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展覧会の絵

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第三話 いかさま師その一

                    第三話  いかさま師 
 十字は今は教室で聖書を読んでいた。その彼のところにだ。
 クラスメイトの女子達が来てだ。こう彼に尋ねたのだった。
「聖書読んでるの?まさか」
「教会にいるから」
「そうだよ。聖書にはね」
 そのだ。今読んでいる聖書を手にだ。彼も女子達に答える。
「教えの全てがあるからね」
「キリスト教の教えよね」
「それがあるのよね」
「そう、あるからこそ」
 だからこそだと。やはり聖書を手にしたまま言う十字だった。
「いつも読んでいるんだ」
「いつもって。それじゃあ毎日?」
「毎日聖書読んでるの?」
「そうしてるの」
「そう。そこに神の御教えがあるから」
 また言う十字だった。
「いつも読んでるよ」
「ううん、何か流石よね」
「そうよね。佐藤君らしいっていうかね」
「本当にそうよね」
「教会にいるだけはあるっていうか」
「似合ってるわよね」
 女子達はだ。口々に言うのだった。その十字を見て。
 そしてその中でだ。ふとだった。
 女子の一人がその聖書を見て気付いた。それはだ。
「あれっ、この聖書日本語じゃないの?」
「そうね。アルファベットだけれど」
「これ何語なの?」
「何語で書いてる本なの?」
「ラテン語だよ」
 それで書かれているとだ。十字が彼女達に答えた。
「それで書かれているんだ」
「ラテン語ってあのヨーロッパの言葉よね」
「ローマ帝国で使ってたっていう?」
「今でもあっちじゃ学校の授業で使うって聞いてるけれど」
「その言葉で書かれてるの」
「そうだったの」
「そう。聖書は元々ラテン語で書かれていたんだ」
 キリスト教はローマ帝国の頃に成立した、それならば当然のことだった。
 実際に聖書は長い間ラテン語のものしかなかった。マルティン=ルターがドイツ語に翻訳するまではラテン語のものしかなくそれが教会の専制を招いてもきた。聖書を読めるのが聖職者しかいなかったからだ。
 そしてそのラテン語の聖書を手にだ。十字は彼女達に言った。
「これが原典だからね」
「だから読んでるの?」
「そのラテン語の聖書を」
「そうしてるの」
「そうなんだ。日本語の聖書も読んでるけれど」
 それでもだというのだ。今はだとだ。
「原典を読むのも凄く勉強になるからね」
「ラテン語と日本語じゃそんなに違うの?」
 女子の一人が怪訝な顔になって十字に尋ねた。
「同じ聖書でも」
「書かれている意味は同じでもね」
「やっぱり違うの」
「日本語で翻訳しきれないところがあるからね」
 それでだというのだ。
「どうしても違いが出て来るよ」
「そうなんだ。同じ言語でも」
「そうなるのね」
「同じ聖書でもそんなに違うの」
「そうだよ。だからこうして読んでるんだよ」
 また言う十字だった。
「そして勉強してるんだ」
「ううん、佐藤君って本当に勉強家よね」
「真面目っていうかね」
「神様に心からお仕えしてるっていうか」
「いつもそうなのね」
「僕は神の忠実な僕だからね」
 実際にそうだとだ。十字は述べる。 
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