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地図

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第二章

「ですがもうどの国も各国の正確な地図を持っていますね」
「はい、我が国もです」
「そしてバイエルンもですね」
「各国の地図を持っています」
「無論他の国もです」
「今ではそんなもの何でもありません」 
 他国が自国の正確な地図を持っていてもというのだ。
「それは」
「それは欧州のことで」
「日本は違うということです」
「このことはご理解下さい」
「この国の考え方です」
「それが違うのですが」 
 それでもとだ、シューベルトはまた言った。
「今は」
「ですからそれは欧州のことですから」
「日本は本当に違います」
「また日本は鎖国しています」
「ですから尚更です」
「そこは違います」
「全くわかりません」
 シーボルトとしてはだった。
「そのことは、ですから」
「何としてもですか」
「日本の地図を手に入れられますか」
「そうされるのですね」
「そうします、事情を話せばです」
 そうすればというのだ。
「幕府も理解してくれます」
「いえ、幕府にはお話されないことです」
「出来れば幕府でも学問肌の人にお話して下さい」
「政治に専念している人は頭が固いです」
「だから頷いてくれません」
 オランダ人達はシーボルトにこれまで以上に真剣に忠告した。
「長崎奉行でも駄目です」
「天文方とかそうした方ならいいでしょうが」
「政治のみの方は国の守りにも警戒しているので」
「頷いてくれません」
「それどころか怪しまれてです」
「日本にいられなくなります」
「それはまずいですね、只でさえ私は怪しまれました」
 シーボルトは日本に来たての頃をここで思い出した。
「バイエルン人だと」
「言葉にそちらの訛りがありますからね」
「オランダのものでなく」
「オランダ語を話されていても」
「そうですから」
「日本人は鋭いですからね」
 彼等のことも警戒して述べた。
「ですから」
「はい、そうです」
「彼等を絶対に侮ってはいけません」
「我々をよく見ています」
「だからです」
「迂闊なことは絶対にされないで下さい」
「日本におられたいのなら」
 それならというのだ。
「くれぐれもご自重を」
「どうしても日本の地図を手に入れられたいのならです」
「尚更お気をつけを」
「幕府でこれはという方にお話してです」
「貰って下さい」
「そうします、しかし店で売っているものですら持ち出せないとは」
 シーボルトは難しい顔になって述べた。
「日本も神経質ですね」
「それだけ彼等なりに警戒しているということです」
「これまで無防備でも」
「彼等なりにそうしているのです」
「また言わせてもらいますがだからこの島もあります」
 出島もというのだ。 
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