DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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トライアングル
前書き
四月から減量に入ろうと思います(*_*)ナンノホウコク…
「菜々のカーブをあんな軽々と打つなんて……」
ホームベースを踏みハイタッチをする黒髪の少女。彼女のスイングは今まで見た中でもかなり速い分類に入るものだった。
「まさかこの試合乱打戦になる?」
「えぇ!?それは勘弁してよぉ」
一試合……それも緊張感のあるギリギリの戦いをしただけに疲労がかなり残っている。それもあって長時間試合を見たくないと優愛ちゃん先輩がタメ息を漏らすと莉子さんと栞里さんが睨みを利かせていた。
ギンッ
打ち合いに発展するかと思われたけどここは吉永さんはエースの意地を見せ後続を断つ。点差は1点だけど、日帝大からはこれまでの楽勝ムードが消えていた。
「日帝大は下位打線から」
「この回で点を取れるかで試合の流れも変わってくるよ」
初回はホームランを絡めての3得点。コールドは五回7点差なのでここからどれだけ得点を積み上げていけるか。
「ストライク!!」
初球は外角へのストレート。ここまで全ての投球がストレートであるため、空振りではあったけどタイミングは合っている。よほどストレートに自信があるのかわからないけど、これじゃあこの回も打ち込まれるに違いない。
そう思っていると、続く二球目で思わぬことが起きました。
「落ちた!!」
「しかも速い」
ここまでストレート一辺倒だったソフィアさん。二球目もそれにタイミングを合わせていたバッターは鋭く落ちる変化球に対応できない。
「スプリットか?」
「でも落ち幅も大きかったね」
フォークよりも浅く握ることで変化量は減るもののストレートに近い球速を出せるスプリット。恐らくそれなんだろうけど、通常のスプリットよりも落ち幅が大きい。
「ストライク!!バッターアウト!!」
前のスプリットの残像が残っていたのか高めのボール球に手を出し三振に倒れる。続く打者も内角のストレートに詰まらされショートゴロ。三人目の打者は三球全てにスプリットを投じられ手も足も出ずに三振に倒れていた。
「配球も何もないね」
「押せ押せで乗り切っちゃったよ」
厳しいコースは突いてるけど力業の印象が強い。それで凌げちゃうんだから相当球が走ってるんだろうけど、こんなピッチング長くは持たないよね。
裏の桜華の攻撃は六番から。なんだけど……
「アウト!!スリーアウトチェンジ!!」
吉永さんのストレートと縦に大きく割れてくるカーブに合わせるだけのバッティングで三者凡退。初回の攻防が嘘のようなスピーディー展開に思わず顔を見合わせる。
「初回にホームランを打ってる桜井さんに回る。前の二人もいい当たりしてたしスプリットをどう使うかが鍵になるね」
そう読んでいた瑞姫だったけど、先頭の宮川さんには三球全てストレート。一球目は空振り、二球目は三塁線へのファール、三球目にピッチャーゴロを打ってしまい打ち取られていた。
「まるで配球がわからない……」
「意外と何も考えてなかったりして」
クスクスと笑う若菜。冗談のつもりなんだろうけど、本当にそんな気がしてしまうから不思議だ。
「ストライク!!バッターアウト!!」
続く二番は高めのストレートを空振り、二球目は真ん中からスプリットを落として同じく空振り。三球目は内角へ外れたものの再度スプリットで空振り三振に仕留めていた。
「ストレートとスプリットの二択か」
「でもこれだけ速いと見極めるのは難しいですよ」
恐らくこの大会でもっとも速いと思われる少女。使ってくる球種は2つなのに、そのスピードがその二球種での組み立てを可能にしている。
(でも桜井さんにそれで通用するの?)
