DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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決戦前夜
前書き
今年の花粉は一味違うぜ!←鼻水ヤバいww
キーンッ
準々決勝から二日後。東英学園のグラウンドではゲージを作り打撃練習を行っている少女たちの姿があった。
「調子いいね、瞳」
「昨日の感触が残ってるかもな。バットが振りやすいよ」
打ち終えた大河原に声をかける大山。それに彼女は汗を拭いながら答えていた。
「でも驚いたよね。まさか日帝大がコールド負けするなんて」
「決勝の相手は明宝か日帝大のどっちかだと思ってたからな。たぶんあいつらもそう思ってたから桜華の対策を何もしてなかったんだろう」
準々決勝の試合を観戦していた東英学園。しかし、日帝大付属に関しては対戦経験も多かったこともありその試合は観戦していなかった。そのため、残していたビデオ班から試合の結果を聞き驚きが隠せなかった。
「先に日帝大が戦ってくれてよかったね」
「先に当たってたら私たちも同じことになっていたかもしれないからな」
試合翌日にビデオを確認したがデータがなければ強豪校でも破れかねない実力を有していたのはすぐにわかった。それを事前に知ることができたため、ライバルの敗退は彼女たちにとってありがたいものといえる。
「でもあの留学生二人だけのチームでしょ?明宝も見てただろうし警戒する必要なくない?」
「いやいや……まさか陽香のこと忘れてないよね?」
「あ……そうだった……」
楽観的に考えていた笠井だったが明宝学園は絶対的エースである陽香が負傷しているのはどのチームも知っている。さらに彼女たちの監督である町田が病院に付き添っているため、ケガの具合もおおよそわかっていた。
「仮に勝っても決勝にも出てこれないでしょ。残念だったね、瞳」
「別にいいよ。気にしたってしょうがない」
共に中学でプレーしたライバルとの対戦はどちらが決勝の相手でも変わらない。口ではそう言ったものの、彼女のモチベーションは確実に落ちていた。
「こんにちは!!」
「こんにちは!!」
そんな話をしていると数人の仲間がグラウンドの出入口のところに向かって頭を下げていることに気が付く。そちらを見るとユニフォーム姿の町田がやってきていることに気が付き、挨拶をする。
「瞳、打ち終わったのか?」
「はい!!」
「OK!!ならシートノックやって上がろう。ゲージ片して」
指揮官からの指示でテキパキと動く少女たち。その体育会系の雰囲気を見ながら、町田はバッティンググローブをはめノックバットを手に取った。
その頃明宝学園では少女たちを教室へと集め、桜華学院と日帝大付属の試合のビデオを流していた。
「球種はやっぱりストレートとスプリットだけですね」
「だと思う。ただ、日帝大の連中がここまで打てないのは違和感があるんだよなぁ」
ビデオが終わったところでミーティングへと移る。一度見た試合であったためおさらいも兼ねていたが、疑問点を拭うには至らなかった。
「初回はストレートのゴリ押しで失点していたが二回以降コーナーにボールが集まっていた。ただ、時折甘いボールが来ていたのに日帝大は六回までヒットが出なかったのは気になるな」
「でも初回より後半の方が球速も出てたよね?差し込まれてた可能性は高いんじゃない?」
「そう考えるのが無難かもねぇ」
球速はこの大会で最速と考えていい。そのボールがコーナーに決まり始めたらいくら打撃に定評のある日帝大付属でも打てなくても不思議ではない。
「でもなんで初回はスプリット使わなかったんですかね?」
「得意なボールでエンジンをかけるためと考えた方がいいかもしれない。他の試合でも初回に失点してるところを見ると、毎試合この入り方をしてるのかもしれないな」
明里の問いに真田は淡々と答える。それに野球未経験だった莉愛はいちいち相槌を打っており、隣に座る瑞姫から頭を故突かれていた。
「攻撃面だとクリンナップに入っているソフィアとリュシーの留学生コンビ。この二人がかなりの脅威になるな」
二人ともホームランを放っている上に全打席で出塁している。ほとんどの得点に絡むだけにもっとも警戒すべきな打者であることはよくわかった。
