展覧会の絵
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第二話 吸血鬼その四
「それはな」
「いいかな」
「ああ、伊達に二段じゃないからな」
からっきしで二段は取れないというのだ。それはその通りだった。
それでだ。また言う彼だった。
「だからもっと気が強くなればいいだろ」
「そうなれば違うかな」
「要は気の持ちようなんだよ」
「気のね」
「そうだよ、それだからな」
だからだと話すその部員だった。しかしだ。
猛はまだ浮かない顔でだ。それで言うのだった。
「できればいいけれど」
「まあなあ。少しずつでもいいけれどな」
「少しずつ?」
「ああ、少しずつでもな」
それでもだというのだ。そうした話をしてだった。
猛はシャワーを浴びて汗を落としてだ。そのうえで黒いブレザー、それにグレーのチェックのズボン、白のブラウス、それに青いネクタイの制服、クリーム色のセーター、彼が選んだそれを着てだ。
更衣室を出た。するとだ。
そこにいたのはだ。雅だった。
雅は猛と同じ黒いブレザーにだ。短いスカートはグレーチェックののひらりとしたものだ。リボンは青で蝶々の形をしている。ブラウスも白、セーターはクリーム色だ。
そこに黒いソックスをはいている。その彼女がだ。
猛を見てだ。それで言ってきたのだった。
「遅いわよ」
「ご、御免」
「服を着替えるのも早くね」
それもだというのだ。
「何につけても早くよ」
「うん、そうだね」
「いつも言ってるけれど」
これは確かにだというのだ。
「何かっていうとね」
「うん、わかってるけれど」
だが、だ。それでもだというのだ。そうした話をしてだった。
まただ。雅から猛に言ってきた。
「行きましょう」
「じゃあ」
「今日は寄り道しないわよ。いえ」
「いえ?」
「まだ開いてるかしら」
ここでだ。ふとだった。雅は口を開いてだ。
そのうえでだ。こう呟いたのだった。
「あの画廊は」
「画廊っていうとあの」
「そう、教会の横にあるね」
「あそこに行くんだ」
「そこに行けばね」
それでだというのだ。彼等はだ。
雅の言うままにだ。教会の横にある画廊に向かった。そこに行くとだ。
様々な絵があった。しかしだ。
どの絵も不吉な感じのものでだ。思わず雅が言った。
「前も思ったけれど」
「この前ここに来た時だね」
「そう、その時ね」
彼等は前にもこの画廊に来たことがあるのだ。はじめて来た訳ではないのだ。雅はその時のことを思い出しながらだ。そのうえで今こう言ったのである。
「気味の悪い絵が多いわね」
「そういえば何か」
「全部美術の教科書にあるみたいな絵だけれど」
それでもだというのだ。画廊にある絵達はとだ。
「どれも何かね」
「色々な絵があるけれど」
「この絵なんか特に」
ここでだ。猛が言った。
えも言われぬ絵だった。絵の具は多く使っているが色彩は中間色、それに暗い色が多くだ。そうしてだ。
女が男に迫りその肩から血を吸っている。夜、いやそれとはまた別の暗さ、昼にありながら光の感じられない、闇の中になくとも暗鬱で不安なものを感じさせる、そんな絵だった。
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