ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part4
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇椎名雄介/ウルトラマンザイン
4年前、怪獣や異星人の脅威から地球を救った若きウルトラマンと、その依代になった人物。胸部から肩部にまで伸びているプロテクターと、電子回路のような模様の身体と、電気属性を待ち合わせているレッド族のウルトラ戦士であり、必殺技はスペシウムエネルギーを球体状に凝縮して撃ち放つザイナスフィア。現在の雄介はBURKの専任分析官であり、年齢は22歳。
※原案は魚介(改)先生。
同じく、約数分前。テンペラー軍団の猛攻によって崩壊した、BURK日本支部の基地の前には――急造の遺体安置所が設けられていた。
幾つかのテントの下に、袋詰めにされた遺体が死屍累々と横たわっているだけの、簡素な安置所。そこで眠っているBURKの隊員は皆、基地の崩落に巻き込まれた者達ばかりであった。
「……これで、全員か?」
「いえ……まだ下敷きになっている隊員達がいるはずです」
テンペラー軍団と、ウルトラマンカイナの激戦が続いている今の状況では、弔う暇もない。
BURK隊員の生き残りである真壁悠兎と江渡匡彦の2人は、負傷者でありながら懸命に瓦礫を退かし続け、生存者の捜索に励んでいた。傷の痛みよりも、仲間達が瓦礫に潰されたままであることの方が、遥かに辛いのだと。
「小森巡査、もう結構ですからあなたも早く逃げてください……! ここだって、いつ怪獣達の攻撃が飛んでくるか分からないんですよ!」
「それはあなた達BURKだって同じでしょうが……! ここまで来たら一蓮托生です、俺も最後まで働きますよ!」
「小森さん……!」
その作業には、警察官の小森ユウタロウも加わっている。都民が避難するための時間を命懸けで稼ぎ、その犠牲となってきた彼らを、放っておくことが出来なかったのだ。
警察機関の手に負える相手ではない以上、ユウタロウ自身も避難するよう命じられているのだが。彼はその命令よりも、人を守るという警官としての「矜持」を優先している。
「うぅ……痛い、苦しい……!」
「た、助けて……助けてくれぇ……!」
「……! せ、生存者だ……! 生きてる奴がいるぞ! 真壁、小森巡査! 手を貸してくれッ!」
「は、はいッ!」
「分かりましたッ!」
瓦礫の影から響いて来る、生存者達の呻き声。それを耳にした匡彦達は顔を見合わせ、全力で瓦礫を退かそうと力を合わせる。
だが、瓦礫はあまりに大きく、到底人の力で動かせるような質量ではない。てこになるような物も見当たらず、この廃墟同然の基地では重機の類も全滅している。
「ち、ちくしょう……! もう、どうにもならないってのか!? 救える命が、目の前にあるってのに……!」
万事休す、だというのか。その悔しさに匡彦が拳を震わせた、次の瞬間。
「ふんッ!」
「……!?」
「え……えぇっ!?」
「ゾ、ゾンビぃ!?」
突如、背後から何者かの声が聞こえたかと思うと。並べられた遺体袋の一つが、内側から拳で破かれてしまったのである。
死人が蘇ったとでもいうのか。その光景に振り返った3人が仰天すると同時に、遺体袋を破った1人の男が身を起こすのだった。
「……済まん、皆。俺はまだ、くたばるわけには行かないらしい」
周囲の遺体袋に神妙な眼差しを向けながら、ゆっくりと立ち上がった彼の名は――椎名雄介。4年前、アキレスに次ぐ「第3の新人ウルトラマン」として戦っていた過去を持つ男だ。
現在は「後輩」となるウルトラマン達を支えるため、BURKの専任分析官を務めているのだが。彼はこの戦いによる基地の崩落に巻き込まれ、死亡したはず。「人間」であれば、蘇ることなどありえない。
「俺にはウルトラマンとして、やらねばならないことがある。……そういうことなのだな」
「ザイナスキー」と呼ばれる、銀色の鍵を模したペンダント。彼の「変身アイテム」であるそれが、首に下げられていたこと。
そして、「イカロスの太陽」による人工のウルトラサインが、「自分達」に助けを求めていること。その二つが、答えであった。
専任分析官という役割では、先輩の窮地を救うことは出来ない。再び己自身がウルトラマンにならねば、この地球を守り抜くことは出来ないのだと。
「し、椎名さん……どうして……!?」
「ご無事、だったのですか……!?」
「お前達こそ、よくあの崩壊から生き延びたな。『生還こそ勝利』という俺の教えも、無駄ではなかったらしい」
崩落の際に自分達を突き飛ばし、身代わりとなって瓦礫に潰されていたはずの雄介が。生前と変わりない姿で、蘇っている。
その奇跡を目の当たりにした匡彦と悠兎が驚愕する中、雄介は生存者達を生き埋めにしている巨大な瓦礫を仰いでいた。
「江渡、真壁、それに小森巡査……生存者の捜索、ご苦労だった。瓦礫の排除なら、この俺に任せておけ」
「ま、任せろと言われても、この大きさじゃあ……!」
「……ザイン・イグニッション!」
やがて、ユウタロウの言葉を遮るように叫びながら。雄介はその胸にザイナスキーを突き刺し、ウルトラマンの力を「解錠」する。
眩い輝きが「鍵」を中心に広がって行き、掌を掲げる真紅の巨人が「ぐんぐん」と顕現したのは、その直後であった。
「な、なんだと……ま、まさか!?」
「椎名さんが……!」
「ウルトラマンッ……!?」
目を覆うような光が収まり、3人の視界が戻った時には。すでに彼らの眼前には、かつて地球を救った「第3のウルトラマン」が出現していたのである。
その巨躯を仰ぐ匡彦達は、自分達の理解を超えた光景に言葉を失うばかりであった。
――アイスラッガーのような突起物。曲線的な「凹み」がある頭部、胸部から肩まで伸びている、金と銀のプロテクター。全身を走る直線的な銀線と、その両端部の銀円によって彩られた、電子回路のような模様。
どこか「メカニカル」な印象を与えている、レッド族のウルトラ戦士。それはまさしく、4年前にこの地球を救った第3の勇者――「ウルトラマンザイン」の姿であった。
『ジュアッ!』
「うわっ!?」
ウルトラマンの力なら、瓦礫を退かすことなど容易い。ザインは変身を終えてすぐに、瓦礫を持ち上げ無人の方向へと放り投げてしまう。
「す、すごい……あの大きさの瓦礫が一瞬で!」
「……2人とも、今だ! ウルトラマンザインが……椎名さんが瓦礫を退かしてくれた、今のうちに!」
「りょ、了解ッ!」
その下には、瓦礫の山から解放された多数の生存者達の姿があった。それを目にした匡彦達は我に帰ると、弾かれたように救助へと動き出していく。
『よし……ここから先は任せたぞ、お前達。……俺も、俺の責務を果たしに行く。ジュアァッ!』
そんな彼らの姿に深く頷いていたザインは、やがて両手を広げて地を蹴り、「先輩」が待つ上空へと飛び去って行った。
「椎名さん……今度こそ、生きて帰ってきてください。『生還こそ勝利』、なのでしょう……!?」
マッハ4という速さで姿を消してしまった彼の背を見送る匡彦達は、生存者達に肩を貸しながら――その拳を震わせている。
生還こそ勝利。その理論は、人智を超えたウルトラマンにも適用されるべきなのだと。
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