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ペルソナ3 ネクラでオタクな僕の部屋に記憶を無くした金髪美少女戦闘ロボがやってきた結果

作者:hastymouse
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第4話(4/5)

 
前書き
今回も街を歩き回っています。といっても状況は全然改善しないままで、文字通り徘徊しているだけという有り様です。ただ主人公の心境は少しずつ変化してきているようです。傍観者役の情けない奴として作り出した主人公ですが、今ではこいつもなんかそれなりの場所にたどり着けたらいいなと思っています。今回もペルソナ3の世界を別角度から見ていきたいと思いますので、お付き合いをよろしくお願いします。 

 
今、ここには見当たらないのだから、その男の子を探すなら夕方頃に出直してきた方が良いのかもしれない。
「それは何歳くらいの子供ですか?」
「10歳前後じゃないかな。ここへくるたびに神社で熱心にお祈りしているので、少し気になっていたんだ。あんな子供が神様に何をお願いしているんだろうって・・・。」
その子供が探しているのがアイナとは限らない。いなくなったお母さんとか、お姉さんとかを探しているという方が自然な気がする。帰ってきて欲しいと神様にお祈りしているのかもしれない。
僕がそんなことを考えていると
「そのピンク色の生き物はなんでありますか?」
ぶしつけに、アイナがスケッチブックを指さして尋ねた。
「ワニだよ。」
「ワニ・・・。ピンク色のワニがいるのでありますか?」
「いないだろうね。」
男性は少し寂しそうに笑い、それから訊き返してきた。
「ワニがピンクなのってどう思う?」
「本人が気に入っているなら問題はないと思うであります。」
(まるで子供の答えだな。)
僕はアイナの無邪気な回答がおかしくなった。それをフォローするつもりで、続けて自分の感想を言った。
「絵本の中とかだったらファンシーでいいと思いますよ。でも実際にいたら目立っちゃって餌も捕まえにくいだろうし、仲間からも敬遠されそうで、生きていくのが大変かもしれないですね。」
「そうだね。・・・僕もそう思うよ。」
その言い方は少し辛そうだった。そして、しばらく顔をゆがめて荒い呼吸をした後で、いきなりひどくせき込んだ。かなり具合が悪そうだった。
その様子を観察していたアイナがまた唐突に言った
「見たところ体調に問題があるようです。病院に行くことを推奨します。」
「ありがとう。ぼくはもうずっと病院にいるんだよ。たぶん死ぬまでいるんだろうと思う。調子のいい時にだけ、ここまで散歩に来ているんだ。でも、今日はそろそろ病室に戻ることにするよ。」
男性がふらふらと立ち上がった。今にも倒れそうに見えた。
「あの、いっしょに送っていきましょうか?」
「ありがとう。大丈夫。すぐそこなんだ。今日は話ができて楽しかったよ。」
男性はそう言ってゆっくりと歩きながら階段の方へと去っていった。
僕は後ろから「お大事に」と声をかけることしかできなかった。
昔から自分より恵まれている人を羨んできたが、健康を害しているあの人に比べれば、過酷な労働にも耐えてこれた僕はまだ恵まれている方なのかもしれない。
少なくとも自分にはあの人よりも選択肢があり、それを選ぶ自由もあるのだから。
もしかすると、あの人のいうピンクのワニとは自分のことなんだろうか。ピンクのワニに自分の何を託しているんだろうか。

