DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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強豪校の層
前書き
思ったより時間がかかり始めてる件について
先に守備に着く明宝学園。それをスタンドから見ているのは既に試合を終えた東英学園。
「陽香の代わりに成田を入れ替えただけか」
「成田は打力があるからね。ただ、ここまで出番がないから力が出せるかはわからないけど」
両チームとも打順、選手はこれまでとほとんど変わらない。先発マウンドに立つ背番号10。ここまで無失点で来ている一年生がどんな立ち上がりを見せるのか、ライバル校である彼女たちは注目していた。
莉愛side
「ストライク!!バッターアウト!!」
外に逃げていくスライダーを空振りするソフィアさん。その表情は驚きが隠せないといったような表情だった。
「おぉっ!!すげぇ!!」
「三者連続三振かよ!!」
スタンドに集まっていた観客席からも驚きの声が聞こえる。悠々とベンチへと戻っていく瑞姫は表情一つ変えずにいるが、これだけ完璧な立ち上がりを見せてくれたことには私も驚かされてしまった。
「ナイスピッチ!!」
「サンキュー」
グラブでタッチを交わす私たち。しかも初回は彼女の決め球であるフォークボールを使わずにこの結果。幸先のいいスタートにベンチは俄然盛り上がっていた。
第三者side
「何?そんなによかった?」
一方初回の攻撃を完璧に抑えられたカミューニは三振を喫した三人に問いかける。
「めっちゃ球伸びてきたよ!!カミュ」
「ストレートとスライダーもフォームでは見分けられないです」
「コースも完璧でした」
「ふ~ん」
三人の言葉に興味があるのかないのかわからないようなリアクション。これに彼女たちは困惑するが、彼がニッと笑ってみせると少女たちの表情が和らいだ。
「まぁいいや。勝負は中盤だからな、いつも通りやっていこうか」
手を叩きながら選手たちをグラウンドへと送り出す。その声に押された彼女たちは三者三振に抑えられたとは思えないほど元気にベンチを出ていく。
「相変わらず声出てるなぁ、桜華は」
それを見ていた本部席では感心したような声が聞こえる。桜華学院は元々進学校であるため、フレッシュなプレーが印象的な高校だったため多くの指導者が好印象を感じていた。
「声なんかいい。問題は初回のソフィアの立ち上がりだ」
そんな声に対し町田は冷静そのものの回答を送る。この試合の勝者が次の対戦相手になる彼からすればプレースタイルなどどうでもよかった。
「この準決勝でもストレート一本槍を貫き通すのか」
「それともこれまでは何かしらの意図があった投球なのか、それが重要なんだ」
流しているように見える投球練習を終えたソフィア。打席には一番打者の栞里が入る。
初球から試合は動いた。甘く入った外角のストレート。栞里は流し打ちライト前へと運ぶ。続く紗枝は打席に入るがバントの構えは見せない。
「監督はこの試合もストレートだけと予測したのか」
「この回にできるだけ点数を取りたいからバントはなしってことね」
ここまで初回に必ず失点している投手を相手なら攻めたてて大量点を奪い主導権を握りたい。それが滲み出ての強打だったが、紗枝の打球は一、二塁間への緩いゴロ。当たりが弱かったこともあり栞里は二塁へ到達。紗枝は一塁でアウトとなった。
(得点圏でクリンナップ。何点取れるかな?)
