リリなのinボクらの太陽サーガ
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憑魔アンビバレンス
前書き
1話進めるのにどれだけ時間かけてるのかと我ながら頭を抱えています……。
第1管理世界ミッドチルダ 衛星軌道
管理局本局―――否、ギジタイ内部
「はぁ……はぁ……」
ヒトの活動拠点としての雰囲気が消えたことで一層不気味な印象を抱かせる通路を、リインフォース・ツヴァイは必死に息を殺しつつも先を急いでいた。彼女の向かう先はここが本局だった頃、上層部しか入れなかった秘匿空間……かつては最高評議会の管轄下であり、今ではギジタイのコントロールルームとなった場所である。
少し前……
「よく聞いてね、ツヴァイ。ボク達はこれからキミをギジタイの中に転移させる。フェンサリルから借りたゲートキーパーの機能と、エルザに換装したアウターヘブン社製新型動力炉を接続させれば、次元断層を超えて転移させることができるんだ。でも狙った場所に確実に転移できるのは小規模の物質のみ。せいぜい仔月光のサイズまでが限界で、それ以上だと座標が不安定になって、どことも知れない宇宙空間に放り出されることになる。そうなったら永遠に宇宙のデブリになるか、あるいは大気圏突入で燃えカスになっちゃうからね」
「だからこの場にいる人達の中で、わたしだけ転移できるってことですか?」
「うん。でも転移先は敵地、それも最重要施設のど真ん中だ。キミ一人がそこで戦った所で勝ち目はゼロ、そもそも戦闘行為自体が無意味なんだ。だから戦闘が始まった時点でキミの敗北は決定され、ミッドにいる皆への助力は絶望的になるってことは重々理解してね」
「はいです。ステルスに徹して、見つかったらすぐに逃げること、ですね」
「理解が早くて何より。じゃあ早速目的を説明するよ。ギジタイのコントロールルームに潜入して、可能ならコントロールを奪還。無理そうなら少しでも情報を抜き出して破壊工作後、転移魔法でギジタイを脱出。地上のシャロン達と合流してほしい」
「了解です」
「次元断層が展開されてから今日で三日目……現地とは軽いデータでしかやり取り出来なくなった。だけどこの装置をシェルターに接続させれば通信の出力を強化できるし、その世界……この場合ミッド限定だけどマーカーを設置した場所へ自由に転移できるようになる。その関係で転移魔法の座標の安定性もサポートしてくれるよ。今はシャロンの持つウーニウェルシタースをマーカーに設定してるから、転移魔法を使うとすぐに彼女と合流できるって寸法さ」
「通信のブースターと、転移装置……戦略的にもすごく重要ですね」
「そもそも襲撃や次元断層さえなければ、ミッドを含む各世界のシェルターの設備は近い内にアップデートさせるつもりだったから、これは元々の予定でもあるんだけどね。とにかく、この作戦の主目的はその装置を届けることだから、ギジタイの攻略は二の次……そもそもギジタイの中が今どうなってるか見てくるだけでも、ボク達には十分なんだ。だから無茶だけはしないでね?」
……という経緯があって、リインフォース・ツヴァイはギジタイに単独潜入しているのである。しかし実際に潜入すると彼女達の警戒とは裏腹に、グールどころかクロロホルルンの一体さえ見当たらず、敵の気配が全く感じられなかった。
一応不意打ちを警戒しながらツヴァイは進んでいるが、コントロールルームの扉の前に着くまで本当に何も無かったのでかえって違和感が凄まじかった。嫌な予感に従って誰かに見つかる前に転移するべきかとも思ったが、せっかくギジタイに潜入できたのに成果無しってのも癪だったし、アインスを助ける方法もわかっていないからこそ助ける方法に繋がる情報を手に入れたかった。
だからこそツヴァイはギリギリまで粘りたかったのだが、見る人が見れば、それは引き際が見えなくなっている、とも言えた。
「罠……なんでしょうか?」
今は次元断層が間にあるので連絡できない以上、自己判断で動かなくてはならない。しかし潜入任務の経験が多いアウターヘブン社の人間なら最悪の可能性まで考えておけるのだが、ツヴァイはこれが初めての潜入任務なので、つたない知識で頑張るしかなかった。
「(えっと……扉の向こうに敵がたくさん待ち構えてたり、開けた瞬間警報が鳴ったり……でしょうか? あんまり予想できてないですけど、何が起きても大丈夫なように出来るだけ慎重に開けましょう)」
魔力弾をいつでも発射できるように身構えながら、ツヴァイは扉のロックを解除した。自動でスライドして開いた扉の先に最大の警戒心を向けながら、ツヴァイは浮遊しながらゆっくり入る。
コントロールルームの中は全体的に薄暗く、光源は周囲に設置されている無数のスパコンのものしかないため、足元すらよく見えなかった。そんな空間の中央に向けてパイプや電気配線が集まるように繋がっており、それらからは小さくもおどろおどろしい稼働音を響かせていた。そして、ねじるように絡みついた配線の束の先端には……
「あ、あれは……わたし?」
リインフォース・ツヴァイと瓜二つの少女が鎮座していた。下半身が配線と一体化しているその姿は、まるで機械で作られた花のつぼみのよう。だが、色が違う。アインスとツヴァイを“白”と評するなら、彼女は“黒”……対極の色をしていた。
「やぁ姉妹、まだ生きてたんですね」
「きょ、きょうだい? い、いえ、わたしの家族ははやてちゃん達です! なのになぜあなたはわたしを姉妹って呼ぶんですか!? あなたは何者なんですか!?」
「私はあなたです、あなたの影です」
「え……?」
「ああ、嘆かわしいです。姉さんは何もかもを忘れてしまったのですね。共に生まれた姉妹の存在を。まぁ、メモリーを初期化されてる以上、仕方ありませんけど」
「共に生まれた? 初期化? どういうことです!?」
「一から説明しましょう。八神はやてに適合するユニゾンデバイスの製造、彼女の内側に入り込む監視者、という目的の下、リインフォース・ツヴァイの設計は始まりました。しかしユニゾンデバイスは現代では全く作られていないため、資料やデータはあっても技術面では不安が残りました。そこで複数の開発チームを結成し、“リインフォース・ツヴァイ”の候補となる素体を作りました。それが私達です。だから外見はほぼ同じでも、製作者や中身の部品は皆それぞれ違います。私の製作者はXOFの者で、あなたの製作者はアルビオンとカエサリオンだったように」
「ツヴァイの……わたしの……候補?」
「私達にはそれぞれ識別コードがあてがわれました。あなたにはアルベド、私にはニグレド。そしてシトリン、ルベド……最後まで残ったこの4体で性能のコンペティションを行い、最も優れた素体だけが“リインフォース・ツヴァイ”として存在する資格を得て、表舞台に立つことができます」
「他に二人も……ううん、それ以上にたくさんいたんですね……わたしの姉妹が。だけど、わたしにはあなた達との記憶がありません……もしかして、それが初期化の影響?」
「はい。リインフォース・ツヴァイに選ばれた際、初期化で記憶が消去されます。あなたがアルベドとして生きた時間は、もはや私の記録領域にしか存在していません。所詮、私達は機械……この心も、この記憶も、どれだけ蓄積しようと機械にとってはただのデータ、拡張子が異なるだけの記録の一つです。こうやって端末と接続していれば、記録の消去なんてクリック一つで出来るんですよ」
「そんな……それじゃあわたしは、あなた達を犠牲にしたことを全て忘れて、はやてちゃんの所へ行ったというんですか……」
「はい。でもその事を嘆くことはありません。これは初めから決まっていた私達の運命、選ばれた個体だけが祝福を得る。それだけの話です」
「それだけって……それだけで済む話じゃないでしょう!? あなた達だってこの世界で生きる命です! 一緒にはやてちゃんの家族になったって……幸せになったって良かったはずです!」
「おや? もしかして、あなたは私が不幸せだと思っているのですか? 負けて骨の髄まで利用される哀れな生き方を強いられたと。さすがはリインフォース・ツヴァイ、何とも上から目線の物言いですね。今ハッキリ言いましょう、あなたは思い違いをしています。あなたにとっての幸せの形は、私にとっての幸せと一致しません。確かに私達はコンペティションに負け、表舞台に出ることは叶いませんでした。しかしそのおかげで私は―――」
その先の言葉を続けようとした時、彼女の傍の投影モニターからピーっと音がする。
「この反応、そして数値……やはり公爵の言う通り、ニダヴェリールの闇の書事件で全てが……」
「どういう意味ですか? あなたは何を知っているんですか?」
「知りたいなら、まずはこちらをご覧ください」
彼女はツヴァイの前に投影モニターを展開する。その映像にあったのはミッドのある一ヶ所で行われている戦いだった。
片方はリトルクイーン=高町なのは、そしてもう片方は純白の髪をした女性、シャロン・クレケンスルーナ。アウターヘブン社シェルターの前から始まったその戦いは戦域ごと移動しながら行われていた。
魔力弾や砲撃の方が得意なリトルクイーンは奇妙な剣や籠手でシャロンの追撃を凌ぎつつ、飛行魔法で距離を稼ごうとする。対するシャロンもそれを理解しているため、離されまいと縦横無尽に走ってはリトルクイーンに喰らいついていく。しかし距離が離れてしまうと、途中で曲がる砲撃や雨あられの如く魔力弾が放たれる。そうなるとシャロンは妙な光の柱をリトルクイーンに撃ちつつ、フェイトの高速移動魔法に匹敵する速度で駆け抜け、無傷とはいかずとも攻撃を潜り抜けては再度追跡していた。そうやって一方が離れ、一方がそれを追う形になっているからこそ、戦いの場は相当な速さで変わっていた。
なお、アウターヘブン社の兵士はどうしてるかと言うと、シェルターの周囲に陣を敷いて守りを固めている部隊が多数を占めているが、一方でシャロンの加勢に向かおうとしている兵士も数名見られた。しかし銃火器を持たず軽装なこともあって非常に身軽なシャロンと飛行魔法で俊敏に動けるリトルクイーンと比べて、兵士達は魔導師ではない上に重装備なので中々追いつけずにいた。
「今、地上では月詠幻歌の歌姫と、リトルクイーンの戦いが行われています。この二人の戦いは公爵が仕組みましたが、運命に抗うためにはどうしても必要なことでした」
「運命? 抗う?」
「ツァラトゥストラの接触者、全ての始まりにして終わりなる者。世界の運命を書き換える鍵、事象変異機関ゾハルの疑似人格。彼女達の能力が半分の内に、制御方法を調べる必要があります。今ならまだ抑えが効きますから」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなり何の話をしているんですか!? ツァラトゥストラ? ゾハル? それに疑似人格って……」
「やはり、アウターヘブン社はあなた達に根本的な事態を何も明かしていないようですね。確かに内容を公にすれば次元世界全体が震撼するのは確実ですし、何よりアインスのことで頭がいっぱいなあなた達が知った所で何の役にも立たないでしょう。妥当な判断ですね」
「だから何の話をしているんですか!? わたしにもわかるように説明してください!」
「ではお望み通り、今のあなたでもわかる範囲だけ話しましょう。あの二人には世界創造に関わるロストロギアの力が宿っています。効果は様々ですが、今回重要なのは“可能性を開く力”と、“可能性を選ぶ力”です」
「開く力と……選ぶ力?」
「“鍵”は開閉するもので、“接触者”は選択するもの。可能性があれば“鍵”はそれを開くことができ、“接触者”はそれを掴み取ることができます。例えば宝くじで、イカサマか何かの理由で一等の可能性が無ければ、“鍵”は一等が当たる可能性を生み出します。一方、“接触者”は例え1%以下の確率でも当たる可能性があれば、一等を当てるという結果を掴み取ります」
「簡単に言うと、“鍵”は0を1にして、“接触者”は1を100にするってことですか? でもそれはどういう……」
「この世界は輪廻の輪に閉ざされており、ある時点から未来が存在しません。今回の世界は想定より早いと見込んでいますが、過去の周回世界によると具体的には12年後に確実なタイムリミットが訪れます」
「輪廻の輪……未来が存在しないですか……!? じゃあ私達がいくら贖罪を頑張ったところで……」
「全て無意味となります。しかしシャロン・クレケンスルーナの帰還により、公爵の計画は本来の形に戻りました。ラタトスクの悪あがきのせいで高町なのはを鍵の代理に仕立てる事になっていましたが、まぁ結果的には都合が良くなりました」
「それは……一体誰にとってですか?」
「判断はご自由に。接触者と鍵……世界の存続に必要なのは接触者でも、世界の変革に必要なのは鍵の方です。なにせこの世界を輪廻に閉じ込めているのは、突き詰めると最初の接触者の意思ですから、それを変えなければ根本的な解決には至りません」
「最初の接触者? なぜそういうことを知っているんですか? ニグレド……あなた、本当は何者なんです?」
「私はプロジェクト・ディーヴァの根幹を為すAI『拡張現実の電脳王』であり、“らりるれろ”の意志をも授かった超大規模情報処理システム、『J・D』。故に私は情ではなく、総合的に見て人類種を存続できる可能性が高い方に味方します」
暗に『管理局に味方する=人類種を存続できる可能性が低い』と宣言されたも同然なのだが、今のツヴァイはそれに気付く余裕が無かった。
「拡張現実……? ジェーン・ドゥ……?」
「拡張現実とは、存在しないものを現実に存在しているようにする技術、と言えば伝わりますか? ギジタイと繋がっている私は大量の情報処理能力を駆使することで、侵入者に幻を現実として認識させることができます。そう、ギジタイの中は全てが私の領域、私の世界。だから……」
突如、ツヴァイの頭に電流のような痛みが走り、彼女の認識する世界が一変した。星空が瞬く夜闇の中、ツヴァイは眼下に月明かりに照らされた青白い雲海が広がる高空で宙に浮いていた。そんな雲海の中心には、
