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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第十話 何気に水銀並の術式使います

 
前書き
どちらかと言えば魔術師よりのサポーター型のアルフレート。だから真っ向勝負は苦手と言われれば苦手。 

 
―――夜・病院―――

日を跨ぎ一夜明けた後の夜、と言うわけではなく、さらに一日がたった。一昨日の夜からのメール以来、司狼との連絡がつかなくなり、ボトムレスピットのスワスチカが開いた。ダンスホールでは夥しい血痕と、VIPルームでバラバラになってたバウンサーの死体から、それが意味することは……あまり考えたくは無いがアイツがもう居ないことも考慮しないといけない。だけどあの司狼(バカ一号)のことだ。どっかで今も生きてて、どっかで俺のこと見ながら馬鹿にしてるだけかも知れない。

「……クソッ……」

分かってる。そんなの全部俺の都合のいい考えだ。ボトムレスピットのスワスチカが開いた。
香純は唯一の生存者として病院に運ばれた。しかしだ、おそらく病院もスワスチカを開くための場所だ。意識が戻らないままじゃ連れ出すことも出来ない。どころか香純は警察に生き残りとして重要参考人として身柄を拘束されているようなものだ。そして、例えこの病院の人に虐殺者が来ると伝えたところで誰も相手にしないだろう。

「そうやって悩み続ければ罪の意識から逃れられるとでも思ってるのか、俺は…」

人気のない屋上に風に当たりに行く。そして屋上に来て見ればさっきからいなくなってたマリィがそこにいた。

「ここにいたのか……」

彼女を見ると荒んでた心が穏やかになっていた。なんというかいつもなら夕方の黄昏に彼女を見るからか新鮮なものだった。
そうして彼女と一緒に話す。俺は彼女とこうして何時までいれるのか。彼女が五人目になりたいといっていたがそれは本当に訪れるのか。考えが悪いほうに進んでいく。

『本当に人じゃない存在もこの世にいるのだから』

またこの言葉を思い出してしまった。関係ない、マリィは人だ!アイツの言った言葉はマリィに対していった言葉じゃない。それは俺自身、よく分かっているはずだ。

「きっと皆でまた集まって、その時はマリィも一緒にバカやって楽しもう」

そう言うしかなかった。



******



「さて、君が言ったんだよ、僕に名前を呼ばせると。せいぜい気をつけて防ぎな」

そう言ったアルフレートはこれまで着ていた軍服からジーンズ、長袖にジャケットと現代的な服装に着替えていた。場所は病院にそう遠くない山の木に腰を下ろし持ち前の視力で人形とマルグリットを見定める。
アルフレートと同じように未だ形成までしか出来ない人形一人で果たして螢ちゃんとリザの操るトバルカインを斃すことが出来るだろうか。

「人形、君はまだ分かってない。本当に勝つつもりなら守りに回ることは愚かだよ。攻めて攻めて攻めて一戦でも多く経験を稼がないと。出なければ与えられるのは死となる」

もっとも彼の創造、それが完成すれば或いは平団員である彼らを同時に制することが出来るやも知れない。しかし現実はそう甘くは無い。

『かれその神避りたまひし伊耶那美は (Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba)
出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき (an der Grenze zu den Ländern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen. )
ここに伊耶那岐 ( Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,)
御佩せる十拳剣を抜きて (das er mit sich führte und die Länge von zehn nebeneinander gelegten )
その子迦具土の頚を斬りたまひき(Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi. )
創造 (Briah―― )
爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之 ( Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.)』

先に螢ちゃんが創造を完成させる。人形が勝つには創造をしている螢ちゃんを斃しその上でリザの操るトバルカインを止めねばならない。果たしてそれが出来るか?
しかし、人形は創造をした螢ちゃんと戦う。その情景を見て、打ち震える。ああ、なんて楽しい存在だ。あの短期間でまた成長した。あれは僕を厭きさせない。
悦びに嗤いが洩れる。ライニの望みを水銀の望みを叶えてくれるかもしれないと、それに思わず笑みが零れる。

「フフ、フフフいいよ、本当に羨ましい」

しかし、それは突然、終わりを告げる。第四が開いた。
轟音、燃え上がる炎。世界を焼き尽くす赤。それは螢一人で生み出せる物ではない。炎を使うのは、ましてや武器を持ってしてあれだけの炎を行うのは如何に黒円卓の面子といえども唯一人。

「エレオノーレか……」

その姿を見て驚愕する。今開いたスワスチカの数は四つ目であり彼女ら大隊長が顕現する為の五つ目では無い。なのに彼女が現れた。それが意味することは、

「まずいな、これじゃ速すぎる」

別にスワスチカを誰が開こうと関係ないが、彼女が現れること、彼女が開くことが問題なのだ。今の彼女も創造は使えないだろうが、まだ勝てない。二、三割の力であろうとも創造すら出来ない僕では勝てないのだ。

