| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

大阪のお歯黒べったり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第三章

「のっぺらぼうもね」
「目がなくてもなの」
「そうなの」
「のっぺらぼうは匂いも嗅げるし食べられるしね」 
 鼻も口もないがというのだ。
「そこは安心していいよ」
「それは不思議ね」
「どうもね」
「妖怪は人間と違うからね。まあ兎に角お歯黒のことは安心してね」
 そうしてというのだ。
「そしてね」
「塗ってお芝居に出ればいいのね」
「そうなのね」
「そうだよ、あと何を買うんだい?」
 店の仕事のこともした、そしてだった。
 二人は買いたいものを買ってそのうえで店を後にした、するとだった。
 珠希の兄がこう言ってきた。
「妖怪さんと話してたか」
「お兄ちゃん知ってたの」
「このお店のこと」
「ああ、知ってる人は知ってるからな」 
 二人に素っ気ない調子で答えた。
「だからな」
「それでなの」
「今もそう言うんですね」
「そうだよ、じゃあ買うものも買ったしな」
 軽い声で言うのだった。
「絢音ちゃんの家に行こうか」
「そうね、じゃあね」
「お願いします」 
 二人でこう話してだった。
 そうして絢音の家に向かった、それで彼女を家まで送ったが。
 舞台の時にだ、二人は着物を着てだった。
 口にお歯黒を塗ってだ、こう話した。
「別に何ともないわね」
「そうよね」
「お口に塗っても」
「それでもね」
 実際にそうしたがというのだ。
「まずくないわね」
「妖怪さんはそう言ってたけれど」
「別にね」
「味しないわ」
「昔はまずかったらしいけれど」
 それでもというのだ。
「今はね」
「別によね」
「何の味もしなくて」
「普通ね」
「むしろ普段は白い歯が黒くなって」
「面白いわね」
「そうよね」 
 二人で笑ってこんなことを話した。
「これいいかも」
「お公家さんの役もいいわよね」
「お公家さんもお歯黒塗るしね」
「それじゃあね」
「時々でもね」
「舞台でね」
 こうした話をしてだった。
 二人は笑い合った、そのうえで舞台に出るのであった。


大阪のお歯黒べったり   完


                   2022・4・28 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