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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第十五章~決戦! 関ヶ原の戦い~
  第七十七話

 昼夜問わずに馬を駆けさせて関ヶ原に到着した頃には、既に戦は始まっていた。
遅かったか、そう思うけど状況を見る限りではまだ始まったばかりっぽい。

 「なるべく殺さずに動きを封じる方向で。伊達の連中はこっちで引き込むから、黒い鎧で変な髪形の連中は手だししないでやって。
慶次はそれ以外の連中の説得に当たって。雑賀衆の面々は、戦況を混乱させて出来るだけ双方に攻撃をさせないようにして」

 手早く私は皆に指示を出し、決着がつく前に戦いを止めさせるべく戦場に転がり込んだ。
 敵も味方も分からないくらいに入り乱れて戦う中で馬は邪魔だからと、馬を捨てて全員で突っ込んで行く。
そうして最初に出会ったのはおじさん二人組。一人は立花さんで、もう一人が……随分と強そうなおじいちゃんだ。

 「鬼島津!」

 「島津のじっちゃん!?」

 小十郎と慶次がほぼ同時に声を上げたのを聞いて、私は思いきり眉を顰めていた。

 鬼島津、武人の頂点に君臨するという奥州の端まで名が知れるその人は、小十郎がいつか手合わせしたいと夢見ている相手でもある。
真剣勝負に命を懸けたがるきらいがある小十郎にしてみれば、鬼島津と戦うのは一、二を争う夢に違いない。
けれど、可愛い小十郎であっても今回に限ってはそれを叶えてやるわけにはいかないんだなぁ、これが。
なんたって、悠長に戦ってる暇はないんだから。

 「小十郎、平和になってからにしてね?」

 「……はい」
 目を輝かせかけた小十郎を軽く諌めて、私は刀を抜いた。
こんな小十郎の様子を見て、やはり諌めておいて良かったと思う。
絶対何も言わなかったら真剣勝負を楽しんじゃったよ、この子。今の状況でそれやられると困るんだわ。
だって熱の入った小十郎を止められるのって、私か政宗様くらいなもんだもん。
姉がいれば一瞬で小十郎が止まるけどさぁ、流石にこの場にはいないしねぇ。

 一刀しか基本は使わない私だけど、今回は白龍と村正の二刀を持って来た。
何となくだけど、激化しそうだから万が一どちらかが折れた場合に困らないようにと思ってね。
予備を用意してきた、ってわけです。

 「片倉殿! このようなところで御会いするとは……東軍に組した以上、敵として相対せねばならぬとは思っておりましたが」

 礼儀正しく、しかし雄々しくそんな風に私に言う立花さんは身体全体に闘気を漲らせている。
小十郎ではないけど、こういうのを感じると滾る思いがするのよね。
ま、遊ぶつもりは毛頭無いけれど。

 「立花さん、ここにいるのは東軍でも西軍でもないわ。この戦を止めに来た第三勢力よ」

 「……戦を止める? 事情は分かりませぬが、敵である以上は刃を交えねばなりませぬ」

 立花さんが構えた雷切を見て、小十郎が私の前に出る。

 「あの者の相手はこの小十郎が。姉上は、前田と共に鬼島津を」

 「私も協力しよう」

 二対一、ってのは些か卑怯な気はしたけども、私達は倒す為にここにいるわけじゃない。
説得をするには人数が多い方がいい。
ってなわけで、小十郎と孫市さん、私と慶次の二人ずつに分かれて説得を試みることになった。



 鬼島津、そう名が知られるだけあってこの人はやっぱり滅茶苦茶強い。
慶次も何度も手合わせしてるけれど未だに勝てないんだよなとぼやいているくらい。
流石は小十郎が憧れるだけあるわ。こんな剣の使い手と手合わせ出来るのは武人として感激の極みだろうしね。

 ひょっとしてあの子、抑えが利かなくなるのを予想していたから私に鬼島津を押し付けてきたのか?
それだとするなら、よく分かってると褒めてあげないと。

 「島津殿!! 貴方のような勇者が何故西軍に着いたの!!」

 「持ってるもんの違いよ!! 家康どんは絆の力を持っちょるが、三成どんには何もなか。
生きることにも執着しておらんとね。オイは、三成どんの生き様を見守りたか」

 石田は何も持たない? だから見守ってる?

