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東方絆日録 ~ Bonds of Permanent.

作者:福岡市民
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共存編
  天空の狂詩曲(ラプソディー) 〜 時に切なく、シリアスに

-プリズムリバー邸-


ルナサ「着いたわ。ここが私たちの家よ」

(西)「うわあ、大きなお屋敷ですね!」

(東)「私も久しぶりに来ました。いつ来てもチリ一つ落ちてないので感心しています」

敏久「俺もだ。初めて来たときは感動したよ」

リリカ「そう?ありがとう」


広いながらもきちんと手入れが()された庭。屋敷の前には立派な噴水まであってとても廃屋とは思えない。
真夜中に近い時間であるにも関わらず部屋のほぼ全ての電気が煌々(こうこう)()いているのは防犯上の理由か、はたまた客人をもてなそうとする心遣いか。白い外壁が闇夜に輝き、まるで迎賓館に国賓として招かれたような気分だった。



ーー
ーーー


いざ建物の中に入って(西)はまた驚いた。
内装もやはり白で統一されており、二階まで敷かれた赤絨毯(レッドカーペット)の赤色ともよく合う。
そして天井からいくつもぶら下がる高そうなシャンデリア、カウンターにところ狭しと並べられた高級ウイスキーやワイン、さらに階段を上る途中の壁に掛けられたゴッホやミレー、ピカソ、シャガールなどの名画の数々……。

そのどれもが一般庶民の(西)にとって非常に珍しいものであり、またプリズムリバー三姉妹が大変育ちの良いお嬢様方であることを示していた。


(西)「あの…。つかぬことをお訊きしますが、ご両親は何のお仕事をされてあるんですか?」

ミスティア「虹川(にじかわ)(=プリズムリバー)さんのところはね、貴族の出なんだそうよ」


ミスティアがどこかで聞きかじった情報を伝えた。


メルラン「そうね。確かに私たちは英国・リバプールの中流貴族の娘……だったわ」

響子「娘『だった』…。過去形?」


メルランは小さくうなずいて話しを続けた。




ーーーーーーリバプールの街で「プリズムリバー」といえば貿易商を営む貴族としてそこそこ名が知られていた。
プリズムリバー家は父、母、長女、次女、三女、四女の6人家族で、6人は毎日を明るく、そして楽しく賑やかに暮らしていた。


そんなある日、父が東洋からある品物を取り寄せた。これを家宝にしようと考えた父はそれら(品物は全部で3つあった)を厳重に保管したうえで人々に「ぜひとも我が家の宝を見に来てほしい」と喧伝して回った。
それ自体が貴重なものだったことや文化の違いも相まって全国紙に取り上げられるほど大変珍しがられ、家は連日家宝を見に来る人でいっぱいになった。

これに味をしめた父は世界中の珍品をもっと集めようと、貴族(伯爵)という身分にものを言わせて生活費のほとんどを蒐集(しゅうしゅう)に費やすようになる。
貴族といえど決して財産が無尽蔵にあるわけではなく、貿易商の不振も手伝って徐々に家計が苦しくなっていく。母は蒐集を止めるよう何度も進言したが父は一向に聞く耳を持たなかった。

やがて金銀が底を尽いた。それでも父は借金をしてまで蒐集を続けた。そのさまは、まるで何かに取り憑かれたかのようだった。
母はそんな父に愛想を尽かして家を出ていく。同時にそれは悲劇の始まりでもあった。

初めのうちこそ物珍しさから大勢押し寄せていた見物客もやがて飽きたのか次第にその数が減っていき、かわって今度は取り立て屋が一日に何人も家に来るようになった。
取り立て屋が来るようになってようやく父は事の重大さに気づき蒐集を止めたものの、もう後の祭りだった。

母が家を出てから3ヶ月後に大赤字に陥っていた貿易商がついに倒産。さらにその1ヶ月後、家の運命を揺るがす大事件が起こる。
なんと、父が今まで蒐集してきたコレクションが「家宝」を除いて全て盗まれてしまったのだ。
絶望の淵に立たされた父は家宝の一つであった刀で腹を切り自殺する。


両親がいなくなったことで身寄りがなくなった4人の姉妹はそれぞれ別々の家庭に引き取られることになったが、四女のレイラだけは『家族との楽しい思い出を忘れたくない』とこれを拒否し、引き続き無人となったプリズムリバー邸に住み続けた。

やがて彼女は一人残された寂しさを紛らわすため、家庭崩壊の遠因となった家宝でありマジックアイテムでもある天叢雲剣(あめむらくものつるぎ)八咫鏡(やたのかがみ)八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)の力を使って3人の姉そっくりの騒霊(ポルターガイスト)を生み出す。

騒霊は初めのうちはただの幻影・幻聴に過ぎない存在だったがやがてレイラと会話ができるようになり、ついには実体化して自我を持つまでになった。


その後、旧プリズムリバー邸はレイラや騒霊ともども幻想入りした。
そして月日は流れ、老婆となったレイラは3人の「姉」に見守られながらその命を全うしたのだった。ーーーーーー




メルラン「ーーー私たちの大切な妹であり、また生みの親でもあるレイラが天に召されたときは本当に悲しかった。だけど『騒霊として生まれたのだからせめて騒霊らしく生きようじゃないか』という話しになってね、それで楽器の演奏技術を習得してチンドン屋を始めたの。そのチンドン屋を十数年前に“プリズムリバー楽団”に改組して現在(いま)に至るというわけよ」


目に涙を浮かべたメルランが話しを終えると、しばらく静寂がその場を支配した。


(西)「……お三方にはそんな過去があったんですね。辛い記憶を思い出させてしまい、すみませんでした」


どれほど経っただろうか。(西)がようやく口を開いた。


リリカ「ううん、大丈夫。レイラとの楽しい思い出はたくさんあるし、何よりレイラ(あの子)は今も私たちの心の中で生き続けているから」

ルナサ「そうね。たまに思い出して辛くなることもあるけど、いつまでも過去に縛られたままでは前に進めないもの。……さて、いよいよ真夜中ね。そろそろ寝ましょうか」

霊夢「ええ、こんな遅くまで付き合ってくれてありがとうね」

ルナサ「いいって。……そうそう、部屋は二階の一番奥とその手前を使ってちょうだいね。それじゃ、お休みなさい」

訪問者一同「お休みなさい」



一同がそれぞれの部屋に引き上げていく。
時刻はちょうど26時ーーー午前2時だった。 
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