「仕方が無い。出切れば万全の状態で起こしたかったんだけど」

故に彼の本質を示す詠唱を告げる。形成の時のように嫌悪を出さず、寧ろ歓びを上げて紡ぎ出す。

「威厳者 第一人者にその国を示す物よ (Augustus,imperator,Caesar)
 唄え 笑え 誉れあれ この世界は全てに続く (Singen, lachen, es zu ehren. Diese Welt ist alles, was folgt)
 お前は全てを支配した 故に私は全てを印すのだ (Sie haben alles regiert. Ich bin deshalb markiert das alles.)
 我ら七人 今再び蘇らん (Ich belebe uns jetzt wieder sieben Menschen nicht wieder.)」

そう言った瞬間、この町に存在する魂が急激に増大した。町に数箇所、その数は決して多いというわけではない。しかし、無視出来る程の数でもない。此処に彼の本質の一端が顕現することになる。眠っている魂も未だにあるが遊園地、病院、そして僕自身に一人、教会に二人。その魂は数こそ一つずつだが総量においては一人と言うものを上回る。

「さて、ヴィルヘルム、ルサルカ、司狼、ヴァレリア。それに己を含めて今はまだ五人、あと二人は誰にすべきか。それにしても病院に一人?まさかヴァレリアかルサルカでもいるのか」

事実、ヴァレリアは現在リザと共に病院におり、さらにエレオノーレにすら気付かれない隠形を行っていた。が今それは全く関係ない。
歩を進める。目指す場所は病院。エレオノーレが出てきた以上、猶予は無い。少しでも手駒を増やすべきだ。例えそれが敵に塩を送る結果になる可能性を秘めていても、多ければ六の歩兵が手に入る。

「さあライニ、こいつ等は下手すれば獅子身中の虫になりかねないぞ。如何動く?」

最初に手に入れるべき候補はトバルカイン。彼に自意識は存在しない。だからこそ、彼の魂はたやすく僕ら(・・)にも呑み込むことが出来るだろう。本当は黒円卓の面子に対して、そんなことしたくはない。しかし、エレオノーレがこのタイミングで現れた以上、これ以外の選択肢は僕の中には存在しない。

「螢ちゃんは怒るかもしれないな」

ふと独白する。尤も彼女が怒ろうとも、いやそもそも誰がどう言う反応を示そうとも関係ないか。赤騎士(ルベド)が降り立つ戦場へ影は向かう。

「俺(・)を怒らせたんだ。責任とって止めて見せろよ、赤騎士(ルベド)が」

詠唱の性か本質を漏らした彼は犬歯を剥き出しにして病院へと移動する。



******



「ザミエル、卿……」

櫻井が震える声でその名を呼んだ。

「我が君より命を受けて推参。もって第五を開き同輩らを呼ぶ先駆けとする
聖槍十三騎士団黒円卓第九位、大隊長―――エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ
さあ参れ、副首領(クラフト)の落とし子。私の(ローゲ)でハイドリヒ卿へ捧げる刃の切れ味を見てやろう。鈍刀(ナマクラ)ならば骨も残らんと思え」

灼熱の化身。格が違う。次元が違う。こいつもラインハルトと全く同じ、この世界に在るべきではない地獄の住人そのものだと。俺はこいつに勝てるのか?ちくしょう、まるで勝機が見当たらない。

「マリィ……」

「……ふん、動くなと言ったはずだが相変わらず人の話を聞かん女だ。まあよい。
立て小娘。行動を許可する。ここまで上がってくるがいい。何やら雌犬が意見具申をしたいようだが奴の戯言など聞く耳持たん。貴様が相手をしておけよ。私は任務を果たさねばならん」

「……は」

そうして屋上に向かう櫻井。今の発言はおそらくシスターに対してなのだろう。そして、

「さて、貴様には参れと言ったはずだがな、小僧。だと言うのにどうした、来んのか。そうしていても活路は無いと、分かっているはずだ。これは貴様の距離ではあるまい」

分かっている。俺の間合いはこの右手のギロチン、対してあいつは射手―――つまりは狙撃手ないし砲撃手だ。迂闊に間を詰めようものなら、間違いなく狙い撃ちにされるだろう。
そもそも位置が悪すぎる。あいつは屋上でその距離は二十メートル以上。ジャンプで届く距離ではないし、届いたとしてもやはり格好の的になる。院内にも逃げ込めない。屋内戦でもしようものなら、何人巻き添えで死なせてしまうか分からない。それに第一、あの火力ならそもそも屋内にいたとしても意味を成さないだろう。
つまり、最初から詰んでいる。遠距離攻撃を主とする奴に、頭上の利を取られた時点でもはや打つ手が何も無い。くそ、くそくそ―――どうする、一体どうしたらいい?

