展覧会の絵
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第一話 キュクロプスその八
「清めてるんだ。そしてね」
「そして?」
「この世もそうしているんだ」
こう言うのだった。
「僕はね」
「この世もって」
「人は醜くもあれば清らかでもある」
「そう言われるね」
「けれど。あまりにも醜い輩は」
そういった者はどうかというのだ。
「許してはならないね」
「世の中悪人っているからね」
「そうした輩は許さないから」
こう話してだった。彼はだ。
その絵を描いていく。見ればその絵は。
ルネサンス時代の絵だった。聖母マリアの受胎告知の映画だ。
その絵を描きだ。言うのだった。
「僅かでも清らかさがあれば神は救われるよ」
「僅かでも?」
「けれど何もない輩は」
ここでもだ。そうした輩の話をする彼だった。
「神が裁くんだよ」
「キリスト教の神様がかな」
「この世で唯一の神がね」
まさにだ。キリスト教徒の言葉だった。
「そうするんだ」
「何か怖いね」
十字のその言葉を聞きだ。その部員は述べた。いささか引きつつ。
「そうした神様だなんてね」
「怖いかな」
「僕の感覚ではね」
彼は日本人、かなり雑多な人間としての宗教観から十字に答えた。尚この宗教観に対して彼には自覚がない。だがそのうえで十字に話していくのだった。
「そういうのってね」
「そうだろうね。普通の日本人はね」
「うん、そう思うよ」
「けれど。それでもね」
どうかとだ。十字の言葉にだ。
その淡々としたある意味において無表情なそれにだ。剣が宿った。その剣は。
青でもなかった。白だった。その白い炎をまとわせた剣を宿らせてだ。そのうえで言ったのである。それはその部員にしても戦慄すべきものだった。
「邪悪は。絶対にね」
「神様は許さないんだね」
「邪悪は地獄に落ちるんだ」
無表情だがそれでも出された言葉だった。
「そしてその前にその邪悪に相応しい劫罰を受けるんだ」
「死刑かな」
「そうだね。死刑と言うかも知れないね」
十字は彼の一般社会での表現に従いはした。
だがそれでもだ。その一般社会を超えた恐ろしいものを込めてだ。また言うのだった。
「悪を裁くことを死刑というのならね」
「そうなるんだね」
「そう。そしてその神の色はね」
色の話に戻った。それこそがだった。
「白なんだよ」
「その白なんだ」
「その意味もあって僕はこの服を着ているんだ」
白い詰襟、それをだというのだ。
「そういう理由なんだよ」
「わかったよ。そうなんだね」
彼は蒼白になった顔で十字に応えた。
「そこまでの意味があったんだ」
「わかってくれたみたいだね」
「うん、一口に白といっても」
声も蒼白になっていた。その小さくなっている声での話である。
「色々な意味があってそうして」
「白は完全な清純だからね」
「そうだよね。何か佐藤君にはね」
「僕には?」
「似合ってるね」
ここまでのやり取りで直感的にだ。感じ取って述べた言葉だった。
「ぴったりだと思うよ」
「有り難う、そう言ってくれるんだね」
「僕がそう思うだけだけれどね」
「いや、それでもね」
彼がそう言った。そのこと自体にだと述べる十字だった。
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