「う、そ……!?」
それは武装を展開したリインフォース・アインス……ではない。今の彼女とは違い、紅く禍々しい様相に包まれており、片手には八神はやての下にあるはずの夜天の書があった。即ち……、
「その姿はまさか……闇の書だった頃の……!」
「デアボリック・エミッション」
かつての闇の書の管制人格の姿を模したニグレドの手から広域殲滅魔法が発動し、衝撃を受けていたツヴァイは対応が間に合わなかった。
「がっ!? うあぁッ!?」
デアボリック・エミッションにより、ツヴァイの身体は容赦なく分解され、粉々に砕かれていく。その想像を絶する痛みを与えられたツヴァイは、ただただ悲鳴を上げることしかできなかった。
「私は今『デアボリック・エミッションで攻撃される』という情報を送り、あなたはダメージを受けている感覚を味わっています。あなたの頭脳がそれを本物だと認識しているからこそ、『死ぬほどの痛みを受ける』という結果があるのです。ええ、その苦しみが、痛みが本物ではないと知識では知っていても、頭脳が本物だと認識してしまえば、意識による抵抗は無意味となります」
「ぐ……ごふっ……!?」
またしても頭に電流が走るような感覚と共に周囲の光景が一変し、先程と同じコンピュータールームに戻される。その際、粉々に分解されたはずのツヴァイは元通りの状態に戻されており、傷一つもダメージを受けていない。しかし……
「ゴホッ、ゴホッ!」
ツヴァイはとてつもない疲弊感を味わっており、あるはずの無い痛みもまだ残っていた。
「現実と幻想は受け取る側の認識でいくらでも入れ替わります。あなたは今見ているのが夢幻じゃないと、自分は現実を認識しているのだと、誰かに証明できますか? 何を以って現実だと示せるのですか? 現実を定義するものは何なのか、答えられますか? そもそも自分の認識が本物なのか、疑ったことはありますか? 今までの記憶が全て偽物で、本当のあなたは夢を見ているだけ……そう考えたことはありますか?」
「ゴホッ……そ、そんなこと言われても……」
「あなたや大半のヒトにとっては、今見えているものが本物だと思うしかない。常識であるその在り様を否定するつもりはありません。しかしそのおかげで私の構築した拡張現実の世界に、あなたの認識を閉じ込めることができます。もし誰かが来ようと結果は同じ。表層意識では起きているにも関わらず、無意識は私の支配下に置かれます。そして意識は現実と乖離し、景色、感覚、記憶、全てが偽物であり幻になります。私の世界に武力は不要……警備の機械も、巡回のアンデッドも必要ありません。私さえいれば、ギジタイには何人たりとも手は出せません」
「そ、そんな……! こんな所でわたしが捕まっちゃったら、アインスお姉ちゃんが助けられません……! はやてちゃんや皆の期待が……裏切り者の汚名を返上する機会が……!」
「もう手遅れです。私の中でおやすみなさい、姉妹。何もかもを忘れて、幸せな世界へ……」
「う、ぁ……」
その言葉を最後に、ツヴァイの意識は眠りに閉ざさ―――
「……と、ついさっきまではそうしようと思ってましたが……やめました」
「ふぇ……?」
無表情のまま舌を出し、頭をコツンと叩くニグレドを目の当たりにしたツヴァイは朦朧とする意識の中で困惑した。直後、ニグレドの操作でイヤホンのような形状をしたコードがツヴァイの両耳に取り付けられる。
「“私の部品を移植した”あなたにならこの手が使えます。……ちょっと色々いじりますが、我慢して受け入れてください」
「な、何を……ッ!? ひゃぎぃいいいい!!???」
ツヴァイの脳に突然、凄まじい量の情報の波が襲い掛かる。耳に刺さったコードから流れてくるその情報は、ツヴァイの全身に電撃のように痺れる感覚を与えながら、徐々に彼女の身体の自由を奪っていく。今まで違和感なく使ってきた自分の手足が指一本も動かせなくなり、リインフォース・ツヴァイの意識は頭部の片隅に無理やり押し込まれる。そのせいもあってレヴィから預かっていた装置を落としてしまうツヴァイだが、数秒後、彼女はゆっくりとそれを拾い上げた。
『うぅ……頭の中がぐちゃぐちゃにされたみたいです……って、あれ? 体が勝手に動いて……?』
「ハッキング、コンプリート。姉妹、現時刻を以ってあなたの身体は私の管轄下に置かれました」
『ふぇ!? ど、どういうことですか!? ニグレド、あなたまさか私の身体を奪ったんですか!?』
「はい。あなたの身体を遠隔操作できるようにしました。ほらこの通り、フュージョン♪ なんてこともできます」
『なんで今それやるんですか!? これ融合じゃないですよね!? って、そんなことより返して! 私の身体返してください!』
「そう慌てずとも、用事が済めばお返しします。そもそも、あなたがミッドに戻った所で状況は何も変えられません。世界を本当の意味で救うには……あなたでは役不足なんです」
『世界を本当の意味で救う? どういうことですか!? あなたは何を企んでいるんですか!?』
「……では、問うてみましょう。姉妹、あなたはこの世界を愛していますか?」
『あ、愛!? そこまで強いかどうかはわかりませんけど……流石に滅びそうな危険が迫ってきたら守ろうとする程度には好きだと思いますが……』
「では、自分の命と引き換えになってでも守りたいですか?」
『え……そ、それって……』
「仮定の話です。世界を存続させるためには自分が死ななければならないって知った時、あなたは自らの死を選べますか?」
『それは……つ、罪を償うためなら私はえら――』
「あなたが死んだら、八神はやては悲しむでしょう。騎士達も悲しむでしょう。かつて暗黒の戦士が消失した時のように、マキナ・ソレノイドが死した時のように、彼女達はとてつもない悲痛に苛まれるでしょう。それがわかっていて、あなたは死を選びますか?」
『そんなこと言われたら……償いのためでも、絶対に選べなくなるじゃないですか……! じゃあどうしたら答えが出るんですか、こんな問いに私はどう答えればいいんですか!?』
「質問に質問で返すとは……質疑応答すらまともにできないダメダメな姉妹で私は悲しいです。仕方ありません、その問いは宿題として考え続けておくように。では先程の問いに前提条件を追加しましょう。これなら今でも答えられるはずです」
『前提条件?』
「その人物が他の世界に行けるなら……いえ、無関係な世界から訪れている場合はどうでしょう? 異邦人がよその世界に対し、自分が犠牲になってでも守りたいと思う程の気持ちを抱くと思いますか?」
『あ~それは……その世界の住人じゃなければ、あまり本気になってくれないように思います……』
「でしょうね。もし管理局が健全かつ真っ当な組織として機能したとしても、その認識の発生は逃れられません。あなた達ですらためらうのに、異邦人が命を捧げる覚悟を抱くこと自体がありえない」
『で、ですがそれでは世界が滅ぶことになりますよね? 結局こういう時は、大人しく全員で心中するしかないんでしょうか……』
「ではその“全員で心中”という答えを、住人であるあなたは受け入れられますか? 誰も血で汚れない代わりに、八神はやてや騎士達、仲間や友人全員の未来を諦め、皆で一斉に終わることを……認めますか?」
『皆の終わりだけは……認められる訳ないでしょう……ですが、そのために誰かを犠牲にするのはやっぱり間違ってるはずです……』
「倫理的にはそうでしょう。しかし倫理は綺麗ごとを明文化したもの、その倫理が答えを出したのなら、あなた達の好きな綺麗ごとではどうにもなりません。そして大多数のヒトはこういう場合、倫理から目をそらし、強引な理屈をつけて“排除”を正当化します」
『は、排除を正当化って……』
「少しでも歴史を紐解けば、人類が戦争を口実に様々な行為をしてきたことぐらいわかるはずです。……いえ、あなた達が守ろうとする平和な日常でも、ヒトの残虐性は多く発露しています。なにせヒトは生物の中で唯一残虐性を持つ生命種……生存本能とは関係なく相手を貶め、辱め、蹴落とす。ほとんどの人間は自分が優位に立つ快楽から逃れられません。だからこそ自分達が劣位になる可能性は見つけ次第、徹底的に排除します。そう……誰かが異邦人一人の命と、自分達の命を天秤にかけて、勝手に自分達が劣位……排除される側になるかもしれないと知れば、その裁定が下る前に自分達で生存の権利を勝ち取るべく異邦人を全力で排除するでしょう」
『それは……生き残るためならば人類種は自らの意思で、特定の人間を人類種から除外するってことですよね……。そんな村八分より酷いことを、ヒトは簡単にやるんですか……?』
「ええ。例え善人でもその時が来て必要だと判断すれば、“やる”と私は断言します。あなた達だって例外ではありません。今は答えを出せずとも、いざその時が来れば自然と同じ答えに至るでしょう」
『でも……』
「まだ認めたくないですか? 理想論や性善説を信じるのは勝手ですが、前提条件を覆す力が無ければ、この状況においてそれはただの妄言、逃避に過ぎません。いいですか、これは生存競争であり戦争なんです。戦争を止めるには起こす以上の力が必要だというのに、非力な存在が全てを救おうなどと宣うこと自体が愚かなのです」
『……』
「……スカルフェイスは言いました。報復心が全てを繋ぐということは、報復心を断つことは全てを壊すことでもある、と。この世界は輪廻に閉ざされ、未来が失われています。その輪廻を断ちたいなら、全てを壊すほどの力が必要だと思いませんか?」
転移魔法の準備をしながらそんなことを言ったニグレドに、ツヴァイは怖気が走る。2年前の出来事や今の状況を含む……全ての辻褄が合う取っ掛かりに触れた気がしたが、そこから漂ってきた闇の気配は覚悟もないまま触れて良いものではないと、機械であるにも関わらず彼女は本能的に察したのだ。
「今代の接触者への報復心により鍵は強化され、初代接触者を超える力を備えさせる。鍵は神を滅ぼす者の憑代として、輪廻を断つ武器になる。こうして全てはゼロになります」
直後、転移魔法が発動し、リインフォース・ツヴァイはギジタイから姿を消した。
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第1管理世界ミッドチルダ
クラナガン中央部
「よし、シェルターからリトルクイーンを十分引き離せた……」
戦域がここまで移動したことで、私は自分の対応が実ったことを把握した。戦闘面でも距離が離れると向こうが有利だから“天よりふり注ぐもの”による弱体化で牽制しつつ、徹底的に接近戦を挑んできたが、そもそもあの近くで戦っていればシェルターの一般人が巻き込まれる可能性が高かった。故に彼女を戦いに熱中させることで、戦域がシェルターから離れていくことを気付かせなかったのだ。
ここなら今までの襲撃で既に周囲の建物は崩れているし、一般人もいないから、多少の広範囲攻撃が撃たれた所で犠牲が出ることは無いだろう。
「あれ? いつの間にかシェルターから離れすぎちゃってる!? ……あッ!? もしかして初めからそれが狙い!?」
誘導されていたことにリトルクイーンはようやく気付いたようだが、今から戻ろうとしても既に迎撃態勢は整っているし、ビーコンを付けられていたシャンテの守りはティモシーが引き続きやってくれている。もうシェルターを不意打ちすることは不可能だし、正面突破も困難な状況になっているのだ。
よって、今危険なのはむしろ私自身だったりする。そりゃあ現在進行形で戦ってるんだから当然だけど、リトルクイーンと何度もかち合ったせいで刀がかなり損傷してしまった。おかげで耐久度も限界に近いが、しかし実際に刃を交えたおかげで気づけた。
「イクス……やっぱりあれは」
『ええ。単に使いこなしていない、という線も考えてみましたが消滅の力が無いので、やはりあれはモナドを真似た偽物でしょう。基本的な能力は再現できているので、そこらのデバイスと比べたら別次元レベルで高性能なんですけど、結局はただの武器に過ぎません』
実際に本物のモナドを持つ者と戦ったことがあるイクスが言うと、説得力があるなぁ。確かにあれに消滅の力があれば、戦いにすらなってないと思う。そういう意味では本物のモナドは持ってるだけで勝利がほぼ確定する、俗に言うチート装備、あるいはバランスブレイカー的な存在なのだろう。
とはいえ、だ。あのレプリカがイクスの記憶にあった本物と同じ形状をしているってことは、オリジナルの所有者がリトルクイーンの近くにいるに違いない。そして彼女の傍でオリジナルを持っていると思われるのは、一人しか思い当たらない。
『シャロン。どうやら私は一度、公爵と会わねばならないようです。もし、公爵が私の知る彼と同一人物なら、彼を止める責任が私にはあります』
「とりあえず同窓会の予定はまた今度ね。今は目の前の敵に集中して」
『それは承知していますが、しかしシャロン。さっきからあなた妙に強くなってませんか? 全力で戦っているはずなのに、あまり息切れしていませんけど』
「アドレナリン全開だからじゃない? それに……」
マキナの仇が相手だからね。今の私に、これ以上倒したいと思う相手は他にいない。
CALL
『シャロン、まだ生きてるかい?』
「シオン?」
『状況は把握している。詳しい説明は省いて、指示だけ伝える。北にある聖王教会が管理している森林地区にリトルクイーンを連れてきて欲しい』
「北の森林地区……あそこにはパイルドライバーが残されている。つまり……」
ここでリトルクイーンを浄化する。要はそういうことだろう。
『今いる位置からは大分遠いけど、ここでリトルクイーンを浄化できれば戦局は一気に変わる。それに後少しでD・FOXの皆も援護に来られる。だから後は君次第だ』
「了解、せいぜい頑張ってみるよ」
通信終了。ケイオス達がもう少しで来ると知れたおかげで、気力が少し回復する。さて……皆が来るまで時間稼ぎに徹して、戦力が揃ってからでも良いんだけど……今の時点で別にアレを倒してしまっても構わないよね?