 「見守ってどうすんの!!」

 剣で大きく払って強引に間合いを取る。大振りの攻撃は隙が出来やすいが、それは一対一での話。
今は慶次が私のフォローに回っている。だから、鬼島津が突っ込んできても慶次がカバーしてくれるわけだ。
とりあえず一度私から切り離さないと、話をすることも出来ない。

 「家康を倒すことだけで生きることにも執着してない人間が、家康倒したらどうなるか……
目的を果たしたからって、その後希望を持って生きようとするわけないじゃないの!!
最悪自殺か精神崩壊か……家康を倒すことが生きる原動力なら、どうなったって良い方向には転ばないわ。
確かに見届けることも大切だけど、明らかに間違った道を進んでいると分かっているのならば、それを教え示し導くのが大人の役割でしょう!?」

 私も小十郎も、そうやって政宗様に道を示してきた。一度たりとも間違っていると思ったことを肯定したことはない。
そうやって政宗様が間違った道に進まないように、私達は揃って寄り添って時には厳しく、時に優しく接してきた。
私のことを手篭めにしようとしたことだって、結局最後には己が悪かったと間違いに辿り着いてくれた。
だから私はあの人がやろうとしたことは許していないけれど、政宗様を憎んだりはしない。

 私の言葉に少しばかり口を閉ざした鬼島津に、慶次が続いて剣を交えながら口を開いた。

 「じっちゃん! この戦を利用して、魔王を復活させようとしてる奴がいるんだ!」

 「魔王……? 信長どんをかね」

 「ここで死んだ人の命を魔王復活の生贄にして、地獄の底から魔王を呼び出そうとしてるんだよ!
じっちゃんは良いのかい!? そんな目的の為にここで命を張っても!!」

 慶次の言葉に鬼島津が眉を顰めて、剣を地面に突き刺した。
どうやら戦う意思はもう無いようだ。鬼島津から闘気が消えている。
油断を誘って攻撃しようなんてことはしないだろうから、これ以上戦うことは意味がないと気付いてくれたと信じたいところだ。

 「西軍の中にもそげな噂が流れちょったが……魔王を蘇らせる目的は何ね」

 「この世に不幸を齎す……それが目的だって聞いたわ」

 「不幸を……」

 鬼島津が攻撃を止めたその隣でも、立花さんが攻撃を止めて何かを考えているようだった。
どうも向こうも説得が上手くいっているみたい。

 「オイは、若きが作る新しか世を見たいと思っちょる。
こん戦は、その為の戦だと思っちょった……が、不幸を齎すための戦なら、オイが手を貸すわけにはいかん」

 地面から剣を引き抜いて、鬼島津はそれを肩に担いだ。
御歳の割に力が強い、そんな風に思ったけどそこら辺は黙っておきました。

 「それに、おまはんの言う通りね。迷っちょる若きを教え導くのも、古きの仕事ね。
オイの出番は終わりかと思っちょったが……まだ、最後に一つ大仕事が残っとったことを忘れとったとね」

 にっ、と笑って頷いた鬼島津は、私達の説得に応じてくれたと考えても良さそうだ。
小十郎達が説得に当たっている立花さんも攻撃の意思はなさそうだし、仲間に加わってくれそうだし。

 私は鬼島津の下を離れて立花さんに近づいていく。
この人も漲っていた闘気は消え失せていて、穏やかな笑みを浮かべているから何だか私も安心してしまった。

 「立花さんが付いて来てくれるのは心強いですね」

 「そう言っていただけると有難いですが……ところで、片倉殿の言われていた“小十郎殿”というのは、この御仁でございましたか」

 「うん。そうだけど」

 小十郎をじっと見た立花さんは、私に向かって穏やかに笑う。
こんな様子を見ていた小十郎は一体何なんだと少しばかり眉を顰めていた。

 「……良き、弟殿でございますな。我が君の側にも、このような方がおれば」

 ほほう、小十郎のことを評価してくれたんだ。それは嬉しい。嬉しいけど……

 「あー……正直お奨めしない。小十郎に育てられた政宗様を見てる限りじゃ、どう転んでもまともにはならないと思うけど」

 立花さんは西軍だから政宗様のことを見ていないと思うけどもさ、その主があんなになったら立花さん禿げるよ。
多分ストレスか何かで。どう見たって立花さんじゃ御しきれないと思うもん。政宗様みたいになっちゃったら。

 「……姉上、それはどういう意味ですかな?」

 そのまんまの意味です。
少なくともザビー教には転ばないとは思うけどもさぁ、その代わり暴走族のヘッドになっちゃうと思う。
っていうか、分かってて聞いてるでしょ。小十郎ってば。

 「とりあえず、政宗様を見てまだ言えるかどうかを判断した方が良いと思いますよ」

 何となく理解が出来ないという立花さんと、その様子を笑って見ている鬼島津を連れて第一関門を突破しました。
小十郎はかなり不愉快そうだったけれども、政宗様を知っているらしい慶次や孫市さんはフォローを一切しようとしないから
私の言ってることが正しいんだと思ってしまう。まぁ、肯定されても悲しいんだけどもね。

 さてさて、それはさておいても次は何が出てくるか……。 
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