の再編に成功。そんな中…
「あー、私はパエッタ総司令官の次席幕僚、ヤン・ウェンリー准将だ。旗艦パトロクロスが被弾し、パエッタ総司令官は重傷を負われた。総司令官の命令により、私が全艦隊の指揮を引き継ぐ…。心配するな、私の命令に従えば助かる。生還したい者は落ち着いて私の指示に従ってほしい。我が部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていれば良いのだ。…ハッ、我ながら偉そうなこと言ってるな…」
「まさか、期待してますよ」
「負けはしない。新たな指示を伝えるまで、各艦は各個撃破に専念せよ。以上だ。」
旗艦パトロクロス艦橋部の司令官席でヤンはそう言い放つと、すぐに艦橋に戻り艦隊運用を再開する。一方その通信は友軍第4艦隊と敵艦隊にも傍受されていた。
「ハハハッ、ついに出てきたかヤン・ウンェンリー!」
ラインハルトは嬉しげに笑うと、独語する。
「負けはしない、か。この期に及んでどう劣勢を覆すつもりだ。まあ、いい。このままでは我軍の損害も無視できない。キルヒアイス!」
「はい」
「戦列を組み直す。全艦隊に紡錘陣形を取るよう伝達してくれ。…理由はわかるな?」
「…中央突破をなさるおつもりですね。」
「ああ、そうだ。艦隊の再編を急がせろ」
「了解です」
こうして、帝国軍遠征軍は全艦艇が一糸乱れぬ動きで紡錘陣形を構築すると、同盟軍第2艦隊に向けて突進を開始した。
「敵艦隊、紡錘陣形を取って我が方に向かって急速に突撃してきます」
「成程、敵は中央突破を図る気だ」
「え!?中央突破?」
「ああ、やっこさんならそうするだろうな。さぁ、私はどう受けようかな」
ヤンは自然体でつぶやいた。
「でも先輩もしそうなったら、我々もただではすみません。それに、我が方は敵左翼に攻撃を仕掛けている最中ですよ?」
「そうだな。でもまあ、大丈夫だと思うけどね。……ん、これは……」
「敵が射程に入りました!」
「よし、反撃する」
同盟軍第2艦隊は帝国軍の接近に合わせて一斉に砲火を開き応戦を開始する。そして帝国遠征軍はそれに対して、前進しながら砲撃を行い、さらにミサイルも発射する。
「各艦に戦術コンピュータのC4回路を開くように通達してくれ」
「了解です」
第2艦隊分艦隊旗艦 戦艦アガートラム
「旗艦パトロクロスより入電、戦術コンピュータのC4回路を開け、との事です」
「うむ、直ちに実行せよ」
オペレーターの報告を受けて、分艦隊司令官フィッシャー准将は即座に指示を出す。そして、それを受け他の艦隊も順次C4回路を開いていく。すると、次の瞬間だった。
「な、これは…」
「敵の中央突破戦法に対する対抗戦術ではないか!」
フィッシャー准将以下の司令部要員たちは戦術コンピュータに表示された戦術に驚愕する。なぜなら、それは彼らの予想の斜め上をいくものだったからである。コンピュータのディスプレイには敵の中央突破に対抗する戦法が掛かれていたが、それは中央突破で引きちぎられたように見せかけて敵艦隊の後ろに回るというものだった。
「しかし、こんな奇策があるのか?……だが、他に手はないな。よし、全艦隊に通達、戦術の通りに動くぞ」
フィッシャー准将はそう言うと、指揮下の艦隊に命令を下すのだった。
一方第4艦隊でも
「代理指揮官殿、第2艦隊旗艦パトロクロスより入電、戦術コンピュータのC4回路を開くように言っています」
「わかった。全軍に通達してくれ」
「了解しました」
そして、第4艦隊の各艦も戦術コンピュータのC4回路を開き始める。
「ほぅ、コイツは…」
クロパチェクはその戦術を見て感心したような表情を浮かべた。
「流石だな。あいつらしい」
「はぁ…」
「よし、敵艦隊左翼への砲撃は切り上げる、我が艦隊もこの戦術の通りに動くぞ」
「了解です」
こうして、同盟軍2個艦隊は相手の中央突破を誘うべく、相手を誘い込みつつ、応射する
「敵、わずかながら後退。後退の速度を速めています」
帝国軍の反応はこうだ。
だがこの反応は、ヤンの待っていたそれであった。
「どうやら上手くいったようだな。味方は私の言ったように動いてくれている」
「負けずに済みそうですね」
「フ、たぶんね」
同盟軍サイドの打算は終わり、著しい艦隊運動を行う。それに対する帝国軍の認識は違った。
「敵第2艦隊、我が艦隊の中央突破で分断されつつあります」
「ふっ、勝ったな…」
シュターデンを始めとした将官たちの大半がそう考える中、ラインハルトは違った。
「・・・!なにッ!?」
「何か?」
「あれが・・・我が艦隊に引き千切られたのではなかったら・・・?」
「まさか・・・」
「しまった!」
「今だ!機関全速!」
ヤンの命令を受けた同盟軍第2艦隊は高速で前進する。