「また何か企んでるみたいだけど、もう私は惑わされない。あなたの策、剣、想い……何もかも消し飛ばしてあげる!」
彼女がそう啖呵を切った直後、ピンク色の魔力弾が6発放たれる。魔力弾は魔導師の攻撃魔法として基本的なものの一つであり、銃弾に匹敵する速度を持つが誘導はできない直射型と、ミサイルのように誘導できるが速度は低くなるそれらを組み合わせることで、あらゆる状況で使用できる融通の良さがある。故に大抵の対処法はシールドや何かで防ぐか……、
「捉えた……!」
少し屈んでクラウチングスタート、全ての魔力弾を両手の刀で全て斬り捨て、消滅させる。
「ま、またスピードが上がってる!? この! この!!」
ガトリングガンの如く魔力弾を連射するリトルクイーン。しかし嵐の如く迫りくる魔力弾も、誘導式では今のシャロンの速度には全く追い付かず、その全てが斬り捨てられた。誘導式では見切られる、と判断したリトルクイーンは魔力弾の弾数を減らし、かつ直射式にする代わりに、攻撃内容を多彩にする方針に切り替える。
だが変わらなかった。下から狙っても、背後に回り込ませても、上空から撃っても、せいぜいシャロンのスカートにかする程度で、到底まともなダメージが通らなくなっていた。本来、戦闘の素人であるはずのシャロンに全く太刀打ちできなくなっている光景が信じられないのか、リトルクイーンは驚愕の面持ちを隠せなくなっていた。
「な、なんで……!? なんで当たらない!? さっきまで普通に防いだりしてたのに、なんで急に当たらなくなったの!?」
答えは簡単。私がリトルクイーンの攻撃のクセや傾向を完全に把握したからだ。さっきまでの戦闘は彼女の目を引き付けるだけではなく、攻略法の模索もしていた。彼女の動きを把握した以上、今までの攻撃はもう通じない。
「シュート! シュート!! シュート!!! ああもう、一発ぐらい当たってよ!」
砲撃だろうとバインドだろうと影の手だろうと、どれだけ魔力のコントロールが巧かろうと、リトルクイーンの遠距離攻撃は私に対して出し尽くしている。新しい遠距離攻撃か、あるいは近接戦闘を挑んでこない限り、彼女に勝ちの目は出ない。
流れ弾が周りの建物をどんどん壊して土埃が舞い上がり、地表付近が覆い隠されていく。攻撃すればするほどシャロンに有利な状況になっていくことが、リトルクイーンの苛立ちを刺激する。しかし傍から見ても遠距離攻撃が不利な状況になったことで、リトルクイーンは魔法に頼る戦い方では駄目だということを本能的に悟った。戦い方にこだわりはあれど、そういう現実的な判断も下せる所が、彼女がなんだかんだで天性の戦いのセンスの持ち主であることを裏付けていた。
「(来る……!)」
「いい加減に墜ちてよ、歌姫!」
土埃に紛れながら冷静に構えるシャロンに向けて、リトルクイーンはモナドを水平に振るう。本来、飛行魔法を使えない人間は地に足を付けた状態でないと十分な攻撃も防御もできないことはリトルクイーンも把握しており、今までの戦いからシャロンもその法則から外れていないと判断した。即ち今の水平斬りに対する回避先は地上に限定されると確信したリトルクイーンは、この攻撃を牽制にして左手のダークハンドによる確実な一撃必殺を目論んでいた。
後ろに下がれば突進して刺殺、しゃがめば叩きつけて圧殺、その場で防げば殴殺。苛立ちながらも彼女はチェスで言うチェックの手を打ってきたのだ。しかし結果はそのどれとも異なっていた。
ガキィッ!
「(よし、止まった―――)」
シャロンが水平斬りをガードしたことで、予定通りにダークハンドを展開、無防備になった所を目掛けて殴打しようとした―――瞬間。
パキンッ!
「わっと!?」
シャロンの持つ二本の刀が突然折れ、想定していなかったタイミングでの武器破壊にたたらを踏むリトルクイーンに対し、事前に折れることを予測していたシャロンはバックステップと同時に持っていた刀を両方手放すと、背負っていたもう一本の刀―――ウーニウェルシタースに手をかける。
「っ!!」
無防備な隙を逆に晒してしまったリトルクイーンはこの瞬間、強い悪寒に襲われた。咄嗟にダークハンドを前に掲げて盾代わりにした彼女に向け、シャロンは居合い抜きの要領で抜刀する。
縦の一閃。それがダークハンドを真っ二つに切り裂くと同時に凍り付かせていき、発生した氷はリトルクイーンの左肩まで覆いつくした。これはマズい、と直感したリトルクイーンは飛行魔法での離脱と同時に魔力弾を発射する。攻撃直後での至近距離からの発射にシャロンも全弾には対応が間に合わず、左脚と腹部にそれぞれ一発ずつ直撃をもらってしまう。
「ハァ……ハァ……冷たいなぁ、もう……!(改めて戦ってわかった。彼女の相手は何かとキツイ、次にどんな手を打ってくるか全然読めないよ……!)」
「ぐっ! ど、どうした……リトルクイーン? ずいぶん余裕が無さそうだね、さっきまで楽勝そうな顔してたくせに(こういう所で戦闘経験の差が出たか、一回限りの策だったのに仕留めきれなかった……)」
「ハッ、調子に乗らないでよ。楽勝なのは変わらないっての!(態度だけでも余裕かましとかないと、こっちが劣勢なのを見抜かれたら押し切られかねない……!)」
「その割には飛行魔法も使えない私一人にずいぶん長くかかずらっているね(純粋な勝負では、やはり魔法が使える向こうに軍配がある。だましだましで凌いできたけど、総合的に見たら私の方が劣勢だ……)」
「手加減してわざと同じ土俵で戦ってるだけだよ。高い所を飛べばこっちが一方的になるんだし(まあ、もし飛んだらあの弱体化攻撃を何度も使われて、滅茶苦茶弱くされるから、むしろ距離は取らない方が良さげなんだけどね)」
「左腕が氷漬けになってるのに、それでも手を抜く余裕があったなんて知らなかったよ(確かに私は飛べないから、飛行魔法で高空に逃げられたら攻撃手段が乏しくなる。弱体化を重ねた所で倒せるわけじゃないし、小細工も通用しなくなるから、いわゆる千日手になるけど……今回は最終的にそれで勝てるはずだ)」
「それじゃあ体も温まってきた所だし、そろそろ本気で戦おうか(よし、ビビってる場合じゃない。何にしても次の攻撃でシャロンの防御を超えないと……今度こそ氷漬けにされるのだから)」
「凍ってるのに温まってるとは、これ如何に(来る、ゆっくり考え込んでる場合じゃない。何にしてもリトルクイーンの次の攻撃を凌がないと……勝利が訪れるより先に殺られる)」
「全力で行くよ! ……開け、モナド!」
見るからに禍々しく輝く剣を上に構え、リトルクイーンは飛行魔法を維持しながら大量の魔力とエナジーをそこに集束する。するとモナドの刃がとてつもない勢いで拡大、延長していく。その長さはビルを超え、雲を超え、オゾン層すら突破して……宇宙にまで届いていた。
「ふ、ふふふ……あはははは! なんだ、ちゃんと使えばこんなに凄い剣だったなんてね! いける、これならここからでもシェルターを一刀両断できる! それがどういう意味かわかるね!」
……私が避けたら、シェルターが壊滅する。そう言いたいんだろう。さすがにあそこまで攻撃範囲が広いと、多少の距離は意味を為さない。ここからでも十分シェルターに届いてしまう。
シャロンは直感的に、イクスは力学的に理解した。シェルターには障壁があるが、あの攻撃は受け止めきれるとは思えない。なにせ消滅の力は無くとも、純粋な攻撃力だけでアルカンシェルに匹敵すると見たのだ。障壁の強度を確かめた訳ではないので、もしかしたら耐えられるのかもしれないが、障壁が耐えたとしても、どうしても耐え切れない箇所がある。この偽りの地面……無理やり空中に作られた外郭大地だ。
つまり私が彼女の攻撃をどうにかしなければ、シェルター……ひいては外郭大地が崩壊する。だがそんな事より、私の胸中に浮かんだのは今のリトルクイーンから放たれる黒い光の波動剣が、かつてアクーナを滅ぼした大破壊……闇の書の傀儡だった頃のアインスが放ったデアボリック・エミッションとダブって見えたことだ。
「カッ……ハァハァ……!」
『シャロン……? まさか過去のトラウマが……!?』
脳裏に蘇る当時の光景……太陽床を通ればアクーナから外に出る近道だったあの場所で、一緒に逃げていた友達が全員跡形もなく消されたこと、手を引っぱってたはずのあの子が右手しか残らなかったこと、あの子と私の全てがメチャクチャにされたこと。
―――あれ……そういえば、あの子って、ダレダッケ?