打席に入る桜井さんは他の選手よりも頭一つ抜けている。彼女を抑えることができなければ桜華に先はないだろう。
キンッ
初球はコントロールミスか真ん中へのストレート。しかし伸びがあったのか桜井さんの打球はバックネットへのファール。
「タイミングは合ってる」
「捉えたら持っていかれるね」
芯で捉えることができればスタンドに行くのは間違いなさそう。そう思っていた矢先、再び甘く入ったストレートを桜井さんは叩いた。
「うわっ……」
「二打席連続……」
ライトへ高々と打ち上げられた打球。甘い球を逃さないそのミート力に感服していると、フェンス手前に来ていたライトが手をあげた。
「へ?」
その行動の意味が最初はわからなかったが、すぐに理解できた。打球が失速しているのだ。スタンド入り確実と思われたその打球はフェンスの手前でライトのグローブへと吸い込まれた。
「詰まってた?」
「ラインドライブがかかったのかな?」
会心の当たりだったけどそれゆえにラインドライブがかかってしまったのかもしれない。でもこれで二回続けての三者凡退となっている。
第三者side
「ナイピッチ」
「サンキューカミュ!!」
指揮官に褒められピョンピョン跳ねているソフィア。その彼女の日本人離れした胸元に味方の少女たちがタメ息を漏らす中、唯一の異性である青年は彼女に一切の興味を示すことなく円陣を組む。
「打順もちょうどいい頃合いだからな。この回仕掛けていくぞ」
「「「「「はい!!」」」」」
その指示で一斉に全員がマウンドへと目を向ける。それに映るのは投球練習を行う少女とその仲間たち。
「まずは小手調べに《トライアングル》で行く。頼むぞ、美幸」
「はい!!」
この回先頭の少女に声をかけ打席に送り出す。他の選手たちは円陣を解くと、ベンチへと駆け足で入っていった。
「投手戦になりますかね、これは」
本部席では試合展開が早くなった試合を見ながら一人がそんな言葉を漏らす。それに呼応するように、他の面々も同様な見解を述べていた。この二人を除いて。
「いや……もしかしたら桜華は何か仕掛けてくるかもしれないぞ」
「何かって……ランナーもいないのにですか?」
真田の言葉に選手たちを送り出して戻ってきたばかりの佐々木が疑問を投げる。ここまでの彼女たちのバッティングを見ればそう簡単に塁に出れないのは必然。塁に出なければ仕掛けることはできない。
「去年の甲子園で奴は言っていた、『勝利には理論がある』と」
「あぁ。恐らく奴には吉永から出塁する方法が出来上がっているんだろう」
「その方法ってなんです?」
その問いに首を振る二人。打席に入った左打者が一体どんな攻めをしてくるのか、誰一人予想がつかなかった。
莉愛side
「桜華はあの四番以外で得点を奪うビジョンができないね」
吉永さんのピッチングが完璧すぎて付け入る隙がまるでない。それはもちろんなんだけど、ほとんどの打者が彼女のストレートとカーブのコンビネーションに対応できておらず、ただアウトを積み上げているだけだった。
「この回は九番からだし、次の回が勝負かな」
「でも無理して勝負しなくてもいいんじゃない?」
「日帝大がそんな逃げ腰でいいわけないでしょ?」
強豪校ゆえにプライドもあれば周りからの目もある。おまけに相手は秋も春も予選で破れているとなればなおさら主軸の選手だろうと歩かせるわけにはいかない。先輩たちの見解はまさしくその通りだと思いました。
「大変なんですね、そんなことまで気にしなきゃいけないなんて」
「まぁ歩かせる方法もいくらでもあるけどね」
笑いながらそう答えた伊織さん。確かに立ち上がらなければ敬遠とは言えないだろうし、いざとなったらそれも頭の中にはあるんだと思う。
コッ
勝負は次の回。そう思っていた私たちでしたが先頭打者の思わぬ行動に目を疑いました。
「セーフティ!!」
「でも強い」
ピッチャーの横への強いバント。普通なら三塁線に転がして少しでも送球を送らせるのがセオリーなはずなのに、彼女が行ったバントはその真逆のものでした。
「ピッチャー!!」
「ファースト!!」
バントの構えで出てきた一塁手と投手。その二人のちょうど真ん中を抜けるようにボールが転がります。
「オッケー!!」
しかし二人の間を抜けるということはセカンドの正面にあたる。桜井さんが前進してそれを捌いて一塁へーーー
「「「「「あ!!」」」」」
ジャンピングスローに入ろうとした桜井さんでしたが慌ててそれを止める。なぜなら一塁ベースに誰も入っていなかったから。
「トライアングルか」
「これなら打たなくてもヒットにできるね」
「トライアングル?」
聞いたことない単語に首をかしげると莉子さんが分かりやすく説明してくれた。
バントの構えを見せることで前に来るピッチャーとファースト。その間にプッシュバントを放つことで二人の間を抜き、本来ならばベースカバーに向かうはずのセカンドにボールを捕らせる。ファーストがベースから離れておりセカンドもボールを捕ってからでは間に合わない。そうなれば一塁ベースが空くためバッターは難なく一塁を陥れることができるという戦法らしい。
「ボールを取れなかった時点でピッチャーかファーストがベースカバーに行くか、飛び込んででもどっちかが捕ってセカンドにベースカバーを任せるか」
「それを瞬時に判断しないといけないから守ってる側からすれば溜まったもんじゃないよね」
こんなプレーを練習することなんてまずない。一試合で一回決まればいいバントだけど、それをここで使ってくるってことは……
「この回何としてでも点を取りたいってこと?」
「つまり四番のリュシーさんまで回すってことだよ」
ここからは一番に打順が返る。最低でもあと一人ランナーを出さなければリュシーさんには回らない状況で果たしてどのように動くのか、球場中の注目が集まっていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
高校球児だった方なら一度は試したことがあるであろうトライアングルです。
次は桜華学院の攻撃からです。
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