ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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二十三話「覚悟を決めて」
『師匠とダイが出かけた、と』
野営地に戻ってきて睡眠をとり目を覚ました翌朝、師匠とダイ、それにゴメちゃんとダイの育ての親のきめんどうしがどこかに出かけて行くのを見送って俺は確信を強めた。
(間違いない魔王は今日、襲ってくる)
ならば、ここからの立ち回りには細心の注意を払う必要がある。
(確か、周りに被害が出ないようにだったか、師匠達は洞窟に向かって)
そこで竜に変身する呪文を使った師匠とダイは戦うことになったはず。
(アバン刀殺法二つ目の技、海破斬は形のないモノを斬る技。竜になって吐く炎のブレスだってその技なら斬り裂ける)
そこに気付いたダイが炎を斬り裂き、海破斬を成功させ。
(魔王の襲来はその後、と。さっきポップはついていかなかったけど、確か師匠ってダイやポップをハドラーの攻撃から守るためにアストロンを使ったよなぁ)
鋼鉄の固まりになって何も受け付けなくなるその呪文はあらゆる攻撃を跳ね返してしまう代わりに、効果を受けた者は一切の身動きができなくなる。
(つまり、ポップとも別行動は必須)
アストロンで固まってしまっては、俺は目的を果たせない。
(かと言って、近過ぎても拙い)
師匠は魔王を相手に自己犠牲呪文、おのれの生命と引き換えに相手を粉々にする呪文を用いて自爆するのだから。
(巻き込まれない程度の距離で、師匠の自爆の爆発を見て駆けつけた態で到着するのがベスト)
前でも後でも俺は何もできずに終わってしまうから。
(後は……ガーゴイルのサーベルの持ち手に手紙で仕込んで……あ)
そこまで考えてから、俺は固まる。
(この身体じゃ下手したら何か書く前に紙が燃えるっ)
どうやら置手紙を残すのは無理らしい。
(モンスターに言伝したり砂に書き置きを残そうにも、この島もう一回魔王軍がやってくるもんなぁ)
下手なことをして魔王軍に俺の書置きが伝わったら拙いことになる。
(ポップにはできればちゃんと説明しておきたかったんだけど、仕方ない)
連絡要員を残すためここで分裂しようものなら、分裂した俺はまず逃げるであろうし、他に手段も思いつかない。
(さてと、まずは空だ)
魔王ハドラーは外からやってくるが俺のうろ覚えの原作知識だと洞窟の天井を吹っ飛ばして降りてくるという登場だったと思う。
(魔王を見つければ後はついてゆくだけで師匠のところまで案内してくれる)
魔王に気づかれれば危険だし、師匠の自己犠牲呪文もあるので距離をとって追いかけるのは確定だがそれだけじゃない。
(ポップを探しに来るゴメちゃんにも見つからない様にしないといけないからなぁ)
オレンジ色の人魂と言うやたら目立つ存在である俺は空を警戒しつつ身を隠さなくてはいけない訳だ。
『っと』
言ったそばから空を羽が生えた黄金のスライムが飛んでゆくのが見えて。
(ポップはあっち、で、ゴメちゃんが来た方角からすると、師匠達が居るのは向こう、かな)
ゴメちゃんが飛んできたルートを迂回するように俺は移動を始め。
(あそこか)
視界の中、それなりに遠くに洞窟を見つけて俺は周囲を見回して。
(まだか、いやそろそろ……お)
ゴメちゃんを引きつれて走ってきた兄弟子が、俺の視界を横切り洞窟へと入ってゆく。
(ギャラリーも揃ったし、物語的に考えるならここでダイが海破斬を成功させて――)
俺は空を見上げ警戒するが何事も起きず。
(あれ? 記憶違、っ)
気持ち的に首を傾げようとしたところで、大地が震えた。
『地震?! いや』
よくよく考えたらこの島、師匠の結界に守られてるのだ。おそらくこれは魔王が結界を強引に通り抜けようとでもした結果で。