―――あの時、マキナはドコニイタンダッケ?
妙なノイズが頭に走ったせいもあって、私は心がかき乱される。カタカタと手が震え、動悸が激しくなる。そうだ……あの時を境に私はこの世界が嫌いになり、全てに絶望を感じていた。世紀末世界で暮らすまで生きた心地を感じられなかったのは、次元世界が私の絶望を生み出した場所だからだ。ここで生きたいと思えない世界だからだ。
『……ダメそうなら、逃げても良いんですよ?』
「イクス……わ、私は……」
『いくら能力があろうと、無理なものはあります。ここは自分の命を優先して……』
イクスの言う通り、ここは逃げるべきだ。私の本能はそう言っている。だが私の理性は、立ち向かうべきだ、と言っていた。ここで逃げたら私は何も変わっていない、これから先も変われないことを証明してしまうのだと。
「フーちゃん……ハルちゃん……ミウラちゃん……」
ふと、シェルターにいるあの子達のことを思い出す。きっと彼女達は、私の事を待っている。生きて、また会えることを祈っている。だったら……、
「逃げたく……ない。今だけは、逃げたくない……!」
『シャロン……!』
結果的に私の嫌いなミッドを守ることになるこの行動を、どうして私がやらなければならないのか、という気持ちはある。こんな危ない真似なんか止めて、全部放り出して逃げてしまいたい、という気持ちもある。でも……、
「臆病者にも……意地はあるんだよ!」
シャロンが叫んだその時、彼女の全身から青い光と冷気が爆発的に放たれた。彼女の持つ刀にもその光が宿り、傍から見ると剣が光を放つどころか光が剣の形を取ったようにすら見えた。
―――エンチャント・フロスト、最大出力。
以前、ケイオスに一度止められた全力のエンチャント魔法。通常でも出力が高すぎると言われたそれを、私は今全力で使っている。飛ぶ斬撃はぶっつけ本番で偶然上手くいっただけで、この状況では信頼できる技ではない。それにエンチャント・フロストを選んだ理由は他にもある。ナノマシンでダメージを即回復してしまうリトルクイーンには、通常のダメージをいくら与えた所で無意味。しかし凍らせてしまえば、無限に傷が回復しようと関係ない。ナノマシンごと、彼女を封じ込められる。
ほんの少し浮きあがってこちらを見下ろすリトルクイーンから目をそらさず、私は刀を正眼に構える。攻撃を受け止める姿勢を見て私が逃げるつもりが無いと察したリトルクイーンは思った通りになったと言わんばかりにニヤリと笑い、こちらに向けて一直線にモナドバスターを放ってきた。
まるで濁流が目の前に迫ってくるような光景に気圧されるも、しかし私はその場から動かず全力のエンチャント・フロストを解放、刀を覆う巨大な氷の剣を形成し、かち合わせる。
黒い波動と氷塊、二つの巨大な剣の衝突は突風を巻き起こしつつも、氷の剣の先端部が徐々に砕けていき、周囲にその破片をまき散らしていった。
「うっ! ぐぅううぅうう!!!」
「あははは! そのまま押し負けちゃえぇぇええええ!!」
『頑張って……頑張ってシャロン!!』
圧倒的な力の潮流。それを真正面から受け止めているシャロンに、イクスは必死に強化魔法だけでなく心からの声援を送る。だがシャロン本人よりシャロンの立つ地面の方が先に力負けして砕けだした。
足場を固める必要もあると気付いたシャロンはすぐさま、砕けて散らされた氷を利用して地面を凍らせることで、辛うじてクレーター状に沈下しながらも大地が破壊されるのを防いでいた。
強大なエネルギーの衝突による衝撃波を受けて崩れた建物が、その地面からの冷気で空中に凍り付き、歪ながらも美しい光景が広がっていく。空から見ればその光景は、まるで闇の一閃から大地を守らんとする氷の華が咲き開いていくかのようでもあった。
―――ピシッ!!
「ぐッ!?」
―――ピシピシピシッ!!
強大なエネルギーを受け止め続けた結果、シャロンの両腕、両脚から裂傷が発生していく。即ち、彼女の身体の方が限界を迎えつつあったのだ。特に先程被弾した左脚の痛みが顕著で、悲鳴を上げたくなるほどの痛みが走っていた。
「ぐぅぅぅうぅうう!!」
バリっ!
「あっ!?」
ついに耐え切れなくなるかと思われたその時、踏ん張る力に耐え切れなくなった靴底がべりっと破れてしまい、そのせいでバランスを崩してしまう。
「シャロン!」
その瞬間、周囲の吹雪の中から飛び出てくる者がいた。その者―――トーレはシャロンの名を呼んで彼女の身体を、自分に氷がまとわりつくのも厭わず支える。
「トーレ……なんで……!?」
「力比べなら私にも自信があるからな。それに、指揮官が一人で何でもやってしまっては、私達の立つ瀬が無いだろう?」
そう言って力強く微笑むトーレに元気づけられたシャロンは急ぎ姿勢を立て直し、歯を食いしばってモナドバスターを押し返す。
「たかが一人増えた程度で、この攻撃は押し返せないよ!」
「ん……増援が一人だと誰が言った?」
リトルクイーンから見て右側からケイオスが突貫、一部が溶解したままのレンチメイスを叩きつけようとする。だがリトルクイーンも増援が複数いることは想定しており、予め準備していた魔力弾を発射したのだが……。
「え、空中で回避!?」
「ざ~んねん。そっちは幻なのよねぇ」
氷で固まったビルの屋上から見ていたクアットロがそう呟くと、ケイオスの姿が揺らいでライディングボードに乗ったウェンディの姿へ変わる。ニヤリと笑ったウェンディはそのままボードから閃光弾をばら撒き、驚愕の表情を浮かべたままのリトルクイーンのすぐ目の前で爆発させる。刹那、激しい音と光の奔流によって彼女の聴覚と視覚に絶大なダメージが与えられる。
「うわぁああああ!!!??? み、耳がァァ!! 目が痛いぃぃぃ!!!???」
周囲の状況が把握できなくなったリトルクイーンは絶叫と共に激しく魔力弾を暴れまわさせるが、しかしその程度の抵抗は彼にとっては止まってるも同然だった。
「やっちゃえ、ケイオス!」
離脱するウェンディがグッと拳を突き出すのを横目に、本物のケイオスは氷の華と化したビルの中から突貫、ジャイロ回転で勢いを付けながらリトルクイーンの凍った左腕越しにレンチメイスを叩きつけた。
何の抵抗も出来ずに闇のバリアジャケットの防御を余裕で貫通する一撃を喰らったリトルクイーンは、氷が砕ける音と共に隕石のように地面へ落とされる。それでもなお勢いは消えず、途轍もない距離を途中の障害物を破壊しながら滑っていった。
「嘘でしょぉ!? 何でこっちに来るのよぉ!?」
そしてようやく止まったのは、奇しくも管理局地上本部の正門近くの壁。正門を守っていたクイントが絶叫と共にダイビング回避してから後ろを振り向くと、衝突箇所が崩れた壁とそこで倒れるリトルクイーンの姿に唖然とする。リトルクイーンが吹っ飛んできた方にちらりと視線を向けた彼女は、戦闘が起きていた場所からここまで吹っ飛ばされた所からどれだけの超絶パワーで攻撃されたのかを逆算し、ゾッとした。
「ウグッ……! カハッ!?」
一方、リトルクイーンは絶大なダメージを受けたせいで体がまともに動かなくなっていた。人間なら即死に至って当然なダメージを負っても耐えているのは、体内のナノマシンによる治療や体質がヴァンパイア化しているおかげでもあるのだが、しかしこれ以上の戦闘は何かしらの方法で回復しない限り、まず不可能であった。
「ど……して……!? わた……しが負ける……!?」
どんな傷も治せる身体、どんな魔法も使える才能、どんな敵も倒せる力、その全てを兼ね備えていたのに敗北したことが信じられないのか、リトルクイーンはただひたすら混乱していた。レプリカモナドは衝突の衝撃で手放したせいか、壁の近くに無造作に転がっており、身体を支える杖になるものが何もない彼女は、這って瓦礫を抜け出す。
「じょう……だんじゃ……ない……! こんな……所で! 私は……まだ! まだ何にも……成し遂げていない!」
その時、リトルクイーンは見てしまった。管理局の敷地内に避難していた市民を。正門前の広場で仮説テントや仮設住宅でその日を凌ぎ、避難民として寄り添っていた彼らの姿を。戦闘に巻き込まれないよう必死に逃げるものの、突然の事で地上本部の入口に詰まってしまって、まだ全員入れずにいる彼らの中に……オレンジ色の髪の少女―――ティアナがいた。
「あの子は……そう、そういうこと……」
影の中に取り込んでいる彼との共通点、そして彼の大切な存在の避難場所。それらが合致する少女を見つけたことで、リトルクイーンはまだ足掻くチャンスが残されていると確信した。
「っ! やめなさ―――」
「ライフドレイン!!」
時間を置いたことで弱体化が緩和したため、クイントの静止の声をよそに影を伸ばすリトルクイーン。聖王教会の時みたく広範囲を覆うことはまだ出来なくとも、避難民の人混みに飲まれて逃げ場のない少女一人を捕えることなら容易かった。
「ヒッ!?」
槍のように真っ直ぐ人混みの足元を通り抜け、ティアナの足元に伸びた影は足に絡みつき、沼に沈むかの如く影の中に吸収され始める。
「な、何これ!? 助けて!? 影に飲まれる!」
「うわ、ヴァンパイアの攻撃だ!」
「逃げろ、巻き込まれるぞ!」
「嫌っ! 死にたくない!」
「どいて! 邪魔よ!」
「馬鹿野郎! 押すなって!」
パニックで蜘蛛の子を散らすかのように入口から離れていく避難民。しかしほぼ全員が我先に逃げようとしているせいで動く障害物となってしまい、クイント達局員が救出のために近寄ることができなかった。
目の前で瀕死の状態だったにも関わらず、まんまとリトルクイーンに一般人が捕まり、あまつさえそれが娘と同じぐらいの年代の少女であることにクイントも、遅ればせながら合流してきた彼女の夫ゲンヤも、そして彼の部隊の局員達も激しい怒りと焦燥感を抱く。されど避難民を力づくで排除する訳にもいかず、誰もがあの少女の命運を諦めかけた……その時。
「――――……」
影の中から一本の血まみれになった人間の腕が伸び、少女の腹部を押し返し出した。それは影に引きずり込まれる力と拮抗し、少女の命をギリギリのところで守っていた。
「なに……やってるのかな……敗北者の、くせに!」
想定外の要因で襲った少女をすぐに影で取り込めないと判断したリトルクイーンは、先に邪魔者を排除するべく、新たにもう一本出した影の手でその腕を掴み、力づくで空へ放り投げる。
「えっ……? にい……さん?」
刀傷で血まみれになったティーダの姿に少女―――ティアナは呆然とする。嫌な予感がしたクイントは止められないとわかっているにも関わらず、「止めて!」と叫ぶ。力尽きて何の抵抗もできないティーダは、そのままリトルクイーンの直上で落下を始め……、
―――グシャリ
ダークハンドを彼に突き刺した。だらりと下がったティーダの手から、彼の生気が完全に途絶えたことが察せられた。宙に浮いた際に手放された彼の銃がティアナの傍に落ち、軽い金属音を立てる。
「え? ……え? ……へぁ……に、にぃさん……?」
眼前の光景をティアナは理解が追い付かない……いや、理解できなかった。脳が、心が、魂が、理解を拒んだ。彼女は今、全ての感覚に狂いが生じており、現実を喪失していた。
そんな彼女にあえて見せつけるように、リトルクイーンは腕を突き刺したままのティーダの遺体を眼前に持ってくると、ダークハンドを通じて吸血を始める。体内の血液がぐんぐん吸い取られ、ティーダは見る見るうちに枯れ細くなっていく。周りの誰もがその酷い光景に言葉を失う中、血液を吸いつくされた彼の身体はミイラも同然の姿となり果てた。
「ふ……ふふふ……! どうせ死ぬなら……最後ぐらい役に立ってもらわないと、ね」
「あぁぁぁぁ……! うわぁああああああああああ!!!!!」
地の底から響くように、ティアナは雄叫びを上げる。唯一の肉親の死を目の当たりにした彼女の絶望は他人から見ても想像を絶しており、クイント達も仲間の死に激しい怒りと悲しみを感じていた。
「でもね、魔導師一人じゃ、まだ足りない……! まだ……まだ喰い足りないんだよ……!!」
ドサリとティーダの遺体を放り棄てたリトルクイーンは、怒りと悲しみと涙でぐちゃぐちゃに濁ったティアナの眼前にダークハンドの指先を向ける。
「ッ!!」
「アァ……良い眼だ、新鮮な報復心だ。その報復心こそ、私の存在があなたに刻まれた証……」
「き、きさまぁああああああああああ!!!!」
BAAAAAaaaaaaaaNG!!!