「ランナーいる時は勝負しない方がいいですかね」
「そう思ったんだが……」
莉子の問いに歯切れが悪そうにしている真田。その行動の意味がわからず全員が首をかしげていた。
「ソフィアとリュシーの後に来る五番の蜂谷。こいつも目立たないがかなりいいバッターみたいだ。それもチャンスに強い」
「そういえばタイムリーも打ってましたもんね」
「あぁ。一打席目は凡退だったがその後の二打席ではリュシーをホームに返している。他の三試合のデータももらったが、こいつはソフィアかリュシー……どちらかが出塁している状態での打率は6割を越えてくるらしい」
「えぇ!?それじゃあ敬遠もできないじゃん!!」
優愛が驚きの声をあげる。それには他の少女たちも同感でざわつき始めている。
「蜂谷さんがチャンスに強いから前の二人を歩かせづらい訳なんですね」
「あぁ。しかもこれは二人が出塁している場合だ。これが仮に得点圏ならさらに打率が上がる。ランナー三塁なら必ず得点を奪っているんだ」
リュシーの走力を間近で見ていただけに莉愛の顔が青ざめていた。仮にソフィアも同等の走力を持っていると考えた場合、フリーパス状態にされてしまうことに恐怖を感じていた。
「他の打者は打力が高いというよりも細かい技術を持ってるな。どのボールにもしっかり対応しているところを見ると、狙い球を絞っているのかもしれない」
日帝大付属の投手陣は球種が少なかった。しかしその全ての球種が一級品であったため、打つことはそう簡単ではないのではあるが……
「桜華と戦う上でまず重要なのは初回だ。ソフィアの立ち上がりの失点は2~3。これをどこまで上げれるかが攻撃においての重要なのポイントになる」
必ず失点しているもののその点数はかなり抑えられている。一イニングで大量失点をしないのはさすがに力のある投手といったところ。それに対抗するなれば初回にどこまで大量得点を上げれるかと真田は話した。
「二回以降もスプリットは捨てた方がいいかもな。ストレートに狙いを絞れば打てない球じゃない。追い込まれる前から振っていっていい」
「「「「「はい!!」」」」」
攻撃については以上と言い、そのまま守備についての指示を出す。
「五番の蜂谷のことも厄介だが、一番は三番と四番の二人だな。序盤のランナーがいない場面で打ち取り方を探っていくしかない」
日帝大付属戦では凡退のなかった二人。そのためどこが彼女たちの限界点なのかを見極める必要があると真田は話した。
「そしてこいつらはどこかイニングで毎試合大量得点を奪ってくる。一回戦では四回に8点、二回戦では三回に6点、三回戦でも三回に7点。日帝大の投手陣が崩れたせいで毎回得点をあげているように見えたが、どこか勝負を仕掛けるイニングを作ってくるのが特徴だな」
コールドをしているチームにしては0を刻む回数が多い桜華学院。しかしそれが仇になるとも彼はわかっていた。
「桜華の一人一人の能力は決して高くない。その中で大量得点を重ねてきたのは細かい技や揺さぶりを使っているからだ。トライアングルやエンドラン、バスターにカット打ち……あらゆる攻め方を頭に入れておかなければならないな」
その言葉に全員が頷く。それだけ彼女たちの戦い方がこれまでの相手と違うことを理解しているからだ。
「今日の練習でいくつが対策はしたが、どの場面で仕掛けてくるかはわからない。だから常に頭に入れて動くようにしてくれ。いいな?」
「「「「「はい!!」」」」」
「よし、じゃあ解散。早く休んで明日の試合に備えろよ」
真田が早々に教室から出ると、少女たちも各々動きを見せる。
「瑞姫、投げる?」
「少しだけ投げようかな。指先の確認しておきたいし」
多くの者が自主練のためにグラウンドへと向かう。莉愛と瑞姫もその例に漏れず、二人は仲良さげに話しながら教室を出る。
「緊張はしてなさそうだな」
「そんな感じの子じゃないでしょ」
「それは言えてる」
誰もいなくなった教室に残っている三年生の三人。莉子の言葉に笑いながら栞里と伊織が答えると、彼女も苦笑して返した。
「陽香……明日は来れるんだっけ?」
「昨日も今日も来ようとして親に止められたらしいよ」
「明日も勝手にブルペン入り出しそうだな」
「やめろ、あいつじゃやりかねない」
この場にいない主将のことを話している少女たち。それは三年間を共に過ごした仲間のことを心配するものというよりも、自分たちの気持ちを落ち着けるためのもののように見えた。
