狩らずに助ける
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第一章
狩らずに助ける
タンザニアのセレンゲティ動物公園でのことだ。
公園で環境管理にあたっているタスカル=シェルテッド長身の初老の黒人である彼は生物学者という立場からだ。
公園の中を車で巡りつつドイツから公園の調査に来た学者達に話した。
「あのライオンですが」
「雌ライオンですね」
「はい、名前はミーシャといいまして」
「ガウ」
車を停めてそのライオンを見せて話した、ライオンは寝そべって欠伸をしている。
「あの娘は不思議な娘でして」
「不思議?」
「不思議といいますと」
「どんな娘ですか?」
「どうも狩猟本能より母性本能が強くて」
そうした娘でというのだ。
「一度群れの仲間と共にヌーを狩ろうとしまして」
「ライオンはヌーをよく狩りますからね」
「ガゼルより足が遅くて襲いやすくて」
「食べるところも多いですから」
「よく狙いますね」
「その時kもそうでしたが」
シェルテッドはさらに話した。
「ヌーの赤子を狩ろうとして」
「食べなかったんですか」
「まさかと思いますが」
「はい、甘噛みはしましたが」
それでもというのだ。
「何もしませんでした」
「そうでしたか」
「獲物でもですか」
「赤子だったので」
「まだ生まれたばかりのよちよち歩きの子でしたが」
そのヌーの赤子はというのだ。
「ミーシャは食べませんでした、するとヌーの赤子も彼女を慕う素振りを見せたので」
「それで、ですか」
「尚更ですか」
「食べなかったのですね」
「暫く一緒にいて群れの仲間達から守っていました」
そうしていたというのだ。
「そして落ち着いたヌーの赤子はです」
「どうなったのですか?」
「今はその姿が見えないですが」
「群れの自分の親のところに戻りました」
そうなったというのだ。
「無事に」
「そうでしたか」
「それは確かに不思議ですね」
「ライオンは母性本能の強い生きもので」
「子狐や猿を救うこともありましたが」
「ヌーもです、そして今は」
「ガウ」
見れば豹の子供が来た、その子供にだ。
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