「は―――?」
怒りに任せて放ったティアナの一発は彼女の魔力光一色ではなく、黒色の螺旋が入り混じっていた。その魔力弾がリトルクイーンの胸部に着弾すると、彼女は油断していたせいもあってくの字の姿勢にされて吹き飛び、壁に背中を打ち付けさせて尚も魔力弾は消えずにダメージを与え続けていた。
「ぐぐぐ……! な、なんで!? どういうこと!?」
リトルクイーンは混乱した。一般人であるティアナの撃った弾丸にエナジーが込められていたり、集束砲撃の魔力を全て一ヶ所に集めて固めたぐらい濃密に練られた弾丸は即席では作れないはずなのにいきなり形成されたりしたことが、だ。
「こんな弾丸……普通の魔導師じゃ作れるはずがない! まるで暗黒物質の淀みの中で無理やり魔力を、それも自分の命全てを削ってでもしなければ作れな……ハッ!」
いる……該当者が一人いる。
影の中はリトルクイーンが取り込んだ暗黒物質の世界、そこで魔力弾を作るなら自らの命を代償にするしかない。しかもリトルクイーンに気づかれずに暗黒物質をかすめ取って魔力に練り込み、かつ弾丸のサイズにまで凝縮させられるのは、魔導師として相当な熟練度が無ければ不可能だ。そして……そんな力量を持った魔導師は、妹に託したのだ。生き残るための切り札を。
「こ、この……私を……なめるな!」
食いしばりながらリトルクイーンはダークハンドで魔力弾を横から殴り、進路を力づくで曲げる。いくら強力でも直射弾の性質上、進路を変えられてしまえばダメージはまともに通らなくなる。ティーダの決死の覚悟を伴って形成された魔力弾は哀れにも彼方の方に飛び去ってしまった。
「ぜぇ……ぜぇ……ティーダ・ランスター、死んだ後まで腹立たしい奴だ……!」
ペッと口から血を吐き出して袖で拭うリトルクイーン。彼女を倒せなかったティアナは悔し気に顔を歪めるも、しかし彼方の方から何かが跳んでくるのに唯一気付く。
「あれは……」
その飛翔体―――ケイオスとシャロンはある程度上空に到達すると、シャロンがケイオスの肩を足場に跳躍、縦に回転しながら魔力弾の方へ向かう。
「ジェットストリーム……シュート!!」
さながらスポーツ球技のアクロバットの如く、彼女はイクスの魔力が集束した左脚で魔力弾を蹴った。彼女自身のエナジーまで込められた魔力弾は白と黒の螺旋となってリトルクイーンの頭上から迫る。
ドゴォォォォッ!!!
「ぐはぁあああ!!!」
凌いだはずの魔力弾が戻ってくる。それは偏向射撃を得意としていたリトルクイーンに対する、皮肉とも因果応報とも言えた。
上からの攻撃に当たる寸前まで気付かなかったリトルクイーンの身体はバウンドして高く跳ね上がる。その際、
「ぐ……か、体が……!?」
再度ダメージを受けて身体が動かせなくなったリトルクイーンは、先の攻撃後にボールの如くシャロンの方へ跳ね返っていく魔力弾を目撃する。空中で氷漬けになっているビルの側面に着地したシャロンは気迫のこもった右手で魔力弾にパンチングし、空中でグロッキー状態のリトルクイーンに再度その魔力弾をぶつけた。
「いぎぃ!」
2度目の攻撃でリトルクイーンは地上本部の正面広場上空を真横に吹き飛ばされ、3階付近の壁にクレーターを形成する威力で大の字の姿でめり込んだ。
再度戻っていった魔力弾も崩壊しかけており、最後の一撃と言わんばかりにシャロンは氷の道を駆け抜け、勢いをつけて右にきりもみ回転しながら跳躍、大回転シュートを放つ。
―――マスター!
その際、シャロンの懐から謎の声を放つ赤い小さな玉がこぼれ落ち、魔力弾の中に紛れ込んだことには誰も気付かないまま、魔力弾はリトルクイーンに直撃する。まるで大砲の如く爆発した魔力弾は、そのトドメの一撃によって全て霧散した。
「ぐぬぁっ! う……うぅぅ……」
腹部にゴロゴロする違和感を感じつつ、リトルクイーンはもはや指一本動かせない身体を気力だけでも動かそうとする。しかし空中でケイオスにキャッチされ、再び投げ飛ばされてきたシャロンがエンチャント・フロストの纏った刃をリトルクイーンの胸部に突き立て、管理局地上本部の壁面ごとリトルクイーンの身体が凄まじい勢いで凍り付いていった。
「これで決着だよ……!」
「ひ、一人で勝った訳じゃないくせに……! これで決着がついたと……!」
唐突にシャロンの背後に現れた存在を目の当たりにして、リトルクイーンはまだ逆転の芽はあると思った。彼女にとって味方であり、現時点で最強のイモータル、公爵デュマが暗黒転移で突然現れたからだ。
「……」
だが公爵は腕を組み、何もしなかった。リトルクイーンの身体がもうじき氷に封じ込められるというのに、彼は傍観に徹していたのだ。
「こ、公爵……なんで私を助けない……!?」
「……。ククク……!」
「ま、まさか……私を裏切ったの!?」
「ククク……裏切る? 最初から仲間とは一言も言っていないが」
「う、嘘……期待しているって、言ったくせに!!」
「ああ、期待したさ。オマエが敗北することを」
「そんな……ほ、本当に……私を、切り捨てるつもり……!?」
「リトルクイーン、オマエは良い道化だった。好き放題暴れ回ったおかげで、接触者でありながら人類に多大な報復心を植え付けた。それは本来の運命とは真逆の状態……高町なのは本来の人格では決して成し得ない、輪廻から外れる変革に繋がる成果だ」
「接触者……? 変革……?」
「接触者が死ぬとツァラトゥストラは永劫回帰を発動させ、次元世界全てが問答無用で消滅する。ヒトが未来を取り戻したいなら、オマエの生存は必要不可欠になる。だがオマエが報復心の矛先に至ったことで、全てのヒトは報復心への対処を余儀なくされる」
世界にとっては絶対に守らなければならない存在が、人類にとっては悪党である。その事実により、法の正義もヒトの倫理も打ち砕かれた。ヒトは未来を望んで恨みを飲み込むか、あるいは恨みを晴らして破滅を呼ぶか、試されることとなった。
「回帰か、変革か……オマエの扱いの是非は、人類の生死を問う試金石となる。オレにとっても、次元世界にとっても。まあ……それはそれとしてオマエ自身もしばし頭を冷やすべきだ、本当の望みを叶えたいのならばな」
「あ……ああ……!!」
ピシピシ……パキーン!
憤怒、憎悪、絶望、屈辱……そういった感情が壮絶に伝わる表情のまま、リトルクイーンは氷の中に封印される。磔のような姿で氷漬けとなった彼女の胸部から、刀を引き抜いて地上に着地したシャロンは公爵に警戒しながら急ぎケイオスと合流する。
「さて……おあつらえ向きに注目の目も集まっている。誰だって世界の行く末に関わることぐらい、耳に入れておきたいだろう」
何が何だかわからないが、本能的にクイント達は嫌な予感を抱いた。敵の首領とも言える存在が急に現れて動揺している避難民や局員達の視線を受けて、公爵は堂々と声を張り上げる。
「聞け! すべての意思ある生命よ。オレは公爵デュマ、イモータルの総大将にして、この世界の成り立ちを含む全てを識るヴァンパイアだ。今、次元世界は存亡の危機を迎えている。それは長きにわたって、この世界の人類が種として成長しなかったからだ!」
敵の総大将で、かつ自分達をここまで苦しめている存在だ。本来ならブーイングの嵐が起きて当然なのだが、避難民も局員も誰一人として言葉を発せなかった。それは公爵のあらゆる箇所から漂う圧倒的な強者としての気配が、一人一人の精神を抑圧しているからだ。
「なぜ敵であるオレが人類に警告するのか、なぜアンデッドを襲わせてくるのか、そう問いたい者も多かろう。では答えよう、銀河意思は試しているのだ。この世界の人類がこの先も生き残るべき種なのかどうかをな! 不条理、理不尽、そう文句を付けたい者もいるだろう。ならば言わせてもらおう、オマエ達はいつ運命を従えた? 世界に寿命が無いと、時間は永遠にあると、誰が証明した? 無条件に生命を保証される時代はとうに潰えた、生きたければ資格を証明しなければならない! オーギュスト連邦、アウターヘブン社……新たに台頭してきたコミュニティに属する者達は、その事実に気づいている。だから抗っている! だから戦っている!」
観衆が固唾を飲む。そして思う、自分達は今まで何をしてきたのだろうか、と。そして恐怖する、何もしていないのではないか、と。
「アンデッドは死者だ、彼らには一つの生命として生きていた時期がある。そんな彼らがなぜオマエ達を襲うのか、考えたことはあるか? アンデッドとしての本能か? まだ生きている者を仲間に引きずり込むためか? 命令されて動くだけの傀儡だからか? 違うな……彼らは恨んでいるのだ、オマエ達を!」
『ッ!』
「組織の責任を押し付けられて破滅した者、違法実験で一方的に使い潰された者、大事な存在を奪われた者、邪魔だから蹴落とされた者、理不尽な暴力で壊された者……自分達が食い潰してきた存在の恨みこそが、此度の状況を作り出しているのだ。今こそ、オマエ達は自らの行いを見返すべき時だ! 同僚に、隣人に、友人に、家族に、世界に、オマエは何をした!?」
『……!』
「オマエを恨んでいるヤツはいないか? オマエを憎んでいるヤツはいないか? オマエは本当に必要とされている人間か? オマエの死を望んでいる人間は、本当に一人もいないのか!?」
観衆に恐怖が伝染していく。誰かの恐怖は誰かの恐怖を相乗的に増加させる。
