竜のもうひとつの瞳
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第五話
珍妙な格好をした二人が出て行った後、小十郎の傍らに座って政宗様が用意してくれた刀を見る。
白龍という名のこの刀、あまり刀には詳しくない私が見てもいいものだってのはよく分かる。
まさか突然思いついて寄越したわけではないんだろうけど……
ひょっとして、クリスマスなんて言い出したのはコレを渡すタイミングを計っていたのかしら。
普通にくれてやると言っても小十郎は遠慮して受け取らないだろうし、
それに加えて誕生日のプレゼントってことにしちゃえばさ一応の格好もつくし。
全く、政宗様も素直じゃないんだから。でもまぁ、それを言ったら小十郎も一緒か。素直じゃないのは。
とりあえずこの後小十郎の看病をしながら一夜を明かし、
ようやく明け方になって小十郎の熱が落ち着いたのを見て小十郎の隣に布団を敷いて横になる。
あんまり寝てる時間はないけど、少しでも仮眠をとっておかないと私が風邪引いちゃう。
なんて考えてたらいつの間にかぐっすり寝ちゃったようで、目を覚ました時には既に昼になってた。
慌てて飛び起きたところで小十郎も目を覚まして、ぼーっとした顔をして身体を起こしてる。
まだちょっと熱があるみたいだけれども顔色は大分良い。
これなら付きっ切りで看病しなくても平気だろう、そんな風に思う。
「……姉上、何故小十郎の部屋でお休みになられているのですか」
おはようございますじゃなくて開口一番そんなことを言う辺り、これはある程度熱が下がったんだと確信に至る。
昨晩は私を布団に引っ張り込んで頭を撫でろと要求してきたしね。うん、とりあえず良かった良かった。
「昨日の夜、とんでもない熱出してたから夜通し看病してたのよ。
その調子だと、大分熱が下がったみたいね。
てか、覚えてる? 私のこと布団の中に引っ張り込んで、頭撫でてくれって甘えてきたの」
こんな風に言ってみれば、小十郎が顔を真っ赤にしてそんなわけあるはずがないとか抜かしてきやがった。
起き抜けにこんな冗談言ってどうすんのよ。全く。
「嘘じゃないっての。要求された通りに頭撫でてやったら嬉しそうな顔して笑っててさぁ。何だか懐かしくなっちゃった」
「そ、それは真ですか?」
「真も真、本当だっての。甘えん坊さんは未だに健在なのかーって思ってたくらいだしね」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言いよどんでる小十郎は、完全に言い訳が出来なくて戸惑っている。
こんな時に本音が出ちゃうくらいなら、普段からきっちり甘えておけばいいのにねぇ?
気まずそうな小十郎の頭を軽く撫でて、布団を畳む。
そして枕元に置いてあった白龍を手に取ると、小十郎が訝しげに私を見ていた。
「姉上、その刀は」
「サンタさんの贈り物」
「……は?」
アンタにもあるでしょ、そう言って枕元を指差してやると小十郎が酷く驚いた顔をしていた。
見覚えのない刀、でも良いものだってのは抜かなくても小十郎は分かるようで、おずおずと手にとって酷く戸惑った顔をする。
「これは」
「政宗様が私達にクリスマスプレゼントだって、サンタさんに託して運んでもらったのよ。
クリスマスってのはね、サンタクロースっていう赤い服来たおじいさんが良い子のところにプレゼントを運んできてくれるわけ」
まぁ、私は良い子じゃなかったのか、こういうプレゼントは無かったかな。
妹ばっかりプレゼント用意しちゃってさ、本当面白くなかったわ。
「小十郎はいつも頑張ってるから、いい贈り物をくれたんじゃない?」
そんな風に聞いてみると、少しばかり寂しそうな顔をして小十郎が笑って頷いている。
「……父上に会えました。顔は分からなかったのですが、頑張っていると褒めてもらえました。
それに……一番聞きたかった言葉も」
「そっか」
祝福は欲しいものね。私も生まれて来て良かったって、ずっと誰かに言ってもらいたかった。
私には生まれてからの記憶があったけど、小十郎には物心つく前の記憶はないもんね。
だからお父さんがどういう人だったのかって……知らないんだもんね。
だから、あのクソ兄貴の言葉を真に受けるしかなかった。
小十郎にとって、これが優しい記憶になってくれることを願いたい。
祝福されてるんだよってこの子には思ってもらいたい。
自分がいらないなんて、捻くれた考えを持って欲しくない。だって……寂しいじゃないの、そんなのってさ。
「姉上、仕度が済んだのならば外に出てもらえますか。着替えをしますゆえ」
寝汗を掻いたから着替えたい、そんなことを言う小十郎に私は少しばかり意地悪な気持ちになる。
「え、別にいいよ。してくれちゃっても。小十郎がどれだけ逞しくなったか、じっくり見ててあげるから」
こんなことを言ってその場にしゃがみ込んだ私の首根っこを掴んで、小十郎が思いきり部屋の外に放り投げてきやがった。
おまけにきっちり戸まで閉めて。何とか庭に落ちることはなかったけど、この野郎素っ裸になったところを見計らって踏み込んでやる。
頃合いを見計らって、すぱんと良い音をさせて戸を開いてみると、下帯を取り替えようと外しかかってる小十郎とばっちり目が合いました。
「ほほう? 良い身体をしてるじゃないか。さて、今度はその下帯を外してみようか」
にやにや笑う私に、小十郎が目にも止まらない速さで拳骨を食らわせてしっかりと戸を閉めてきた。
あまりの拳の重さに悶えていたけれど、真っ赤な顔をしていたのは可愛かったなぁ。
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