博打打ち
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第一章
博打打ち
滝本清重は今は普通に工場で労働をしている、しかしこの仕事に就くまでは博徒としてその世界では知らぬ者がいないまでだった。
トランプに花札、ルーレットそして競馬や競輪それにボートでも彼は強かった。そして特に麻雀が強く。
高校を卒業してすぐに十段になり冷徹でかつ大胆な牌の動かし方から鬼とまで言われた、だが妹の琴まだ幼い彼女にだった。
いつも言われ遂にこう言った。
「兄ちゃんが真面目に働いている方がいいか」
「うん、やっぱりね」
おかっぱで幼い顔の妹は細長い顔で色黒で細い目の兄に言った、滝本の黒髪は長くぼさぼさとしている。一七〇位の背の身体はやや姿勢が悪い。
「その方がいいよ」
「そうなんだな」
「だってああした世界ってヤクザ屋さんとか多いんでしょ」
「というかあっちの世界だ」
兄は妹に答えた。
「昔からな」
「そうよね」
「博打って言ったらヤクザ屋さんが仕切っていた」
「それで今もよね」
「関りがないって言ったら嘘だ」
十歳になったばかりの自分より十二歳下の妹に答えた、両親は二人共事故で死んでいて二人で暮らしている。
「もうな」
「ヤクザ屋さんがいる世界だから」
「何があるかわからないか」
「お兄ちゃんはヤクザ屋さんじゃないけれど」
それでもというのだ。
「やっぱりね」
「縁が深い世界だからか」
「何かある前に」
「こっちの世界から出てか」
「普通のお仕事で働いてくれたらね」
それならというのだ。
「私は嬉しいけれど」
「いつもそう言ってるな」
「うん、駄目かな」
「いつも言ってるな、それで俺のことを思ってくれてるな」
家で文句一つ言わず家事を全部してくれている妹に応えた。
「そうだしな、しかし家の金は減るぞ」
「お兄ちゃんギャンブル強いから」
「いつも勝ってるからな」
トータルで言うと毎月百万以上勝っていてそれで生活費にあてている。
「真面目な仕事はずっと金にならないぞ」
「それでもいいから。私贅沢に興味ないし」
「それは俺もだけれどな」
趣味は酒だ、必要な時以外ではギャンブルはしない。飲む酒も居酒屋等の酒だ。他の趣味といえば寝るか散歩位だ。煙草も吸わない。
「それでも金なくてもか」
「いいわ」
これが妹の返事だった。
「それでも」
「そうなんだな」
「ええ、だからね」
「定職に就いてか」
「そうした人達と関わらない様にして」
そのうえでというのだ。
「生きていって欲しいの」
「俺にか」
「駄目かな」
「俺は博打の才能がある」
このことは自覚していた、毎月百万以上稼いでいるだけに。
「それでいい暮らしが出来てもか」
「今言っている通りにね」
「そうした世界はヤクザ屋さんがいるのは事実だしな」
「巻き込まれたら大変だから」
兄である彼がというのだ。
「だからね」
「それでか」
「うん、普通にね」
博打から足を洗ってというのだ。
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