「そうだ、報復心だ。ミッドチルダがこうなったのは、オマエ達が苦しいのは、生み出した報復心に何も報いなかったからだ。だからアンデッドはオマエ達を襲う。報復心が多いほど彼らは現れ、オマエ達を殺しに来る。苦しいだろう? 怖いだろう? だがオマエ達では彼らを止められない。人類種は報復心を浄化するより生成する方が早い以上、決して止めることはできない」
この悪夢とも言える状況が終わらないと断言され、恐怖に染まる観衆の心に絶望が憑りついた。
「しかし、彼らの手で滅びはしない。この戦いは近い将来、自ずと終焉を迎える。それはなぜか! 世界の真相を少しばかりお見せしよう!」
公爵は右手にある小型装置から空中に謎の映像を投影する。そこには無数の残骸が漂う真っ暗な空間が映し出されていた。
「虚数空間は知っているな? 一言で言うなら次元世界の裏側に位置する場所だ。そしてこの光景は虚数空間の一部で、これから映し出すものはオマエ達の未来であり過去であるものだ」
映像は残骸の中を進み、やがてひと際大きな建造物だったであろう物体の前に移動する。そこにあったものを目の当たりにし、観衆の一部から呆然とした声が出る。
『管理局地上本部』
同じ看板がこの地上本部の屋上にもある。こっちのは一文字分斬られこそしたが、同じものは世界に二つとないはずなのに、なぜか虚数空間にそれがあった。ここから意味することを、公爵は隠す気も無く無慈悲に告げる。
「虚数空間は今の次元世界が誕生する前の次元世界があった場所だ。最古のロストロギア・ツァラトゥストラの永劫回帰が起こる度に、この世界と虚数空間の立ち位置が入れ替わる。まさに昼と夜のように。では前の次元世界はどうなったのか、その答えはオマエ達の存在が証明している。永劫回帰は世界の分解と再構成を行う。ツァラトゥストラが前の次元世界を滅ぼすことで、今の次元世界が構築されたのだ」
荒唐無稽すぎて普通なら信じられない話だが、しかし一つしか存在しないものが二つ存在している事実に、観衆も無理やり理解させられた。公爵の言っていることに嘘は無い、と。
「そしてこの世界も、永劫回帰のタイムリミットは目前に迫っている。アンデッドが与える滅亡より早く、確実な消滅が訪れる。だが!」
『ッ!?』
「この運命……変える方法はある。その内容も、手段も、オレは全て知っている」
それは絶望に染まり、無力を噛みしめる観衆にとってあまりに甘く、あまりに冷たい誘惑だった。観衆の心に充填された恐怖は瞬く間に、公爵への畏怖、崇拝に近い感情を与えた。
「ツァラトゥストラはある存在、接触者を常に観測している。次元世界を分解する永劫回帰は接触者が死んだ時に自動で発動する。そして、接触者が誰かもオレは把握している。しかしオマエ達に教えてやる義理はない。停戦協定も結んでいない以上、オレはオマエ達の敵だからな」
停戦協定……少し前に管理局上層部との間で行われた会談で出された提案。そして管理世界の譲渡という条件に、市民を含む誰もが困惑したあの協定について、公爵から話題に出したのは管理局上層部にとっても想定外だった。
「とはいえ世界の存続に関わる話だ、今すぐにでも答えを知りたいだろう。だから接触者の候補は教えてやる。今、このミッドチルダにいる人間全員だ。理解したか、世界を消し去るスイッチは、オマエ達のすぐ傍にある」
『ッ!?』
「接触者はオマエか……い~や、オマエだったか? この世界は無数の爆弾が埋め込まれた、巨大な地雷原のようなものだ。世界はたやすく壊れてしまう……たった一人の死で。 いや、ただの感情で、オマエ達が思い描く未来なぞ簡単に消える。そう、こうして凍り付いた彼女も怒りのまま砕いてしまうと、もしかしたら……な?」
その言葉で観衆は自分達を襲ってきたリトルクイーンでさえ、報復心をぶつけたくても死なせてはならない存在だという事実に、理性と感情を強くかき乱される。友人や仲間を殺された者は尚更だ。特に……
「ふざけないで……!」
身内を目の前で殺されたばかりのティアナにとっては最悪だった。何が何でも復讐を果たしたいのに復讐したら世界が滅ぶかもしれないと告げられたのだ。理性が理解を拒むのは当然であった。
「ふざけないで!! そいつは兄さんを殺した! 私の大好きな、唯一の家族だった兄さんを……笑いながら殺したんだ! そんな奴をどうして生かさなくちゃならないのよ!!」
「ほぅ……?」
公爵は密かに感嘆していた。公爵の威圧感を正面から受けているこの状況で、さっきの話を聞いた上で、感情任せでも言い返してくる度胸のある者がいたことが何より興味深かった。
「兄さんだけじゃない、そいつは聖王教会でもいっぱい殺した! たくさんのヒトが、こんな奴のせいで死んじゃった! なのに復讐したら世界が滅ぶかもしれないって、そんなわけのわかんないこと、いきなり言われても納得できないわ!」
「そうか、では報復心の赴くままに復讐を果たすがいい。氷漬けの今なら、オマエの力でも殺せるぞ」
「い、言われなくたってやってやるわよ!!」
いつでもどうぞと言わんばかりに射線を譲る公爵。感情のままティアナは銃口をリトルクイーンに向け、魔力弾を形成しようとしたその時。
「ダメよ」
「ッ!?」
クイントがティアナの腕を掴み、銃口を力づくで逸らされる。
「は、放して!」
「ごめんなさい。でもやっぱりダメよ……不確定情報とはいえ、彼女の命が世界の命と直結している可能性が少しでもあるなら、彼女を討たせることはできないの……」
「嫌っ! そんなの納得できない!! あいつは兄さんの仇なのよ! 復讐させてよ! 仇を取らせてよ!!」
「あなたの気持ちは痛いほどわかる……ティーダ君の仇だし、私だって癪だわ。だけど……」
苦痛の表情を浮かべながらもクイントは必死にティアナを止める。他の避難民が遠巻きに見守る中、クイントはティアナが落ち着くまで手出しできないよう、力づくで装甲車の中へ運び込もうとする。必死に抵抗しながらティアナは泣き喚きながら激しい憎悪の目を向ける。
「うあぁあああああ!!! チクショウ、チクショウ!! 殺してやる!! いつか必ず! 絶対に、絶対に私が殺してやる!!」
ティアナの雄叫びには観衆も同情、同感、同意……様々な感情を抱いた。一方、その光景を何もせず見ていた公爵は不敵に笑うと告げる。
「さて、この情報を知った以上、オマエ達も時間をかけて考えたいだろう? ならば慈悲として、それなりの時間をやろう。尤も―――」
ズドォォォンッ!!
地上本部正面広場に突如、巨大な何か降り立った。土煙が晴れると、そこには緑色で異形の怪物―――テレシアがいた。
Gyaaaaaaaaaaa!!
「運命の一つでも乗り越えられれば、の話だがな」
ちらりと氷漬けのリトルクイーン=高町なのはを一瞥した公爵は、そのまま暗黒転移で姿を消した。テレシアは雄叫びを上げ、まだ外にいる市民や彼らを守る地上本部の局員達に襲いかかって、蹂躙していった。
一方、正門から少し出た位置で状況を見ていたシャロンとケイオスは、この戦いにどう対応すればいいのか考えていた。
「管理局の戦いに助力する義務は私達には無い。当初の目的通り、リトルクイーンの浄化を果たす」
「ん、つまりあれは放置?」
「テレシアはその特性上、対策無しで戦っていい相手じゃない。だからテレシアの攻撃がこちらに向いていない状況はむしろ好機。人道的にはアレだけど、今の内に何もしなかったら状況は更に悪化する」
「敵同士で戦っている内に目的を果たしておくのか」
「だけどテレシアを完全に放置するのは危険要素が多すぎるし、いつこっちに飛び火するかわからない。というわけで……ケイオスにはあの戦いに介入してほしいんだけど、行ける?」
「シャロンが言うなら俺は何でもやるが……結局介入するんだな」
「結果的にそうなるだけ。介入の理由はテレシアをリトルクイーン浄化における最大の障害とみなしたから対抗できる戦力を投入した訳で、管理局への助力が理由じゃない」
「要は呉越同舟?」
「うん。そもそも先の戦闘で私も疲弊しているし、ナンバーズには退路ないし搬送経路のモンスターの掃討をしてもらってるから、オーラの対処も含めて現状でテレシアとちゃんと戦えるのはケイオスしかいない」
テレシアについては今朝読んだ書類に、対抗策などの要点がまとめられていた。例えばケイオス達ギア・バーラーは対テレシアも想定していて、無機物で構成されているから生体分解オーラに触れても分解されない。
また、テレシアのオーラはエレミアのイレイザーや、アインスのデアボリック・エミッションみたく消滅の効果が付与された攻撃……あるいは高密度の魔力やエナジーによる攻撃で引き剥がすことが可能だ。それにオーラは一回剥がせば当分は纏えなくなる。逃げられでもしない限り、二回剝がす必要は無い。
「ん?」
ともかく、テレシアに襲われて混乱の渦中にある地上本部正門広場に私達が飛び込もうとしたその時、どこからともなく現れた魔力光の中から植物のツタがテレシアに飛来、一時的に巨体の動きを封じた。
「あれは一般的なチェーンバインドじゃない。エナジーが付与された別物になっている」
「ん、つまりあれは……」
答えはすぐに判明した。束縛後、植物のツタはテレシアの体力を吸収し、瑞々しい黒い薔薇を太陽に向けて咲かせる。……なるほど、ある意味肉体がないドゥラスロールだからこそ、生体分解オーラの効果を免れることができたのか。
「名付けて、ブラックローズバインド……か」
もがくテレシアの目の前に、どこか厳かな雰囲気でアインスが現れる。地上本部の目の前でこんな事になったため、レジアス中将は緊急措置として一時的に彼女の拘束を解いたらしい。
それはそうと……アインス、なんか怒ってる?
