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アザラシが助けてくれて

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第一章

                 アザラシが助けてくれて
 アメリカカルフォルニア州の石油プラットフォームでのことである。
 早朝日の出の頃に当直でその場にいた者達が声を聞いた。
「助けてくれ」
「!?声がしたな」
「そうだな」
「遭難した人か?」
「近くで溺れている人か?」
「こっちだ」
 声のした方を見るとだった。
 そこに面長で濃い黒い髭とグレーの目の体格のいい男性がいた、海の中でティーシャツと短パンだけなのが見えた。
 その人がしきりに助けを求めていた。
「早く助けてくれ」
「本当にいるぞ」
「これは大変だ」
「すぐに助けよう」
 そこにいた者達はすぐに動いた、ボートを出してだった。
 その人のところに行って助けた、そして彼に尋ねた。
「一体どうしたんだ」
「またどうしてこんなところに」

「何があったんだ」
「あんた誰だ」
「俺はスコット=トンプソンというんだ」 
 彼はまずは名乗った、短い黒髪も濡れている。
「漁師をしているんだが」
「そうなのか」
「漁師か、あんた」
「だから海にいるんだな」
「ああ、しかしな」
 トンプソンはさらに話した。
「夜波にさらわれてな」
「落ちたんだな、海に」
「そうなんだな」
「そうなったんだな」
「そうだ」
 その通りだと言うのだった。
「それで乗っていた船はエンジンを入れていてな」
「先に行ったか」
「そうなったか」
「船の方は」
「しかも一人だったんだよ」
 船に乗っていたのはというのだ。
「俺は一人で仕事をするからな」
「悪いことが重なるな」
「しかも今寒いぞ」
「あんたその恰好で海に落ちたのか」
「そうなんだな」
「ああ、駄目かと思った」
 正直な言葉だった。
「本当にな、けれどな」
「それでもか」
「何とかここまできたんだな」
「助かったんだな」
「助けてくれた奴がいたんだ」
 トンプソンはプラットフォームのスタッフ達に話した。
「これがな」
「助けてくれた?」
「誰がなんだ?」
「海に落ちたあんたをか」
「誰が助けてくれたんだ」
「アザラシがな」 
 彼はスタッフ達に答えた。
「助けてくれたんだ」
「アザラシ?」
「アザラシがか」
「あんたを助けてくれたのか」
「そうだ、目の前の海が急に動いてな」 
 そうしてというのだ。
「鮫が出たと思ったらな」
「アザラシか」
「アザラシだったのか」
「そうだったのか」
「ああ、ゼニガタアザラシだった」
 その種類も話した。 
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