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動けなくなってわかったこと

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第一章

                動けなくなってわかったこと
 辻景子は気が強く負けず嫌いで自分に厳しいが他人にも厳しい性格であった。
 黒髪をロングヘアにしていてきりっとした切れ長の目と小さな一文字の唇に頬が細い面長の白い顔を持っている。背は一六〇位ですらりとした奇麗なスタイルだ。
 学生時代からその性格で友人にも後輩にも意地悪は決してしないが厳しかった。だが大学を出て就職をしてだった。
 三年程経ってだった。
「これは暫くです」
「介護を受けないと駄目ですか」
「はい、車椅子ですから」
 医師は難病に捉われた景子に答えた。
「暫くはです」
「そうですか」
「お仕事は休職されますね」
「そうしてもらいました」
 景子は車椅子の生活と介護を受けるという現実に項垂れるその中で答えた。
「ですから回復すれば」
「では今はです」
「お仕事のことは忘れて」
「回復に専念されて下さい」
「リハビリもですね」
「そうして下さい」
「わかりました」
 景子は項垂れたまま答えた、そうしてだった。
 介護施設に入ってのそこでの生活に入った、これまで自分だけで生きて来たと思ってきた彼女にはだった。
 車椅子での誰かに介護を受けての生活は暗澹となるしかないものだった、そして施設に入ってだった。
 介護スタッフの一人を見てだ、驚きのあまり声をあげた。
「えっ、笠原さん!?」
「えっ、辻先輩ですか!?」
 黒い髪の毛をボブにしている長身で胸のある女性スタッフも驚きの声をあげてきた、丸く大きな目で唇は赤く大きく卵型の顔である。鼻は低めだ。
「まさか」
「あの、どうしてここに」
「どうしてって私大学卒業して介護職になりまして」
 それでとだ、その後輩笠原梨沙江は言ってきた。
「それでここで働いていまして」
「そうだったの、あの」
 景子はここまで聞いてだった。
 周りにだ、こう言ったのだった。
「すいません、私笠原さんにだけは」
「介護を受けたくないですか」
「私学生時代にこの人にきつくあたってきたので」
 自覚はある、人に厳しい景子だが特に梨沙江にはそうであった、そのことを自覚していてそれで言うのだ。
「今度は私が」
「それはないです」
 スタッフの一人が景子に言ってきた。
「絶対に」
「これがお仕事だからですか?」
「そうです、過去はどうあれ今の貴女は動けないですね」
「はい、それは」
「障害を持っておられる方の為の施設です」
「こちらは」
「その施設のスタッフが悪意を以て接するなぞ」
 景子に強い声で話すのだった。
「決してです」
「ないですか」
「この施設には、それに」
「それに?」
「笠原さんはその様な人ではありません」
 梨沙江自身についても話した。
「この施設の中でも特に立派な人なので」
「私が過去辛くあたっていても」
「そんなことはしません」
「仕返しはしないですか」
「ですから安心して下さい、若し何かあれば訴えでも何でもして下さい」 
 スタッフは景子にここまで言った。
「是非」
「そこまで言われるなら」 
 景子はスタッフの強い声に頷いた、だがここで。
 自分のこれまでの強気は動けたからだとわかった、今の弱気な自分は動けなくなったからだとだ。そのことを感じつつだった。 
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