「じゃあ試合前と同じノックで締めるぞ」
日が暮れ始めた頃、桜華学院も試合前の練習の締めを行うためのシートノックに入ろうとしていた。
「ソフィアも受けた方がいい?」
「お前はベンチで座ってろ。本番を意識してやるから」
残念そうに返事をしてベンチへと腰かけるソフィア。ちょこんと座るその姿が普段の破天荒さと真逆に映るため、仲間たちは笑いを堪えられずにいた。
「今日の練習はこれで終わりですか?」
「試合前だしな。講習もあって疲れただろ?」
桜華学院は進学校として有名である。そのため夏休み中も最初の数日間は講習があるため、このように遅い時間からの練習になっている。
「明宝の対策何もしてないんですが……」
主将である蜂谷が心配そうな表情を見せる。すると、カミューニの表情が変わった。
「はぁ?何言ってんだお前」
不思議なものを見るような目をしている彼に縮こまる蜂谷。他の少女たちも同様の反応をしていたが……
「うちはそんな対策なんかしたことねぇだろ」
そんな発言にズッコケずにはいられなかった。
「さすがに準決勝ですし……何かやらないと……」
「いらねぇいらねぇ。むしろそんなのはデメリットにしかならねぇよ」
彼がなぜそんなことを言うのかわからなかった蜂谷は首をかしげる。それに対し青年は続けて答えた。
「俺たちはどんな相手だろうと同じように戦い、勝利をもぎ取ってきたんだ。相手がどことか関係ねぇ。お前たちはお前たちのプレーをしてくれればそれでいい。そうすれば俺たちは優勝できる」
優勝……進学校であるため部活よりも勉学を優先させてきた彼女たちにとってその言葉はあまりにも甘美な響きだった。それゆえに彼女たちはすぐに自らの意見を引っ込める。
「俺たちは練習時間も実力も足りてねぇ。でも勝てることは今まででじゅうぶんわかってるはずだ。あとは自分を信じてやるだけだぞ」
「はい!!よし!!ノックの準備しよう!!」
「了解です!!」
「ボール持ってきて!!」
ただ持ち上げるだけではなく頭のいい彼女たちにその意図も話すことでより意識を高めることができる。同じ進学校出身である彼なりの配慮であった。
「じゃあ本番イメージしていくぞ」
「よし!!いこう!!」
蜂谷の声かけに答えるように守備に散る少女たち。まずはそれぞれベースに付き、ボール回しから入る。
(明宝との試合……総合力で言えば3対7でうちの負けだろう。でもなぁ、野球はその通りにならねぇから面白ぇんだよなぁ)
あらゆる物事において突き詰めれば突き詰めるほどその奥深さに触れることができる。カミューニの場合、それが野球に当たる。
(明日は四回に仕掛ける。それに向こうはエースがいないはずだからその前後にも2点くらいは取れるだろう。あとは失点をどれだけ削れるかだが……)
ベンチに腰掛けボールを弄っているエース。彼女の方を確認した後、ノックを打つための場所へと歩き出す。
(初回を2点以内に抑えられれば四回の得点だけでも十分勝てる。後は今まで通りの攻め方で勝つだけだ)
勝利の理論を持っているカミューニ。それは攻撃面だけでなく、守備面でも確立しているものがあるのだ。
(準決勝は明宝。それに勝つと絶対王者東英……か)
ボール回しも終盤になりボールを一つ取りノックの準備に入る。その時の彼の表情は何かを企てているものだったことに、彼のそばにいた数人が気が付いた。
(東英学園……果たして勝ち抜いてこれるのかな?)
ニヤリと笑み一瞬見せたかと思うとすぐに無表情に戻りボール回しを終えポジションに着いた少女たちへとノックを打ち始めるカミューニ。彼の頭の中は既に先の先を見据えて動いていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
各校の試合前日の様子を簡単に出して見ました。
次は準決勝です。普通の野球漫画とかだと先に主人公たちが試合をしてその後にライバル校が試合をやることになるのですが、普通に考えて第一シードが第一試合じゃないとおかしいと思うので今回は東英の準決勝を先にやっちゃいます。あまり伸びすぎないようにやっていこうと思いますのでよろしくお願いしますm(__)m
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