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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第三話

 クリスマスはとうに過ぎてるけど、とりあえず政宗様の部屋でクリスマスパーティをすることになった。
お呼ばれしたのは輝宗様に時宗丸様、鬼庭綱元殿、加えて姉に私達。
政宗様の側近とお父さん何だけども、ここに自分の母親や弟を呼ばないのが……根の深さを感じるといいますか。

 温泉に入ってきたけれど風邪を引いちゃったのか、熱っぽい感じでぼんやりしている小十郎は、私の隣で柿のムースを食べている。
冷たくて美味しいと言っている辺り、やっぱり風邪引いちゃったのかもしれない。

 「梵様~、その肉の塊、どうやって食べんの?」

 「おいおい、時宗丸。もう一年も前に元服して政宗になってんだ。梵様はねぇだろ」

 「梵様、いいからとっとと食べようよ~」

 「…………」

 こんな会話を繰り広げる政宗様と時宗丸様に笑いを堪えつつ、お肉を切り分けて配っていく。
物珍しい食べ物ではあるけど味付けは普通に和風だから、多分食べなれない味ではないと思う。

 「これがローストチキンって奴か!」

 政宗様の言葉に私は苦笑いをしておく。ローストチキンと言うには……どうなんだろう。
何か作り方が合っているような気がしないんだよねぇ……まぁ、政宗様が喜んでるから良いけどさ。

 「小十郎が焼いたのか。なかなか良い加減で焼けているではないか」

 「……ありがとうございまする」

 ぽーっとした顔をして輝宗様に礼を述べる小十郎に、政宗様が心配そうだ。
その態度は何だと説教しようとする姉を止めて、政宗様が小十郎にお肉を食べさせている。

 「しかし、景継がこのような知識を持っているとは思いませんでしたな。一体何処でこのようなことを知ったのだ」

 綱元殿にそんなことを尋ねられて、正直に困ってしまった。
流石に前世の記憶で、なんて言うわけにもいかないし、夢に見たとか言えない。
政宗様が話してることを何となく想像して、というにはあまりにも情報が足りなさ過ぎたし……。

 「ええと、昔何かの書物で見たような覚えがありまして……何だったのかは忘れましたけど」

 「ほう? 南蛮の書物など読むのか」

 「い、いえいえ、料理を少し覚えたいなー、などと思って読んだことが、まぁ、少し……」

 歯切れの悪い答えだったけれども、納得してくれたんだかしてないんだか、綱元殿はそれ以上何も問わなかった。

 皆で料理に舌鼓を打ちつつ、こんな感じで恙無くパーティは終了し、政宗様も何処か満足なされたご様子だった。
お肉は意外と好評だったなぁ~、小十郎もこんなに喜んでくれたら思い残すことはなかろうて。



 さて、その日の夜。小十郎が近年稀に見る高熱を出して部屋でぶっ倒れております。
流石に放っておける体調でなく、小十郎に風邪を引かせた責任を取って部屋で看病してるわけなんだけど、
熱に浮かされたあの子はさっきから私の手を握って離さないから困ったもんで。

 甘えん坊なのよねー、昔から。いや、違うか。甘えん坊というよりも寂しがりやなのよね。本当は。
こういう時、心細くなって誰かに側にいてほしいってのは分かってるんだけど、
私も忙しいし小十郎も建前を気にして側にいて欲しいって言わないしさ。
大抵ほったらかしになっちゃうんだけど……今日は流石に建前よりも本音の方が勝っちゃったか。

 「……あねうえ?」

 ぼんやりと目を開いて小十郎が私を見る。
目が覚めちゃったのか、なんて思っていたところで小十郎が突然私の手を引いて自分の布団の中に引っ張ってくる。
これには唖然としてしばらく言葉にならなかったけれど、しっかりと小十郎に抱きしめられて
同じ布団に納まることになっちゃって、さてどうしたものかと考えてる。