(あれか)
そして、俺は魔王を目にする。角の様に左右をとんがらせたフード付きローブとマントを身に着けた姿を。
(さて、覚悟の決め時、かな)
その前にまずは移動だろうが。
(ここ、ちょっと近すぎるもんなぁ)
格好はつかないが魔王を見送った俺は洞窟から距離をとり、ただ時を待つ。洞窟が消し飛んだら、移動開始だ。
◇◆◇
『っ』
やたら時間が長く感じ、その時は訪れた。爆発音は三回に及んだ気がする。天に光が突き抜け。
『って、危なっ?!』
洞窟の破片が雹の様に降り注ぐ。思わず怯みそうになるが、ここで足を止めたら間に合わない。
『大丈夫、大丈夫、当たらない、スカラッ!』
自分に言い聞かせながら俺が駆ける先には粉塵に浮かぶ三つのシルエット。アストロンをかけられたダイとポップときめんどうしだろう。
『なら、近くのクレーターのところに魔王は埋まっていると』
場面は整った。
(後は俺が――)
「かああああーッ!」
大声を発し地面から洞窟の残骸をはねのけ魔王が姿を現すも、俺は驚かない。
「ハドラー?!」
アストロンで固まったままの三人は驚きの声を上げ俺にはまだ気が付いていないようだが、それでいい。魔王は勝ち誇りつつ自分が師匠の自己犠牲呪文を耐え抜いたことを語り。それでも受けたダメージによろめいて。
「だがっ、その前に……」
こちらから見えるのは魔王の後ろ姿のみだが、ダイ達が怯んだところを見るに睨みつけでもしたのだろう。
(さぁ、出番だ)
アバンの弟子共を根絶やしにしておかなくてはとまで魔王はわざわざ語ってくれたのだ。この場に来たばかりの俺でも状況が呑み込めておかしくない。
『そうはいかない』
「おま、メラ公! 何でっ」
「メラゴースト君!?」
兄弟子に言葉は通じないだろうが、そこはダイが通訳してくれる。だから、問題はない。
「うん? なんだ? 今はとりこんでおる、ひっこんでおれ」
流石にモンスターの俺がアバンの弟子だとは思わなかったのか、いや、それ以前にモンスターとしても最弱の部類のメラゴーストなど魔王からすれば路傍の石ころ以下の存在だったのかもしれない。だが、それでいい。隙だらけのこの状況だからこそ、今ならやれる。
『話は聞かせてもらった。ポップ、ダイのことよろしくお願いします』
「メラゴースト君?! 何を言って」
特訓は全てこのときの為のもの。俺は自分の身体の一部を、メラ系の呪文をプラスの魔法力に見たてヒャダルコのマイナスの魔法力と合体させる。
(これを編み出した原作の大魔法使いはセンスがなきゃ絶対にできないって言ってたっけな)
だが、自分の身体を利用するなら難易度は半分で済む。
(加えてこいつは自分の身体を使うって都合上、文字通りその身を削る)
怪我なんてしたくはないが、これで俺が旅についていけない理由も出来て、師匠にもダイにもポップにもいい訳が立つ。
(集中しろ、旅にはついていけない程度にそれでいて時間をかければ完治できる程度の欠損で済むように)
ここが一世一代の大勝負。
『受けてみろ、ハドラー! これが俺の近接消滅呪文だッ!』
かと言って魔王軍にヒントを与えぬために、俺は全然別の呪文名を叫んだのだった、
後書き
主人公、やりやがった。
●メドラ(部位使用時)→メドラトス(全身使用時)
メドローアをパクリスぺクトして編み出した主人公のオリジナル呪文。自身の身体をメラ系呪文のプラスの魔法力の代わりにして放つ当たれば当たった場所が消滅する近距離限定呪文。自身の身体も使用した部分が消滅するため、消費部位を限定、これで負傷してもう戦えないからとフェードアウトするために編み出した技でもある。
メドについての由来は言うに及ばず、ラトスは「ストライク」の前半の逆読み。
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