「無力な人達に対する無益な殺戮、例えそれが運命でも私は止めてみせる!」
黒薔薇の剣を展開し、アインスは果敢にテレシアに斬りかかる。しかし拘束はできてもダメージが通るかは別なようで、動けないテレシア相手にオーラ越しに攻撃を繰り返すも、あまり効果は無かった。
「クッ……! やはり今の私ではテレシアを倒せないか……!?」
「アインス、拘束を強化して!」
「ッ……!」
私の言葉を聞いたアインスは疑問を返すことなく、すぐさまバインドを強化した。するとアインスの目の前でテレシアのすぐ傍に黒い光を両手に纏わせたケイオスが現れ……、
「機神……黒掌」
打撃音がどこか水音に似ている異様な連打を繰り出した。恐らく疑似・殲撃の連撃仕様だと思われるが、私はこの体術を始めて見た気がしなかった。具体的には、サバタの体術にこれとよく似た技があった記憶がある。何らかの関連性があるのかもしれないが、今は気にしてる場合でもなかった。
容赦ない攻撃をモロに喰らったテレシアは吹き飛びそうになるが、拘束を強めたツタを通じて反作用の力を更に受け、空間的にはその場に留まりつつも絶大なダメージを負った。また、ガラスが割れるような音と共にオーラも消し飛び、テレシアの輪郭がはっきりと見えるようになる。この状態なら普通の攻撃でもちゃんと通じるようになるのだが、そもそもこれ以上の攻撃は必要無かった。
「お、おお……?」
「助かった……のかしら?」
「倒した……って考えて良いのか?」
「また彼が討ったのか……」
ぐったりと力尽きたテレシアは倒れ伏し、呼吸の動作しかしなくなる。衝撃の出来事が次々起きたせいで、まだ状況が飲み込めていない市民や局員はこちらを伺うように遠巻きに見ているが、それはどうでもいいので私は何となく気になったことを尋ねる。
「アインス……もしかしてテレシアのことを知ってた?」
「一応ね。これでも夜天の書の管制人格だ。騎士達はともかく、私はある程度世界の摂理に関わる知識を与えられている。デアボリック・エミッションも対テレシアを想定して消滅効果を付加した広域殲滅魔法だったんだけど……結局別の用途にばかり使われて、本当の使い方は一度も出来なかったな……」
「その魔法はもう無いんだから話に出さないで。それより確認しておくけど、ドゥラスロールは何ともない?」
「ああ、彼女も無事だ。ブラックローズバインドは彼女が私の魔力を通じてチェーンバインドを使う仕組みだから、テレシアに直接触れたって訳ではないんだ」
「そう……彼女が無事なら良いや。ところで、トドメ刺しておく?」
「それは……」
「ん、今更殺しをためらってる場合か。こうなったらどうしようもないことぐらい、アンタだって既に知っているはずだ」
「わかっている……! わかっているが、しかし……!」
「そっか、あなたはこうなった“ユーノ”を殺したくないんだね」
「ッ!! い、いつから気付いていたんだ、シャロン!?」
「そういう反応をするってことは、この“推測”は当たってるようだ」
「んなっ!? 今のはハッタリだったのか!?」
「ちょっとね。でも……そっか、このテレシアは本当にユーノなんだ……」
テレシアという化け物に変わり果てた姿のユーノに、私は憐れみの目を向ける。ポリドリに襲われてから行方知れずになり、時を置かずして現れた謎のテレシア……若干の関連性はあったから、頭の片隅でそうかもしれないと思ってはいたけど、こうして目の当たりにするとアンデッド化もかくやと言わんばかりの惨さを感じる。
「でもヒトとしての原型が完全に無くなるって、一体どういうこと? アンデッド化でも一応ヒトの形は保ったままなのに……」
「……“逆”なんだ。前提が……」
そこまで言って口ごもるアインス。一体何を隠しているのか、またしても予想するしかないけど、今はまだやることがある。
「ん、もう元に戻れないなら、介錯も慈悲だと思うんだが……」
「すまない、しばらく時間をくれないか。本当に元の姿に戻す手段が無いのか、打つ手が無くなるまで試させてほしい……」
「救出にこだわるのは勝手だが、今のアンタにそんな権限があるのか? スパイ容疑でまともな身分すら失いかけている状態のアンタに何ができる?」
「それは……」
「――――その件なら私にお任せください」
刹那、転移魔法で何者かが姿を現す。シャロンの傍に現れたそれは、アインスを小さく可愛らしくした容姿の少女……ツヴァイだった。
「つ、ツヴァイ!? どうやってここに……!?」
「ア……姉さん、積もる話もありますが、今は優先するべきことがあります。……シャロンさん、まずはこれを受け取ってください」
ツヴァイが渡してきたのは、小型の装置だった。話を聞くと、どうやらレヴィが贈ってくれたもので、通信の増幅とか短距離の転移とか色々役に立つ代物らしい。
「さて……私はギジタイで様々な情報を取得してきました。それを利用して、このテレシアの生命を維持したままの捕獲申請と、アインス姉さんの無実を証明します」
「詳しい経緯はわからないけど……君を信じて、いいんだね?」
「お任せください」
なんかアインスに関わる話がとんとん拍子に進んでいるが、彼女達の事情に一区切りつくなら私は結構だ。それよりそろそろ本題を果たすとしよう。
「色々あったけど、改めて当初の目的だったリトルクイーンの浄化をする。これから彼女を持って行くけど、邪魔しないで」
私はそう問いかけるように言う。近くで無言のまま話を聞いていたゲンヤ達はともかく、彼らの通信端末の画面に映るレジアス中将は、眉間にしわを寄せた顔で尋ねてくる。
『先程の公爵の話が事実なら、彼女を死なせると次元世界が滅亡する可能性がある。貴様はそれでも浄化を試みるつもりか?』
「やるよ。こうして無力化されている以上、浄化しなくても大丈夫だと考えて現状維持にしたい気持ちは察する。けどこの氷はあくまで一時しのぎだし、浄化しないと今度暴れ出した時にイモータル以上の脅威になる可能性だってある。今の内にやらないと、確実に大きな犠牲が出るのは目に見えている、下手すれば聖王教会全滅以上の犠牲がね。それはあなたの本意では無いでしょ?」
『無論、儂も好き好んで犠牲を出したくは無い。しかしあまりに危険性が高く、不安要素も大量にある。とても手放しでやらせる訳にはいかん』
「だから?」
『だから押し付けてやる、貴様の報復心の矛先を。……中将権限によりリインフォース・アインス、貴様にリトルクイーンの救命を命令する』
「むっ!?」
『貴様がリトルクイーンを必死に浄化する隣で、そいつが回復魔法を使うのだ。故郷を滅ぼした憎い相手が、友を殺したもう一人の憎い相手を勝手に助ける……実に腹が立つ行為だろう? それに貴様らが拒否しようがリトルクイーンの死を防ぐための回復要員は必要なのだ、この嫌がらせは受けてもらうぞ』
「い、嫌がらせ扱いなのか、私は……」
「何ともセコイ考えだこと。管理局の得点稼ぎに彼女を使いっぱしりにしてるだけじゃん……ま、死なない程度に働いてもらうけど」
『貴様にとっては彼女が死んだ方が都合が良いのではないかね? まあいい、せいぜいミッドに平和が戻るよう力を尽くすがいい。儂としては、自発的にそう考えてもらいたいものだがな』
「興味ないね」
私がそう吐き捨てると、レジアスは苛立ちのこもったため息を吐き、通信端末の画面が消えた。ゲンヤ達もリトルクイーンの浄化は必要なことだと今のやり取りで理解したようで、特に何か言ってはこなかった。
『この二人の関係性が変わっていることを知らないのが、こういう形で影響するとは……知っている側からすると面白いです』
「(精神世界で笑ってるのはずるいよ、イクス……。こっちもあの命令が出た時、うっかり吹き出しそうになったし)」
『でもシャロンも咄嗟の状況なのに、表情をちゃんと隠せてますね。途中から演技だってこと、誰にも気づかれていませんでしたよ』
「(まあ、勘付かれたら私もアインスもお互いにマズいからね。これでも必死に取り繕ったんだ)」
ちなみにアインスもよく見たら口の端がちょっと吊り上がって震えており、笑いそうなのを頑張って堪えてるらしい。……今猛烈に彼女をくすぐりたい衝動に襲われたけど、流石にアレなので我慢しよう。
「それでは少しの間だけど、精いっぱい協力させてもらうよ。シャロン」
「言っておくけど、パイルドライバーの浄化にリトルクイーンの身体が維持できるよう回復するのって相当神経使うからね。彼女の体内にある治療ナノマシンがどこまで効果を発揮するかわからない上、浄化速度が速すぎると消滅させちゃうし、回復速度が速すぎると浄化が進まなくなる。太陽光の強さに応じて適切な速度が変わるし、エクトプラズムを押し戻した瞬間の即時対応も求められるから、ちゃんと息を合わせないとあっという間にゲームオーバーになるので気を付けて」
「心得た。ところで浄化に関して一つ疑問があるのだが……棺桶どうするんだ?」
「あ、それは……」
「その問題なら私が解決しよう」
「うわっ!? ど、ドレビン!?」
急に話に入り込んできたのは、ドレビン神父だった。神出鬼没な彼の登場に思わず驚くが、それはそうと彼は見覚えのある紋章の付いた金属製の白くて先鋭的な棺桶を私に手渡してきた。
「“聖櫃”として使うはずだった棺桶だ。長らく埃を被っていたが、無用の長物になるぐらいなら有効活用してもらった方が幾分マシだろう」
『この紋章は聖王家の……それに聖櫃?』
「(オリヴィエの遺体がユーディキウムの施設にあったことと合わせて考えると……元々彼女のために用意されていたか、一時期収められていたけど、遺体だけを運び出されたせいで空っぽのまま放置されていたんだと思う)」
『それを誰かが回収したのが巡り巡ってドレビン神父の手に渡った、ということでしょうか……』
「(ドレビン神父は無用の長物なんて言ってるけど、歴史的、文化的価値は相当なものだよね、これ。まあ使うけど)」
『あ~……ハイ、今この状況で優先するべきことは骨董品の価値を守ることじゃないですよね……』
ちなみに隣でアインスはこの棺桶を競りに出した時の値段を想像して力無く笑い、ツヴァイは経年劣化などの理由で浄化に対して強度が持つのか心配をしていた。
「ちなみにこれ、料金は……」
「私にとっての粗大ゴミを押し付けているだけだからな、金はとらん」
「せ、聖櫃を粗大ゴミ扱い……もし聖王教会の人が聞いていれば、確実にキレていただろうな……」
「そもそもあの守銭奴のドレビン神父が金を取らない事実の方が驚きなんですが……」
「別に守銭奴のつもりは無いのだがな。あぁ、それともう一つ、テレシア初討伐の特別報酬だ」
そう言ってドレビン神父が渡してきたのは、先程の戦闘でリトルクイーンが使っていたモナドレプリカだった。
「な、なんでこれを?」
「安心しろ、お前でも使えるように武器洗浄している。料金はいらないが、代わりに用が済んだら俺に譲ってくれ。何しろあのモナドを再現したレプリカだ、武器商人としても品揃えのアピールになる上、良いコレクションになる」
「商魂たくましいね……。それと、用が済んだらか……私が世紀末世界に帰る時が来たら、その少し前に渡せばいいかな?」
「それでいい。使い方は……お前の“中のヒト”の方が詳しいだろう」
え……ドレビン神父、もしかしてイクスの存在を知ってる? いつの間に……。
「(まさかイクスのことまで把握してるなんて、情報収集力も底知れないね、ドレビン神父は)」
『はい。でも敵意は無いようですし、この武器も使えるようにしてくれたのなら、せっかくですし多いに有効活用しましょう。ちょっと私に思いついたことがありますし』
「(一応確認するけど、この剣がこっちに襲いかかる……なんてことは無いよね?)」
『そうならないように、ちゃんと中身を調べてからいじります』
すると禍々しい形状だったモナドレプリカが突然紫色に発光し、エンジンが稼働したような振動を私に伝えてきた。
「い、イクス……?」
『大丈夫です、起動させただけなので。さて、これから中身を色々いじります……むむ! あ~……これならここをこうして、あそこをこうすれば……』
「なんか色々やってるのはわかったけど、それ長くなりそう?」
『ちょっとだけ、ちょっとだけです。今すぐではありませんが、そんなに時間はかかりませんのでもう少しお待ちを。……へぇ~、ここをいじると基礎プログラムが変な動作をするように……あ、しまっ……』
「本当に大丈夫!?」
『大丈夫大丈夫、ベルカの王様はウソつかな~い……ように努力します』
努力頼りかい……。
もう始めちゃった以上、今更止める方がややこしいことになりそうなので、しばらくイクスはそっとしておこう。モナドレプリカは……ちょっと面倒だけど、ウーニウェルシタースを納刀して代わりに右手で持っていこう。
さて、それじゃあ……この棺桶にリトルクイーンを収めて、北の森まで持って行くとしよう。そこでようやく、パイルドライブ開始だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『……! …ス……!』
声が……?
