ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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十八話「国からの依頼」
(けど、失敗した)
師匠が兄弟子を遠ざけ二人だけで会話する時間を作ってくれるための地獄(と書いて特別ハードコースと読む)だと思ったからこそ、コース変更を承諾した俺は、疲労で空いた時間に師匠と話をするどころではなかった。
「疲れているようですし、物語についてはまたの機会にしましょうか」
なんてドラクエⅢの話をすることも後日でいいと師匠に言われてしまう程へろへろで、それでもメラミの呪文の習得を始めいくつかの収穫はあった。
(あったんだけれど、うん)
いくつかの村に立ち寄りつつパプニカの城下町まで来た俺達の内、俺だけは城下町の宿屋でお留守番と言うことになったのだ。
(そりゃ、お城にモンスターは普通連れていけないですもんね)
結果としてこの国の重要人物と接触する機会を失った俺はおとなしくでっかいランタンの中で瞑想を続けることとなる。
(この瞑想だって悪いモノではないんだけどね、まぁ)
続けるうちに精神力が成長した気がして、実際に呪文を放てる回数も増えているのだ。他にも呪文の制御技術なんかの向上も見られ、たぶん師匠に弟子入りする前と比べればかなり強くはなってると思う。
(とはいえ、模擬戦の相手はポップか師匠だけだもんなぁ)
師匠は強すぎてどれだけ強くなってるかが解からず、ポップは魔法使いとしての先輩で放てる呪文の格はあちらの方が上。兄弟子との戦いとなると、こちらの呪文はあちらの一つ格が上の呪文に呑み込まれて完封されてしまうのだ。
(相手が悪いとしか言いようがないよなぁ、うん)
なら、野良モンスターが襲ってくることはないかと言うと、野生の勘が働く相手なら師匠の強さを感じ取って向こうから逃げ出す始末。
(鈍くて襲ってくる相手もたまにはいるんだけれど)
まず数が少なく、居たとしても、俺は色々やらかして凹む様を目撃されている。
「黙って見てろ」
と兄弟子が俺を制止して呪文で片付けてしまい、実戦の機会は得られずにいる。
(ポップからすれば師匠へのアピールだったのかもしれないけど、兄弟子故のプライドって言うのもあるのかな)
あちらからすれば残念なはずの俺が特別ハードコースに喰らいついていこうとしてるように見えるのだ。置いていかれるのは気にいらないが、だからといって同じコースは受けたくない、とか考えて居るのならその行動も不思議はない。
(もっとも、原作でポップが倒していた魔物を俺が倒してしまったりしたらポップが原作より弱くなってしまうことも考えられるし)
そもそも大魔王を倒す旅から旅立ち前の時点で離脱する俺が必要以上の強さを身に着ける必要はない。
(大丈夫)
リタイヤする理由はもう考えて居るし、タイミングも決めている。不安要素は魔王の意思の影響を俺が受けてしまわないかだけだが、落ち着き先が破邪呪文で魔王の意思から保護された南海の孤島ならば、何の問題もなく。
(あとは師匠を待って、原作通りにことが運んでくれたなら、きっとすべてがうまくゆく)
分裂して残してきた俺が唯一気がかりなことだが、あいつらも格好つけで俺を一人送り出したとは考えづらい。
(全部俺とはいえあれだけ数が居るんだし、きっと俺一人じゃ思いつかないような解決策でも思いついたんだろう。もしくは――)
俺が思いついても無理だと切り捨てたような案を強行でもしたか。
(別行動になったとはいえ、俺なんだから流石にそれはない、よな?)
声には出さず疑問を漏らしても当然答えるものなどおらず。
「ん?」
誰もいないと言うことになっているこの宿の一室を外からノックされ、振り返るとノブが回って開いたドアから師匠が姿を見せる。
「ただいま、と言う訳にはいきませんからね」
ランタンにただいまを言ってはただのおかしな人だ。師匠がノックに止めたのも至極当然であり、頷きを返せば、師匠はお姫様からの依頼で、南海の孤島に住む少年を一日も早く真の勇者として育て上げてほしいと依頼されたと話し。
「これは報酬の前払い分の一部と言うことなのですが」
言いつつ俺に見せたのは、黒い金属製の筒。それが何であるかを俺は原作知識で知っていた。
「これは魔法の筒と言って中に生き物を一体だけ封じ込める筒なのですよ」
効果はまさに師匠が説明してくれる通りだが、俺の記憶だとこれをもってるのは、目的地である南海の孤島に居る主人公の育ての親だった筈であり。
(ん? 待てよ、黒い……あ)
もう一度筒を見て、その色で俺は思い出した。
(そう言えば、他にも持ってた奴はいたっけ)
パプニカの王女を暗殺して実権を握ろうとし、失敗して捕まった悪人の一人が暗殺用の魔物を黒い魔法の筒で持ち込んでいたのだ。テムジンだかバロンだかそんな名前だった気がするが。
(それが没収されて、今回前払いの報酬として師匠が貰ってきた、と)
確か筒の前の住人は危険な毒を持つでっかいサソリだったと記憶している。
「ランタンの形ではメラゴースト君を連れていけない場所も多いでしょうし」
師匠の説明になる程と思う一方で、そんな機会は次の船旅を除けばもうないと知っている俺は少しだけ複雑だった。
「と言う訳で、メラゴースト君にはこの筒に入っていただきます。昼日中に火をともしたカンテラを持ち歩き続けるのは変ですからね」
「あー」
「加えて、ランタンが消えて居れば、ともっていたのはただの火と言うことになるでしょう?」
魔法の筒を師匠が受け取ったことを知るのはお城の中でも一部の人間だけだそうで、故に筒と消えた火を結びつける人間もおそらくは居ない筈ですと師匠は言う。
「そういうことなら」
と通じないことは承知の上で言いつつ俺は頷き。
「イルイル」
師匠が筒を向けた直後、俺はその中に吸い込まれたのだった。
後書き
主人公、吸われる。
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