僕らは神社を後にすると、そのまま手掛かりを求めて巌戸台駅の方に歩いていった。
「朝、パン1枚だったから腹が減ってきた。何か食べていこうかな。」
「それではその間、私は駅周辺を確認しているであります。」
相変わらず全てに興味津々なアイナを残して、僕は駅前のビルにある牛丼屋に入った。
アイナが気になるので、手っ取り早く並セットを頼んで食べていると
「なんだか学校さぼっているみたいでわくわくしますね~。」という声がした。
「さぼってるとか言うな。仲間の一大事に喜んでる場合か。」
赤いベストのスポーツマンタイプの男と帽子をかぶったあご髭の男が、向いのカウンターに座った。高校生くらいだろうか。赤いベストの男が先輩らしい。
「警察は動いてないんすか。」
「一応、美鶴が黒沢さんにあたっているが、おおっぴらには手配できないからな。」
「まあ、そりゃそうですよね。」
平日の昼間なのだから高校生なら学校にいる時間だろう。警察とか、不穏なことを言っているが何かあったのだろうか。
それはそれとして、1人で待たせているアイナが気になるので早々に食べ終えて外に出る。
1階に降りると、驚いたことにアイナが何やら荷物を運んでいた。段ボールを3箱軽々と抱えて歩いている。
僕はあっけに取られて見送ったが、アイナが1階にある古書店に入っていったので、慌ててその後を追った。
レジカウンターの前で、どさりとその荷物を下ろす。
「こちらでよろしいでしょうか。」
カウンターの向こうで老夫婦が目を丸くしていた。
「すごい力だねえ。」
おばあさんが感嘆の声をあげる。
近づいて行って覗いてみると、段ボールの中には本がぎっしり詰まっている。
これは、このお年寄りには無理だろう。僕でも1箱運ぶのが限界だと思う。
「何しているの。」
僕はアイナに尋ねた。
「荷物を運ぶのが大変だったようなので、お手伝いしていたであります。」
アイナがこともなげに言う。
「いやあ、どうしたもんか困っておったんだ。親切に声をかけてもらってありがたかった。それにしてもやっぱり外人さんは力持ちだの。」
おじいさんがふぁっふぁっと笑った。
「わしも若い頃は、軽く1ダースは持って歩いたもんだが、さすがに老いぼれて無理ができなくなっての。」
「1ダース・・・一度に12箱運ぶというのはすごいであります。」
「おじいさん、また大げさなことを言って・・・驚いてるじゃありませんか。」
おばあさんがたしなめると、おじいさんはまた楽しそうに笑った。
「本当に助かったよ。お礼にこれを持っていきんさい。」
おじいさんがアイナに何かを持たせる。
「ほれ、そちらのお友達も。」
続いて、僕の方にもそれが差し出された。クリームパンだった。
「えっ、いえ、僕は何もしてませんから・・・。」
「いいから、いいから。」
そう言って無理やり菓子パンを持たされてしまった。
「それにしても、こちらの書店はひどく変色して劣化した本ばかりです。売り物になるのでしょうか。」
アイナが不思議そうに訊いてくる。
「古い本は入手困難だからね。古いからこそ価値があるんだよ。」
僕はそう説明しながら、ふと目を向けた先にあった一冊の漫画本に注目した。
小学校の頃に大好きだった漫画だ。前からもう一度読んでみたいと思っていたが、今は絶版状態で入手困難。こんなところでまた出会えるなんて・・・。
思わぬお宝発見に僕は躍り上がった。すかさずその本を手に取ると、おじいさんからに手渡して購入した。
「お店を続けるのもそろそろきつくなってきたけどなあ。お客さんのそういううれしそうな顔を見ると、まだまだ頑張ろうと思うんじゃよ。」
僕が喜んでいたせいか、おじいさんもニコニコしながら言った。
店を出た後で、僕はアイナに説明した。
「本はたくさん発行されるけれど、再販され続ける本はごくわずか。何年か経つとほとんどの本が、欲しくても手に入らなくなってしまうんだよ。だからこういう古い本を売るお店は貴重なんだ。」
「なるほどなー。」
アイナが感心したように言った。
僕らが駅の方に向かおうとしたところで、先ほどの赤いベストと帽子の二人が足早に遠ざかっていくのが見えた。

その後、町のあちこちを回ってみたが、特に成果は無かった。
しかし、アイナはなんにでも興味を示し、必然的に僕はそれの解説をし続けることになった。
そして、ついにはポロニアンモールまで足を延ばしてみた。
ポロニアンモールの広場では、アイナがその場にうずくまり、真剣な表情で噴水の中を覗き込んでいる。僕の服を着ているせいで、そうして身をかがめていると少し小柄な男の子のように見える。
その時、彼女の背後にある交番から高校生くらいのカップルが出てきた。
女の子の方は、ピンク色のカーディガンを着て、首に白いチョーカーを着けている。少しきつめな感じのキュートな娘だった。
携帯電話を耳にあてたまま
「とりあえず相談したいから寮に戻って来いって先輩が言ってるよ。」
と隣の男子に話しかけている。
首からヘッドホンをぶら下げた前髪の長い男子は、無表情に「わかった。」と答えた。
「ホントにもう、どこにいっちゃったんだろう。」と女の子がぼやき、二人は足早にポートランド駅の方に去っていった。
交番から出てきたところを見ると、何か大事な物でも落としたのかもしれない。
(ああいう目立つ系の女の子は、僕の学生時代には全く縁がなかったなあ。)
我ながら地味な青春時代だったと思う。
それでも今はアイナが僕のそばにいる。なんだか自分も負けていないような気がして心が浮き立った。
その彼女が噴水から顔をおこして、「なぜ水の中に硬貨がたくさん沈んでいるのでしょうか?」と尋ねてきた。
「それはね。イタリアのローマにトレヴィの泉という噴水があって・・・。」

