誰にでも
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第四章
「誰でも対せる、それこそ拳はおろか学識や作法に構わず」
「誰でも師であるとお考えであるが」
「その器の大きさにだ」
松陰が持っているそれにというのだ。
「とても敵わずな」
「逃げ去ったのか」
「左様、わしもあ奴が先生に無礼を働けば切って捨てていたが」
それでもというのだ。
「それすらもだ」
「あ奴は及ばなかったか」
「小魚は鯨に何も出来ぬ」
あまりにも小さな者は大器の者には遥かに及ばないというのだ、久坂は確かな声でこの言葉を出した。
「そういうことよ」
「先生は鯨であられるな」
高杉は笑って話した。
「そうであるな」
「そう、そしてじゃ」
「あ奴は小魚か」
「ほんのな、そんな小魚の言うことはな」
それこそというのだ。
「何でもないわ」
「ではあ奴はか」
「気にするまでもない、考えてみればあそこまで行いが悪いとな」
清原のそれの話もした、兎角日頃のそれが悪い男なのだ。
「近いうちに馬鹿なことをしてな」
「破滅するな」
「そうなってな」
それでというのだ。
「しまいよ」
「そうなるか」
「だから気にするまでもないか、ではこれよりな」
久坂はあらためて話した。
「先生のお話を聞こう」
「そして学ぶか」
「そうするか」
「そうするとしよう」
桂と高杉に言った、そうして松陰のその話を聞いて学ぶのだった。
それから暫くしてだった、清原は。
「ほう、阿片か」
「ご禁制の阿片を吸ってか」
「それでおかしくなって真夜中に真冬の海に裸で飛び込んでな」
高杉は久坂と桂に話した。
「心の臓が止まってじゃ」
「死んだか」
「そうなったか」
「それで土左衛門になって打ち上げられたが」
浜辺にというのだ。
「無様な姿であったという」
「成程のう」
「やはりそうなったか」
「馬鹿者とは思っておったが」
「そうした死に様であったか」
「うむ、やはりああした奴は碌な死に方をせぬな」
高杉は笑って話した。
「あれ以上恰好悪い死に様はない」
「わしが言った通りだったな、あそこまで愚かで器も小さいとな」
清原がそうなると言った久坂の言葉だ。
「やはりな」
「ああなるな」
「うむ、所詮あの様な奴はな」
「下らぬ奴でか」
「下らぬ最期を遂げる」
「そうなるな」
高杉も納得した顔で頷いた。
「愚か者には相応しい」
「そうなる」
「それでは先生に対せぬのは道理であるな」
桂は笑って頷いた。
「ひたすら学ばれ大器であられる方には」
「その通りだな」
「そうだな、では我等はだな」
「うむ、これからも先生のお話を聞いてな」
「学ぶべきであるな」
「日々学びな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「学識を高め心を磨き」
「己を高めていこう」
「この藩ひいては日の本の為にだな」
「そうしていこう、先生は誰にでも穏やかで師とされる」
このことも言うのだった。
「それは先生が卑屈ではなくな」
「大器であられるからだな」
「それが出来る、それならな」
「これからもだな」
「先生から多くのものを学んでいこう」
そうしようというのだ。
「是非な」
「それでは」
「その様にしていこうぞ」
二人も応えた、そうしてだった。
三人はこの時も他の塾生達と共に学んだ、そのうえで幕末に名を残すことになった。吉田松陰という素晴らしい師から学んだ者達として。
誰にでも 完
2021・12・15
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