「打つ手なしか。余り落胆させるなよ」

赤騎士は絨毯爆破のような砲弾を打ち続けながらそう言う。これでもおそらく手を抜いている。何故ならあいつの攻撃は今の所、下からしか来ていない。次は横からか、上からか、それとも真正面から放つのか。

「貴様その様で、ハイドリヒ卿に愚戦を舞わせる気なら死ぬがいい。鍛え直せとは言われたが、殺すなとも言われておらん」

不意に下から噴き上がるだけだった火柱が、横から襲い掛かる。それも何も無い空間で唐突に囲い込むように四方から同時に噴出する。
躱すには跳ぶしかない。しかし、そんなことをすれば目に見えて無防備になる。それを許すわけにはいかない。

「殺らせて、たまるか―――!!」

無防備に撃たれるよりも四方の内、一方を抜けるほうが遥かにマシだと判断した俺は一気に走り抜ける。

「ぐ……」

「ほう、よく耐えたな。上に躱さんかったことは誉めてやる。では、これならどうかな」

見上げるとSのような字の形をした炎が前方に集まり、今までとは比較にならない熱量が、そこに凝縮しているのを感じ取った。駄目だ、駄目だ、あれは駄目だ。あれを受けたらどうしようもない。直撃を受けたら魂まで蒸発する。受けるわけにも、避けるわけにもいかない。
もし躱してしまえばこの病院が消え去る。そのとき香純は―――ちくしょう、そんなことさせるか!!

「いいぞ、足掻け、私の砲から逃れられた者は一人もおらんが、試してみるがいい。あるいは。これを凌げるかが分水嶺だ。行くぞ」

「―――跳べッ!!」

奴の魔砲を病院を狙わせないために屋上の高さまで一気に跳ぶ。後は俺が―――

「見事、英雄的だな。だが愚かだ。その上、真っ向勝負か、面白い」

空中で回避不能の狙い撃ち。この一撃を耐えるか、或いは―――断つ!防御など出来ない。これをまともに受けて無事にいられるわけが無い。だから、全身全霊、全力で、乾坤一擲の覚悟と共にこの砲撃を断ち切ってみせる!!
そして、轟砲一閃。放たれた大火砲は俺の視界を真紅に染めながら迫る。

「おおおおォォッ―――!!」

走るギロチン。俺はマリィを信じてる。何よりも信じてる。彼女の希望を叶えたい。彼女も含めて、あの時の日常を再び。だから、生きろ!―――俺は死ねない!!死んでたまるか、俺は勝つ!!



******



彼女、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの火砲は防がれた。目の前で英雄的行動を取った彼はまさに英雄そのものの働きをしたことだろう。

「……ふむ」

目を細めて笑う。自らの砲を断たれたことに憤りはない。むしろ芯から賞賛していた。

「私が万全であったなら……などと言うのは侮辱だな。見せてもらったぞ、すばらしい意気だ」

スワスチカの数が四つしか開いていない以上、今の彼女は万全ではなかった。しかし、それでも彼女は戯れるような性質でもない。つまり、彼女は自ら上限を定め、その枠内での手加減は一切していない。つまりはこの戦いの勝者は明らかで、彼女は勝者の名誉を汚す言動は無粋だと弁えた。

「しかし困った。これで一つ主命を果たしたが、もう一つの任務は依然果たしていない。貴様がその様では結果を盗んだようで心苦しいではないか」

第五のスワスチカの開放。病院に存在する魂を捧げること。それを防ぐために奮闘していた少年は今にも倒れそうにしている。焼け爛れた右腕を左手で押さえながらふらつく脚で立ち、霞む視界の中しっかりと自分に目を向ける。

「男の意地には応えてやる主義なのだがね。貴様にとってこの地を失うのは敗北だろう。先の一戦は貴様の勝利、ならば二戦目も尋常にいきたいな。私にとって、勝利は盗み取るものではない」

客観的に見れば無理だといえることだ。だが、そんな些細なことで諦められると言うならそれはそこまでの人間だと言うことだ。真にハイドリヒ卿に尋常なる戦いを挑むと言うなら常識を超え、無から振り絞れねばならない。圧倒的な状況からそれを覆す奇跡。史上英雄と呼ばれた者は、絶対不可能と言われたことを成すからこそ称えられる。
そして無論、それは自らに限定されたものだけではない。故に、

「だからこそ、それは僕の役割としよう」

屋上の扉を開け現れたリザ・ブレンナーを後ろから突き刺した女々しい陽炎でも問題は無い。そうエレオノーレは断じた。
 
 

 
後書き
注意:使った詠唱は創造ではありません。と言うか聖遺物関係ですらない。 
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