打席に向かう莉子を見ながら町田は試合の展開を見つめていた。
(ストレートに狙いを絞ってるねぇ。こりゃあ下手したら4、5点取られるかもな)
大ピンチにも関わらず笑みを浮かべているカミューニ。その様子を後ろから見ていた部長はソワソワしている。
「大丈夫ですかね?また初回に失点しちゃうんじゃ……」
「いいんだよ、別に。多少の失点は」
「でも相手ピッチャーすごく調子良さそうだし……」
真逆の立ち上がりになっていることで不安が普段よりも遥かに増している部長は顔色も悪くなっている。
「『始めの勝ちは糞勝ち』」
「え?」
「何も最初の勝負が全てを決するわけでないって意味だな」
本来は負け惜しみとして使われる言葉なのだが彼はそれをわかっていてあえて使った。彼からすればこの言葉こそ自分の考える戦術に役立つ言葉はないのだから。
(いや、『肉を切らせて骨を断つ』も割と合うか)
とても試合中の指揮官とは思えないほど別のことを考えている。その表情があまりにも真剣だったため、これからのことを考えているのだと勘違いした彼女はこれ以上何も言わないようにしていた。
(次は要注意人物の一人……でもこいつも意外と打ってるんだよねぇ)
マスクを被るリュシーは莉子を観察しながら考えを巡らせていた。
(逆らわずに打ってくるから長打は少ないが打率は高い。こいつに打ってもらうならどのコースか……)
普通のキャッチャーならあり得ないような思考。しかしそれは彼女たちが勝ち抜くために必要なもの。
(内角じゃ詰まる可能性がある。外角の高さは真ん中で)
(オッケー。丁寧に……)
右横手から放たれたストレート。甘いコースに来たそれを莉子は逆らわずにライト方向へと流す。
「はいはい!!」
会心の当たりだったがファーストがこれを飛び込むように抑え、ベースカバーに入ったソフィアへとトス。ギリギリのタイミングだったが審判の右手が上がり2アウト三塁となる。
(ラッキー。今のはタイムリーでも仕方なかったよ)
ファーストの青髪の長身の少女へと手を振るリュシー。それに気付いた彼女は子供っぽい笑顔を見せながら振り返す。
(じゃあここからは要注意人物二人。最悪3点は覚悟だけど、六番でチェンジにできる確率が高くなった)
予定よりも順調にアウトを積み上げていることに驚きつつもありがたみを感じているリュシー。いつももう少し手間取るだけに、この日の打球の飛び方には運のよさを感じていた。
(でも無失点で終わるのはダメだよね。かといって真ん中じゃあからさますぎるし……)
しばしの沈黙。そこから彼女はコースのサインを送る。内角高めへのストレートに優愛は仰け反るような仕草も見せずに見送り1ボール。
(確かに速いけど……打てないことはないかな)
顔付近に来たことでボールのスピード感を間近で感じることができた。そのお陰で優愛はよりリラックスした状態で打席に立てている。
(次は外角……でいいよね?)
(いいんじゃない?)
リュシーがベンチへとアイコンタクトを送る。それを受けて何の指示を仰いでいるのか察知したカミューニは頷いて応える。
(投げきりなさいよ)
(大丈夫大丈夫)
セットポジションに入るソフィア。その顔からは笑みが溢れている。
(余裕があるのかも知れないけど、そんなストレート一本槍で抑えられるわけないじゃん)
力みのない自然体な構え。どんなボールにも対応できそうな理想的な構えで待ち受ける優愛。そんな彼女に対しソフィアは三塁にいるランナーに視線を一切向けずに投球に入る。
(こんな七割投球でコントロールミスするわけないじゃん!!)
姉の構えるミットに寸分違わず投じられるストレート。しかしそのボールに優愛はタイミングをバッチリ合わせると……
カキーンッ
打球は快音を響かせ、打った瞬間に結果がわかるほどに舞い上がった。
「行ったな、これは」
ライトスタンドへと伸びていく打球。それがフェンスを越えたのを見てもカミューニは冷静そのものだった。
「あ~あ……せっかく無失点で行けそうだったのに」
彼の後ろにいる女性はガックリと項垂れている。その様子が伝わってくる彼はタメ息をついた。
(何度も意図を説明してるのに……本当にこいつ進学校の教師なのか?)