僕らはその後、ポロニアンモールを後にし、ムーンライトブリッジへと足を進めた。
なんにでも興味津々のアイナに説明をしながら歩くのは楽しかった。僕はこんなに自分がおしゃべりな人間だとは思ってもいなかった。人間相手、特に女性と話をするのが苦手な僕も、アイナ相手だと気兼ねなく話をすることができた。アイナはいつでも僕の話を一生懸命聞いてくれて、僕を否定することもなく、嫌ったりもしない。それがわかるだけに、もっと自分のことを知って欲しくて、僕はひたすらしゃべり続けていた。
今日だけで、10年分くらい一気にしゃべったのではないだろうか。
(なんだか本当にデートしているみたいだな。)
僕の心はずっと舞い上がりっぱなしだった。
こうして僕らはムーンライトブリッジにたどり着いた。
その場所を見た瞬間、いきなりアイナが僕の話を断ち切って「ここは!」と声を上げた。何があったのか、そのまましばらく絶句している。
「どうしたの?」
様子を見ていたが、沈黙に耐えられなくなり声をかけてみた。
「ここでかつて何か重大なことがあったであります。」
「重大なこと?どんなこと?」
「それが・・・どうしてもわかりません。」
アイナが僕の方に向き直った。
「私は早急に正常復帰をする必要があります。」
アイナの口調にはあせりが見えたような気がした。

その後、アイナの雰囲気がすっかり変わってしまった。
口数が減り、あちこち覗きまわったり、脱線したりしなくなった。
一体、ムーンライトブリッジで何があったというのだろうか。彼女自身それが分からずに、ただ焦燥感に駆られているように見えた。
悲しいことに、僕が彼女にしてあげられることは何もなかった。ただ二人で並んで、黙って歩き続けるしかなかったのだ。
念の為、夕方に長鳴神社にも戻ってみた見たが、小学生の女の子が一人で遊んでいるだけで、犬を連れた少年はとうとうやってこなかった。
あたりも次第に暗くなりはじめたので、今日のところはアパートに引き上げることにした。

「結局、今日はあまり成果が無かったね。」
夕食用に途中のスーパーで買ってきた惣菜を食べながら、僕はアイナにそう言った。
「はい。でも街には興味深いものが多くて大変勉強になったであります。有意義な1日でした。」
部屋に戻ると、アイナはなぜか元の打ち解けた感じに戻った。僕はそれがうれしくてほっとしていた。
「まあ、歩き回って疲れたけど、僕も楽しかったよ。今の時期ならもう1日くらい仕事を休んでも大丈夫そうだから、もし良かったら明日も一緒に回ろう。」
正直、こんな風にアイナと過ごせるなら、仕事なんていくらでも休んでやろう、という気分になっていた。どのみち辞めようかどうしようか迷っていたのだ。今の僕にはアイナの方がよっぽど大事だった。
しかし、アイナはすげなく首を横に振った。
「いいえ。私は今日、この後 再起動を試みてみるであります。」
「えっ。・・・だ、大丈夫なの?」
突然のことに驚いて聞き返す。
「今日1日あなたと行動してみて、あなたが信用できる人物であること、そしてこの部屋が安全であることが確認できました。私にとっては正常に復旧することが急務であります。それにこれ以上消耗すると、再起動に失敗する危険性があります。」
「そうか。」
つまり、アイナと過ごす時間は今日で終わりということなのだ。もう、あと数刻で二人の時間が終わってしまう。
僕はひどく気落ちしてしまった。
一瞬、再起動しても復旧がうまくいかなければいいのに・・・とさえ思った。しかしアイナは僕のことを信頼してくれたからこそ再起動すると決めたのだ。その信頼だけは裏切ることはできない。
「うまくいくといいね。」
僕は無理やり笑みを浮かべて、アイナにそう言った。

夜も更けてきた。
食後、僕らはそれぞれの思いの中に閉じこもり、あまり言葉も交わさなかった。
アイナのことを考えれば、そろそろ幕引きをする頃合いなのだろう。僕はそう思いきると、布団を引っ張り出して床に敷いた。
「じゃあ、そろそろ寝ることにするよ。」
僕は彼女にそう告げた。
「あなたがお休みになったら、私は再起動に入るであります。」
「そうか・・・それじゃあ、目が覚めたら君はアイナではなくて本来の君に戻っているわけだね。アイナとはこれでお別れというわけだ。」
僕は無性に寂しくて、つい未練がましくそう言った。記憶が戻ればアイナは元居た所に帰っていくのだ。それは僕には想像もできないような場所なのだろう。
たった1日だったが、アイナと過ごした時間は夢のように楽しかった。そして、それだけにアイナを失う辛さはひとしおだった。
彼女に何か言いたかったが、とうとうなにも言葉にはできなかった。
あきらめて電気を消すと、逃げ込むように布団に潜り込み「お休み・・・アイナ。」とだけ言った。
「おやすみなさい。」とアイナが静かに返してくれた。
 
 

 
後書き
もうお気づきと思いますが、念のために背景を書いておきます。主人公がアイギスを拾う直前の影時間にシャドウとの戦闘がありました。その時のメンバーはわかりませんが、戦闘時に敵の攻撃を受けたアイギスは仲間とはぐれてしまいます。恐らく電磁波とかそんな類の攻撃だったのでしょう。アイギスはシステムエラーを起こしてしまいます。影時間後に仲間がアイギスを探しましたが、主人公が拾っていってしまったために発見ができませんでした。そんなこんなでいよいよ次回最終回です。よろしくお願いします。 
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