展覧会の絵
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第五話 愛の寓意その三
「どうなればいいけれど」
「いいクラスって具体的には?」
「何でもないわ」
具体的なことは言わない雅だった。そうしてだ。
そのうえでだ。雅はまた猛に言った。
「こうして夜道を歩くのってね」
「危ないっていうんだね」
「ええ。猛も気をつけてね」
姉が弟に諭す様な顔でだ。雅は猛に言う。
「悪い奴だっているんだから」
「それは女の子が言うんじゃなくて」
「違うっていうのね」
「男が言うものじゃない。僕が」
苦笑いになってだ。猛は雅に返した。
「そうじゃないかな」
「それはそうだけれどね」
「確かに雅の方が強いけれどね。空手も」
「猛は道場継ぐからもっと修業しないと駄目よ」
諭すものが説教じみたものになった。完全に姉と弟だった。
「今のままじゃ駄目よ」
「駄目って」
「そうよ。私に一度も勝ったことないじゃない」
「雅に勝つなんて無理だよ」
猛はたまりかねた感じの顔と声で雅に言い返す。
「全国大会だって優勝したし」
「それでも男の子と女の子はね」
「力の差があるっていうんだね」
「基礎体力が違うじゃない」
「それはそうだけれど」
「じゃあ私に勝つ位でないとね」
駄目だとだ。雅は猛に強く言う。
「さもないと道場だって継げないし。それに猛の道場は殺陣やスタントマンのお仕事だってするでしょ」
「うん、道場っていっても経営があるからね」
それでそういう仕事も受けているというのだ。
「だからね」
「それじゃあ余計によ」
「身体鍛えないと駄目だっていうんだね」
「強くならないとね」
雅は具体的に猛に話す。
「そうしないと駄目よ」
「殺陣やスタントに強くなる必要あるの?」
「あるというか技を磨かないと」
「そういう意味でなんだ」
「そう。強くならないとね」
駄目だと。雅は猛に説教めいて話す。
「駄目だから」
「ううん。それでなんだ」
「猛だって黒帯で二段だし」
それなりの強さはあるのだ。
「もう少し頑張ったらもっともっと強くなるから」
「これでも頑張ってるんだけれど」
「私に勝てる位によ」
その域にまで達しろというのだ。
「強くならないと駄目よ」
「だから全国大会で優勝した雅に勝つって」
「無理だっていうのね」
「そう簡単にはなれないよ」
「簡単でなくて当然よ。強くなるのは難しいのよ」
まさに姉が弟に言う言葉だった。そんな感じだ。
「だからもっともっとね」
「修業しないと駄目なんだ」
「そう。学校の勉強も大事で」
そしてだ。空手の方もだというのだ。
「両立させてね」
「文武両道?」
「武道家でしょ。それ位頑張るのよ」
「雅は厳しいなあ。本当に」
「だから厳しくて当然よ。私も勉強頑張るから」
厳しい口調で話す雅だった。
「猛もね。それによ」
「それに?」
「入塾試験だけれど」
その話になるとだ。雅は。
顔を曇らせて困った顔になってだ。こう話すのだった。
「私不安だし」
「だから絶対のどのクラスには入られるよ」
「いえ、それでもよ」
「それでもって?」
「猛一人で大丈夫なの?」
その彼の顔、自分に向けられているその顔を見てだった。
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