展覧会の絵
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第四話 インノケンティウス十世像その七
「つい言ってしまったけれど。嫌だったかしら」
「いえ、そうではないですが」
「ないですが?」
「僕を天使とするならば」
そうならばどうかとだ。十字は試験用紙を事務員から受けながら述べた。声も透き通り透明感のあるものだ。だがその声の響きは冷たい。
その冷たい声でだ。彼は淡々として言ったのである。
「処刑の天使ですね」
「処刑の?何それ」
「では試験ですね」
事務員が妙に感じる前にだ。十字は自分から言った。そうしてだった。
試験に取り掛かる。まずは数学だ。
その数学の解答をだ。彼は二十分で終えた。
解答されたその試験用紙を受け取りだ。事務員は驚きを隠せなかった。ざっと見ればだ。
ほぼ全て正解だった。それで驚いて彼に言ったのだった。
「まさか。こんなに合ってるって」
「数学はこれでいいでしょうか」
「ええ、見直しはいいのね?」
殆ど正解だがそれを試験を受けている相手に言える筈もなくだ。こう十字に返したのだった。
「それはもう」
「はい、もう済ませました」
平然とした感じで答える十字だった。
「だから提出させてもらいました」
「そうよね。それじゃあ」
「それで次の教科は何でしょうか」
「英語よ」
事務員は続いてだ。英語のテスト用紙を出してきて述べた。
「それから国語に社会、理科って進むから」
「わかりました。それでは」
「うん、それじゃあね」
こうしてだ。十字は英語の解答もおこなっていく。それも瞬く間に進んだ。
僅かな間で全ての答案が出された。十字はそのうえで塾を後にした。
問題は解答のチェックを行う方だ。十字のその解答を確めてだ。試験官も兼ねた事務員は驚きを隠せない顔でだ。事務室で同僚達に対して話をしたのである。
「凄い子が来たけれど」
「あっ、さっきの?」
「あのお人形さんみたいに奇麗な子よね」
「ええ、あの子ね」
十字のことだとだ。彼女も同僚達に話す。
「凄いのよ。さっき入塾試験したけれど」
「どうだったの?どのクラスになれそう?」
「何番目のクラス?」
「一番上。しかもね」
それに加えてだというのだ。
「その中でもダントツになれそうよ」
「ダントツって」
「そこまでなの」
「ええ、本当に凄いから」
驚きを隠せない顔でだ。彼女は同僚達に十字のことを話していく。
「こんな子はじめても」
「そんなに解答いいの」
「どれ位なの?それで」
「殆ど満点よ」
十字の答案の正解率も話される。
「九割五分ってところね」
「あの試験結構以上に難しいわよ」
「それでもなの」
「九割五分なの」
「凄いのは顔だけじゃないみたいね」
事務員は唸る顔で述べた。
「どうやら凄い子が入って来たみたいね」
「そうね。理事長も喜ぶわね」
「そんな凄い子が入って来て」
ここで事務員達はこの塾の理事長の話をはじめた。
「鼻が高くなるんじゃないの?」
「絶対に凄い大学に入られるしね」
「それで理事長は今どうしてるの?」
十字の試験官だった事務員が同僚にだ。その理事長本人のことを尋ねた。
「まだこの塾にいるの?」
「乗用車はあったからそうじゃないの?」
「駐車場にベンツあったわよ」
それが彼の愛車らしい。ベンツが。
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