フィールドにいる選手たちもベンチに残っている選手たちにも慌てている者はいない。それは彼が伝えてきた意図を把握しているからなのだが、肝心の部長はそれを全く信じていない。
(まぁいいや。これで渡辺は潰した。次の東も打ってくれれば理想だなぁ)
ダイヤモンドを一周した少女とハイタッチして打席に入る少女。彼女の構えは少し変則気味だが、それでも余計な力が入っていないのは見るものが見ればわかる。
(プロ野球で活躍してる東信平の妹……ね。兄貴同様いい身体能力で長打を打ってくるタイプだからねぇ)
初球は内角へのストレートだったがこれを葉月はあえて見送りストライク。軸のブレない彼女を見て青年の顔もひきつっていた。
(渡辺も東もセンスに恵まれ過ぎてるな……マジでこの回で潰さねぇと後半が怖ぇ)
下級生でありながらクリンナップに名を連ねる二人。それは対戦相手からすればマークする対象に他ならない。
(こんなにあっさり見送るってことは内角は嫌い?一応もう一球試しておくか)
厳しいコースでもなかったのに打つ素振りも見せずに見送った葉月に違和感を覚えたリュシーは再度内角を要求。今度は高めに設定して投球すると、今度はこれを捉えてきた。
(コースじゃなくて高さに合わせてたのか。これも行かれた?)
またしても宙を舞う打球。同じような打球が打ち上げられたことでライトは懸命に追いかけるが、フェンスが目前に迫り足を止め、打球を見送った。
「入ったぁ!!」
「二者連続!!」
優愛とは真逆でガッツポーズを掲げることもせず平然とダイヤモンドを回っていく葉月。彼女はその間にマウンドにいる少女へと目を向けた。
(やっぱり初回は失点してもいいからストレート縛りをしてるみたい。全然悔しがってないもん)
ロジンを触りながら靴ひもを結び直している相手のエースを見て頬を膨らませる。それと同時に相手の狙いが読めず不気味さも感じていた。
(ストレートオンリーはまだわかる。肩が温まるまでとか考えがあるんだろうけど、こんなに甘いコースにばっかり来るのは何?しかもこれだけ長打を連発されたらさすがに苛立つ人がいてもいいはずなのに……)
ホームインして澪とハイタッチしてから相手選手を確認しても誰一人として落ち込んでいる者はいない。その異様さには真田を含めた明宝学園の選手たちも気付いていた。
「優愛、葉月。実際どうだった?」
「打つのは難しい感じしなかったなぁ」
「この程度ならまだまだ点数は取れると思います」
二人も違和感はあるがそれ以上何かがわかるわけでもないので触れることができない。それは真田も同様で、二人に自分の準備に戻らせる。
(澪にも普通に打ってもらうぞ。初球から狙っていけ)
この大会初めてのスタメンとなる澪。しかし既に点数が入っているからかリラックスして打席に入れているように見える。
初球は外角低めへのストレート。いいコースに決まったようで手が出ずにストライク。
(コース良すぎ)
(指にめっちゃかかった)
リュシーからの返球に苦笑いしながらソフィアはボールを握り直しながらサインを覗く。素早く出されたサインにすんなり頷くと流れるように投球に入る。
(また外!!でも甘い!!)
真ん中に入ってきたストレートを逆らわずに流し打つ。会心の当たりだったが打球はセカンドのグローブへと吸い込まれる。
「キャッチ!!3アウトチェンジ!!」
長かった明宝学園の攻撃が終わり、攻守交代のためにそれぞれがベンチに戻ったり守備へと向かったりと動く。その際カミューニは今まで見せたことないような焦りの表情を浮かべていた。
(危ねぇ……あんな控えがいたのかよ、さすがに強豪校は層の厚さが違ぇなぁ)
ここまで出場機会のない選手だっただけに警戒していなかったところであの打球。これには肝を冷やしたが予定通り六番で終わったことにカミューニは立ち上がり選手たちを迎え入れる。
「3点なら上出来だな。もちろん落ち込んでなんかいねぇだろ?」
その問いに選手たちは笑顔で頷く。それを見て青年も笑みを浮かべ、マウンドに上がる投手に視線を向けさせる。
「向こうは完璧な立ち上がりだったと思ってるだろうけど、そんなことはねぇ。最終的に勝つのは俺たちだからな、気ぃ引き締めて行くぞ」
「「「「「はい!!」」」」」
リードをされているとは思えないほどに明るい雰囲気の桜華学院。反撃に出たい彼女たちの先陣を切るために主砲が素振りをしながら打席へと向かった。
後書き
いかがだったでしょうか。
明宝の押せ押せぶりを出すために一話で終わってますがここからは長くなるかもしれません。細かくやりたいところが多数あるので。
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