「敵が左右に分かれました!何と高速で逆進してゆきます!!」
「キルヒアイス!!してやられた・・・。敵は二手に分かれて、我が軍の後ろに回る気だ。中央突破作戦を逆手に取られてしまった。こんなまねができるのは…やはりあの男しかいない」
「ヤン・ウェンリー准将、ですね」
「あぁ、そうだ…」
一方この光景を見た同盟軍は
「味方艦隊、敵の後ろに出ました!!」
「よーし。敵の尻尾に火をつけてやれる。だが・・・このまま勝たせてはもらえないだろうね。相手が相手だ。ま、負けもしないがね」
「さぁて、敵はどう出ますかね?ローエングラム上級大将さんは・・・」
ヤンの発言に対してアッテンボローが返したころ帝国軍はというと…
帝国軍遠征艦隊旗艦 戦艦ブリュンヒルト 艦橋
「では反転して、後背の敵に反撃しますか?」
キルヒアイスの問いに対してラインハルトは
「冗談ではない。俺に敵第6艦隊指揮官以上の低能になれというのか?」
「では、前進するしかありませんね」
「その通りだ。全艦隊全速前進。時計回りに後ろの敵のさらに後ろにつけ!」
こうして帝国遠征軍の各艦隊は第2・第4艦隊の後背に回り込もうとするが……。
「なにをバカなことを、全艦反転、敵艦隊を迎撃せよ!!」
「っしかし、閣下それでは命令違反になりますが…」
「構わん、及び腰になった金髪の孺子の命令など聞けるか、右回頭せよ!!」
ラインハルトからの命令に対しエルラッハ少将は旗艦ハイデンハイム艦橋で真逆の命令を発す。そして、帝国軍エルラッハ分艦隊は一斉に右回頭を行なおうとして…。
「な、敵攻撃、本艦に直撃します!!」
「回避ィ!!」
エルラッハ少将は絶叫にも似た声を上げるが、時すでに遅しだった。戦艦ハイデンハイムは船体中央に複数の命中弾を食らい真っ二つになって爆発四散。旗艦を失ったエルラッハ少将の艦隊は指揮命令系統が混乱し、もはや陣形を維持するどころではなく各個に応戦するしかなかった。
「報告、戦艦ハイデンハイム轟沈!エルラッハ少将戦死の模様!」
「なんだと!?」
帝国軍本隊の旗艦艦長席に座っていたシュタインメッツは報告を聞いて絶句した。一方ラインハルトは
「自業自得だ。しかし・・・」
「はい、どうやらまだ指令が徹底しているとは言い難いようです」
「そうだな、指令を徹底させよう。再度各艦艇に敵の後背につくように伝えてくれ」
「わかりました。全艦へ通達します」
「頼む」
キルヒアイスは通信士官に命じると、再び戦況を見守るのだった。
一方の同盟軍だが、まだまだ不利は続いており気を抜けない状態が続いていた。
「敵、前進を続け我が艦隊の後背に回り込むつもりです!!」
「やはり、あの手か…」
「そのようですね、どうしますか?」
「このまま前進を続けてこちらも敵の後背を突こう」
「了解」
そしてお互い前進を続け、相手の後背に回り込もうとすること数時間。陣形はリング状になって
いた。
第4艦隊臨時旗艦 標準型戦艦リューリク 艦橋
「これはまた、こんな光景生きてる間には滅多に見られんだろうな…」
「えぇ、そうですね」
「あぁ、まるで互いの尻尾を飲み込もうとする蛇、さしずめウロボロスだなこれは…」
「なるほど・・・いい例えですな。しかしこのままでは消耗戦になりますな」
「そうだな、だが敵も消耗戦の愚は知っているだろうよ。おそらく何らかの方法で決着をつけてくるはずだ」
「その方法とは?」
「それは私にもわからん。だが、何か仕掛けてくるはずだ」
そうクロパチェクが言った後に旗艦リューリクに報告が入る。
「報告、敵艦隊撤退していきます!!」
「何だと!何故だ??奴ら何を考えているのだ・・・」
「代理指揮官殿、追撃をかけますか?」
「いや、いい。此方も第2艦隊に続いて撤退する」
「了解です」
かくしてアスターテ星域会戦は戦略的には帝国軍のアスターテ星域侵入を阻止した同盟軍の辛勝、戦術的には4万隻の敵艦隊の約半数を破壊した帝国軍の圧勝という結果で終結した。
参加した艦艇はそれぞれ、同盟軍が3個艦隊4万余隻、帝国軍は2万余隻。人員は同盟軍兵員総数が406万5900名、帝国軍兵員総数が244万8600名であった。
損害は同盟軍の喪失・大破艦艇が2万1000隻余、帝国軍は4000隻余と5倍近い差が出ていた。
戦死者は同盟軍150万90名余、帝国軍が16万2000名であり、両軍合わせて200万人に達するという大激戦となったのであった。
後書き
何とかアスターテ会戦全部かけたよ…。とりあえず次は戦闘後の同盟側の反応とかです。やっぱり帝国側の視点は少なくして、基本同盟側にしようかなぁと思う所です…。
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