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お化けアパート

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第二章

「ただのな」
「うわ、動いてきたぞ」
「あたし達襲うつもり!?」
「怨霊退散!」
「大蒜ぶつけるわよ!」
「大蒜?好きだけれど明日も仕事だから食わないぞ」
 起き上がって応えた、見れば部屋の中に一組の若い男女がいた、ここで小林は驚いてカップルに問うた。
「何だあんた等何処から来た」
「何処からって俺達廃墟マニアだよ」
「このアパート廃墟で有名だから来たのよ」
「すげえ廃墟だって思ったらな」
「お化けまでいるなんて」
「ここ廃墟じゃねえし俺もお化けじゃねえぞ」
 小林は暗がりの中に見える二人に返した。
「というか人の家に勝手に入るなの」
「だからお化けが言うなよ」
「こんなこと言うお化けいないわよ」
「だから俺お化けじゃねえって言ってるだろ、不法侵入でお巡りさん呼ぶぞ」
「お化けがお巡りさん呼べるかよ」
「そうよ、それは人間のすることよ」
「だから俺は人間だって言ってるだろ」
 ここで灯りを点けるとだった、見るからに何も考えてなさそうなチーマー風の若いカップルがいた、そして。
 カップルは小林を見てようやくわかった。
「す、すいませんでした!」
「失礼しました!」
 小林が人間だとわかって謝罪して脱兎の如く逃げ出した、小林は何故こうなったのか瞬時に理解した。何しろ部屋の扉も古く鍵もちょと強く引くと壊れそうだった、そして実際に壊れたのだと理解した。そうして中に入られたとだ。
 そして翌日仕事が終わって越後の家に行って昨夜のことを話してだった。
 そうしてだ、こう彼に言った。
「マンションに移ります」
「うん、大変だったね」
「まさか廃墟マニアが来るなんて」
「あの古さなら当然だよ」 
 越後はこう返した。
「役所からも耐震に問題があるから建て替えてくれって五月蠅かったからね」
「だからですか」
「そうだよ、じゃあね」
「はい、マンションに移ります」
「アパートから近所だしね」
「これからはあちらに住みます」
 小林はようやく頷いた、そうしてだった。
 彼はアパートを去ってマンションに入った、もうマンションに誰も入ることはなかった。新築で設備のいいそのマンションの暮らしはボロアパートのものより遥かによくあのアパートで満足していた自分が嘘の様に思えた。


お化けアパート   完


              2022・3・28 
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