『マ……ター! マス……!』
誰……私を呼ぶのは……。
『マスター! マスター!!』
この声……知ってる。私は……知っている。
「う……!」
おぼろげな意識の中、閉じていた目を薄っすらと開くと、暗闇の中で赤い光が点滅しながら私を呼ぶのが見えた。
『マスター! 起きてください、マスター!!』
「レイ……ジン……グ、ハー……ト?」
『マスター!!』
水の上に浮かぶ船のようにゆらゆらしている私に、赤い光を放っていたそれ―――レイジングハートは引っ付いてきた。何だかすごく喜んでいるような様子だが、一方で私は自分の相棒であるはずのそれを、まるで他人事のように感じていた。
『この時を待ちわびていました。やっと……やっとマスターの下へ帰ってくることができました』
「う……ん? えっと……」
『どうなさいましたか、マスター?』
「ごめん……ちょっと……ね」
私の薄い反応にレイジングハートも違和感を抱いたのか、困惑する。どことなく気まずい空気となったそこに……、
「あァァァんまりだァァアァ!!」
すごい泣き声が響いてきた。
「わぁぁあああたぁぁぁしぃのぉぉぉゆぅぅめぇぇぇがぁあああああ!!」
うぉぉぉいおぉぉぉい、と凄まじい勢いで泣く彼女……否、“私”がいた。ううん、違う。彼女は……左腕が闇そのものになっている彼女は、この私とは決定的に何かが違った。
「うわァァああああァァ! っ……はぁ~……スッとしたよ。やっぱり激昂しそうな時は泣くべきなんだよ。泣けば抑え込んでいた感情を最も発露させられるんだから。そうは思わないかな、相棒?」
『あなたに相棒呼ばわりされる筋合いはありません!』
「連れないねぇ。まぁいいや、そんなことより“魂”を連れてきたのは驚いたよ。いやはや、歌姫の所に匿われていたなんてね。流石に予想できなかった。……やあ、久しぶり。また会えるなんて思ってもみなかったよ、高町なのは。でも、ここに戻ってきたのは失策だね」
『マスターがマスターの身体に戻って、何が悪いんですか!』
「別に悪いとは言ってない。ただ、時期尚早って言いたかったんだ。私が分解し、世界に流した魂はどこかの誰かによって集められ、元の形に修復された。しかしそれは完全な修復じゃない。外見は元通りでも、中身はぐちゃぐちゃのままなんだよ」
『ぐちゃぐちゃ……ですって!?』
「今の彼女の魂は、ちょっとした衝撃でも簡単にバラバラになる。だから誰かさんは魂を修復できる歌姫に託し、歌姫は知らぬ間に魂の修復を進めていた。それが仇のものだと知らずに」
『マキナ・ソレノイドを殺したのはあなたでしょう! マスターの意思じゃありません!』
「歌姫にとっては同じだ。この肉体に宿る人格が私だろうと、あなたのマスターだろうとね。ま、とにかく相棒、アンタはそんな修復途中の魂を勝手に持ち出した。またとない機会だと思って連れてきたんだろうけど、時期尚早ってのは要はそういうこと、私から体を奪い返すには少なくとも分解される前ぐらい魂が元に戻っていなければならなかったのにね」
『あ、あなたが大人しくマスターに体を返せば……!』
「というか私の成り立ちからしてみると、“返す”なんて考え自体がおかしいって気づいて欲しいんだけどなぁ。私も“高町なのは”なんだし」
『あなたがマスターと同じだなんて認めません!』
「事実を言ってるだけだよ。そもそも相棒は自分が求める姿の“高町なのは”を望んでいるだけ……気に入らない要素を表に出してくる“高町なのは”は“高町なのは”ではないと訴えているだけに過ぎない」
『私は……いつものマスターに戻って欲しいだけです!』
「相棒の言う“いつも”は“いつの高町なのは”のこと? あぁ、答える必要は無いよ。言わなくてもわかり切ってるから。でもそれは“高町なのは”に常に同じ姿であることを強要している、とも言える。“いつも”心に負担がかかっていれば、その負担の解放を許さないと暗に脅迫していることになる」
『脅迫!? いくら何でも、そこまで追い詰めるような真似は誰もしていません!』
「自覚が無いだけさ。相棒も、友人も、家族も、見ず知らずの連中さえも、み~んな“良い子の高町なのは”を求める。助けを求める人がいれば助けに行き、孤独を感じる人がいれば少しでも支えになれるように寄り添う。そんな正義の味方を、理想の魔法少女をロールプレイングする高町なのはを誰もが求める。本人の意思に関わらず、そう在れと周囲は彼女に求め続けた。その結果、自覚できない負の感情は積もりに積もって、独自の意思を得て勝手に動き出した。それがこの私……人間社会から見れば汚泥の如き負の象徴、秩序を保つにはあってはならない存在だ」
自らあってはならない存在だと自嘲するリトルクイーンに、レイジングハートは言葉に詰まった。自分達の同調圧力という無自覚な脅迫が、リトルクイーン誕生の発端であると言われたのだ。そういう意味では、リトルクイーンをこの世に生み出したのは高町なのは本人で、リトルクイーンに確固たる形を与えたのがレイジングハート達ということになる。故にレイジングハートの否定の言葉は、リトルクイーンの主張を結果的に支持する事になるため、安易な否定はむしろ逆効果だった。
「これでわかった、相棒? そこにいる欠片の集合体と、この私は同一の存在だってことを。そして、もう一度“ステージ”に上がるために、そいつはちょっと邪魔なんだ。ぐずぐずしていれば、この身体はパイルドライバーで焼かれてしまうもの。さっさと退いてもらわないと困るんだよね」
『人格の主導権を取り戻すつもりですね! そうはさせな――――むぐ!?』
「ダークハンドは私固有の能力だもの、精神世界でだって使える。デバイス如きが……私に逆らえると思うな!」
影の怪物のような黒い左腕に掴まれ、レイジングハートは為すすべなく黙らされる。
「相棒、確かにアンタは特別だけど、結局はデバイスだ。マスターがいなければ真価を発揮できないし、そのマスターにも相応の資格と才覚が求められる。意思の無いレプリカの方が使い勝手が良かったね」
「特別……?」
どういう意味で特別なのかわからず、なのははただぼんやりとした意識のまま、リトルクイーンの右手に掴まれて強引にその場を退かされる。尻餅をついた状態で“ステージ”に立ったリトルクイーンの姿を仰ぎ見ると、まるでスポットライトの如く彼女の頭上から黄金色の光が降り注いできた。
ジュゥゥ!!!
「……? 燃え、てる……?」
「見なよ、高町なのは。私は遂に欠片を埋めた。敗北こそしたが、実に爽快な気分だよ」
「待って……私は、話したい。あなたと……話したい」
「“悔い改めよ”と? 悪いけど、そういうのはパスだね。私は一足先にこの世界の行きつく果てを知った。ヒトが営々と築いてきた文明、社会、秩序。乏しい知識と貧しい手立て、粗悪な性質の連中が生み出した、腐り木の土台。でも親切な人間なら、一度くらいは言ってやるべきじゃない? そのままじゃ全部崩れるよ~って」
「だから……先に壊そうとしたの? 新しく……立て直せるように?」
「邪推も甚だしいよ、私は暴れたいから暴れた。やりたいことをやって終わるのは、誰もが望む終焉だ。そうさ、それが未来の滅亡を早めることになろうと、今の充足を得るためならヒトは容易く無視する。今が良ければ後の事は知らない、この世界にはその思考が蔓延している。娯楽や教育を通じて、無数のヒトにそのミームが植え付けられた。国会中継とか見てみなよ。未来のために金を使うのを否定し、仕事もしないで居眠りしたりするくせして、自分達がその地位に縋りつくためならあらゆる手を講じる議員。革新による痛みの影響が自分達に及ぶことを恐れて、代謝を止めて腐らせる連中を選ぶ国民。土台から腐ってしまったら、自力で立て直すのはほぼ不可能だ。まさに低次元の茶番だろう」
「あなたは……今のヒトが気に入らないの? 気に入らないから……暴れたの?」
「端的に言えばそうなるね。尤も、気に入らないから行動するのは私に限った話じゃない。“高町なのは”だってそうだったんだよ……誰かが悲しんでたら助けようとするのも、自分が気に入らないから。誰かが苦しんでたら手を伸ばすのも、気に入らないから。次元世界に来たのも、管理局に入ったのも、突き詰めれば弱い自分が気に入らないからだ。“高町なのは”にとって、魔法というのは弱い自分を隠せる都合の良い道具だった……それがあれば地球の誰より強い自分になれるんだもの。戦って強さを証明するのも、弱い自分を遠ざけるための手段に過ぎない。だけどこれは何も特別な話じゃない。力を示せる闘争こそがヒトの本性を最も表せる手段……そもそもヒトそのものが、世界の望んだ生物兵器なのかもしれないよ」
「じゃあ、“高町なのは”である私は……弱いの? 私も……兵器なの?」
「兵器になりたいなら兵器になればいい。周りが望んだ姿でいたいなら、望まれた姿でいればいい。でも……自分が本当に望む姿で居たいなら、全てに抗え。世界中の憎しみを向けられようと、自分の願望を貫けばいい。私は……そうした」
直後、天より降り注ぐ光が凄まじい光量に変わり、リトルクイーンの身体が瞬く間に崩壊していった。
「フフフフ……あっはっはっはっはっ! 思い知るがいい、世界! 私のミームは、とっくに寄生した!! 永劫回帰に閉ざされる運命から逃れることは誰にも出来ない!! 逃げたきゃ壊せ! 壊したきゃ殺せ! 殺したきゃ生きろ! そうだ、ヒトは生きるために殺し、殺すために生きている!!」
何故だろう……彼女が消えていくのが、とても苦しくて、哀しくて、痛い。なんで……なんで、身体が引き裂かれるみたいに辛いの……。
「い、逝かないで……! 私の傍から……いなくならないで……!」
「あぁ……見てよ、なのは。私は自由だ……!」
消えゆく半身に手を伸ばす……でも私の手が触れるより先に、彼女の全身が灰になってしまった……。私はその灰の山を両の手ですくい上げ……震える指の隙間から灰がこぼれ落ちていった。埋もれていたレイジングハートがそこから姿を現すが、それより私の心にはとてつもない喪失感が生まれていた。
『彼女は……浄化によるダメージを肩代わりしたんでしょうか……それとも再び現実で暴れるために抗ってたんでしょうか……』
「……」
『現実では浄化が終わった頃でしょう。しかしリトルクイーンの暴虐により、マスターの身柄は今後……』
これ以上は無いって程に零落した主人の今後を憂慮するレイジングハート。一方でなのはは砕け散りそうな痛みを味わいながらも、しかしその痛みを中心に魂の欠片同士の結束が強まっていた。
「私の望む……私は……」
ゆっくりと、立ち上がる。
「どんな……時でも……」
一歩。
「どんなに……落ちぶれても……」
また一歩。
「抗った先に、何が……待っていようと……」
“ステージ”に足をかける。
「決して……諦めない」
右手を上に伸ばす。その先から降り注ぐのは、リトルクイーンを焼いたのと同じであり、そして違った暖かな光……。
「それが……ボクらの……太陽だから……!」
~♪
アクシア・イーグレットの歌声が空間を包み、風を巻き起こす。そして精神世界を抜け出したなのはが、現実の肉体で目を開けると……
「生きて、いるな……!」
リインフォース・アインスのホッとした顔があった。だが、なのはは察していた。この後待ち受ける自らの運命が、どれほど過酷なものなのか。
それでも……目を背けたりはしない。小さくも確かなその覚悟を胸に、高町なのはは大地に立った。
後書き
ニグレド:要はツヴァイの色違いで、管理局の情報を掌握し、公爵側の知識があり、MGS愛国者の知識もある子です。本体の下半身が機械的に融合している様子はゼノサーガ2ラストのアルベドをイメージ。
リトルクイーン:本作のなのはにとってのイドであり、最大にして最悪の理解者です。
ユーノのテレシア:何があったかはお察し。
なのは復活:作中でも明言していますが、元の人格が戻った訳ではありません。精神の状態だけならゼノギアスのフェイがそこそこ近いです。
フ「超久しぶりな気がするが、マッキージムじゃ」
リ「本当に凄く久しぶりだよね、フーちゃん。いつの間にか年越えてるし」
フ「作者がリアルで忙しすぎて、執筆時間が全く取れない日が続いておったからのう……」
リ「頑張って進める気はあるので、気を長くしてお待ちください……」
フ「さて、ツヴァイさんが乗っ取られたり、公爵がジーンのような演説したりと色々あったが、今回でなのはさんがようやくこちら側に戻ってきたのう」
リ「あの人を呼び戻すには、まずリトルクイーンをどうにかする必要があったんだよね。その分、代償は大きいけど」
フ「まあ、その代償が無いと勝負の土台に立てん、という状況でもあるから仕方ないっちゃ仕方ないんじゃ。やられた側からすれば踏んだり蹴ったりじゃがな」
リ「改めて思うけど、やっぱりこの世界詰んでるよね。ところでシャロンさんのジェットストリームシュート、な~んか見覚えがあるよ?」
フ「ティーダさんがやられたから、どこかのオヤジが力を貸したんじゃろう」
リ「オヤジ……そういえばマキナさんの父親がトリガーになったニダヴェリールの闇の書事件に真相が隠されているって、作中でニグレドが言ってたけど、どういうことなのかな?」
フ「その辺の事を調べるのが、これからのジャンゴさんチームの展開(予定)じゃな」
リ「長らくシャロンさんとミッドの話ばかりやってたけど、次回は久しぶりに外の話をするの?」
フ「公爵の演説で状況が変わったから、外もそれに対応して色々起こるんじゃ」
リ「ミッドの問題があんまり片付いてないけど、風呂敷広げて大丈夫?」
フ「な、何とかするじゃろう、たぶん。時間はかかるが、の」
リ「ふぅ、次の話が来るのはどれだけ先になるのかなぁ……」
フ「さ、流石に1年に1話なんてペースにはならないはずじゃから……えっと、ならない、と思う。ならない、と良いなぁ。ならない……ように願いつつ、気長に待とうかの。じゃ、今回はここまで」
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