 いやいや、いくらなんでもこれは不味いでしょ。いくら兄弟だからとはいえ、同じ布団で寝てるなんてさぁ……。
姉に見られたら何を言われることか。

 「ちょっと何やってんのよ、放しなさいって」

 「……嫌です」

 「嫌って、アンタね」

 「……頭を撫でて下さい。昔みたいに」

 普段なら絶対に言わないそんなことに、ぽかんと口を開けてしばらく小十郎を見てしまったけど、
あの頃は私を抱いて身をすり寄せて、小さい頃みたいに甘えてきてる。

 ……おいおい、今二十二だよ? 立派な大人でしょ? 全く、熱で頭をやられて子供に戻っちゃったか?

 軽く溜息を吐いて頭を撫でてやると、小十郎は嬉しそうな顔をして笑っていた。
小さい頃もこうやって私が頭を撫でてあげると嬉しそうな顔をして屈託の無い笑顔を見せてたっけ。
もしかして、普段口には出さないけど甘えたいのかな。元々寂しがりやなんだからそんな風に思っていても分からなくもないか。

 安心しきったような顔をして眠ってしまった小十郎の腕から這い出るべく、
布団を出ようとするけれど小十郎の腕の力が殊の外強くてそれも叶わない。
どうしたもんかと悩んでいたところに、ふと妙な気配を感じてぐるりと強引に身体を入口の方へと向けた。

 何となくだけど、人の気配がする。それも……一人じゃない、複数だ。部屋の前に誰かが立ってる。

 もう城の人間は皆眠っているはず。
姉が心配して様子を見に来たのなら、こんな複数の気配を感じることはない。とすると……一体何者?

 引っ付く小十郎を引き剥がしたいけれど、あの子は私を抱いて安心したように眠ってるから振りほどくことも出来ない。
いざとなれば重力の力で撃退するしかないけど、それもちょっと心もとない。

 すっと部屋の戸を誰かが開く。大きな袋を担いだ、妙な着物を纏った二人組……まさか、賊!?

 私が飛び起きようとした瞬間、一人がつけた灯りの火に照らされたその顔を見てとんでもない悲鳴を上げてしまった。

 「泣く子はいねがー」

 「ちょっ、な、何でなまはげがこんなとこいんのよ!! てか、そんな赤い着物着て赤い頭巾着けて……何処の賊だっての!!」

 「違ぇどー、おら達は“さんた”だー」

 そんな東北訛りで強面のサンタが二人もいてたまるか!!

 私は思いきり重力の力を使って怪しい二人を吹き飛ばしてやる。
こんな騒ぎに小十郎が目を覚ましてゆっくりと身体を起こしていたけど、それに構っている余裕は無い。
不届きな賊を捕らえて縛り上げないと。

 小十郎の部屋にあった刀を持って部屋の外に飛び出したところで、賊の一人が慌ててもう一人の賊を助け起こしている。

 「て、輝宗様! 御無事ですか!?」

 「うむ、大事ない……“さんた”というのはこういうものではなかったのか?」

 なまはげの面を外して立ち上がった二人は輝宗様と綱元殿で、思わぬ人物に開いた口が塞がらない。
一体こんな時間に二人して、どうして小十郎の部屋にいたんだか。
そもそもその怪しげな格好は一体何だっての。いや、それよりも、家臣としてやらなければならないことはだ。

 「……二人とも、部屋に入って来てそこに座りなさい」

 刀をしっかりと持っている私を見て、二人が怯えたような顔をする。
言っておくけど、私の姉は伊達家最強と言われた女、その女と血の繋がった兄弟なわけですよ?
こんな悪戯をしてただで済むと思ってんじゃないでしょうねぇ?

 小十郎が眠っているとなりで珍妙な格好をした二人の男を正座させて、
それからがっつり二時間ばかり説教したのは語ると長くなるから割愛するけど、本当輝宗様って時折訳の分からないことやるから困るのよね。もう。  
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